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ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア (感想前編)【Bunkamuraザ・ミュージアム】

この前の土曜日に渋谷のbunkamuraで「ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」を観てきました。メモを多目に取ってきましたので前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1090199.jpg

【展覧名】
 ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア

【公式サイト】
 http://rubens2013.jp/
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/13_rubens/index.html
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/13_rubens.html

【会場】Bunkamuraザ・ミュージアム
【最寄】渋谷駅/京王井の頭線神泉駅


【会期】2013/3/9(土)~4/21(日) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
公開初日に行ったのですが、所々に人だかりがあり多少の混雑感がありました。しかし少し待てばじっくり観られるくらいで、帰る頃(17時頃)には空いていました。

さて、今回の展示は17世紀バロック時代の巨匠、ペーテル・パウル・ルーベンスについての展示です。ルーベンスは1577年に生まれ、アントワープ(今のベルギー)で修行し親方の資格を得ると、1600年にイタリアに向けて出発し、マントヴァ公爵の宮廷画家になりました。イタリアではローマを始め各地に訪問し、古代、ルネサンス、当代の美術を学び、8年の滞在を経てアントワープに帰郷したそうです。そしてアントワープでは南ネーデルラント(フランドル)の統治者アルブレヒト大公とイサベラ大公妃の宮廷画家に任命されて大きな工房を設立し、精力的に活動していきます。1619年頃からは自作の版画に対する独占的な版権を獲得し、自らの構図を正しく普及させることに努めました。さらに、1623年からは絵筆を持った外交官として各国の宮廷で手腕をふるいながら和平交渉に望んだそうで、宗主国スペインとイギリスの和議の成立に貢献したそうです。一方、家庭においては2度の結婚で8人の子をもうけ、教育に熱心な家族思いの父親だったとのことです。
この展示ではそうしたルーベンスのイタリア滞在の影響を表す作品から、彼自身の作品、工房・助手の作品、版画などを章ごとに分けて展示していました。詳しくはいつもどおり、各章で気に入った作品と共にご紹介しようと思います。


<冒頭>
まず冒頭には自画像がありました。また、展覧会はじめにあった紹介文によると、ルーベンスは人文主義学者でもあり、ラテン語と古典文学に深い造詣があったそうで、母語のフラマン語だけではなく、イタリア語、フランス語、スペイン語、英語も自在に操るマルチリンガルだったそうです。さらに、工房や自宅の設計を手がける建築家であり、美術コレクターであり、前述の通り外交官であったようです。…と、神スペック過ぎて何が何やらw 当時から非常に評価が高かったようで、スペインと英国から騎士の称号も得ているそうです。そんな天才っているんですね。

19 ペーテル・パウル・ルーベンス(工房) 「自画像」 ★こちらで観られます
金の飾りのついた黒い帽子をかぶり黒い服を着たルーベンスの自画像です。体を横にしてこちらを振り返るようなポーズで、ここでは画家というよりは貴人としての姿として描かれているらしく、知的で気品が感じられます。解説によると、これは英国皇太子チャールズの為に描かれた自画像の模写らしく、胸元に金の鎖があるのはアルブレヒト大公から授与されたものとのことでした。


<イタリア美術からの着想>
続いてはイタリア美術からの影響についてです。1600年当時、優れた芸術家になるためには古代彫刻やルネサンスの巨匠の作品のあるイタリアで学ぶことが必要不可欠とされていました。ルーベンスは諸都市で優れた美術品を研究し、模写した素描をアントワープに戻ってからも貴重な参考資料としていたようです。後に外交官としてマドリードを訪れた際にはそこにあったイタリア美術(特にティツィアーノ)に強い関心を持つなど、名声を得た後も旺盛な学習意欲を持っていたそうです。ルーベンスが主に影響を受けた画家として、マンテーニャ、ヴェロネーゼ、ティツィアーノ、カラヴァッジョ、アンニーバレ・カラッチ、ラファエロなどの名前が挙がっていました。(展覧会では名前が挙がっていませんでしたが勿論ダ・ヴィンチやミケランジェロにも影響を受けています。)
 参考記事:
  ラファエロ 感想前編(国立西洋美術館)
  ラファエロ 感想後編(国立西洋美術館)

