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歌舞伎-江戸の芝居小屋- (感想後編)【サントリー美術館】

今日は前回の記事に引き続き、サントリー美術館の「歌舞伎-江戸の芝居小屋-」の後編をご紹介いたします。前編には歌舞伎の歴史なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら


まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 歌舞伎座新開場記念展 歌舞伎-江戸の芝居小屋-

【公式サイト】
 http://www.suntory.co.jp/sma/exhibit/2013_1/index.html

【会場】サントリー美術館
【最寄】六本木駅/乃木坂駅

【会期】2013年2月6日(水)~3月31日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
1章では歌舞伎の歴史が主な内容でしたが、後半は人にフォーカスを当てた展示となっています。
まず、下階の展示室に移動すると、歌舞伎の舞台のようなセットがありました。太鼓や団扇などの道具も置かれているのですが、「かえる」という貝殻を2つこすって蛙の声に似た音を出すユニークな品も展示されています。


<第2章 歌舞伎の名優たち>
2章は歌舞伎の名優たちが描かれた作品が並ぶコーナーです。歌舞伎役者は江戸の人々の憧れの存在であり、ファッションリーダーでもあったようです。ここにはそれが伝わってくる品も展示されていました。

148 歌川国貞 「役者はんじ物 澤村宗十郎(四代目澤村宗十郎)」
頭に頭巾?をかぶっている役者を描いた作品で、役者の上には縄や上半分の馬の絵などが描かれています。これは判じ物という一種のなぞなぞのような趣向で、この絵を読み解くと澤村宗十郎という役者となるそうです(例えば馬はむまと読み、上半分なので「む」となる) 口をへの字に曲げて鋭い目つきが印象的でした。

156 三代歌川豊国
「四代目坂東彦三郎の北條四郎時政 二代目尾上菊次郎の北條息女時姫
 四代目市川鰕十郎の和田の太郎義盛 五代目市川海老蔵の悪七兵衛景清
 三代目岩井粂三郎の重忠妹氏笠 二代目市川九蔵の庄司重忠
 尾上松緑の千葉之助常胤 初代市川猿蔵の江間小四郎義時」

人を足蹴にして刀を抜く役者が中央に描かれ、周りにも武器を持った役者が描かれています。刀からは光が広がり、背景には岩戸のような感じとなっています。解説によると、これは天保の改革によって江戸を追放された五代目市川海老蔵(=七代目市川團十郎)が恩赦で江戸に戻ってきた時に描かれたものだそうで、難有御江戸景清という演目で悪七兵衛景清という役を演じているそうです。背景の岩戸は久々に戻ってきた五代目市川海老蔵を天照大御神の神話になぞらえているとのことで、その趣向が面白い作品でした。

173 三代歌川豊国 「見立三十六歌撰之内 源宗丁」
こちらは五代目岩井半四郎が演じる常磐御前(牛若丸の母)を描いた作品で、白い紙?をくわえて目を見開く姿で描かれてます。この役者は目千両と呼ばれていたそうで、その目は若干怖く見えましたが、全体的に色気ある華やかな姿をしていました。

185 月岡芳年 「雪月花の内 雪 岩倉の宗玄 尾上梅幸(五代目尾上菊五郎)」
雪の積もった庭を背景に、手を重ねて宙を見つめている上半身の着物がはだけた男を描いた作品です。目が鋭く 鶏冠のような頭で無精髭が生えている姿は、ちょっと異様な感じを受けます。解説によると、これは「姻袖鑑」という物語を題材にしているそうで、大友家の息女折琴姫の美しさに心が迷い破戒僧となった「宗玄」を演じる尾上梅幸(五代目尾上菊五郎)という役者が描かれているようです。線が強く、浮き上がるような肋骨がゴツゴツしていて、指先は爪が伸びているなど鬼気迫る迫力がありました。 なお、タイトルに雪とあるのはこの時代の役者を雪月花に見立てているためで、これはその1枚のようです。

この近くには役者たちが自ら描いた絵などが並んでいました。当時の役者たちは書画を嗜んでいたそうで、贔屓筋から頼まれると玄人はだしで絵を描いていたそうです。

186 鏑木清方 「江戸桜」
羽子板を支え棒のようにして両手を置き、座っている江戸時代の町娘を描いた作品です。羽子板には助六を演じる九代目市川團十郎が描かれていて、娘のかんざしは助六が演目中に持っている提灯と蛇の目の傘の意匠となっているそうです。これは市川團十郎の30年追悼興行の際に描かれたそうですが、歌舞伎の知識やウィットを含めつつ、清方らしい初々しさがありました。

202 鬼女 / 六代目中村歌右衛門(上)、平維茂 / 三代目市川寿海(下) 「押隈『紅葉狩』」
これは役者が舞台が終わったあとに布などに顔を押し付けて隈取を写しとった作品です。これの演目は1人の女性が前半は美しい姫君、後半は恐ろしい鬼女となるそうで、上下に各役者の顔が並んでいました。下の顔は穏やかな感じですが、上の顔はまさに鬼そのものという感じが面白かったです。このメイクは大変そう…w


<第3章 芝居を支える人々>
最後の3章は役者ではなく、観客など芝居を支える人たちのコーナーです。歌舞伎の舞台では観客は大きな役割を果たすそうで、公演中の役者への掛け声は勿論、襲名の際のバックアップや新しい意匠の手配、観客の動員など特定の役者を組織的に後援する人たちがいたそうです。こうしたファンを「贔屓連中」と呼んだそうで、江戸時代から確立されていたシステムのようです。
また、役者は当時のファッションリーダーで、その舞台衣装から影響を受けた服も流行ったそうです。ここでは贔屓の観客の様子や、流行った服の文様についての作品等も展示されていました。

207 式亭三馬/歌川国貞 「客者評判記」
これは役者の評判記を真似てパロディ化したもので、役者を贔屓している観客の評判記です。(簡単に言えば追っかけのランキングかなw) 「極上上吉 贔屓の常連 英雄」などの評価が付けられていて、「上上」や「上上吉」などのいくつかのランクがあるようでした。こちらは重版さてるほど人気を博したそうですが、今も昔も日本人はランキングや番付が好みなのかもw

218 三代歌川豊国 「市川團十郎の飴売りとつけへ兵衛 市村羽左衛門のからくり云立嘉吉市川小團次のからくり云立初だん二 坂東しうかの中居おつる」
これは三枚続の役者絵で、4人の人物が描かれていて、特に目を引くのは右に描かれた八代目市川團十郎です。袖に「ぬ」と大きく書かれた着物を着ていて、「○」と鎌(ノの字のような)と合わせて「鎌○ぬ」と呼ぶそうです。この「鎌○ぬ」は七代目市川團十郎が流行らせた模様だったようで、近くには七代目市川團十郎が所蔵した煙草入れがあり、そこにも「鎌○ぬ」紋が描かれていました。ちょっとマヌケな感じがしますが面白い模様です。

最後には歌舞伎衣装や第四期の歌舞伎座の模型、役者のおもちゃ絵などが並んでいました。

ということで、知っているようで知らなかった歌舞伎の世界に触れることが出来ました。私はまだ実際に歌舞伎を観たことがないので偉そうなことは言えませんが、歌舞伎を観る際に参考になりそうな内容でした。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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