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エル・グレコ展 El Greco's Visual Poetics (感想後編)【東京都美術館】

今日は前回の記事に引き続き、東京都美術館の「エル・グレコ展 El Greco's Visual Poetics」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら

P1080365.jpg

【展覧名】
 エル・グレコ展 El Greco's Visual Poetics

【公式サイト】
 http://www.el-greco.jp/index.html
 http://www.tobikan.jp/museum/2013/elgreco2013.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年1月19日~4月7日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(平日14時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前編では肖像画のコーナーについてご紹介しましたが、後半は宗教画をはじめとした目玉作品が並んでいました。


<第2章 クレタからイタリア、そしてスペインへ>
前編でも書いた通り、エル・グレコはギリシアのクレタ島で生まれ、その生地で「聖母を描く聖ルカ」のようなビザンティン様式にイタリアや西洋絵画様式を取り入れたイコン画を制作していました。その後、ヴェネツィアとローマに渡ると、より自然主義的な色彩と光による現実の描写や、解剖学・三次元性・短縮法・遠近法に基づく身体・空間の表現に出会い、自らの絵画様式を一新させていったようです。また、その範となったのはティツィアーノ、ティントレット、コレッジョ、パルミジャニーノ、ジュリオ・クローヴィオ、ミケランジェロといった巨匠たちだったようです。この章では画家としての成長や、キリスト教神学を匠に表現するようになったのが分かる作品などが並んでいました。

2 エル・グレコ 「聖母を描く聖ルカ」
これは最初期のクレタ島時代の木に描かれた作品で、イーゼルに聖母子像をかけて描いている聖ルカが描かれています。全体的にボロボロになっていて、聖ルカの顔などは剥落してわからないものの、イコンらしい作風で金や赤が鮮やかな色彩となっていました。ちなみに聖ルカは初めて聖母を描いた人物として、画家の守護聖人として崇められている人です。

24 エル・グレコ 「羊飼いの礼拝」
こちらは晩年の作で、光り輝く幼子イエスを中心に、マリア、ヨセフ、その上に飛び交う天使たち、手前には羊飼いたちが礼拝している様子が描かれています。夜の暗い中でキリストは光を放っているかのようで、神聖な雰囲気があります。周りの人々の手振りなどが劇的な印象で、右奥には羊飼いが天から救世主の誕生を告げられているシーンも描かれていました。1枚の中で物語が進行しているかのような作品でした。

この隣にはヴェネツィア時代にマニエリスムの画家の作品を模倣した作品もありました。動きや明暗に晩年との違いを感じます。

28 エル・グレコ 「神殿から商人を追い払うキリスト」 ★こちらで観られます
これも晩年の作品で、神殿の中、中央に赤い服のキリスト(鞭を持っている?)が描かれ、その周りに沢山の商人たちが腕を上げたり 仰け反ったりと動きを感じるポーズをしています。色も鮮やかで、キリストの衣の赤と、左の男性の衣の黄色など対比的に感じられて目を引きました。
この隣にはローマに来た頃の作品があったのですが、そちらはポーズや遠近感などにイタリアの様式を取り入れているようで、それに比べると晩年はよりダイナミックかつ複雑に絡み合うような感じを受けました。

29 エル・グレコ 「受胎告知」 ★こちらで観られます
羽が生え宙を浮く黄色い服の天使ガブリエルと、座ってテーブルに左手をつき、胸に右手を当てて受胎告知を受けている青い服のマリアを描いた作品です。両者の間には精霊を表す鳩の姿があり、炎のような霊的なものが出ています。マリアの後ろにある赤いカーテンが翻っているなど、それぞれの色が対比的で、感情や動きをよりドラマチックに感じさせました。解説によると、これはローマ滞在期の作品で、構図や人物表現にはルネサンスの古典的調和を見せているらしく、建築的要素や色彩表現などにヴェネツィア派の手法の熟達ぶりを観ることができるようでした。色が明るく感じられる作品です。

30 エル・グレコ 「受胎告知」
これは晩年の作品で、最高傑作の1つとされるドニャ・マリア・デ・アラゴン学院付属の礼拝堂の衝立を1/3にしたものです。緑の服のガブリエルが胸の前で手を交差させ、マリアは手を開いて受け入れるポーズをしています。そして中央には光輝く鳩が描かれ、上部では天使たちが楽器を演奏しています。全体的に青みがかっていて、マリアの周りの岩?や雲が上に向かって伸びていくかのように見えました。先ほどの作品と同じテーマですが、こちらはより神秘的な雰囲気に見えました。


<第3章 トレドでの宗教画:説話と祈り>
3章はトレドで描いた宗教画についてです。エル・グレコは多くの聖人を「祈念像」として身近な場面に表していたそうで、祈念像とは詩的な礼拝をするためのものとのことです。ここにはそうした作品などが並んでいました。なお、エル・グレコの時代は対抗宗教改革の時代だったようで、聖書の場面や聖人を絵画化した作品が好まれていたようです。

