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フランシス・ベーコン展 (感想後編)【東京国立近代美術館】

今日は前回の記事に引き続き、東京国立近代美術館の「フランシス・ベーコン展」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら

P1100108.jpg

まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 フランシス・ベーコン展

【公式サイト】
 http://bacon.exhn.jp/index.html
 http://www.momat.go.jp/Honkan/bacon2013.html

【会場】東京国立近代美術館
【最寄】東京メトロ東西線 竹橋駅

【会期】2013年3月8日(金)~5月26日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では1940年代から50年代にかけての作品を紹介しましたが、後編ではそれ以降の1992年までのコーナーとなっていました。


<2 捧げられた身体 1960s>
ベーコンは1959年9月にコーンウォール地方のセント・アイヴスに滞在していたそうで、当時その地には英国の抽象画家たちが多く集まっていたそうです。そして恐らくこの時期の経験があってか、ベーコンの60年代の作品は大きく変化していきます。背景がシンプルな色面となり、画面内に描かれる家具もずっとモダンになったそうで、それはベーコンが画家になる以前に一時期インテリア・デザイナーとして働いていた経験も活かされているようです。また、背景がシンプルな色面となると、人物像の輪郭やポーズが重要な要素となるらしく、その際にベーコンが大いに参照したのはマイブリッジの写真や友人のプロ写真家に撮らせた恋人や親友の写真だったそうです。ベーコンはモデルではなく写真を用いることで人間の姿を遠慮無く歪めることができたようで、それにより日常とも非日常ともつかない空間の中で見る人に対して捧げられているかのような身体が描かれた作品が作られたようです。1958年頃のメモには「特定の場所におけるイメージと動きを儀式的なイメージに変容させること」という言葉が残されているようで、ここにはそうした考えが伺える作品が並んでいました。

19 フランシス・ベーコン 「ジョージ・ダイアの三習作」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている3点セットの作品で、パブで知り合ったベーコンの恋人のジョージ・ダイアという男性(ベーコンは同性愛者)が描かれています。ピンクを背景に、右向き、正面向き、左向きの3枚となっていて、具象的な肖像を元に歪められて溶けたような独特の表現です。いずれも顔の中央辺りには黒い弾丸の穴のようなものがあり、解説によると、これはダイアの自らを壊したいという内面を思わせるそうで、この絵が描かれた2年後にダイアは自殺してしまったそうです。ダイアは小さな犯罪を繰り返す粗野な人物だったそうですが、この絵では歪んだ激しさと共にどこか艶かしい雰囲気もあるように思いました。

この隣には有名な精神分析学者のフロイトの孫で、20世紀後半を代表する具象画家であるルシアン・フロイドを描いた3枚セットの作品もありました。

23 フランシス・ベーコン 「裸体」 ★こちらで観られます
赤っぽい背景に、首の後で手を組んでソファで横たわる裸婦を正面から描いた作品です。歯を見せて叫ぶようにも見えますが、顔つきや表情ははっきりとはわかりません。ポーズは色っぽく見えるのですが、どこか痛みのようなものを感じさせました。解説によると、同性愛者のベーコンがこうした裸婦を描くのは珍しいことのようです。

この近くにはベーコンの言葉が描かれた壁がありました。17歳の時に、道端の犬の糞を見てふいに人生はこのようなものだと悟ったとのことでした。…って、人生は犬の糞ってことかな?w

35 土方巽 「舞踏公演[疱瘡譚](『四季のための二十七晩』より)の記録映像」
こちらはベーコンからインスピレーションを得た日本の舞踏家で振り付け師である土方巽氏の舞踏公演の映像です。帽子をかぶったヒゲのオッサンがヨガのようにももがいているようにも見える動きをしていて、異様な感じです。痛みや苦しみを感じさせてやや怖いですが、強烈に記憶に残りました。確かにどことなくベーコンと共通するものを感じます。解説によると、立てない身体の在り方がベーコンとの関連性とのことでした。

