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オディロン・ルドン ―夢の起源― (感想後編)【損保ジャパン東郷青児美術館】

今日は前回の記事に引き続き、損保ジャパン東郷青児美術館の「オディロン・ルドン ―夢の起源―」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら

P1100492.jpg


まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 オディロン・ルドン ―夢の起源―

【公式サイト】
 http://www.sompo-japan.co.jp/museum/exevit/index_redon.html

【会場】損保ジャパン東郷青児美術館
【最寄】新宿駅

【会期】2013年4月20日(土)~6月23日(日) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日 時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では2章の途中までご紹介しましたが、今日は残り半分についてです。後半も以前ご紹介した作品が多いですが、改めてご紹介致します。
 参考記事:
  ルドンとその周辺-夢見る世紀末展 感想前編(三菱一号館美術館)
  ルドンとその周辺-夢見る世紀末展 感想後編(三菱一号館美術館)


<第2部:「黒の画家-怪物たちの誕生」>
前編でご紹介した最初の石版画集「夢のなかで」の次にはダーウィンの死の翌年に描かれた石版画集「起源」が並んでいました。

60 オディロン・ルドン 「石版画集[起源] おそらく花の中に最初の視覚が試みられた」 ★こちらで観られます
植物の花の部分が目になったような不思議な生物?を描いた作品で、これは「起源」シリーズの9枚のうちの3枚目にあたります。妙なリアルさと艶かしい感じで、左上を見つめる目が強烈なインパクトです。この起源シリーズはこうした目を描いた作品が多く、種の発生から進化していく様子が表現され、最後に人間が現れるという流れとなっています。セイレーンやサテュロスといった半人半獣の生き物もその過程として描かれているのが興味深いです。残念ながら全部は揃わず3点は写真で代用されていました。

67 オディロン・ルドン 「沼の花」
こちらは木炭画で、帽子をかぶった人の顔を持つ植物が水面から伸びている様子が描かれています。目に生気がなく、どこを見ているのかわからない感じで、背景は鳥の姿?があるもののガランとした印象を受け寂しげです。解説によると、ルドンは1880年~85年頃にこうした人の顔を持つ花を繰り返し描いたそうで、その陰鬱な雰囲気は孤独な幼少期を過ごした作者の内面を映しているのではないかとのことでした。

82 オディロン・ルドン 「蜘蛛」
これは今回のポスターにもなっている作品で、ルドンの中でも特に有名かな。ニヤニヤした人の顔を持つ黒い蜘蛛が描かれ、毛むくじゃらでどことなく憎めない感じです。不気味だけど可愛いやつですw

この近くには「目を閉じて」のリトグラフ版などもありました。
続いては石版画集「ゴヤ頌」のコーナーです。ゴヤはスペインの画家ですが、晩年はルドンの生まれ故郷のボルドーで過ごしていて、幻想的で陰鬱な印象を受ける点においてルドンと共通するものを感じます、
 参考記事:
  プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想前編(国立西洋美術館)
  プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想後編(国立西洋美術館)

69 オディロン・ルドン 「石版画集[ゴヤ頌] 夢の中で私は空に神秘の顔を見た」
やけに長い男の顔が描かれた作品で、左側は影になりやや上目遣いでこちらを伺っているように見えます。寂しげというかちょっと不安げなようにも見えましたが、幻想的な夢の中のような雰囲気がありました。

続いては版画集「夜」のコーナーです。これは前編でご紹介した師匠のブレスダンの肖像とされる素描を元にした作品で、この作品を作る前年にブレスダンが亡くなっているのでオマージュ的な意味があるようでした。

77 オディロン・ルドン 「石版画集[夜] 堕天使はその時黒い翼を開いた」
月?の下で黒く硬そうな羽を広げた坊主頭の堕天使が描かれた作品です。ギョロッとした目つきですが虚ろな表情で、どことなく力無い印象を受けました。何かに疲れてる感じかなw