33 エル・グレコ 「聖衣剥奪」 ★こちらで観られます
これはトレド大聖堂にある祭壇画のレプリカで、オリジナルは縦3mもあるそうです。(これは75cm) 中央に胸に手を当てるキリストが描かれ、周りにはキリストの衣服を剥ぎ取る兵士や群衆の姿が無数に描かれています。左下には3人の女性(3人のマリア?)が描かれていて、喧騒とこれから起きることへの不安を感じます。解説によると、この3人のマリアは聖書に書かれていないことや、群衆がキリストよりも高い位置に配置されていることなどが批判されたそうで、報酬をめぐって裁判までした末、結局大幅に下げられたもののエル・グレコは直すことはなかったそうです。当時の価値観やエル・グレコの人となりが伺えそうなエピソードでした。

38 エル・グレコ 「キリストの復活」
白い旗を持ち浮遊する裸のキリストを描いた作品です。周りには剣を持った兵士達が描かれ、上に手を伸ばしたり、後ろに倒れこむなど驚いているようです。キリストは光り輝くようで、動きのある兵士と共に 流れるようなリズムの配置となっていました。キリストの神聖さを強く感じさせます。


<第4章 近代芸術家エル・グレコの祭壇画:画家、建築家として>
最後は一番上の階の展示です。エル・グレコは絵画のみならずトレドの教会・修道院のため数多くの祭壇画を制作していたそうで、それを覆う祭壇衝立の設計も手がけていたようです。さらに自身が所蔵した書物の余白には建築や絵画についての自らの見解を書き残していて、絵画・彫刻・建築の融合を目指していたようです。ここにはそれを感じさせる品々が並んでいました。

46-48 エル・グレコ 左「受胎告知」 中央「聖母戴冠」 右「キリスト降誕」
こちらは3点セットで展示されていた、円形・楕円形の枠の作品です。これらはマドリード南方にある聖堂を飾る作品らしく全5点あるうちの3点が並んでいます。いずれもこれまで観てきた作品同様にドラマ性のある場面ですが、やや歪んで見えるのが特徴的です。これは見上げるように観ると、浮かび上がって見えるダイナミックな効果があるそうで、聖堂の建築も計算して描いているようでした。

この辺には教会にある作品の写真なども展示されていました。また、「聖母戴冠」の縮小版レプリカも展示されています。
少し先には書物への書き込みの写真があり、イタリア語とスペイン語が交じる独特の文体で本への見解や反論が書かれているとのことで、「形態や色彩などすべてのものを判断しえるのは、唯一絵画だけである。何故なら、絵画の目的はそれらすべての模倣であるから」といった言葉が紹介されていました。

45 エル・グレコ 「福音書記者聖ヨハネのいる無原罪のお宿り」
宙に浮いて雲に包まれるようなマリアが手を合わし、その後ろには楽器を奏でる天使が描かれた作品です。マリアの頭の上には輝く鳥(鳩?)の姿があり、画面の下の方では聖ヨハネがマリアを見上げています。また、背景には神殿、右下にはバラやオリーブ、ナツメヤシなどマリアを象徴する花々なども描かれていて、解説によると、この神殿はエル・グレコが敬愛するパッラーディオの建築書の版画から引用しているようです。神殿はマリアの雲に透けて見えているのも注目すべき点で、これは聖ヨハネの幻視であることを示しているようでした。様々な意味を込めつつ、神聖な雰囲気を出しているせいか、見上げるとマリアが降臨したかのような構成となっていました。

この先にも「無原罪のお宿り」を題材にした作品はいくつかありますが、これは聖母マリアもキリストと同じく原罪を負わずに生まれてきたことを示す主題のようです。

43 エル・グレコ 「十字架のキリスト」
磔刑されたキリストを描いた作品で、暗い背景に明るく輝くような姿となっています。東京都美術館のすぐ近くの国立西洋美術館の所蔵作品(これも出品されている)とよく似ているように思いますが、こちらの方が精緻に描かれている印象を受けました。また、上を見上げるキリストの顔は苦痛を感じさせず、身体は優美なS字となっているなど、神としてのキリストの姿のように思えます。やや縦に引き伸ばされた頭身がドラマチックな感じでした。

50 エル・グレコ 「無原罪のお宿り」 ★こちらで観られます
これは今回の展示のポスターになっている作品で、トレドのサン・ビセンテ聖堂の礼拝堂を飾るために描かれたものです。高さ3mもある最晩年の傑作で、胸に手を当てたマリアとその頭上の鳩、周りには楽器を奏でる天使など沢山の顔が描かれています。また、左下の方には夜のトレドの街があり、右下にはバラやユリの花といった純血を表すモチーフが描かれています。解説によると、マリアは10頭身以上あるようで、下から見上げるのを計算して描いているようです。また、こちらが展示されていた場所には天窓があったようで、鳩はその近くに配されているので、窓から鳩が入ってきたかのように見えたそうです。
鑑賞しているとまずはその大きさに圧倒されるのですが、天使の配置が螺旋状に並んでいるためか、天に登っていくような感覚を覚えました。これは必見の作品です。


ということで、非常に充実した展示でした。特に「無原罪のお宿り」を観られたのは貴重な機会だったと思います。個性的な作風が面白く、初期から最盛期までの画業の変遷も観られたのも良かったです。今季イチオシの展示です。

おまけ:
会場を出ると記念撮影できるスペースがありました。
2013-01-30 17.20.05



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