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奇想の王国 だまし絵展 (2回目 感想前編) 【Bunkamuraザ・ミュージアム】

6月に行って満足した「奇想の王国 だまし絵展」にもう一度行ってきました。会期中5回ある模様替えのうち、4回目の展示内容でした。
この展覧会の前にもいくつか記事にしていない行ってきた展覧がありますが、騙し絵展は会期末が迫った人気のある展覧会なので、今回も前後半の2回に分けて差込でご紹介します。

前回の記事の補足的にご紹介しますので、ご覧になっていない方は先に読んでいただけると嬉しいです。

前回の記事へのリンク
  奇想の王国 だまし絵展 (感想前編)
  奇想の王国 だまし絵展 (感想後編)

P1060157.jpg

P1060160.jpg


【展覧名】
 奇想の王国 だまし絵展

【公式サイト】
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/lineup/09_damashie/index.html

【会場】Bunkamuraザ・ミュージアム
【最寄】渋谷駅/京王井の頭線神泉駅
【会期】2009年6月13日~8月16日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。


【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度 + 入場券30分

【混み具合・混雑状況(日曜日15時半頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_4_⑤_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
この前行ったときよりさらに混んでいました。小学生~大学生が多かったのは夏休みならではかも。チケットを買うのに30分くらい並ぶのですが、列が階段まで伸びて上階のあたりまで並ぶような状態でした。(私が帰る18時頃にはチケット売場に全く列が無かったので、その時間は狙い目かもしれません) 並ぶにしても階段はエアコンが効いていないので蒸し暑いです(><) そして、並ぶ人がイライラしないようにする為でしょうか、3つの大きなビジョンでVTR映像を流していました。(前回行ったときにはなかったです) VTRはNHKが作った5分くらいのもので、ダブルイメージ、トロンプルイユ、アナモルフォーズの3つの手法を紹介していました。一応ご紹介すると、

ダブルイメージ:
果実があつまって人の肖像に見えるポスターになっている絵のように、1枚で2つのイメージがある手法です。

トロンプルイユ:
リアルな質感を出した絵で、本物と見間違うようなトリックです。

アナモルフォーズ:
絵にゆがみを持たせて元の絵がわからなくなる手法で、鏡の円柱を使ったり、横から角度をつけて見ると元の絵が現れます。

今回の展示はこの3つがよく出てくるので、並び時間を有効活用して予習することができました。とはいえ、チケットを買うのにも結構体力を消耗してしまうので、チケットだけ買って他の時間に行けば良かったと思いました。


さて、肝心の展覧会ですが、またいくつかの作品のメモをとってきたのでご紹介。基本的に前回行ったとき書けなかった作品紹介の補完です。今回貰ったリストと前回貰ったリストが若干違う・・・w 今回の展示に即した順番に修正されているようです。

<トロンプルイユの伝統>
エラスムス・クエリヌス 「慈悲の擬人像」
板に描かれた長い槍と盾をもった兵士の絵です。離れて観ると彫刻のように見えるという騙し絵で、板人形と呼ばれネーデルランドや英国で流行ったのだとか。んー、これはあんまり騙されないかなw

17世紀オランダの画家 「羊飼いの礼拝(大理石の浮彫のトロンプルイユ)」
茶色と乳色の濃淡をうまく使って大理石のような質感をもたせた絵です。人が集まっている上に天使が飛んでいます。このリアルな質感がこのコーナーの鍵となりますね。3次元の大理石を2次元で表現するという技術に驚きます。

パルトロメウス・ファン・デル・ヘルスト 「ある男の肖像」
黒い帽子の紳士の絵です。レンブラントの絵みたいな雰囲気の絵ですが、この紳士の左手は額縁からはみ出しているように見えます。実はこの額縁も絵で、額縁を超えてこちらに来たかのように思わす手法です。隣に同じ手法でもっと分かりやすい「非難を逃れて」がありますが。これも中々茶目っけがあって面白いです。

聖血の画家(工房) 「ルクレティアの自害」
ルクレティアの話を説明すると長くなるので割愛w 純潔を守るために自害するシーンを描いています。胸下に刺さった短剣を抜こうとしているところで、目はうつろで口が半開き気味です。その左手が枠からはみ出ているように見えます。結構重い主題なのにこういう、騙し絵的な描き方をしてたのが意外な感じでした。騙しの要素が無くても普通に良い絵だと思います。