その次は「聖アントワーヌの誘惑」のコーナーで、これは42点もあるようですが今回の展覧会では海に関する5点が選ばれて展示されていました。

85 オディロン・ルドン 「オアンネス:混沌の最初の意識である私は、物質を固くし、形体を定めるために、深淵からおどり出てきた」
人の顔のついた魚と、その周りの貝殻のようなものが描かれた作品です。魚はじっと考え事をしているような顔つきで、これは海の神のようです。解説によると、この頃のフランスでは深海調査が行われていたようで、ルドンも海に関心を向けていたとのことです。聖アントワーヌの誘惑は夢のなかのような世界が描かれることが多い題材ですが、ルドンにはぴったりなモチーフに思えました。

その後はボードレールの詩集「悪の華」を題材にした版画集のコーナーです。こちらにはベルギーの摺師イブリーの技法が使われているそうで、ルドンが描いた素描をイブリーが銅版に転写して版画化しているそうです。また、前編でご紹介したとおり、ルドンは「悪の華」もクラヴォーの家で読んでいたようで、ここにはそれを絵画化した作品が並んでいました。

96 オディロン・ルドン 「石版画集[悪の華] 章末の挿絵」
これは顔がついた花で、目は真っ黒で生気がなく転がっているような印象を受けます。これが「悪の華」のイメージなのかな? 悪というにはあまりにも儚くて妖しい雰囲気の花でした。

続いては「夢想(わが友アルマン・クラヴォーの思い出のために)」のコーナーです。こちらはクラヴォーが自殺した翌年に作られた版画集です。

98 オディロン・ルドン 「石版画集[夢想(わが友アルマン・クラヴォーの思い出のために)] …それは一枚の帳、ひとつの刻印であった…」
これは聖ヴェロニカがキリストの汗を拭った際に、ベールに顔が写ったという奇跡を題材にした作品で、ここではキリストの顔はクラヴォーとなっていて、やや虚ろな感じもします。しかしキリストに見立てるという点からルドンのクラヴォーへの畏敬の念が感じられました。ここまで作品を観てくると、クラヴォーから得たものはルドンの絵画世界に大きく影響しているのが分かります。

106 オディロン・ルドン 「神秘的な紳士 あるいは オイディプスとスフィンクス」 ★こちらで観られます
これは神殿のような所で、左に甲冑を着た若い騎士が、目を閉じた生首を抱えるようなポーズで(よく観ると首は浮いている)描かれ、右には首を傾げて謎かけしているスフィンクスが描かれた作品です。木炭の上にパステルで色付されているようで、青を背景に神秘的で静かな雰囲気がありました。解説によると、これはギュスターヴ・モローの作品から影響を受けているそうで、象徴主義ならではの精神的なものが感じられました。

この辺は木炭画が並んでいました、女性の横顔を描いた作品が多かったかな。


<第3部:色彩のファンタジー>
最後は色彩の作品のコーナーです。1890年代にルドンは黒を捨てて色彩画家に転身したのですが、この時期は普仏戦争からのショックも和らぎ、1889年の息子の誕生や、「黒」の故郷とも言えるペイルルバートの売却(1898年)などの私生活の変化の時期に符号するようです。色彩の移行に伴い主題も変化したそうで、神話や宗教に関連する伝統的な主題を改めて取り上げたようです。そうした意味では伝統回帰とも言えますが、表現的な色彩と写実的絵画の奥行きを拒否した空間は20世紀のモダニズムの到来を告げているようです。
晩年の色彩のルドンは輝きに満ちていたように思われますが、第一次世界大戦によって再び暗雲が迫ったそうです。一人息子のアリが出征してしまい、ルドンは戦争のニュースを求めて外出した際に肺炎となり、1916年に76歳でパリの自宅で亡くなりました。ここにはそうした色彩の時代の作品が並び、最晩年までの作品も展示されていました。

115 オディロン・ルドン 「神秘的な対話」
屋外の石柱が立ち並ぶ所で、2人の女性が何かを話し合っている?様子が描かれた作品です。赤い植物を持ってうつむく女性と、指を指すような感じの黄色い布をかぶった女性で、背景はピンクの雲が浮かび、足元には色とりどりの花が咲いています。夢の中のようなぼんやりした雰囲気が漂い、まさに神秘的な印象を受けました。

