HOME   »  過去の美術展 (2013年)  »  白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ (感想後編)【Bunkamuraザ・ミュージアム】

白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ (感想後編)【Bunkamuraザ・ミュージアム】

今日は前回の記事に引き続き、Bunkamuraザ・ミュージアムの「白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ」の後編をご紹介いたします。前編には白隠の生い立ちなども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

 前編はこちら


P1080325.jpg P1080327.jpg

まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ

【公式サイト】
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/12_hakuin/index.html

【会場】Bunkamuraザ・ミュージアム
【最寄】渋谷駅/京王井の頭線神泉駅

【会期】
 前期:2012年12月22日~2013年01月21日
 後期:2013年01月22日~2013年02月24日
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日17時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
今日は残りの半分についてです。後半も引き続き、脱力系あり豪快さありの面白い作品がテーマ別に並んでいました。


<布袋>
布袋は白隠の題材の中で最も自画像的な傾向が強いものらしく、自由自在に遊ばせているそうです。ここには布袋を始め、様々な神仏やキャラクターの作品が並んでいました。

42 白隠慧鶴 「すたすた坊主」 ★こちらで観られます
右手に笹、左手に桶を持ち、ほとんど裸で歩く腹がでっぷりした坊主を描いた作品です。その顔はニコニコしていて、何とも愛嬌があります。解説によると、すたすた坊主というのは当時の最下層の坊主で、大道芸や物乞いをしたり、金持ちの商人の代わりに寺社にお参りに行ったりしていたそうです。ここでのすたすた坊主は布袋でもあり自画像でもあるそうで、デフォルメされたキャラクターと言った感じでした。漫画のような楽しい作品です。
これは以前に観た記憶があるけど同じものかな? 記憶に残りやすいキャラクターですw
 参考記事:諸国畸人伝 (板橋区立美術館)

この隣にはややスマートな体型のすたすた坊主の作品もありました。

44 白隠慧鶴 「布袋吹於福」 ★こちらで観られます
これは2幅対の作品で、右幅にはキセルを持って煙を吐く布袋が描かれています。その煙は左幅までつながっていて、左幅で煙がおたふくに変化している様子が描かれています。おたふくは足のほうが細くなった幽霊みたい(もしくはランプの精みたい)な感じで、「寿」の文字だらけの着物を着ていました。2人とも笑顔で楽しげな雰囲気があり、キセルを吸っているなど布袋は自画像的な意味がありそうでした。解説によると、これは絹本に描かれていて、大名が絹を持って行って描いて貰ったのではないかとのことでした。

53 白隠慧鶴 「鍾馗鬼味噌」 ★こちらで観られます
すり鉢に4匹の鬼が入っていて、それを剣ですり潰そうとしている大きな鍾馗が描かれた作品です。その隣では鍾馗の息子が鉢を押さえていて、賛には「鬼味噌ばかりは擦りにくいものだ」と「父さん、鬼味噌をちょっと舐めてみたい」とあるそうです。中々ユーモアを感じますが、ちょっとショッキングな感じかなw 解説によると、鬼は煩悩や邪念の象徴だそうで、漫画のように見えても白隠の深いメッセージがこめられているとのことでした。鬼味噌の味… 何だか渋そうw

57 白隠慧鶴 「関羽」
黒く長いヒゲでやや前屈みの関羽を描いた肖像で、矛を持ち左手は印を作るような手つき(前編の大燈国師がしていた手つきと同じ)をしています。これは60代の頃の作品のようですが、周りの作品に比べて精緻に描かれていて、色も付けられているのでちょっと違った雰囲気に観えました。画面を埋め尽くすような感じで迫力のある作品です。

この近く3幅対の七福神の作品などもあり、そこでは毘沙門天だけが鍾馗に代わっているというちょっと変わった組み合わせとなっていました。

61 白隠慧鶴 「渡唐天神」
これは現存する最大の白隠禅画で、黒々とした太い輪郭の衣を着て、薄く細い線で描かれた顔をしている天神像です。その線の太さのギャップに違和感を感じたのですが、実はこの衣(と冠)の部分は文字になっていて、全体で「南無天満大自在天神」を組み合わせているようです。隣に対応表があったのが分かりやすくて、確かに文字になっているのが分かります。解説によると、これは縦2m以上の大きさで礼拝の対象として描かれたのではないかとのことでした。