6 ペーテル・パウル・ルーベンス 「毛皮をまとった婦人像(ティツィアーノ作品の模写)」 ★こちらで観られます
これは外交官時代にイギリスでティツィアーノの作品を模写したものです。左手で肩の毛皮をおさえた半裸の女性が描かれ、真珠のネックレスや腕輪を身につけこちらを向いてやや微笑んでいます。この隣には元となった絵の写真も展示されていたのですが、かなり正確に模写しているようで、ほとんど同じに見えますが腕をやや太めに描いている点や両目にハイライトを入れるなどの違いがあるらしく、より生身の人間っぽく描いているとのことでした。ルーベンスがいかにティツィアーノを学んでいたかよく分かる作品でした。

4 ペーテル・パウル・ルーベンス 「ロムルスとレムスの発見」 ★こちらで観られます
これは四方が2m以上ある大型の作品です。中央に大きな雌の狼が横たわり、その脇に2人の双子の男の赤ん坊(ロムルスとレムス)がいます。1人は狼の乳を飲み、もう1人は手を挙げていて、その子に向かってキツツキがさくらんぼを運んできているようです。右側の背後には木の影から子供たちを発見する羊飼い(ファウストゥス)の姿があり、左側には草むらで子供たちを見守る裸の老人(テヴェレ川の擬人像)と若い女性(ニンフかナーイス)も描かれていました。これはローマを建国したロムルスとレムスの物語で、軍神マルスの子として生まれたものの、母は処女が義務付けられた巫女(元王女)であったためテヴェレ川に捨てられ、雌の狼の乳とキツツキの運ぶ実で育っていたところを発見されているシーンのようです。また、狼と子供たちはローマで見た彫刻を元にして描かれているそうですが、子供の血色が良く肉感的で、狼はふさふさした毛並みで生き生きとした感じでした。1枚でこれだけのストーリーをまとめている構成力も流石で、これは必見の1枚と言えそうです。少し離れて観ると、双子が一際明るく見えるように思いました。


<ルーベンスとアントワープの工房>
ルーベンスは母親の危篤の報を受け、1608年末にイタリアからアントワープに戻ったそうですが、翌年には南ネーデルラントの共同統治者である大公夫妻の宮廷画家として制作を開始したそうです。宮廷から離れたアントワープでの活動を許され、大きな邸宅とアトリエを建造し、大規模な工房を運営していくことになりました。当時、ルーベンスの工房はその規模と効率的な製作方法において際立っていたそうで、助手たちに求めたのはルーベンスの手本を参照しつつ、それを模して描くことだったようです。しかし、ほとんどの助手にとってその水準は不可能だったので、ルーベンス自身が加筆することで一定の質を保とうとしていたそうです。とは言え、顧客によっては手を加えない質が劣るものを販売したり、逆にヴァン・ダイクのような傑出した画家の場合は安心して制作を委ねていたと考えられるそうです。そうして質的な差異が生まれることもあったようですが、全体として見た時、大作や連作の注文を引き受け見事に仕上げることができたのは工房のシステムが有効に機能していた為と考えられるようでした。ここにはそうしたルーベンスとその工房の作品が並んでいました。

8 ペーテル・パウル・ルーベンス 「兄フィリプス・ルーベンスの肖像」
白い襞襟の付いた黒い服を着て、こちらを見ている男性像で、これはルーベンスの兄のフィリプスだそうです。兄フィリプスは有名な新ストア派の学者ユストゥス・リプシウスの弟子だったそうで、ルーベンスがイタリアにいた頃、兄もイタリアにいて一時期は一緒に暮らしていたこともあったそうです。2人は仲がよく、兄も優秀だったようですが若くして死んでしまったそうで、これは墓碑として描かれたのではないかとの説があるようです。精密な筆致で写実的に描かれていて、赤みがかった肌が生気を感じさせ、知的で落ち着きがあるように思いました。何故か襟の部分にしゃしゃっと描いたような線があるのが気になったかな。これについては詳細はわかりませんでした。

この近くには西洋美術館の常設にある9「眠る二人の子供」も展示されていました。この2人の子供は兄の子供らしく、兄が亡くなった年に描かれたのだとか。この先にはこの2人によく似た子供が描かれた作品もありますので、よく観ておくとよろしいかと思います。
 参考記事:国立西洋美術館の案内 (常設)

