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土佐光吉没後400年記念源氏絵と伊勢絵 ―描かれた恋物語 【出光美術館】

前回ご紹介したお店でお茶する前に、出光美術館で「土佐光吉没後400年記念源氏絵と伊勢絵 ―描かれた恋物語」を観てきました。この展示はすでに終わってしまいましたが、参考になりましたので、記事にしておこうと思います。

P1110104.jpg

【展覧名】
 土佐光吉没後400年記念源氏絵と伊勢絵 ―描かれた恋物語

【公式サイト】
 http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/exhibition/index.html

【会場】出光美術館
【最寄】JR・東京メトロ 有楽町駅/都営地下鉄・東京メトロ 日比谷駅


【会期】2013年4月6日(土)~5月19日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
最終日の1日前に行ったのですが、予想以上に混んでいて作品によっては人だかりができるほどでした。

さて、今回は土佐光吉の没400年を記念し、光吉とその時代の源氏絵、そして近接する物語(特に伊勢絵)との関係をテーマにした内容となっていました。源氏物語は先行する伊勢物語を重要な着想源としているそうで、絵画においてもその傾向が観られるようです。テーマによって章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。なお、この記事内では源氏物語の各帖の名前の隣に番号を振っておきますが、これは全54帖のうちの帖数となります。


<1 貴公子の肖像-光源氏と在原業平>
まずは源氏物語の主人公の光源氏と、伊勢物語の在原業平の肖像のコーナーです。この2人は両方とも天皇の血を引いていて(源氏物語はフィクションですが)、光源氏は帝王の相を持ちながら帝になると世が乱れるとして臣下に降ろされました。一方、在原業平は実在しましたが平安時代の歴史書「日本三代実録」においては、「見た目に優れ、自分勝手に振るまい、世間の流儀に従わない。漢学はできなかったが和歌に秀でている。」と記載されているだけのようです。やがて在原業平の断片的な伝記などがフィクションの中で肥大化していき、稀代の色好みとしてのイメージがついたと考えられるそうで、我々の知るイメージもフィクションも多分に含んでいそうです。ここにはそうした2人の肖像が並んでいました。

1 岩佐又兵衛 「源氏物語 野々宮図」
墨の濃淡で描かれた掛け軸で、源氏物語の10賢木の場面が描かれています。六条御息所の住む嵯峨野々宮を訪れた光源氏とお供が描かれ、入り口の鳥居の下で上を見上げている姿をしています。背景には薄っすらと柴垣が描かれ、鳥居と柴垣はお互いに対角線となってクロスするようになっていました。その為か、源氏は気品のある雰囲気でしたが、画面全体からは劇的な印象を受けました。

2 岩佐又兵衛 「在原業平図」
弓を持ち矢筒を背中にかけている横向きの在原業平を描いた作品です。在原業平は歌仙絵としての伝統があるようですが、こうした立ち姿で描かれることは珍しいそうです。薄っすらと色が付けられ、地に溶け込みそうなくらい薄いかな。やや幻想的な雰囲気もある作品でした。


<2 源氏絵の恋のゆくえ-土佐派と狩野派>
源氏絵の古い形態は一巻の象徴的な場面を、冊子や扇面といった小型の画面に割り当てたものだったようですが、やがて共通する季節や景物を介して物語の中から限られた場面のみを屏風の大画面に選び出す趣向も観られるようになったようです。そして近世には物語の情景それ自体が絵画の主題として前景化したそうで、ここにはそうした屏風作品などが展示されていました。

5 土佐派(扇面)/海北友松(屏風) 「扇面流貼付屏風」
これは6曲1双の押絵貼り屏風で、川を背景に18枚の扇が散らされ、扇を土佐派の画家、背景の屏風の部分を海北友松が作成しているようです。扇のうち7つは源氏物語の場面を表し、39夕霧、38鈴虫、13明石、26常夏、5若紫×2、32梅枝となっているらしく、それぞれ華麗な雰囲気です。一方で背景の川は渦巻くようで、ちょっとシュールで幻想的な雰囲気でした。これは私のような素人が観ても源氏物語の関連作品とは気づけませんw

6 伝 土佐千代 「源氏物語図屏風」
こちらは6曲1双の屏風で、右隻に5若紫と8花宴、左隻に29行幸と13明石の場面が描かれています。物語では繋がらない4つの場面ですが、季節によってまとめているそうで、右隻は金雲たなびく屋敷で女性たちが花見をしている様子と、柴垣からそれを見ている男性、左隻は雪の積もる松の木や川、部屋の中に2羽の鳥が置かれていてそれを観て話散る3人の男女が描かれています。正直、源氏物語の細部まで覚えていないので、モチーフのそれぞれがどの場面の何か私には分かりませんが、解説によると柴垣から見ているのは源氏と紫の上の出会いのシーン(若紫)のようで、この若紫は伊勢物語の初段「春日の里」に着想を得ていると考えられているそうです。また、この絵も伊勢物語の初段を主題にした東京国立博物館所蔵の伊勢絵に似た構図が観られるそうで、両物語の結びつきが分かるようでした。作品自体も煌びやかで見栄えがしますが、それ以上に興味を惹かれる繋がりでした。