ヤーコブ・マーレル 「花瓶の花」
これはどこが騙しなんだろ?とみんな首をかしげていました。説明も特になかったのですが、写実性の高い作品で、ガラスの花瓶に入ったリアルな花が描かれています。そのガラスにはこちら側の様子が映りこんでいました。恐らくその反射が騙しなのかなと思いました。花瓶の横にいたクワガタが可愛かったw

アントニー・ヴァン・ステーンウィンケル 「ヴァニタス-画家とその妻の肖像」
鏡に映った男性の肖像です、妻がこちらに鏡をむけていて位置的に自分がその男になったような感じがします。回りには骸骨や砂時計があり、それぞれ死や時間の流れを表していて、ヴァニタス画としての側面もありました(ヴァニタスとは日本人風に言えば諸行無常が近いかな)

エーヴィルト・コリエ(エドワールト・コレイエル) 「エラスムスの銅版画のあるトロンプルイユ」
木の上にはがれそうな肖像画が貼られています…。と、思ったらこの木も絵で描かれています。これは前回来た時に見事に騙された手法ですw 何度観ても木目がリアルで、白黒の肖像のせいかますます本物に見えました。

アドリアーン・フォン・オスターデ 「水彩画の上に置かれた透明な紙」
絵の上に薄い紙がのっかっているように見える作品です。邪魔っけだから上の紙を払いたくなりますが… 上の紙も絵です。下に透けた感じが本物のようで3枚の紙が重なっているようにしか見えませんでした。

フランシスコ・デ・スルバラン「聖顔布」(特別出品)
真っ白な布にピンクのキリストの顔が浮かんでいます。聖女ヴェロニカがキリストの汗をぬぐった時の奇跡を描いている作品のようです。なんか、ど根性ガエルのぴょんキチみたい… むしろ、聖☆おにいさんのキリストTシャツを思い出すw 結構お茶目な顔をしていました。どこら辺が騙しかはわかりませんが…。

バッティスタ・アンゴロ・デル・モーロ(帰属) 「ヴェローナの近くに幻視として現れた聖家族」
風景画と聖家族の絵が重なって見える作品。上半分がめくれかかって下から聖家族が現れたような騙し絵です。絵の中央下部にあるタイトルっぽい張り紙も絵で、これもはがれかけているようでした。 色々と手が込んでいます。

コルネリス・ノルベルトゥス・ヘイスプレヒツ 「静物を自画像」
キャンバスの絵が剥がれかかっているように見える作品。この手の騙しはだいぶ慣れてくる頃ですw しかし、ちょっと離れたところからみると、ここで絵を描いているかのように見えますので当時の人はだいぶ騙されたのでは?と思いました。この作者はトロンプルイユの発展に大きく貢献した人らしいです。絵を風景と思わせるという性質上、サインを絵に残せないので左上のほうにうちつけたバッジのような自画像を残しているのも特徴でした。細部までこだわってます。

ヨハン・ゲオルグ・ヒンツ 「珍品奇物の棚」
豪華な宝物が飾ってある棚の絵で、遠くからみたら家具の1つに見えるという騙し絵です。横3列×縦5段からなる棚で、トロフィーや壷、銃、貝殻、さんごなどの財宝が並んでいます。しかし、よく観ると髑髏や懐中時計といった栄華の無常を予期する品も並んでいました。普通に静物画として良い作品でした。(というか、この展覧は「だまし絵」という小学生でも喜べそうなタイトルですが、実は硬派な美術展なので、明快な騙しではないものは理解が難しいかも。)

ジャン・エモウ 「洋服ブラシとヴァニタスの静物画」
周りは木枠のようになっている絵で大きなブラシが目を引きます。周りにはトランプやサイコロがあって、ギャンブルを思わせます。さらにおなじみの砂時計や燭台?もあり、これまたヴァニタスっぽい作品でした。ヴァニタス好きとしてはこれが何を意味しているのか謎解きも解説にほしかったかな(今回の趣旨とは違いますがw)

