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ミュシャ財団秘蔵 ミュシャ展 パリの夢 モラヴィアの祈り (感想前編)【森アーツセンターギャラリー】

仕事と小旅行で少し記事の間が空きましたが、前回ご紹介した森美術館の展示を観た後、すぐ階下の森アーツセンターギャラリーで「ミュシャ財団秘蔵 ミュシャ展 パリの夢 モラヴィアの祈り」を観てきました。点数が多くメモも多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1090219.jpg

【展覧名】
 ミュシャ財団秘蔵 ミュシャ展 パリの夢 モラヴィアの祈り

【公式サイト】
 http://www.ntv.co.jp/mucha/
 http://www.roppongihills.com/art/macg/events/2013/03/macg_mucha.html

【会場】森アーツセンターギャラリー
【最寄】六本木駅


【会期】2013年3月9日(土)~5月19日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
展覧会が始まって2日目に行ったのですが、結構混んでいる感じでした。お客さんがめちゃくちゃ多いというよりは、小さめの作品が多いので人だかりが出来やすく、特に2章辺りは通路が狭いので混雑感がありました。
ちなみに、この会場にはロッカーが無いので、地上階のロッカーに予め預けてくるか、持ったまま鑑賞する必要があります。あまり大きな荷物は持って行かないことをお勧めします。

さて、今回の展示は約150年前にチェコで生まれ、アール・ヌーヴォー様式の時代に活躍した画家アルフォンス・ミュシャの個展となっています。ミュシャはチェコからパリに出て挿絵などで生計を立てていたのですが、偶然に女優サラ・ベルナールの「ジスモンダ」のポスターを手がけたことによって一躍注目を浴び、売れっ子となりました。その後、商品ポスターやパッケージなど幅広く活動し、アメリカでも活躍した後に祖国チェコに戻り、「スラヴ叙事詩」という大作を完成させました。 展覧会はテーマごとの構成になっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、今回の展示は作品リストもなかったので、タイトルは間違っているかもしれません。その場合はごめんなさい。
 参考記事:アルフォンス・ミュシャ展 (三鷹市美術ギャラリー)


<第1章 チェコ人ミュシャ>
ミュシャは1860年にオーストリア帝国領のモラヴィア(今のチェコ)のイヴァチッツェという小さな村に生まれました。当時のチェコではスラヴ民族の間で独立運動の気運が高まっていたそうで、チェコ民族復興運動も最盛期を迎えていたようです。ミュシャはそうした中で育ち、チェコ人としてのアイデンティティと祖国愛を持ったようで、それは生涯変わらぬ精神的支柱となったそうです。そして10代で画家になることを決心した時から、画業を通じて祖国の為に働くことが夢となっていたそうで、ここでは祖国愛をテーマにした作品が並んでいました。

アルフォンス・ミュシャ 「パレットを持った自画像」 ★こちらで観られます
これは冒頭にあった作品で、40代の頃の油彩の自画像です。ルパシカというロシアの民族衣装を着たミュシャが下から見上げるような感じで描かれていて、髭を生やした堂々とした姿となっています。ちらっとこちらを見ているので鏡でも見ながら描いているのかな? ミュシャと言えば女性的な洒落た作品のイメージがありますが、これだけ観るとちょっと意外な雰囲気に思えました。

この辺には油彩の家族の肖像などが並んでいました。油彩の作品は淡くぼんやりした感じの色合いとなっています。また、シャルル・コーシャンという作家によるミュシャの胸部像も並んでいました。

アルフォンス・ミュシャ 「イヴァンチッツェの想い出」
高い教会の塔を背景に、手を組んで目を閉じる女性が描かれた絵葉書のリトグラフです。周りには無数の燕が描かれていて、これは生まれ故郷を描いたものらしく、この女性はミュシャ自身の望郷を表しているものだそうです。燕は毎年同じ場所に戻るので、ミュシャも故郷に帰るという思いを託しているらしく、故郷への強い思いが感じられます。絵には繊細で可憐なミュシャならではの雰囲気がありました。

