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貴婦人と一角獣展 (感想後編)【国立新美術館】

今日は前回の記事に引き続き、国立新美術館の「貴婦人と一角獣展」の後編をご紹介いたします。前編には今回のメインとなる作品についても記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら


P1110021.jpg

まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 フランス国立クリュニー中世美術館所蔵
 貴婦人と一角獣展

【公式サイト】
 http://www.lady-unicorn.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2013/lady_unicorn/index.html
【会場】国立新美術館 企画展示室2E
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅

【会期】2013年4月24日(水)~7月15日(月・祝) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では「貴婦人と一角獣」についてご紹介しましたが、後編はそれに関する考察や同時代の作品についてのコーナーです。


<高精密デジタルシアター>
こちらは映像のコーナーで、6面のタピスリーの絵の要素を分解したり並べて見るような映像が流されていました。これは別に観ないでも良いかなw 次のコーナーの方が分かりやすかったです。


<一角獣の図像学:想像の動物誌>
こちらは一角獣の起源などについてのコーナーです。一角獣は古くは紀元前400年のギリシャの歴史家クテシアスの「インド史」に記載されているそうで、「インドには馬に似た白いロバが生息していて、額に1本のツノを持ちそれには毒消しの効果がある。また、いかなる動物よりも足が早い。」と伝えているそうです。こうして伝わった(というか創作された?)一角獣ですが、さらにヘブライ語の旧約聖書の原典がギリシャ語に翻訳された際に、牡牛を意味する言葉が一角獣と訳されたそうで、その後も5世紀頃に聖ヒエロニムスがラテン語に翻訳した際にもいくつかの箇所に一角獣の語が当てられたそうです。…伝言ゲームの末に生まれた感じかなw しかし驚くことに西洋では16世紀までは一角獣の存在について疑問を持たれることは無かったそうで、実在すると考えられていたようです。
また、中世美術に一角獣が取り入れられた理由として、2世紀末にギリシャで著された「フィシオロゴス」において、一角獣は乙女の前では獰猛さを捨てるとされ、それがキリストの象徴として多数の言語に翻訳されて流布し、一角獣狩の場面は受胎告知やキリスト受難のテーマと結び付けられたそうです。しかし、その一方では一角獣は宮廷風恋愛という世俗的な文脈にも取り込まれていったらしく、13世紀半ばのフランスの詩人リシャール・ド・フルニヴァによって書かれた「愛の動物寓意集」において、一角獣は恋する男に、乙女は想いを寄せる女性に読み替えられたとのことです。 そういう観点があるのであれば、やはり「貴婦人と一角獣」もキリスト教的な意味と 愛する妻への気持ちを表しているのではないか??と思えてきました。

このコーナーには一角獣に関する古い品々があり、一角獣型の水差しなどが展示されていました。


<自然の表現:植物と動物>
このコーナーも説明が中心で、壁一面に「貴婦人と一角獣」に描かれた(織られた)動物たちの写真が並んでいます。並べてみると、同じ構図の動物たちが多く、若干の差異はあるものの、何度も使いまわされていることがわかります、特にウサギが多く、これは繁殖力の高さが多産や肉体的な愛を示しているようです。

ここには描かれた植物の写真もあり、40種類もの植物があるとのことでした。


<服飾と装身具>
こちらは「貴婦人と一角獣」が制作された頃の服装と装身具についてのコーナーです。前編でも書いたように、「貴婦人と一角獣」は貴婦人の服装などから1500年頃に制作されたと推測されるようで、ここにはその時代の実際の品々が展示されていました。

17 「鉄の小箱」
こちらは「貴婦人と一角獣 我が唯一の望み」で侍女が持っていた小箱と似た鉄製の箱です。ゴシック風の装飾的な箱で、錠前が巧みに隠されているらしく、どこから観ても鍵穴が見つかりません。こうして鍵穴を隠すことで収めたものを確実に守ることができたとのことですが、ちょっと重そうに見えるもののそれほど大きくないので、箱ごと持っていけそう…w(侍女が持てる程度だしw) 解説によると、宮廷恋愛では鍵と錠前は愛する者同士を結ぶ感情と官能世界を暗示しているとのことでした。

