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ミュシャ財団秘蔵 ミュシャ展 パリの夢 モラヴィアの祈り (感想後編)【森アーツセンターギャラリー】

今日は前回の記事に引き続き、森アーツセンターギャラリーの「ミュシャ財団秘蔵 ミュシャ展 パリの夢 モラヴィアの祈り」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら



まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 ミュシャ財団秘蔵 ミュシャ展 パリの夢 モラヴィアの祈り

【公式サイト】
 http://www.ntv.co.jp/mucha/
 http://www.roppongihills.com/art/macg/events/2013/03/macg_mucha.html

【会場】森アーツセンターギャラリー
【最寄】六本木駅

【会期】2013年3月9日(土)~5月19日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では華やかな舞台ポスターや商品パッケージなどについてご紹介しましたが、後編はだいぶ硬派な内容となっていて、ミュシャのスラヴへの想いを深堀りするような展示となっていました。
 参考記事:アルフォンス・ミュシャ展 (三鷹市美術ギャラリー)


<第4章 美の探求>
ミュシャは芸術の為の芸術ではなく、普遍的な美を表現することを求めていたそうで、美は善であり内的な世界(精神)と目に見える外面的世界の調和にあると考えていたそうです。ミュシャにとっての芸術家の使命は、その美で大衆を啓蒙し、インスピレーションを与えることで生活の質を豊かにすることであり、その理想を実現する手段の1つが観賞用ポスターとして作られた装飾パネルだったそうです。装飾パネルは1点ものと違い大量生産でき、廉価で買い求めやすく一般にも美をもたらしたようで、ここにはそうした装飾パネルやポスターなどが展示されていました。

アルフォンス・ミュシャ 「四季:秋」
これは4枚セットの四季を擬人化した女性像で、私はその中でも秋が一番気に入りました。腰のあたりに果実の乗った網カゴを持ち、古代の服を思わせる長いドレスを着た女性が描かれていて、首飾りや髪飾りなどは緻密で豪華な印象を受けます。タイル画のような光背を背負っている感じで、流麗でミュシャらしい優美さがありました。

この辺はこうした装飾パネルなどがありました。

アルフォンス・ミュシャ 「夢想」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターにもなっている作品で、花で出来た円を光背のように背にした女性が描かれています。本を広げてこちらを見ていて、色は薄めなこともあってか華やかかつ落ち着いた雰囲気があります。解説によると、元々これは広告として作られたそうですが、ここではロゴを取って装飾パネルにしているとのことでした。また、ドレスにモラヴィア地方の装飾を入れるなど、スラヴ的な要素もあるそうです。タイトルのように幻想性すら感じるミュシャらしい女性美に思いました。

この先を少し進むと前編でご紹介した装飾資料集が再度展示されていました。また、花のスケッチなども並んでいます。

アルフォンス・ミュシャ 「[四芸術:ダンス]の下絵」
これは主要な芸術である「音楽」「詩」「絵画」「ダンス」の4図セットの作品で、それぞれ擬人化された女性が描かれています。私の一番好きなのは「四芸術:ダンス」(★こちらで観られます)で、翻る衣と髪が流れを感じさせ、華麗な雰囲気です。のけぞるような姿勢も面白く、魅惑的な目でこちらを見ています。この作品はよく見るのですが、今回は下絵も観ることができるのが良かったです。ほぼ完成作と同じに見えましたが、鉛筆と水彩で描かれた下絵は非常に参考になりました。

近くには油彩の裸婦像もありました。ややくすんだ暗めの色使いで、写実的に描いているものの、どこか幻想的に感じられました。また、その他にもアトリエでバレエを踊る裸婦の写真や、ボヘミアの民族衣装を着てポーズを取るモデルの写真もありました。ミュシャはよく写真を撮って作品の参考にしていたようです。


