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エル・グレコ展 El Greco's Visual Poetics (感想前編)【東京都美術館】

先日、平日に有給休暇を取って上野の東京都美術館で「エル・グレコ展 El Greco's Visual Poetics」を観てきました。充実した内容でメモも多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 エル・グレコ展 El Greco's Visual Poetics

【公式サイト】
 http://www.el-greco.jp/index.html
 http://www.tobikan.jp/museum/2013/elgreco2013.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年1月19日~4月7日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(平日14時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
平日に行ったものの、結構混んでいました。とは言え、自分のペースで観るのに支障が無い程度だったのでじっくりと鑑賞することができました。

さて、今回の展示はスペインを代表する画家、エル・グレコ(本名:ドメニコス・テオトコプーロス)の大規模な個展です。ゴヤ、ヴェラスケスと共にスペイン3大画家とも呼ばれるほどの存在ですが、エル・グレコという名前は「ギリシア人」という意味のあだ名で、彼はスペインではなくギリシアのクレタ島で1541年に生まれました。クレタ島でイコンの制作などを手がけた後、ヴェネチア、ローマの修業を経てスペインのトレドに移り住み、そこを拠点に活動していきました。その後、独自の肖像や宗教画を作成し当時の宗教関係者や知識人からも圧倒的な支持を得たそうですが、死後は急速に忘れ去られたそうです。しかし、20世紀になりセザンヌやピカソといった芸術家たちがエル・グレコは近代芸術の先駆者であると再評価し、現在では西洋美術史上 最も偉大な画家の1人に数えられるほどになりました。
この展示では初期のクレタ島の時代から最盛期に至るまで、51点もの貴重な作品が並び、「神秘の宗教画家」という従来のイメージを超える新しい研究成果と共に紹介されていました。作品の主題ごとに章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章-i 肖像画家エル・グレコ>
1541年に生まれたエル・グレコはクレタ島時代はイコン画家として活躍し、その後1567年にヴェネチアでティツィアーノの工房(もしくはその周辺の工房)に入り、絵画技法を習得しました。この章のテーマである肖像画は、イタリア時代に最も成功した分野で、トレドにおいても到着直後から手がけるなど、生涯を通じて制作していたようです。また、エル・グレコはトレドの人たちに肖像画を所有することの重要性を認識させることに成功したそうで、トレドはスペインの都市としては初めて貴族と知識階級の顔ぶれを後代まで長く伝えることができたようです。
エル・グレコの肖像の新しさは、人体や衣服を形作る色彩や光、そして現実の似姿(シムラークム)、つまり代用物として成立させた点らしく、目線や身振りなどで観るものとコミュニケーションを交わすかのような特徴があるようです。ここにはそうした肖像が並んでいました。

1 エル・グレコ 「芸術家の自画像」 ★こちらで観られます
入口にあった自画像と考えられる作品で、暗めの背景に黄色い服(古代ローマ風のガウン)を着たやや年老いた人物が描かれています。頭は禿げていて頬は痩せた感じですが、目は優しそうでこちらをみつめています。エル・グレコは機知に富んだ言葉を使う男と評されていたようで、知的な雰囲気があるようでした。

この辺にはエル・グレコの年表がありました。後のほうになると作品の代金の支払いをめぐっての裁判がいくつかあります…。(これについては後編で触れようと思います。)

3 エル・グレコ 「修道士オルテンシオ・フェリス・パラビシーノの肖像」 ★こちらで観られます
黒髪で口髭を生やし、大きな本を手に持ち座ってこちらを見ている修道士姿の男性を描いた作品です。背景が暗いせいか白い服や顔に目が行き、その衣のひだは誇張して描いているようです。首のひねりや手つきなどに動きを感じるとともに、塗り方も含めて確かに近代絵画のような雰囲気があるように思いました。解説によると、このモデルは友人の修道士で、詩人でもあった知識人とのことでした。賢そうな顔をしています。

5 エル・グレコ 「白貂の毛皮をまとう貴婦人」
これはタイトルの通り、白いフワフワした毛皮をまとい白いヴェールをかぶっている女性像です。エル・グレコの女性の肖像は現在伝わるのは2点のみらしく、このモデルは内縁の妻など諸説あるようですがハッキリとしたことは分からないそうで、エル・グレコの作品でないとする研究者もいるようです。
こちらをキリッとした目で見ている端正な美人ですが、確かに他の作品とちょっと違う感じがします。というのも、写真のような写実性で、他よりくっきり描かれた印象を受けるかな。真贋は全く分かりませんが、ちょっと変わり種の作品のようでした。 なお、この時代のスペインにはこうしてモデルがこちらをみつめるものは無かったそうで、それもエル・グレコの革新のようでした。

7 エル・グレコ 「ディエゴ・デ・コバルービアスの肖像」
黒い帽子をかぶり、十字架を首から下げる年老いた人物の肖像です。青みがかった肌で、こちらをみつめ、知的な雰囲気があるものの若干力なく見えるかなw 解説によると、エル・グレコはこの人物に会ったことはなく、この作品はその人物の死後に描かれたそうです。ではどうやって描いたのか?と言うと、この隣にサンチェス・コエーリョ・アロンソという画家が描いた同じ構図の同じ人物の作品が展示されていて、それを元に描いているようです。見比べてみると衣装やポーズは同じですが受ける印象は全然違っていて、元のは無表情で赤みがかった肌をしていました。エル・グレコは見たままではなく観るべきものを描くと考えていたようで、その点も確かに近代絵画っぽいところかもしれません。