この辺には主に岐阜県美術館の作品が並んでいたので、見覚えのある作品もありましたが、初めてみる海外所蔵の作品も何点かありました。

127 オディロン・ルドン 「オフィーリア」
目を閉じている悲劇のオフィーリアを描いた作品です。水に沈んでいるのか、肩から下は緑に流れて行くような感じで、周りは暗く右上にオレンジの月のようなものが描かれています。意外と顔は穏やかで、やや緑がかっているかな。精神性を感じさせる表情でした。
この隣にもオフィーリアを描いた作品が並んでいました。こちらはだいぶ構図が違っていました。

122 オディロン・ルドン 「青い花瓶の花々」
これは青い花瓶に入った黄色、オレンジ、白、赤、青などの花々が描かれた作品です。実際の花を元にしているのか細部まで描かれていますが、ぼんやりとしていて緑~ピンクの背景の中に浮かんでいるように見えました。何故か全体的に上の方に寄っているのが気になったかなw

この辺はこうした花を描いた作品が何点か並んでいました。

137 オディロン・ルドン 「オルフェウスの死」
これは竪琴の上に横たわるオルフェウスの生首が描かれた作品です。周りは植物の歯のようなものがありますが、曖昧で川なのか緑なのかはハッキリとは分かりません。オルフェウスの顔もちょっと透けていて、額のあたりは背景がそのまま見えているなど、儚い印象を受けました。しかし全体的には明るく暖かな色合いなのが不思議で面白かったです。また、題材のためかどことなくギュスターヴ・モローを彷彿としました。

135 オディロン・ルドン 「アポロンの戦車」 ★こちらで観られます
これは天に向かって駆ける4頭の天馬と、その後ろに引かれる戦車に乗ったアポロンが描かれた作品です。その下には岩山が描かれていて、天馬・アポロン・岩山はすべて赤っぽい色合いの濃淡が付けられています。その繊細な色の違いが幻想的で、燃え立つような印象を受けました。解説によると、これはルーヴル美術館のアポロンの間にあるドラクロワの絵に影響を受けているとのことです。また、この絵は見覚えがあると思ったら、隣に同じ構図の作品があり、そちらでは天馬・アポロン・岩山がより具象的な感じで色もそれぞれに合った色となっていました。しかし私としては象徴的な赤の濃淡の作品のほうが好みでした。

この辺にはもう1枚のアポロンの戦車の絵がありました。独特のくすんだ感じの色合いが好みです。

145 オディロン・ルドン 「マドンナ」
縦長の大きめの作品で、聖母と白い花をつける植物が描かれています。画面全体がアーチ状に囲まれ、聖母は顔の辺りが赤く神聖な印象を受けます。色数が少ないので全体的に落ち着いた雰囲気にも思えるかな。解説によると、白い花は希望や新しい生命の誕生を暗示しているそうで、手前に配置されているのはジャポニスムの影響とのことでした。

151 オディロン・ルドン 「聖母」 ★こちらで観られます
明日加筆します。
これはルドンが亡くなった時にイーゼルに掛けられていた未完の作品で、息子のアリが戦争から無事に帰ってくることを祈って描かれたそうです。全体的に赤の濃淡でうつむいたマリアが描かれ、こちらも神聖かつ静かな雰囲気の作品となっていました。完成したらどう変わっていったのだろうか…。


ということで、ルドンの世界をじっくりと堪能することができました。黒も色彩もそれぞれ個性的な世界観となっていて印象深い内容です。会期は長めとなっていますので、気になる方は是非どうぞ。私は図録も買ってきました。

おまけ:
最近、「悪の華」というアニメが放送されていて、ボードレールやルドン風の作品がちょこっと出て来ました。まあ、本筋はあまりそれらと関係無さそうですが、これでルドンに興味を持つ人も出てくるかも??


 参照記事:★この記事を参照している記事
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