この近くには寿の字を宝船にした作品もあり、文字絵は白隠の表現の1つなのかもしれません。


<戯画>
白隠の作品は一見軽妙で滑稽な感じでも様々な表現の工夫があり、絵と賛には元となる教典や故事、和歌、流行歌などの下敷きがあるそうです。ここにはそうした様々な意味を持ちつつ楽しげな戯画が並んでいました。

74 白隠慧鶴 「富士大名行列」
大きな白い富士を背景に160人以上もの大名行列が細かく描かれた作品です。これは達磨の絵を描いてほしいと頼まれて描いたものだそうで、富士山は達磨、すなわち真理そのものであると言っていたそうです。また、大名行列は富士山を観ていないようで、画面の中で富士を見ているのは2人だけらしく、よく観ると茶屋で座っている僧と崖の上から見ている僧だけが富士を眺めているようでした。これには真理に目を向けない大名、民衆を省みない政治への批判の意味などが込められているそうで、白隠はそういった趣旨の本を書いて発禁処分も受けているとのことでした。一見すると綺麗な富士の絵ですが、そんなに深い意図があるとは…。さすが稀代の僧と言われるだけの人物です。

73 白隠慧鶴 「吉田猿候」
刷毛目のような表現で描かれた体毛の猿が、手を伸ばして書を書いている様子が描かれた作品です。「吉田のゑんこう つれづれ草を~」と書いているようで、この猿は徒然草の吉田兼好のことのようです。白隠は吉田兼好を嫌っていたそうで、こうした作品がよく描かれているようですが、結構可愛らしい愛嬌のある猿でしたw 何で嫌いだったのかは分からず。

76 白隠慧鶴 「びゃっこらさ」
白い狐が飛脚のような格好で走っている様子が描かれた作品で、担いでいるものには鬼の手が括りつけられています。タイトルの「びゃっこらさ」というのは白狐(びゃっこ)と「やっこらさ」という槍踊り歌の一部を合わせてもじったものだそうですが、鬼の手の意味のほうは分からないようです。ニヤッとした感じの表情で、全体的に軽妙な雰囲気があります。何故か「赤飯」と描かれている服を着ているも何か意味がありそうでした。

この近くには池大雅が画を描き、白隠が賛を書いた合作もありました。池大雅29歳、白隠67歳の頃の作品です。


<墨蹟>
最後は書のコーナーです。白隠は禅画と共におびただしい数の墨蹟を残しているそうで、若いころには様々な書風を学んでいたそうです。しかし、書が尊ばれるのは技術を越えた書き手の人間力によるものだと気づき、それ以降、一旦書いたものの上に塗り重ねたり、墨点を散らすなど、もはや書ではないグラフィックな造形へと変わっていったようです。ここにはそうしたユニークな書が並んでいました。

90 白隠慧鶴 「金毘羅山大権現」
「金毘羅山大権現」と書かれた墨蹟で、金毘羅あたりまでは大きな字で書かれているのですが、大のあたりからスペースが無くなって、急に字が詰まってきているのが微笑ましく思えますw この隣にあった秋葉山大権現と書いた作品でも同じように最後は寸詰まりになっているのでこれは白隠の癖のようでした。ちょっと脱力系の作品ですw

95 白隠慧鶴 「百寿福禄寿」 ★こちらで観られます
これは最晩年の83歳の頃の作品で、100種類もの字体で「寿」の文字と、中央に福禄寿の姿が描かれています。寿は規則正しくびっしりと並んでいて、互い違いに濃い文字と薄い文字となっていました。中にはこれは文字なのか?というくらいぐにゃっとしたものもあるかなw 解説によると、百寿はおめでたいものなので注文されてよく書いたそうですが、通常は中央に大きく寿の字があるだけだそうで、福禄寿がいるのは貴重とのことでした。

104 白隠慧鶴 「常」
これは「若し人 菩提の道を成せんと欲せば 尋常須らく勤めて無盡燈を挑ぐべし」と書かれた書で、修行を怠るなというメッセージのようです。目を引くのは「常」という文字で、非常に長い縦棒が下に伸びています。こうした縦棒を長く引くような表現の作品を晩年は量産したようで、隣には「道中工夫」の中の字が縦に伸びた作品も展示されていました。特に強調したい文字だったのかな。