13 「運命の女神たち」
こちらは「貴婦人と一角獣」と同時代の作品で、4人の女性が描かれた(織られた)タピスリーの断片です。切り口装飾のある服を着た女性たちが、装飾的な被り物などをしていて当時の流行を伝えているように思います。しかし、実際にこうした服があったのかは分からないようで、一部は創作などもあるのではないかとのことでした。

この近くには司祭の服なども展示されていました。

19 「ベルト」
こちらは非常に長いベルトで、植物文様の装飾が並び宝石もついています。非常に豪華で、こちらも当時の装身具の参考になる品のようでした。


<盾形紋章と襟章>
前編で「貴婦人と一角獣」はル・ヴィスト家が発注者ではないかとの説をご紹介しましたが、その理由として獅子と一角獣がル・ヴィスト家を示すと考えられるようです。「獅子」すなわち「LION」はル・ヴィスト家の出身地である「リヨン」を想起し、一角獣の足の速さからは「速い」を意味する「Vite(Viste)」がル・ヴィスト家の家名と結びつくのではないかとのことです。一方、「貴婦人と一角獣」に頻出する紋章については旗の色の取り合わせなどが紋章のルールで禁じられているようで、一家の当主がこれを使用していたのかは定かではないようでした。ちょっと謎が残っている感じが興味をそそりました。
このコーナーには紋章やステンドグラス、水差しなどが並んでいました。


<中世における五感と第六感>
ここはメモを取りませんでした。説明のみであまり興味を惹かれるものも無かったw


<1500年頃のタピスリー芸術>
最後は同時代のタピスリーのコーナーです。

33 「連作タピスリー[聖母の生涯]より:[受胎告知] [聖母マリアのエリザベト訪問] [聖母マリアを咎めるヨセフ]」
これは「貴婦人と一角獣」と同じく「アンヌ・ド・ブルターニュのいとも小さき時祷書の画家」か、若しくはその工房が原画を描いたと考えられるタピスリーです。聖書の3場面がくっついたような感じで、左から[受胎告知] [聖母マリアのエリザベト訪問] [聖母マリアを咎めるヨセフ]の順となっています。やはり平坦で陰影が少ない作風で、草花がよく登場するのは「貴婦人と一角獣」と共通するものもあるかな。しかし全体的にパッと見た感じでは「貴婦人と一角獣」とは若干違った作風にも見えました。
解説によると、この作品の作者が「アンヌ・ド・ブルターニュのいとも小さき時祷書の画家」と考えられる理由は写本に同じテーマの下絵が再利用されているためとのことでした。

35 「放蕩息子の出発」
これはキリストの喩え話をテーマにした巨大なタピスリーです。人物がひしめき合い、その緻密さや構成が見事です。解説によると、1510~1520年のネーデルラントの状況が反映されているとのことで、高い製織技術も感じさせました。

この近くには千花文様(ミル・フルール)を背地にした作品もありました。また、出口近くでは「貴婦人と一角獣」とについての映像が流れていました。見つかった城の映像や同じ動植物を使いまわしている点などはこの映像を観るとよく分かります。これを先に観てから鑑賞したほうが分かりやすいかもw



ということで、後半は地味な内容でしたが1つの作品をここまで掘り下げて紹介している点が面白く感じられました。ひと通りの謎解きを観た後にもう一度「貴婦人と一角獣」を見なおしてみると、納得感がありました。中世ヨーロッパ美術の最高傑作とも呼ばれるほどの作品なので、じっくりと堪能できて良かったです。中世美術に興味がある方はチェックしてみるとよろしいかと思います。


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