<第1章-ii 肖像画としての聖人像>
続いても人物画ですが、こちらは聖人を描いた作品が並ぶコーナーです。エル・グレコはカトリックの聖人を単独像で表す際に肖像画の技術を使い、独立した半身像または3/4像として表したそうです。それらの聖人像は肖像画の人物と同様に、必要最低限の動きとジェスチャーだけを伴っているそうで、彼らが生きている存在であり個性を持った1人の人間であることを示しているそうです。ここではそうした作品が紹介されていました。

10 エル・グレコ 「聖ヒエロニムス」
磔刑のキリスト像が付いている大きな十字架を手に持ち、それを見つめている上半身裸の白髭白髪の聖ヒエロニムスを描いた作品です。聖ヒエロニムスは聖書のラテン語訳をした人物で、ラテン教会4大教父の1人とされているらしく、これは荒野で苦行していた頃の様子を描いたもののようです。十字架をみつめる表情は真剣そうで、身体はゴツゴツして手が長く見えるかな。聖ヒエロニムスの前には机があり、その上には髑髏、砂時計、本、インク壺、ペンなどが置かれていて、それぞれに意味が込められているようです。解説によると、髑髏と砂時計は時間の経過や現世の虚しさ、ペンや本は研究と知識の象徴のようでした。

この隣には枢機卿としての聖ヒエロニムスの像もありました。そちらは長い髭を生やして威厳ある学者として描かれているようでした。

14 エル・グレコ 「福音書記者聖ヨハネ」
これは聖ヨハネを描いた作品で、緑と赤の服を着て龍の付いた金の杯を左手で持ち、右手でそれを指し示すようなポーズをしてます。これは聖ヨハネが与えられた毒杯を飲んでも死なず、同じ毒を飲んだ2人の人物を生き返らせたという奇跡にちなんでいるようですが、聖ヨハネは青白く細い顔つきで描かれていて何だか悪巧みしてそうに見える…w エル・グレコは大体青みがかっているのですが、これは特にそう観えましたw

この近くには同じくキリストと十二使徒などを表す連作(アポストラード)が並んでいました。


<第1章-iii 見えるものと見えないもの>
エル・グレコは聖人を生きた肖像として絵画化する一方、天上世界や幻視など目に見えない心に浮かべるしかない世界を目に見えるイメージとして描いたそうです。エル・グレコの作品において「見えるもの」と「見えないもの」はシンプルな画面に共存しているそうで、時に分離し、時に融合して描かれているようです。ここにはそうした作品が並んでいました。

22 エル・グレコ 「フェリペ2世の栄光」 ★こちらで観られます
上半分はキリストを表す「IHS」の文字を中心に天使たちが祝福している様子が描かれ、下半分の右側には怪物が大きな口を開け、その中が地獄になっていて大勢の人間が苦しんでいる様子が描かれています。また、その中間あたりには橋の上で焼かれている人々などが描かれていて、これは煉獄のようです。そして左下の部分が現実世界で、沢山の人たちが上を見上げて祈っています。特に黒い服の人物が目を引き、これがタイトルにもなっているフェリペ2世のようです。解説によると、この作品は当時の国王だったフェリペ2世に自己紹介代わりに描いた作品だそうで、敬虔なカトリック教徒の国王が審判を待つ姿として描いているようです。1つの作品で現実を含む4つの世界を描いていて、確かに見えるものと見えないものが共存しているようでした。

この近くには聖家族を描いた作品もありました。

20 エル・グレコ 「悔悛するマグダラのマリア」 ★こちらで観られます
荒野で座っている女性を描いた作品で、西洋画で荒野の女性と言ったらまず間違いなくマグダラのマリア(キリストの死後に荒野で隠遁していた)です。ここでは胸に手をあてて斜め上の方を見上げる姿で描かれていて、脇にはキリストに香油を塗ったことに因んだ香油壺が置かれ、前には本の上に儚さを象徴する髑髏を乗せています。背景には青~紫がかった空が広がり、爽やかな雰囲気です。何だか天と会話しているように見えるかな。
マグダラのマリアは元は罪深き女とされる聖人ですが、この主題はプロテスタントによる宗教改革の時代にカトリックで起きた「対抗宗教改革」の時代に好まれたとのことでした。


ということで、長くなってきたので今日はこの辺までにしておこうと思います。エル・グレコの作品はいくつか観たことがありますが、これだけ一気に観られる機会は滅多にないと思います。後半にはさらに圧巻の作品がありましたので、次回はそれについて書いて参ります。


  → 後編はこちら


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No title
エル・グレコ展の解説、まだかな~と思ってました。
ありがとうございます。
私は夫と行くので、土日しか行けないので、どんなに混んでるかと思うとちょっと憂鬱になります。
早めに、今月末には行きたいです。
Re: No title
>nobukotsさん
コメント頂きましてありがとうございます。
最近忙しくて中々重い記事に取り掛かれませんでした^^:

こちらは平日に行ったのでそれほど混んでいませんでしたが、土日はどうでしょうね。
だいたい会期末になると混む傾向があるのでお早めにどうぞ。
日曜美術館とかの放送日も混みますね…w
ぜひ楽しんできてください^^
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