この辺にはミュシャのアトリエを描いた作品(別の作家の作品)などもありました。


<第2章 サラ・ベルナールとの出会い>
続いてはミュシャの出世作を含む、女優サラ・ベルナールとの出会いについてのコーナーです。ミュシャの才能を最初に世に送り出したのはフランスの大女優サラ・ベルナールで、1844年にミュシャがデザインしたポスター「ジスモンダ」のヒットをきっかけに、サラ・ベルナールとは6年の契約をしたそうです。女神サラのアイドルとしてのイメージを作り出し定着化すると共に、自らも彫刻家であり美術コレクターでもあるサラ・ベルナールを通じてミュシャは芸術の表現も成長していったそうです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

アルフォンス・ミュシャ 「『ラ・プリュム』誌版アート・ポスター:サラ・ベルナール」 ★こちらで観られます
これは正面を向いたサラのポスターで、大きな花とティアラで髪を飾り、胸前に豪華なアクセサリーをつけた姿で描かれています。髪はくるくると円を描くようにまかれていて、背景には無数の星が描かれています。優美な雰囲気で、女神のような風貌に見えました。この曲線や植物を多用する点などはいかにもアール・ヌーヴォー的なデザインじゃないかな。ちなみにラ・プリュムというのは「羽根ペン」という意味の文芸・美術雑誌とのことでした。

この近くには午餐会のメニューやミュシャの絵に倣って作られた照明器具、舞台衣装のデザインなどもありました。また、少し先には舞台デザインや、女優たちを描いた写実的な肖像素描などもあります。

アルフォンス・ミュシャ 「演劇芸術のアレゴリー」
これはニューヨークで1908年にオープンした「ドイツ劇場」の緞帳の習作と考えられている品で、横幅が3m以上ある大型作品です。4人の人々が描かれていて、腰に手を当てるドレスの女性は「演劇」、月を背にした鳥を座って眺める女性は「詩」、右の方で道化の格好をした人物が女性に話しかけているのは「喜劇」と「悲劇」の擬人化像のようです。ミュシャのポスター作品よりも淡くぼんやりした画風で、優美で幻想的な雰囲気がありました。ミュシャはパリ留学以前には舞台装飾や役者もやっていたことがあったらしく、舞台に寄せる感心は相当強かったのではないかと感じさせました。

アルフォンス・ミュシャ 「ジスモンダ」 ★こちらで観られます
これはミュシャの出世作で、ミュシャ展では必ずと言っていいほど展示されています。手に大きな棕櫚の葉を持ち、重厚なビサンティン様式を思わせる装飾を施した服を着たサラ・ベルナールが、立ち姿で描かれています。緻密で華麗な雰囲気があり、タイル画のような文字などからも独特な印象を受けます。解説によると、これを観たサラはすぐにこれを気に入って涙を流したそうです。ミュシャにとって非常に大切な作品となったのは想像に難くないと思います。

この近くには「メディア」というちょっと恐ろしい雰囲気のポスターもありました。ちなみにミュシャはジスモンダのヒット前は挿絵を描いて生計を立てていたそうです。この辺にはその挿絵の習作がありました。思ったより挿絵はアール・ヌーヴォーっぽくないですが、写実的ながらも幻想的な絵となっていました。


<第3章 ミュシャの様式とアール・ヌーヴォー>
続いてはミュシャとアール・ヌーヴォーについてのコーナーです。ジスモンダの成功でミュシャがパリのアートシーンの注目を集めたのと同じ年(1885年)、ジークフリート・ビングは画廊「アール・ヌーヴォーの家」をオープンしました。そして、ジャポニズムから影響を受けた花や植物などのモチーフ、流麗な曲線を組み合わせた装飾的な様式はヨーロッパ中に広まり、「アール・ヌーヴォー」として国際美術運動へと発展していきます。
一方、この頃のミュシャは円やアーチを背にした女性像が多かったようで、花やモザイク風の装飾などのデザインは「ミュシャ様式」とニックネームが付き、アール・ヌーヴォーと同義になっていったようです。ここにはそうした時期のミュシャの広告やパッケージデザインなどが展示されていました。

アルフォンス・ミュシャ 「ショコラ・イデアル」
お盆の上にココア?を乗せている女性と、その袖を引っ張ってねだっている小さい女の子、その隣にももう1人の女の子が描かれています。お母さんのくれるココアが待ちきれないといった感じなのかな? ココアからは湯気が出てきているのが優美で、何とも美味しそうです。一方、女性は女神のような優しい顔をしていました。左下にはショコラ・イデアルのパッケージの絵らしきものもあり、宣伝となっているようですが、幸せそうな雰囲気が伝わってきました。

