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カリフォルニア・デザイン 1930-1965 -モダン・リヴィングの起源- (感想後編)【国立新美術館】

今日は前回の記事に引き続き、国立新美術館の「カリフォルニア・デザイン 1930-1965 -モダン・リヴィングの起源-」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら

P1100157.jpg


【展覧名】
 カリフォルニア・デザイン 1930-1965 -モダン・リヴィングの起源-
 California Design, 1930-1965: "Living in a Modern Way"

【公式サイト】
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2013/california/index.html

【会場】国立新美術館 企画展示室1E
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅

【会期】2013年3月20日(水・祝)~6月3日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 4時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前半では誕生と形成についてご紹介しましたが、後半は残りの2つの章についてです。


<第3章 カリフォルニア・モダンの生活>
カリフォルニアの気候と文化は、モダニズムが根付き繁栄するのにまさに理想の環境と言えたそうで、カリフォルニアモダンは機能を重視し装飾を廃したユートピア的な性格を有していたようです。「カリフォルニア・モダン」とは特定の美学を厳密に指すのではなく緩い括りのようですが、
  ・民主主義的で色々と他と組み合わせて容易にコーディネートできる
  ・アジアやメキシコから影響を受けている
  ・屋内外の区別やリビング/ダイニング/寝室といった空間の境界を曖昧にした住宅空間で、カジュアルなライフスタイル
といった特徴があるようです。この章ではカリフォルニアモダンの住宅の内部に焦点を絞り、いかに空間を演出したかを検証するという趣旨となっていました。

[中産階級のユートピア]
カリフォルニアでは戦後に様々なデザインの語彙が生まれ、その中に「ケース・スタディ・ハウス」というプログラムがありました。これは「アーツ&アーキテクチャー」という雑誌の編集長だったジョン・エンテンザによってプログラムに参加する建築家が選ばれ、住宅計画を誌面(1945年~1966年)で紹介したものだそうで、規格化された部品を多用し低コストで建設されたプロトタイプの建築は絶大な影響力を及ぼしたそうです。しかし、36案の図面しか取り上げられず実際には建設されないものもあったそうで、むしろ中産階級に適切な価格のモダン住宅を提供したのは、ジョセフ・アイクラーを始めとする宅地開発業者だったようです。開放的な設計やガラス張りの壁面といったカリフォルニアならではのデザインは保守的な住宅と一線を画すものとして喧伝されたそうで、ここにはそうした住宅の写真なども展示されていました。

V6 チャールズ・イームズ/レイ・イームズ 「ハウス:5年後の記憶」
こちらはイームズ夫妻のモジュール式建築の住宅を紹介する映像です。安価な材料でできているそうですが、明るくスッキリした印象で安っぽさを感じさせません。ちょっと和風なところもあれば いかにもカリフォルニアといった色彩のものもあり、様々なものが混在しているようです。シンプルながらも優美で開放的な住宅となっていました。

この近くにはケーススタディのデザイン案や実際に建てたケース・スタディ・ハウスの写真などもありました。どれも実際に住んでみたいですw

J103 ウォレス・ネフ 「エアフォーム・ハウス」
こちらはカマクラやドラゴンボールに出てくるカプセルハウスを彷彿とする半球状の住宅が立ち並ぶ写真です。解説によると、これはゴム製の半球状のバルーンにコンクリートを吹きつけて建設するそうです。窓があるのもありましたが、ちょっと日当たりは良くなさそうに見えるかも…w 近未来っぽい雰囲気がありました。

この辺にはソファ・テーブル・ランプ・絵画などがセットになった一角がありました。リビングをそのまま展示したかのような感じで面白いです。ランプや絵は抽象的な図様となっていました。
また、その少し先にはレコードのジャケットも何枚か展示されていました。ロスはレコード産業の中心地として台頭しつつあったそうです。ジャケットのデザインも独特な華やかさがあって面白い。

[アトミック・デザイン]
戦後の冷戦時代は、ロケットや原子をモチーフにした形態や装飾が登場するなど、原子はデザインにもインパクトを与えたようです。原子や原子爆弾に肯定的なデザインは日常生活に溶け込み需要されていたそうで、ここにはそうした作品が並んでいました。