<第5章 Paris 1900 パリ万博と世紀末>
1900年に開催されたパリ万博は、ミュシャにとっては華やかなヨーロッパ文明の影に潜む闇の部分を浮き彫りにしたイベントだったそうです。オーストリア政府の依頼で、ボスニア・ヘルツェゴビナ館の内装を担当することになったそうですが、準備のためバルカン半島(当時、ヨーロッパの火薬庫となりつつあった)を訪れると、スラヴ民族の置かれた複雑な政治問題を改めて痛感したそうです。また、祖国を植民地支配している帝国の代表作家として仕事を請け負う矛盾に打ちのめされたようで、苦悩の中でミュシャは祖国とスラヴ同胞の為に働く決意を新たにし、それが後のスラヴ叙事詩の構想へと繋がっていったようです。
一方、この時期に長年追求していた神智学的な思想を極めるためにパリでフリーメイソンに入団し、人類へのビジョンを構想した「主の祈り」を出版したそうです。他にも著名な宝石商ジョルジュ・フーケとのコラボレーションを行うなど総合芸術家としての才能を発揮する傍ら、自らの精神世界と向き合い模索したそうです。ここにはそうしたパリ万博やフリーメイソン関連の品などが並んでいました。

アルフォンス・ミュシャ 「宝石:アメジスト」 ★こちらで観られます
これはトパーズ、ルビー、アメジスト、エメラルドの4つの宝石を擬人化した作品で、私が一番気に入ったのはアメジストでした。紫のドレスを着た女性が両手で髪を押さえていて、手前にはアイリスが咲いている様子が描かれています。ミュシャらしい女性美で、アメジストをイメージしているためか色に統一感がありました。

アルフォンス・ミュシャ 「オーストリア館のポスター」
これはパリ万博でのオーストリア館のポスターで、ドレスを着た女性と、その後ろで女性の頭の布を取る人物、右半分は建物が描かれています。女性には星が散りばめられていて、気品溢れる感じです。頭の後ろに双頭の鷲も描かれているのですが、これはオーストリア=ハンガリー二重帝国を示しているとのことでした。こういう華やかな作品の裏で複雑な気持ちを抱えていたとは…。

近くには万博のレストランのメニューの下絵とメニューの表紙などもあり、民族衣装を着た女の子が描かれていました。

少し進むと先述した「主の祈り」もありました。白黒の挿絵で神秘的な光景で、表紙にはフリーメイソンのシンボルも描かれています。また、この他にもフリーメイソンのゴブレットや入団証なども並んでいました。

アルフォンス・ミュシャ 「装飾鎖付きペンダント」 ★こちらで観られます
これが先述したジョルジュ・フーケとの共同制作で、ミュシャの女性像が身に着けているような金色のペンダントです、2人の女性が描かれたプレートがぶら下がっているなど、絵と同じく優美な雰囲気がありました。これもパリ万博で展示されたのではないか?と推定されるようでした。

アルフォンス・ミュシャ 「ヤロスラヴァの肖像」 ★こちらで観られます
これは油彩で、46歳の頃に産まれた娘の肖像です。とは言え、70歳の頃に描いたものなので、娘は24歳くらいの姿かな。白い布を頭に巻くスラヴの民族衣装の格好で、顔を両手で支えて肘をつき、赤い花を持っています。写実的でやや力強く感じるほどの表現で、じっとこちらを見つめる目が神秘的な雰囲気でした。

この少し先にはボスニアの伝説を描いた木炭によるスケッチや、死神や死を描いた暗い作風の作品なども並んでいました。この作品だけを観たら私にはミュシャとは分からなそうですw


