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レオナルド・ダ・ヴィンチ展-天才の肖像 (感想前編)【東京都美術館】

ゴールデンウィークの後半の祝日に、上野の東京都美術館で「レオナルド・ダ・ヴィンチ展-天才の肖像」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1100612_20130510014339.jpg

【展覧名】
 特別展ミラノ アンブロジアーナ図書館・絵画館所蔵
 レオナルド・ダ・ヴィンチ展-天才の肖像

【公式サイト】
 http://www.tbs.co.jp/leonardo2013/
 http://www.tobikan.jp/museum/2013/2103_ambrosiana.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年4月23日(火)~6月30日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(祝日15時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
まずは気になる混雑状況ですが、ゴールデンウィーク(金曜日の祝日)ということもあってか非常に混んでいました。チケットで5~10分・入場待ちで5~10分くらいだったかな。↓入口はこんな感じ。
P1100614.jpg

中も作品の前に人だかりができるような感じで、よく人にぶつかられましたw しかし帰る頃(17時頃)には空いてきていて、金曜日は閉館が20時なので夕方以降に行けばゆっくり見られたかもしれません。恐らく狙い目は金曜日の夜だと思います。公式ツイッターでは混雑状況もお知らせしているようですので、お出かけの際にチェックすることをオススメします。
 参考リンク:混雑状況のツイッター


さて、今回の展示はミラノにあるアンブロジアーナ図書館・絵画館が所蔵するレオナルド・ダ・ヴィンチの作品を中心に、追従者(レオナルドスキ)やレオナルド・ダ・ヴィンチと親交の深かったルカ・パチョーリ(複式簿記の父と知られる人物)の著書など、周辺の様々な作品が並ぶ内容です。
アンブロジアーナ図書館・絵画館はミラノの大司教であったフェデリーコ・ボッロメオ枢機卿のコレクションを元に設立されたそうで、貴重な書籍や美術品を数多く所蔵・公開するとともに、学術機関として知られているそうです。この展覧会ではそのコレクションをテーマごとに分けて展示していましたので、詳しくは各章ごとに気になった作品とともにご紹介していこうと思います。なお、作者の本名が違っていたり帰属作品なども多いので、作品の名前や作者の詳細は作品リストをご参照ください。
 参考リンク:作品リスト


<Ⅰ アンブロジアーナ図書館・絵画館>
アンブロジアーナ図書館・絵画館はローマのヴァチカン美術館と共にカトリック世界の双璧をなす由緒正しい図書館だそうで、1618年にボッロメオ枢機卿が自らの蒐集した美術品を図書館へ寄贈したのが併設の美術学校と絵画館の礎になったそうです。まず最初の章ではボッロメオ枢機卿自身の絵画コレクションに由来する品々や、素描集などが展示されていました。

[フェデリーコ・ボッロメオコレクション]
3 ロンバルディア地方のレオナルド派の画家 「貴婦人の肖像」 ★こちらで観られます
真珠のついたヘアネットをかぶった貴婦人の横顔を描いた作品です。この側面からの構図をプロフィールと呼ぶそうで、ルネサンス期の作品ではよく見かけます。緻密に描かれているのですが、何故か真珠は透けて見えるかな。落ち着いた雰囲気があり、理想的な美しさであるように思いました。解説によると、この作品は以前はレオナルド・ダ・ヴィンチに帰属とされていたそうで、モデルは未だ不明らしくミラノ公妃などの説があるようです。

1 ヴェスピーノ(本名アンドレア・ビアンキ) 「岩窟の聖母」 ★こちらで観られます
これはレオナルド・ダ・ヴィンチの同名の作品(2つあるうちロンドン・ナショナルギャラリーの方)の忠実な模写で、ボッロメオ枢機卿の依頼でレオナルド・ダ・ヴィンチの作品の記録と保存を目的に制作されたものです。岩窟の中で聖母子と聖ヨハネと天使が座っている様子が描かれ、赤ん坊のキリストは手を合わせ、聖ヨハネは祝福するようなポーズをしています。(このポーズのせいで洗礼者であるヨハネとキリストがどっちがどっちなのかという議論の元になっているようですが、私は左側の子供がキリストだと思っています) 周りは暗く緻密な陰影がつけられていて、若干子供の割に筋肉質に見えるように思いました。 解説によると、オリジナルと比べると光輪や聖ヨハネの十字架(左側の子が持っている)が描かれていないそうで、オリジナルの方が後から描き加えられたという説の裏付けになっているそうです。

