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飛騨の円空―千光寺とその周辺の足跡― 【東京国立博物館 本館特別5室】

先週の日曜日に上野の東京国立博物館で「飛騨の円空―千光寺とその周辺の足跡―」を観てきました。

P1080329.jpg

【展覧名】
 東京国立博物館140周年 特別展「飛騨の円空―千光寺とその周辺の足跡―」

【公式サイト】
 http://enku2013.jp/
 http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1556

【会場】東京国立博物館 本館特別5室
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年1月12日(土) ~ 4月7日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
会場は本館の大階段裏の特別5室で、そんなに広いところではないこともあってか非常に混んでいて、あちこちで人と接触するような感じでした。大きめの作品が多いですが、それでも場所によっては中々観ることができないので、自分のペースで観るのはちょっと大変でした。

さて、そんな大盛況な今回の展示は、江戸時代の僧の円空の仏像が並ぶ内容となっています。円空は美濃国の生まれで、生涯で12万体の仏像を作るという願掛けをして、10万体以上の作品を作った(現存は5000体)とされる人物で、来歴の詳細はよく分からないところも多いようですが、僧侶になって間もない1666年には北海道に渡り、その前後に北海道や東北で仏像を残したそうです(現在でも50体以上が残っている) 同じように東日本各地に円空仏が残っているのですが、近畿より西の足跡はないそうで、円空仏が特に多いのは3000体を超す愛知と1600体の岐阜で、今回の展示では飛騨に残された仏像がメインとなっています。展覧会は特に章分けなどは無かったのですが、気に入った作品をいくつか挙げながらご紹介していこうと思います。

 参考記事:円空 こころを刻む -埼玉の諸像を中心に- (埼玉県立歴史と民俗の博物館)


3 円空 「賓頭盧尊者坐像」 ★こちらで観られます
坊主頭の人物が座っている木像で、顔は微笑みを浮かべちょっと首を傾げているような姿をしています。円空独特の深い彫りで、特に衣の辺りは大胆な感じがするものの、全体的には穏やかな雰囲気があります。身体のあちこちが黒光りしているのですが、これは撫で仏と呼ばれて人々に撫でられたためだそうです。また、墨で瞳、朱で唇に彩色した痕跡があるようです(←よく観ても分かりませんでした…w)が、円空は彩色した例がないので他の人が後に描いたのではないかとのことでした。円空の仏が人々の信仰の対象として愛されていたことが伺われます。

11 円空 「護法神立像」
2体対の2mを超す縦長の木像で、見上げるような大きさです。目が吊り上がり怒っているような恐ろしい顔をしていて、胸の前で笏を持ちその下は長い衣を着ています。衣の部分はギザギザした力強い表現で、木目や年輪がそのまま出ているのが驚きです。解説によると、これは邪気が村に入るのを防ぐための守り神ではないかとのことでした。入口辺りで早々に圧倒されます。

30 円空 「不動明王立像」 ★こちらで観られます
右手に剣、左手に羂索を持つ不動明王像で、眼と口を釣り上げていて顔は一際深い彫りとなっています。これは1本の木から作られたそうで顔と剣はくっついていますが、胸のあたりはその間が繰り抜かれています。また、鱗のような衣の表現は円空独特のものらしく、力強い雰囲気が増しているように思いました。敵を威圧するような存在感です。

23 大森旭亭 「円空像」 ★こちらで観られます
これは円空の晩年の姿を描いた肖像画で、関市弥勒寺に伝来したものを模写したものです。オリジナルは消失したのでこれが唯一の円空像だそうで、念珠と独鈷杵を持って岩を背に座る様子が描かれています。頭には五仏を表す頭巾のようなものを被り、口の歯は所々抜けているなど、ちょっと変わった風貌をしています。解説によると、円空は村人から名前や生まれ、宗派などを訊かれても答えず、「我、山岳において多年仏像を作り、その地神を供養するのみ」と答えていたそうです。円空はストイックな感じの人だったのかな。どういう人物だったかイメージできる作品でした。

この肖像の上には「一心」という円空が木っ端で書いた書があったのですが、ギリギリ読めるくらいでした。一心とは仏教であらゆる現象の根源にある心のことだそうです。

5 円空 「三十三観音立像」 ★こちらで観られます
ずらりと並んだ簡素な観音像で、三十三観音と呼ばれていますが現存は31体となっています。(病気を治すとされて、病人が出ると枕元に置いていたそうで、いつの間にか2体消えてしまったようです。) それぞれの身体や顔つきが少しづつ違っていて、大きさもまちまちです。胸のあたりで手を組んでいる様子がデフォルメされていて、烏帽子のような頭なので神像のようにも観えました。素朴な感じの彫りですが、穏やかな表情をしていて、木目の出方も面白かったです。横から観ると背中の方は平らなのがわかります。

40 円空 「今上皇帝立像」
長い烏帽子の人物が立っている像で、横一文字の目をしていて静かな雰囲気をたたえています。解説によると、背中に「飛騨で1万体、全部で10万体作り終わった」と銘文が書かれているそうですが、これは1万とは読めないという説もあるそうです。ちなみに30年で10万体というと1日に10体のペースになりますが、簡素な木っ端仏もあるので不可能ではないのではないか?とのことでした。後ろに周って鑑賞することもできるけど、私には全く読めませんでしたw