<第6章 ミュシャの祈り>
最後の章はスラヴ民族としてのミュシャのコーナーです。ミュシャは、1910年にパリ時代から温めていた「スラヴ叙事詩」の構想を実現するために、長年離れていた祖国に戻りました。アメリカで資金援助を受けた後、西ボヘミア地方のズビロフ城を借りて、余生のほとんどはそこで制作したそうです。「スラヴ叙事詩」はチェコ人とスラヴの同胞たちの共通の栄光と悲哀の歴史を描いた20枚の作品で、これにより長年の植民地政策で失った連帯感を取り戻し、スラヴ諸国の独立の原動力としたかったようです。
やがてミュシャの悲願は第一次世界大戦の集結と共に成就し、1918年にはチェコスロヴァキア共和国が誕生しました。そしてミュシャはその10年後に6m×8mもの巨大な20作の連作「スラヴ叙事詩」を完成させ、祖国独立10周年に合わせてプラハ市に寄贈したそうです。そのシリーズ最後の「究極のスラヴ民族」には「人類のためのスラヴ民族」という副題が付けられていて、一致団結しながら他民族との共存につとめ、人類の平和に貢献するべきという思想が込められているとのことでした。ここにはそうしたスラヴ叙事詩に関する品が並んでいます。


アルフォンス・ミュシャ 「スラヴ叙事詩第9番 [クジージュキの集会]の下半分の下絵」
縦が3m以上ある下絵で、これで半分なのか?というくらい大きな作品です。木のやぐらの上で剣を杖のようにして下を見る人物や兵士が描かれ、これもスラヴの歴史を題材にしているそうです。私にはスラヴの歴史はわかりませんが、絵は粗めなタッチで力強く、よく知っているアール・ヌーヴォーのミュシャとは異なる画風となっているのが驚きでした。完成作の大きさや迫力も窺い知れそうな下絵です。

この近くには同じように大型の下絵がありました。また、作品のためにポーズをとるモデルたちの写真もあります。 そしてその次の部屋にはスラヴの民族衣装がいくつか並んでいて、これはミュシャのコレクションのらしく、作品にもしばしば描かれているとのことでした。

その少し先にはプラハ市民会館の壁画の下絵や、プラハ城内の大聖堂のステンドグラスの再現と下絵などもありました。

アルフォンス・ミュシャ 「1918-1928 チェコスロヴァキア共和国独立10周年記念」 ★こちらで観られます
民族衣装を着て座る三つ編みの女性と、その後ろに座って花輪をかざす女性が描かれた作品です。これは独立10周年を祝ったもので、じっとこちらを見る娘はスラヴ民族を表す擬人像のようです。頭の飾りには5つの地方を表す紋章があり、女性は強い目をしていました。アール・ヌーヴォー時代ほどではないものの華やかさもあるかな。だいぶ画風が変わっているように思いました。

なお、チェコは独立したもののやがてナチスが迫ってきたそうで、ナチスの批判を隠さなかったミュシャはゲシュタポに尋問されて体調を崩し、その4ヶ月後に祖国を案じながら79歳で亡くなったそうです。

アルフォンス・ミュシャ 「フランスはボヘミアを抱擁する」
これは油彩で、十字架を背にして立つ裸婦と、その十字架の後ろからキスをして手に植物の冠のようなものを持つ人物が描かれています。恐らく女性はボヘミアで男性はフランスかな? 背景は燃えるようなオレンジで、ややぼんやりしていて神秘的な雰囲気でした。

この辺には国の宝くじのポスターや晩年の「三つの時代」という理性・叡智・愛をテーマにしたモニュメント計画の下絵などもありました。


ということで、後半はミュシャのスラヴへの想いがよく分かる内容となっていました。今回のタイトルには「モラヴィアの祈り」とあるように、スラヴ民族としてのミュシャに焦点が当たっていたように思います。その為、単に綺麗なものを見たいという方には後半はどうかな?という感じですが、今までのミュシャ展とはまた違った味わいがある貴重な機会でした。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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Comment
おはようございます
ミュシャいいですね。
関西でも絵はがき展などやっているので、ぜひ見に行こうと思いました。
またミュシャが生きた時代や意識もわかるような展示とのこと、関心が高まりました。
Re: おはようございます
>雨男博士さん
そちらでもミュシャ展やってるようですね。
ミュシャはアール・ヌーヴォーの申し子みたいなポスターが多いので人気ですが、
画業を俯瞰して見るとそれだけの画家ではないことも分かるのではないかと思います。
(関西の展示内容はわかりませんが…) 
ぜひ楽しんできてください^^
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