この先には有名な「ジョブ」という作品も展示されていました。

アルフォンス・ミュシャ 「ウェイバリー自転車」
これは大きなハンマーが乗っている工具台の上に肘を付いて、右手で樹の枝を摘んでいる女性を描いた作品です。艷やかな雰囲気ですが、これは自転車のポスターだそうで、肝心の自転車はハンドルだけしか描かれていません。ミュシャらしい植物と女性を描いた作品ですが、これでちゃんと広告になったのかな?という疑問がw

この近くにはミュシャのアトリエでピアノを弾くゴーギャンを撮った写真などもありました。意外な親交ですね…。

アルフォンス・ミュシャ 「ミュシャ石鹸 スミレの箱」
これは花に囲まれた女神のような女性が描かれた箱です。金色の縁があり何とも豪華な感じをうけるのですが、これはミュシャの名前がそのまま商品になっていたものらしく、中々興味深い品です。ミュシャは最初に観た通りオッサンなのですが、名前と作風から女性っぽい印象を受けますねw

この近くにはビスケットや香水の箱、ネスレ社の奉祝ポスター(結構大きい)、ビクトリア女王即位60年記念の記念作品などもありました。

アルフォンス・ミュシャ 「装飾資料集」 ★こちらで観られます
これはミュシャのデザインをまとめたような資料集です。ミュシャは売れっ子になると仕事の依頼が多過ぎたようで、このデザイン集を見れば欲しいデザインが見つかるはずと考えて作成したそうです。文字や数字、植物紋、食器のデッサン、椅子のデザインなどミュシャらしい曲線や植物を思わせる文様が並んでいて、ヨーロッパ中の図書館や学校はこぞってこれを購入したそうです。しかし、その甲斐もなく ちょっと違うデザインが欲しいという依頼が減らなかったとのことでした。


ということで、前半はミュシャのイメージ通りの代表作などが並ぶ内容となっていました。華やかで洒落た雰囲気の作品が並んでいますので、美術ファンでなくても楽しめると思います。後半は普通のミュシャ展とはひと味変わった内容となっていましたので、次回はそれについてご紹介しようと思います。


   → 後編はこちら



 参照記事:★この記事を参照している記事
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Comment
No title
初めまして。
そちらでもやっているんですね。
大変参考になりました。
後半も楽しみにしています(^^)
Re: No title
>いろもりカラスさん
はじめまして。コメント頂きましてありがとうございます。
この展示は京都からの巡回だったかな。今は六本木です。
後半もいま仕込み中ですので、また読んで頂けると嬉しいです。
今後とも宜しくお願い致します。
No title
こんにちは。
後半も読ませていただきました。
ありがとうございます。
ミュシャ展は京都でもまだ開催中です(3/31まで)。
京都のは、チマル・コレクションという個人蔵のものらしいし、
リトグラフなので、何枚か同じものがあるんでしょうか??
私はそのあたりのことはよく知りません。
こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。
Re: No title
>いろもりカラスさん
コメント頂きましてありがとうございます。
京都のミュシャ展とは別物でしたか^^;

後編にも書きましたが、ミュシャは多くの人に楽しんで貰う為にポスターやパネルを作っていたので、
結構あちこちに残っていそうですね。一点物は油彩や下絵などかな。
こちらはちょっと変わった趣向となっていましたよ^^
No title
こんにちは。
あ、本当ですね。なるほど。
だからポスターだったんですね。。。
こちらにも油彩等ありましたが、私はそれまでミュシャは商業ポスターしか描かない人だと思っていたので、今回初めてミュシャの人間的な側面を見ることができてとても意義ある鑑賞だったと思います。
ありがとうございました(^^)
Re: No title
>いろもりカラスさん
コメント頂きましてありがとうございます。
こちらの展覧会ではミュシャがデザインした宝飾品も展示されていました。
おっしゃるとおり商業ポスターのイメージが強いですが、万博にも深く関わったり、
幅広い仕事を手がけていたようです。
それが認識できるだけでも意義ある展示ではないかと思います。
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