8 円空 「不動明王および二童子立像」 ★こちらで観られます
不動明王と右に矜羯羅童子(こんがらどうじ)、左に制多迦童子(せいたかどうじ)が立っている木像です。不動明王は右手を握っていて、手には穴が開いているので以前は剣を持ち、背中にも光背があったと考えられるそうです。その顔は牙を生やして目が釣り上がっているけど、それほど恐ろしい感じはしないかな。二童子は普通、矜羯羅童子は小心で制多迦童子は意地悪な姿で表されることが多いそうですが、制多迦童子は確かにニヤッとした感じがするものの、矜羯羅童子のほうは澄ました表情をしているように観えました。 また、解説によるとこの3体は1本の木で出来ていて、丸太を薪割りのように縦に割り、半分を不動明王、もう半分をさらに半分に割って二童子にしているそうです。不動明王は木の表側に彫られているのに対して、二童子は木の芯の方を彫っているなど、興味深い違いがあるようでした。

1 円空 「両面宿儺坐像」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターにもなっている作品で、斧を手に持ち座る「宿儺(すくな)」という像です。宿儺の顔の隣にはもう1つの顔があり、激しい表情を浮かべています。この宿儺は日本書紀では人々を苦しめる怪物で、背中合わせに2つの顔を持ち、4本の腕で弓を使うとあるそうですが、これはそれとは異なる姿で表されているようです。宿儺は飛騨の千光寺の周辺では救世観音の化身で千光寺の開祖と伝わっているそうで、恐らく宿儺は朝廷に従わなかった飛騨の豪族と考えられ、飛騨の英雄として斧を持たせたのではないかとのことでした。渦巻く光背やゴツゴツした台座も含めて激しくも神秘的な雰囲気の像でした。

この近くには小さめの像もありました。狐の顔をしたユニークな像も好みでした。

2 円空 「金剛力士(仁王)立像 吽形」 ★こちらで観られます
これは大きな頭で2m以上ある仁王像で、牙が生えていて笑っているような怒っているな表情に見えます。解説によるとこれは生えている木に直接ノミを入れて像を彫ったらしく、後に書かれた「近世畸人伝」という本には円空がこの作品を作る様子が書かれているそうです。横から観ると渦巻くような耳があり、ボロボロになっているところもあるような…。今から200年くらいまえに木が腐ったので切り倒してこうして保管されたとのことでした。それにしても生木に彫るとは豪快ですね。

27 円空 「柿本人麿坐像」 ★こちらで観られます
これは身体を崩して斜めになって座る柿本人麿の像で、烏帽子をかぶり微笑みを浮かべています。服のヒダがリズミカルに感じるのは円空独特のものだと思いますが、こうした崩した姿勢で作られるのは伝統的なもので、円空もそれに従って作ったそうです。何とも人が良さそうな感じが出ていて、解説によると円空は柿本人麿に敬意を表していたらしく、自分でも和歌を1600首詠んでいたそうです。円空が和歌をやるとは知りませんでした。結構多才な人なんですね。

4 円空 「歓喜天立像」
象の顔と人間の身体をもつ男女の神が抱きあう様子が彫られた小さめの像で、お互いに背中に手を回しています。この歓喜天(かんぎてん)は男女二尊で一体らしく、この像を本尊とする祈祷は秘密にしなければ効果は出ないとされるため、像も秘仏にされることが多いそうです。この像も7年に1回しか公開されないもので、しかも厨子に入っていない状態で公開されるのは非常に貴重な機会のようです。象というより馬のように観えましたが、簡素ながら抱きあう感じが出ていて、穏やかな雰囲気がありました。

33 円空 「千手観音菩薩立像」 ★こちらで観られます
沢山の手(30本くらい?40本は無さそう)を持ち、頭に化仏を乗せる千手観音像で、足元には僧侶の像も彫られています。穏やかな微笑みを浮かべて胸の前で手を合わせ、お腹の辺りの腕には宝珠を抱えているのですが、他の手には持ち物がありません。とは言え、ここまで観てきた仏像の中では一番手間がかかっていそうな細かい彫りで、優美な雰囲気すらありました。解説によると、本体と手は別の木で作られているそうで、手は後付されているそうです。また、円空は他にも2体の千手観音像が現存しているようですが足元に僧がいるのはこれだけのようで、貴重な作例のようでした。

この両脇にあった34「聖観音菩薩立像」35「龍頭観音菩薩立像」も見事でした。また、近くには小さな迦楼羅(かるら)像があり、カラスのような顔をしているのが面白かったです、

ということで、それほど点数は多くないものの密度の高い展示で非常に満足できました。円空の仏像は荒削りに見えて精神性を感じられるところが魅力ではないかと思います。会期も長いので、興味がある方は是非どうぞ。混んでいるけどお勧めの展示です。


 参照記事:★この記事を参照している記事
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Comment
No title
円空!みたいです^^
会期が長いと逆にいつでも行けるから〜って逃しちゃう事があるんですが
逃さないように行きたいと思います!
そしてオークラでケーキ食べようかな^^
Re: No title
>ascaさん
この円空展は非常に良かったですよ!
確かにいつでも観られると思っていたら会期末…という経験は幾度と無くありますw
しかしこれを見逃したら勿体無いので、できればお早めにどうぞ。

オークラのケーキは意外と美味しくて驚きましたw
他のはわかりませんが、以前よりは上野公園のカフェ事情も改善しているのは確かですね。
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