この近くには図書館の蔵書が並び、マルコポーロの東方見聞録の写本や、航海図などがありました。東方見聞録はラテン語で書かれていて、細かく綺麗な字で写されていました。


[携帯型美術館:レスタ神父の素描帖]
続いてはセバスティアーノ・レスタという神父が集めた素描のコーナーです。レスタ神父はミラノ出身で、イタリア国内外で素描の蒐集を積極的に行なっていたそうで、蒐集した素描の余白に注釈を書き残し、美術学校で役立てるように冊子にまとめてアンブロジアーナ図書館に寄贈したそうです。ここではそのうちの1つである「携帯型美術館」と名付けられた素描集(284点の素描、2点の彩色画、3点の版画から成る)の中から16~17世紀の素描が展示されていました。

8 ザノービ・ラストゥリカーティ(帰属) 「ミケランジェロの葬儀用モニュメントのための設計案」 ★こちらで観られます
これはミケランジェロの棺台の最初の構想図です。3つのラッパを吹く天使?が横たわるミケランジェロに月桂樹の冠をかけていて、その下の祭壇には若い頃のミケランジェロとパトロン、そして代表作のダビデ像が刻印されています。その他にも多数の寓意像もあり、緻密な構成となっています。ミケランジェロへの敬意が感じられると共に、様々な意味が込められているようでした。

この辺りの作品は作者がバラバラで、神話、歴史、寓意などの主題が多いかな。中には作品の外にレスタ神父による書き込みが見られるものもありました。めちゃくちゃ細かいものもあるので、ミュージアムスコープなどを持っていったほうが良さそうです。

18 ロレンツォ・ガルビエーリ 「反逆天使の堕落」
これは何人もの天使たちが取っ組み合っている様子を描いた作品です。上の方には長い棒で下の天使を突いている天使もいて、下の方の天使はしがみつくような仕草をしています。その構図も含めてダイナミックで、タイトルの通りの激しいシーンとなっていました。


[ルネサンスの素描Ⅰ: レオナルド以前]
続いてはレオナルド・ダ・ヴィンチ以前の素描についてのコーナーです。ここではレスタ神父のコレクションから図書館に入ったとされる素描郡のうち、14~15世紀以前に活躍した画家の作品が並んでいました。

20 ピサネッロ(周辺) 「エフェソスのディアーナ神殿の崩落と「ペテロの小舟」」
こちらは元々は冊子だったもので2画面から成っています。右半分は横倒しになっていて、水面を歩いたキリストと聖ペテロの逸話が描かれています。聖ペテロは最初はキリストと共に水面を歩いていましたが、風の強さに恐れた途端に水に落ちてキリストに助けられたそうで、ここではキリストが聖ペテロの手をとり他の使徒たちは奇跡に驚いているようです。一方、左側はちょっと崩れた神殿と群衆が描かれていて、これは聖ヨハネが祈りによってエペソスのディアーナ神殿を崩壊させたという話が主題となっているそうです。いずれもかなり繊細で細かく、若干消えかかっているように見えるほどでした。

この辺はこうした薄くて細い線で描かれた作品が多いように思いました。やや硬い印象を受けるものもあり、中には人体の表現が妙だなと思う作品もありました。解説によると、女性の裸体を描く際に男性の裸体像から性器と胸だけを変えて描いたものもあるようで、ルネサンス以前の作品は色々と違和感を感じますw


<Ⅱ レオナルド 思考の迷宮>
続いては上の階に移動してレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿(メモ帳みたいなもの)を中心としたコーナーです。レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿の中で最も大部な「アトランティコ手稿」は1118枚から成るそうで、駆け出しの頃から亡くなる直前までの素描や覚書が含まれているそうです。この「アトランティコ手稿」という名称は、台紙に使用された紙がアトラス(地図帳)と同じ判型だったことに由来するそうで、死後に弟子のメルツィによって冊子にまとめられ、彫刻家、蒐集家の手を経て1632年にアンブロジアーナ図書館・絵画館に寄贈されました。レオナルド・ダ・ヴィンチの生きた時代は芸術作品としての素描の価値が認識されはじめた頃らしく、芸術家の着想を最も直接的に表しているとして蒐集の対象となっていったようです。ここにはそのアトランティコ手稿から22点が展示されていました。

この章の冒頭には5分程度の映像があり、ざっくりとダヴィンチと手稿について紹介していました。
 参考記事:レオナルド・ダ・ヴィンチ美の理想 (Bunkamuraザ・ミュージアム)

[アトランティコ手稿:レオナルドの教養]
26 レオナルド・ダ・ヴィンチ 「レオナルドの蔵書目録」
こちらは蔵書の目録で、右寄せで本のタイトルらしきものが書かれています。読めないのでこれが鏡文字なのかは私には分かりませんでしたが、とにかく文字が小さい!w 近くに父への手紙の下書きなどもありましたが、やはり小さな文字で書かれていました。
ちなみに、後の方のコーナーではレオナルド・ダ・ヴィンチの蔵書についても展示されていますので後述します。