アレクサンドル=フランソワ・デポルト 「果実と狩りの獲物のある静物」
この辺はむしろ静物画展といったほうが良いのでは?w 狩猟で狩った獣などを描くのは当時のヨーロッパで流行った作風で、これもその1つです。逆さづりの鳥や仰向けの兎がちょっと残酷な感じもします。ぶとうや桃などのフルーツもあり、リアルな質感をたたえていました。

コルネリス・ノルベルトゥス・ヘイスプレヒツ 「トロンプルイユ」
この辺は壁にテープをとめてそこに物を挟み込んでいる絵が沢山ありました。これもその1枚で、板に赤いテープがはってあり、そこに手紙やノートが留められているように見えます。それぞれの紙は角の部分が折れ曲がったりめくれているのが余計リアルに感じました。

<アメリカン・トロンプルイユ>
アメリカではC.W.ピートという人が「階段の人々」という作品で初代大統領のワシントンを騙して以来、盛んに騙し絵が作られたそうです。ヨーロッパの作品と比べても同じような主題が多かったように思います。

ジョン・フレデリック・ピート 「思い出の品」
これは先ほどのコルネリスの「トロンプルイユ」に似ている作品。いくつかの私物が挟まれている絵なのですが。特に左上の娘の写真(の絵)が目を引きます。実はこの写真の部分は元は別のモチーフだったのを、20年後くらいに娘の写真に修正したのだとか。騙し絵というよりは、そのときの自分や娘の様子をとどめておきたかったのかなーなんて思いました。

フレデリック・エドウィン・チャーチ 「復讐の手紙」
何やら不穏な題名ですが、これは作者が友人に、「絵は実物そっくりでないと価値が無い」と言われたことに対して、その「復讐」としてリアルな手紙の絵を送ったというエピソードがありました。黄色い便箋は遠目にみたら本物にしか見えないんじゃないかな。

アレグザンダー・ポープ 「エサをやらないでください」
金網越しに5匹の犬が見えている絵で、そのうちの1匹が金網から鼻を出してこちらにせり出しているかのような錯覚を覚える作品でした。その犬の仕草も可愛かったです。

<イメージ詐称(トリック)の古典>
前回ご紹介した、ドメニコ・ピオラ作「ルーベンスの"十字架昇架"の場面のあるアナモルフォーズ」 は出口付近に移動していました。おそらく混雑が激しいところだからでしょうね…。

アタナシウス・キルヒャー 「光と影の魔術」
このコーナーでいくつも観られる「アナモルフォーズ」の作画法が書かれた本です。例として描かれた絵の上に格子(マトリクス)を描き、その格子がどのように歪んでいるか説明していました。 これはこのコーナーを観る上でも非常に役立つ資料で面白かったです。

ウィリアム・ホガース 「誤った遠近法」
これはすでに展示が終了していてコピーがあるのみでした。前回観たので一応紹介しますと、タイトル通り遠近法がめちゃくちゃになっている絵で、遠くの丘にいる人と手前の建物の2Fの人が顔を合わせて会話しているシーンや、近くにいる人の釣り針が遠くのはずの池に入っているなど、おかしなことになっています。 おそらくこういうのも1つの騙しの技法としてあるのかも。エッシャーもこういう流れだなーと思いながら見ていました。

ジュゼッペ・アルチンボルドの流派 「水の寓意」
魚介類が重なり合って人の横顔のように見えます。黒い背景に焦げ茶色というのも原因だとは思いますが、結構グロい絵ですw 隣にある「ウェルトゥムヌス(ルドルフ2世)」 は結構爽やかなのにこっちはキモいw しかし、これもタコやヒラメなど様々な魚がいて超自然的な印象を受けます。これが神格化に繋がっているのかなと思いましたが、私だったらやはり果実のほうで描いてほしいですね。

ということで、美味しい目玉作品は前回ご紹介しているので、今回は紹介が漏れていた作品をずらっと書いてみました。(長文ですみませんでした) 次回は「日本のだまし絵」以降の作品を紹介しようと思います。 「日本のだまし絵」は結構展示内容が変わっていました。


  後編はこちらに書きました。引き続きよろしくお願いします。


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