J136 チャールズ・イームズ、レイ・イームズ 「ハング・イット・オール」
これは帽子やコートを掛ける家具で、引っ掛ける部分が球体となっていてカラフルでポップな印象を受けます。このコーナーの趣旨から推測すると原子をモチーフにしたのかな? そう思って観ると確かに原子模型に似ているように思えてきます。 この品は実際に使っている所も見たことがあるのでちょっと意外でした。

この辺には原爆のキノコ雲を思わせるドレスや、子供向けのゲームなどもありました。核抑止論の時代とはいえ、現代日本の私から観るとちょっと狂った感性に思えました。

[カジュアル・ダイニング]
カリフォルニアのモダン住宅ではリヴィングとダイニングを合わせて1つの空間にすることで、行き来しやすい居住空間が生まれました。これは小さいスペースに甘んじざるをえない戦後の住宅状況の反映であって、そのテーブルウエアのほとんどに1つの形式に縛られることのない様々な機能があるそうです。

ここは数点のみで、皿や砂糖入れ、コショウ入れなど斬新なデザインの品々が展示されていました。

[子どもためのデザイン]
戦後の若年家族の急激な増加はベビーブーム文化の呼び水となったそうで、子供の持つ開かれた可能性は多くのデザイナーに刺激を与えたようです。彼らは子供が手がけた作品に見られる自発性や直接性を取り入れたそうで、ここには子供のためのデザインの数々が並んでいました。

J150 ギア・カヴァナー 「都市計画玩具(プロトタイプ)」
赤、青、黄色など色とりどりで単純な形の積み木で街を形作った作品です。下敷きの布には道路が描かれ小さなコケシのような人形も置かれています。これはこの積み木(ブロック)で自由に計画都市を構成して遊べるものらしく、結構楽しそうなコンセプトでした。デザイン的にも洒落ていてポップな感じです。

この辺にはマテル社のバービールックのCMやポラロイド社のカメラのCMなどの映像があり、少し進むとバービー人形と恋人のケン、厚紙でできたバービーの家などもありました。

[インドア/アウトドア・リヴィング]
温和なカリフォルニアの人々は屋外の暮らしになれ親しんでいたらしく、屋内と屋内を兼用する家具を必要としたようです。その為、デザイナーたちはあらゆる天候に耐えうる家具を製造したそうで、ここにはそうした作品が並んでいます。

J160 ミラー・イー・フォン 「椅子 [ロータス]」
これは藤を使って作られた椅子です。包み込むような形で、かなり大柄な人でもゆったり座れそうw 藤で出来ているのでサイズの割りには軽いのかな。解説によると、カジュアルな家具の素材としての藤は幅広く使われたようで、カリフォルニアと環太平洋との積年の関係を表しているようでした。

[水着]
カリフォルニアの女性ファッションでも最も際立って特徴が見られるのは水着だそうで、この業界の2大企業であるコール・オブ・カリフォルニア社とカタリナ社を始め中小の競合企業がひしめいているようです。ここには個性豊かな水着が並んでいました。

J165 メアリー・アン・デウィーズ 「女性用水着」
これは一見するとワンピースのような花がら水着で、ドレスのようにも見えます。しかしよく観ると上下に分かれているようで、場所や状況によって水着にしたりプールサイドのカクテルパーティにも使えるそうです。多彩なシーンに対応しているのはやはりカリフォルニアの特徴なのかも。華やかな印象のある水着でした。

この近くにはアメリカの国旗のような柄の水着やネイティブアメリカン風の水着もありました。

<第4章 カリフォルニア・モダンの普及>
1945年以降、国内消費に関する統制が解除されると、新しいプロダクトを渇望する動きが加速したそうです。こちらでは美術館と小売業者・雑誌との協力やアメリカ国内外で開催された展覧会についてを取り上げていました。

[雑誌]
大戦終結以前にアーツ&アーキテクチャー誌はカリフォルニアにおけるモダニズムの普及に欠かせない最も重要な出版物へと変貌していたそうで、最前線を求めるエリート層から一定の支持を得ていたようです。一方、より幅広い読者に向けられていたのは一般的な情報誌やライフスタイル誌だったらしく、ここにはそうした雑誌が並んでいます。