[アトランティコ手稿:古典・絵画・人物のデッサン]
28 レオナルド・ダ・ヴィンチと弟子 「ベルヴェデーレの彫刻庭園の《眠るアリアドネ》、筆記する手、髪(または髭)の房の素描、トラスの素描、「腕木」に関するメモ」
これは女性像、文字、薄っすらと後ろ髪のようなものが描かれている手稿です。3つそれぞれはバラバラに描かれているような感じがするかな。後ろ髪は一見さらっと描かれているように見えますが、風でなびくような感じでデッサン力を感じました。

[アトランティコ手稿:光学・幾何学]
この小コーナーには光や幾何学的な構造を描いた手稿がありました。この先にも何度も幾何学的な図様は出てくるのですが、レオナルド・ダ・ヴィンチは円に相当な関心を持っていたのではないかと思います。円を組み合わせたような考察が多く展示されています。

[アトランティコ手稿:建築]
37 レオナルド・ダ・ヴィンチ 「[星形]要塞に関する素描と注釈」
これは星形(六芒星?)の形の要塞の素描で、中には円形の6つの部屋があるようです。絵の隣には注釈が添えられていて、これまたミリ以下の細かい文字です。レオナルド・ダ・ヴィンチは合理的な要塞を考案していたようで、ここでも円が多用されていました。

[アトランティコ手稿:兵法]
[アトランティコ手稿:機械・装置のデッサン]
この辺にはカタパルトの素描や、車輪を回して複数の矢を発車する自動装置(ガトリングガンみたいな感じ)の素描、円形の永久機関?のスケッチなどもありました。そう言えばレオナルド・ダ・ヴィンチは軍事顧問もやっていたという話を思い出しました。
 参考記事:ダ・ヴィンチ ~モナ・リザ25の秘密~ (日比谷公園ダ・ヴィンチミュージアム)

[アトランティコ手稿:人体飛行に関する研究 ]
46 レオナルド・ダ・ヴィンチ 「飛行装置の翼の接合部」
これは鳥の翼のような飛行装置を描いた手稿で、接合部分に興味があったらしく屈伸させて動かす機械仕掛けとなっているようです。紐などまで細かく描かれていて、メモというよりは設計図みたいに緻密です。この手稿の他にも空飛ぶための翼の素描は他にもあり、飛ぶことへの関心の高さを感じさせました。

[レオナルドの愛読書]
レオナルド・ダ・ヴィンチはアトランティコ手稿第559葉などいくつかの手稿にある蔵書リストを書き残していたようで、古典から同時代の哲学書、文学作品、軍事論、農業理論など幅広い分野に知識欲と好奇心を持っていたことが伺えるようです。とりわけ幾何学に関する関心はミラノ宮廷で出会った数学者ルカ・パチョーリとの親交を深める中で培われたそうで、ルカ・パチョーリの著書「スンマ(算術・幾何・比および比例全書)」などを通じて、遠近法にも深く関わる幾何学や比例の知識を習得し、絵画にも取り入れていたそうです。ここにはそうした愛読書が展示されていました。

56-1 56-2 ルカ・パチョーリ 「神聖比例論」「ユークリッド 原論」 ★こちらで観られます
こちらはいずれもルカ・パチョーリの著作で、ルカ・パチョーリは「最後の晩餐」を製作中のレオナルド・ダ・ヴィンチと出会いすぐさま親交を深め、幾何学や遠近法の知識を交わした人物だそうです。正多面体を神聖比例(黄金比)で論じた著書「神聖比例論」のためにレオナルド・ダ・ヴィンチは挿絵の原画も作成したそうで、多面体でできた球状の面と骨組みになったものが描かれています。影まで付けられているので構造が分かりやすいですが、理論などは特に描かれていませんでした。
また、「ユークリッド原論」はルカ・パチョーリが幾何学を学ぶ際に最大のテキストとしていた本で、紀元前3世紀の大学者ユークリッドの「原論」をラテン語にしたものとのことでした。
黄金比などはレオナルド・ダ・ヴィンチの作品の中でもよく話題にされるので、こうした親交と研究が裏付けとしてあったということに興味を覚えました。やはり幾何学が大好きだったのですね…w

この近くにはイソップ童話のラテン語本などもありました。結構意外な蔵書です。


長くなってきたので、今日はこの辺にしておこうと思います。レオナルド・ダ・ヴィンチの展示はどうしても本人の作品は少ないものですが、今回は手稿が結構あるので貴重な機会だと思います。 後半には今回の目玉作品がありましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。


  → 後編はこちら



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