108 白隠慧鶴 「隻手」 ★こちらで観られます
こちらは書というよりは絵で、大きく手を開いた様子が書かれています。これは白隠の考案した「隻手の音声」という禅問答を端的に表したものらしく、両手で叩けば音がするが、片手だけだとどんな音がするかということを示しているそうです。叩くというよりは開いて見せているような手つきに見えるかな。結構インパクトのある作品でした。

最後には「無」と書かれた墨蹟に斑点が散りばめられた作品や、○を書いた作品などもありました。


ということで、非常に楽しめる展示でした。白隠は僧侶であるため、その絵は単に面白いだけでなくしっかりとしたメッセージがこめられているようでした。あまりに良かったので、置く場所も無いのに図録を買ってしまいましたw
 機会があれば後期も観に行きたいところです。


 参照記事:★この記事を参照している記事

関連記事


記事が参考になったらブログランキングをポチポチっとお願いします(><) これがモチベーションの源です。

 

更新情報や美術関連の小ネタをtwitterで呟いています。
更新通知用twitter



Comment
お久ぶりです。少し前にちょくちょく覗かせていただいた者です。ただいま、代官山にある某書店で働いておりまして、白隠展さんとのコラボフェア開催中です。本当にこの展示会は楽しく学べるといった感じでした。もうすぐ終わってしまいますが、また行きたいです。図録なんだかシックでかっこいいですよね。かしこまっちゃって!と突っ込みたくなります(笑)ちなみに、白隠さんがお坊さんになるきっかけとなった地獄のフェアも同時開催中です(笑)また遊びにきます。
Re: タイトルなし
>青鳩さん
お久しぶりです^^
白隠展はかなり楽しめる内容でしたね。図録もなかなか良い出来栄えですよ。
白隠がショックを受けた地獄の話ってどれだけ怖かったんでしょうかね~。
面白そうな企画ですね^^
Trackback
Trackback URL
Comment Form
管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

21世紀のxxx者

Author:21世紀のxxx者
 
多分、年に70~100回くらい美術館に行ってると思うのでブログにしました。写真も趣味なのでアップしていきます。

関東の方には休日のガイドやデートスポット探し、関東以外の方には東京観光のサイトとしてご覧頂ければと思います。

画像を大きめにしているので、解像度は1280×1024以上が推奨です。

↓ブログランキングです。ぽちっと押して頂けると嬉しいです。





【トラックバック・リンク】
基本的にどちらも大歓迎です。アダルトサイト・商材紹介のみのサイトの方はご遠慮ください。
※TB・コメントは公序良俗を判断した上で断り無く削除することがあります。
※相互リンクに関しては一定以上のお付き合いの上で判断させて頂いております。

【記事・画像について】
当ブログコンテンツからの転載は一切お断り致します。(RSSは問題ありません)

更新情報や美術関連の小ネタをtwitterで呟いています。
更新通知用twitter

展覧スケジュール
現時点で分かる限り、大きな展示のスケジュールを一覧にしました。

展展会年間スケジュール (1都3県)
検索フォーム
ブログ内検索です。
【○○美術館】 というように館名には【】をつけて検索するとみつかりやすいです。
全記事リスト
カテゴリ
リンク
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
メディア掲載
■2012/1/27
NHK BSプレミアム 熱中スタジアム「博物館ナイト」の収録に参加してきました
  → 詳細

■2011/11/21
海の見える杜美術館の公式紹介サイトに掲載されました
  → 詳細

■2011/9/29
「週刊文春 10月6日号」に掲載されました
  → 詳細

■2009/10/28
Yahoo!カテゴリーに登録されました
  → 絵画
  → 関東 > 絵画

記事の共有
この記事をツイートする
広告
美術鑑賞のお供
細かい美術品を見るのに非常に重宝しています。
愛機紹介
このブログの写真を撮ってます。上は気合入れてる時のカメラ、下は普段使いのカメラです。
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
39位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
デザイン・アート
5位
アクセスランキングを見る>>
twitter
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

※できるだけコメント欄にお願い致します。(管理人だけに表示機能を活用ください) メールは法人の方で、会社・部署・ドメインなどを確認できる場合のみ返信致します。