この近くには土方巽のダンスの舞踏譜やスクラップブックなどもあり、ベーコンの絵をスクラップしているようでした。


<3 物語らない身体 1970s-1992>
1970年以降、ベーコンは大きなサイズの三幅対(3枚セット)の作品に積極的に取り組んだそうで、複数の空間と人物を描いているにも関わらずそこに決まったストーリーが生まれることを何とか避けようとしていたそうです。それはストーリーができると登場人物はそれに服従してしまう、つまり自由を失うことであると考えていたためのようで、ここにはそうした考えに基づく作品が並んでいました。

29 フランシス・ベーコン 「横たわる人物」
オレンジの地と円形の茶色を背景に、横たわる男性の裸体が描かれた作品です。男性には何故か白い襟だけついていて、背後には鏡が置かれています。また、男性の下には牛の影などがあり、闘牛を思わせました。これはむしろストーリーを考えさせるようにも思えましたが、ややシュールな雰囲気があるかな。顔が今までに比べると意外と具象的なのも気になりました。

26 フランシス・ベーコン 「三幅対-人体の三習作」
大きな三幅対の作品で、それぞれにピンクを背景に白いレールのようなものに乗った裸体の人物が描かれています。右は下を見るようなポーズ、中央は黒い傘をさす人物、左は這っているような感じのポーズ となっていて、身体は女性のように見えますが顔は男のように見えます。解説によると、このフォルムはカラヴァッジョからの影響だそうで、地のピンクについては若い時に家具のデザインでしばしば用いた色だったとのことでした。これは確かにストーリーはよく分からないかな。画面は広いのに何だか窮屈そうに描かれていました。

31 フランシス・ベーコン 「ジョン・エドワーズの肖像のための三習作」
これも三幅対で、いずれも椅子に座って足を組む若い男性が描かれています。顔は消されたように見えますが、それ以外は結構写実的で、空色を背景に円形や部屋を思わせる幾何学的な線などもあります。 そして色使いは今までと違って穏やかで、爽やかな雰囲気すらありました。解説によると、この人物は新しい恋人だったようで、この人物と出会うことでベーコンはダイアの死の失意から再び生の世界に戻ってきた言えるそうです。そして父のように接して、遺産相続に指名するほどだったとのことでした。そのためかこの頃(70代)はそれまでの暴力的なところはなく落ち着いた作風になっているようでした。

33 フランシス・ベーコン 「三幅対」 ★こちらで観られます
こちらも三幅対の作品で、左右は黒い背景に男性の裸の下半身とポートレートが描かれ(足の付根あたりに顔が置かれるような感じ)、中央には頭の無い裸体と謎の黒い矢印のようなものが描かれています。黒い背景は窓のように見えて、暗い所からこちら側に入ってくるような印象を受けるかな。解説によると、これはベーコン最後の三幅対らしく右の作品はベーコン自身、左はアイルトン・セナとも友人とも言われているようです。これを描いたのは死ぬ数カ月前のことだったようですが、今までの画業を要約したかのようだとのことで、確かに肉体表現や2つの世界を行き来する感じなど前半で観た内容なども想起させるものがありました。


<4 エピローグ:ベーコンに基づく身体>
ベーコンは多くのクリエイターに影響を与えたそうで、この章ではダンサーや振り付け師をフォーカスしていました。大きなプロジェクター3面に上、正面、横から撮った前衛的な踊りの映像が映されていて、地面をのたうち回っているようにも見えますw これはベーコンの絶筆からインスピレーションを受けたそうで、結構激しい動きをしながら真っ白なところに黒い跡をつけていました。確かにベーコン的なひねったポーズが印象的だけどちょっと難解w

最後にベーコンのアトリエの写真が大きく飾られていました。ぐちゃぐちゃに散らかっていて、壁にも絵の具が塗られていましたw


ということで、点数は少なかったですが濃い内容となっていました。シリーズものや三幅対なども見ることができて、だいぶ堪能できました。日本ではほとんど紹介されることの無かった画家だけに貴重な機会だと思いますので、気になる方は是非どうぞ。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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