まずアーツ&アーキテクチャー誌が並び、いずれも先進的なテキスタイルなどが表紙となっていました。また、ライフスタイルの雑誌もあり、こちらはリビングの絵を表紙にしていて、イメージしやすく分かりやすそうでした。

[モダンデザインの流通]
ここまで展示を観ると、カリフォルニアの人々はよほど優れたデザインに囲まれた生活をしていたのだろうと想像しますが、実際にカリフォルニアでモダンデザインの魅力に興味を抱いていた人々の割合はそれほど大きくなかったようです。しかし多くの野心的な小売業者は進歩的な少数派に自らの命運をかけてモダンデザインの専門店を開いていったらしく、ここには家のイメージ図や宣伝に使ったギフトボックス、モダンな住宅の広告写真などが展示されていました。

J88 レイモンド・ローウィ 「スチュードベーカー アヴァンティ」
こちらはこのコーナーかわかりませんが、このフロアの中央に置かれていた白い車(スポーツクーペ)です。流線型が使われ当時は先進的なデザインだったのだろうと思いますが、丸いライトやサイドミラーなどは時代を感じるかな。今観るとまだ硬いデザインに思えました。なお、この車は相当スピードが出るようで、CM?_映像でも砂漠を突っ走るスピード感あるシーンなどが用いられていました。

[ハリウッド]
ハリウッドはカリフォルニアファッションのアイデンティティの中心だったそうで、映画で女優が着た衣装に似た服が全米中の店舗で販売されるなど、映画産業の販売力の大きさは強く認識されていたそうです。一方、建築へのハリウッドの影響はそれに比べて婉曲的だった(家が出てくるシーンが少ないため)そうですが、モダン住宅が舞台となる場合はチャールズ・イームズのように装飾顧問を務めることもあったようです。ここにはそうしたハリウッドとの繋がりを示す品が並んでいるのですが、点数は少なめで、宣伝用の水着や当時のデザインとハリウッドに関する映像などが展示されていました。ファッションリーダーと言えば女優なので、これは当然とも言える繋がりかな。

[「カリフォルニア・デザイン」展]
インダストリアル・デザインの水準を高めることは長いこと美術館の使命と考えられていたそうで、ミッドセンチュリーの時代においても全米の美術館が目標に掲げていたようです。1958年末には第1回カリフォルニアデザイン展がパサデナ美術館(現ノートン・サイモン美術館)で行われ、以降20年以上継続して開催されたようです。ここにはそれに関する品が並び、展覧会のカタログや椅子(2脚)などが展示されていました。(ここも点数が少ない)

[アメリカ国内外で開催された展覧会]
カリフォルニアデザインの展示は数多く開催されたようで、1945年以降はアメリカ政府が組織した海外の展覧会も行われたそうです。これには政治的なメッセージも含まれていたらしく、資本主義やアメリカ式の生活が優れていることの実証として提示されたようです。そして、誰もが成功と余暇を手にすることのできる理想郷としてのカリフォルニアはアメリンドリームの象徴となっていったそうです。

J224 チャールズ・イームズ、レイ・イームズ 「ESU(イームズ・ストレージ・ユニット)」
これは鉄や板でできた棚で、引き出しなどが備えつけられています。見た目はシンプルですが、多目的に使えそうな機能的なデザインに思えました。

[美術と工芸の決別]
1950年代終わりになると、ピーター・ヴォーカスによってデザイナー=クラフツマン運動を打破し、工芸の機能性を否定した美術作品としての陶芸のありかたが主張されたそうです。ここではそうした美術と工芸の決別について取り上げられていました。

J234 ピーター・ヴォーカス 「5000フィート」
これは抽象的で何を表しているのか分からない陶芸作品です。ゴツゴツしていて、強いて言えばモニュメント的な作品かな。これは確かにここまで観てきたような機能性・目的のある作品とは意を異にしているのが一目でわかります。芸術のための芸術といった感じかな。新たな潮流を感じさせました。


ということで、じっくりと楽しんできました。よく見る品もあるので、詳しいことを知ることができて参考になりました。情報量がかなり多い展示でしたので、デザイン好きな方には特に楽しめる内容だと思います。会期も長いので、気になる方はチェックしてみてはいかがでしょうか。



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