17 ペーテル・パウル・ルーベンス(工房) 「聖母子と聖エリサベツ、幼い洗礼者ヨハネ」 ★こちらで観られます
幼いキリストを抱えるマリアと、羊に乗った幼い洗礼者ヨハネ、それを支える聖エリサベツ(老いた女性の姿)が描かれている作品です。これはマリアが逃れたエジプトから戻ってきた際にヨハネたち母子のもとを訪れた場面で、人気があった絵なのかこれは工房での模写作品となっています。ヨハネが羊に乗っているのは人の罪を贖うキリストの運命を表しているとのことですが、2人の子は赤みがかった肌に血が通っている感じで、肉感的に描かれていました。構図も面白くて4人で三角形を描くような配置に見えるかな。
解説によると、このキリストの顔は先に紹介した西洋美術館所蔵の「眠る二人の子供」と同じ構図となっているそうで、反転して目を開いているものの、確かに同じ顔をしていて驚きました。また、ヨハネの方もベルリンにある油彩スケッチを元にしているらしく、そのオリジナルの写真と比べてみるとよく似ているのが分かりました。工房がルーベンスの作品を参考にしていた様子などが伺える作品です。

16 ペーテル・パウル・ルーベンス 「復活のキリスト」
これは磔刑から3日後に復活したキリストを描いた作品で、キリストは石棺の上で体を起こし、旗の棒を持っています。また、右には赤い衣の天使が白い衣を取り払い、左上では子供の天使が月桂樹の冠をかぶせようとしています。解説によると、この旗と月桂樹の冠は死への勝利を表しているそうで、キリストは神々しさと生命感溢れる肉体で描かれていました。若干ふくよかに見えるくらいかなw 色合いも力強く輝くようで、復活というテーマがよく伝わってきました。これは今回必見の作品の1つだと思います。

この隣には磔刑で死んで降架された時の姿の絵もありましたが、力ない感じで復活後の姿と対照的な雰囲気がありました。

21 ペーテル・パウル・ルーベンス 「ヘクトルを打ち倒すアキレス」 ★こちらで観られます
鎧を着て盾と槍を持った騎士が、もう1人の騎士の首を刺そうとしているシーンを描いた作品です。これはトロヤ戦争のアキレスとヘクトルの一騎打ちを題材にしているそうで、2人の間に描かれた女神ミネルワの加勢によってアキレスが打ち勝つというストーリーです。元々この作品はタペストリーのための下絵のようで、やや細部や背景はぼんやりしていましたが、2人からは緊張感を感じました。この2人の人物に関してはルーベンス自らが描いたと考えられているのだとか。

この近くいはスペイン王室の狩猟館を飾る為の連作絵画の下絵などもありました。色紙くらいの大きさですがルーベンスらしさを感じます。

25 ペーテル・パウル・ルーベンス 「アポロとダフネ」
これも小さい色紙くらいの下絵作品で、赤い衣をまとうアポロが川の神ペネウスの娘のダフネを追い回しているシーンが描かれています。これは大蛇ピュトンを倒していい気になっていたアポロが、クピド(キューピッド)の弓矢を小馬鹿にしたことにより、その報復として報われぬ恋の虜にされている状態のようです。ダフネは逃げて父に、自らの姿を変えてもらうように懇願したらしく、この絵でも両手を挙げて、その手は既に木の枝へと変わりつつありました。ちょっと恐ろしげで劇的な一枚です。

この隣にも変身物語を題材にした似た作品がありました。


ということで、長くなったので今日はこの辺にしておこうと思います。日本初公開の作品などもあり、貴重な内容となっていました。後半は若干地味めになりますが、参考になる展示となっていましたので、次回は残り半分をご紹介して参ります。

  → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事

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Comment
Re: No title
>dezireさん
コメントいただきましてありがとうございます。
こちらの展示は貴重な内容となっていて見どころが多かったですね。

そちらのサイトでもコメントさせて頂きました。
しかし私も忙しくて自分のサイトの記事作成もままならない状態なので、
他所のサイトでコメントをする時間があったら自分の記事の充実に当てたいと考えております。
すみませんが、今後はその点ご容赦ください。
よろしくおねがいします。
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