この先には狩野探幽の作品などもありました。


<3 伊勢絵の展開-嵯峨本とその周辺>
続いては伊勢絵の展開についてのコーナーです。1608年に角倉素庵らによって古活字版 伊勢物語(嵯峨本)が登場し、それ以降 嵯峨本の伊勢物語の挿絵は伊勢絵の規範として多くの絵師たちに広く浸透したそうです。ここではその前後に誕生した作品を通して、その様相を眺めるという趣旨となっていました。

12 「伊勢物語図屏風」
こちらは6曲1双の屏風で、伊勢物語の12場面が描かれています。上下を区切るように金雲が描かれ、それぞれ2扇くらいにまたがるように、1隻に6場面ずつ描かれています。各場面は嵯峨本の伊勢物語の図様とほとんど一致しているそうで、これは嵯峨本から派生したもののようです。富士山や八つ橋など有名なシーンもあり、大和絵らしい表現となっていました。描かれているものが細かくて場面もバラバラなので、ちょっと散漫な印象を受けました。

16 俵屋宗達 「伊勢物語 若草図色紙」
こちらは掛け軸仕立ての色紙で、烏帽子の貴族と後ろ姿の十二単の女性が描かれています。これは伊勢物語の49若草の場面らしく画面上部には和歌も書かれています。49若草は妹が他の男に奪われることを悔やんだ歌を詠んだところ、妹は意外な言葉に戸惑うという近親愛の話だそうです。女性が後ろ姿なのはそういうことなのかな?? ちょっと意味深な感じを受けました。

この近くには17 岩佐又兵衛「伊勢物語くたかけ図」、15 伝 俵屋宗達「伊勢物語図屏風」などもありました。


<4 物語絵の交錯-土佐光吉の源氏絵と伊勢絵>
続いては今回の展覧会の名前にも入っている土佐光吉のコーナーです。17世紀始め、土佐光吉はそれまでの源氏絵に見られなかった場面を次々と生み出したそうで、恐らく源氏物語の知識に長けた公家の指示を受けて制作されたと考えられるようです。また、その中には伊勢絵の図様に近いものもあるそうで、伊勢物語は重要な着想源だったようです。ここにはそうした土佐光吉の作品などが並んでいました。

20 土佐光吉 「源氏物語図屏風」
こちらは6曲1隻の屏風で、源氏物語の17絵合、10賢木、40御法、12須磨、53手習の5つの場面が並んでいます。家の屋根が無く上空から眺めるような視点の「吹抜屋台」の技法で各場面が描かれ、ちょっと劣化していますが雅な雰囲気があります。解説によると人々の貴賎の顔の描き分けや、剥落で露出した下書きの絵具などに光吉らしい特徴が観られるとのことでした。

23 土佐光吉 「源氏物語図色紙」
これはA4サイズくらいの色紙の作品で、12枚セットのうち6枚が展示されていました。特に気に入ったのは9葵のシーンで、葵祭を観に沢山の牛車が集まり、烏帽子の人々が大勢集まっています。源氏物語では六条御息所の一行と葵の上の一行が争いと起こす場面で、この作品からもその喧騒が感じられます。かなり細かく色鮮やかで、他の優美な作品と比べて生き生きとした雰囲気がありました。

21 土佐光吉 「源氏物語手鑑」
こちらは絵と詞書がセットになっている手鑑で、4セット展示されているうち28野分のシーンが気に入りました。庭先に沢山の草花が描かれ女性の姿もあります。それぞれ肉眼で見るのは大変なくらい非常に細かく、優美に描かれています。この作品の隣には嵯峨本の伊勢物語の白菊というシーンのコピーがあり、それと比べると庭先にいる女性が同じポーズをしているのが分かりました。こちらも伊勢物語と源氏物語の繋がりを感じさせます。

「源氏物語図屏風」
これは6曲1双の屏風で、右隻の上から縦5段ずつ、源氏物語全54帖のシーンが描かれています。一部は2つ分のスペースを使っていて、微妙に左右が繋がるような感じになっています。とは言え、かなりダイジェスト的で、ごちゃごちゃしてるかなw ちょっとやりすぎなのでは…と思いましたw


<5 イメージの拡大-いわゆる[留守模様]へ>
最後は源氏物語や伊勢物語からのイメージの拡大についてのコーナーで、物語に備わるイメージの世界を大胆に表した「留守模様」の作品が並んでいました。「留守模様」は物語の登場人物は描かず、その場面を象徴する物などを描き物語の情景を暗示するというもので、ここにはその代表的な作品が展示されていました。

31 酒井抱一 「八ツ橋図屏風」
こちらは伊勢物語の第9段の八ツ橋の話を題材にした作品で、尾形光琳の同名の作品を元に作られた金地の6曲1双の屏風です。三河国の八ツ橋に咲く燕子花(かきつばた)の5文字を各句の頭にして歌を詠むという内容で、ここにはその燕子花とその間を縫う板でできた橋が描かれています。燕子花は単純化され、板橋は対角線上のジグザグに並びリズム感を感じます。橋の表面には滲みを使ったたらしこみの技法が見られ、風化した感じが出ていました。燕子花は色数が少ないので平坦な感じがするかな。金地に色が映えて鮮やかでした。
 参考記事:琳派芸術 ―光悦・宗達から江戸琳派― 第2部 転生する美の世界 (出光美術館)


ということで、土佐光吉の作品は多めでしたがそれにこだわる感じでもなく、源氏絵と伊勢絵の方に主眼がある展示となっていました。もう終わってしまいましたが、源氏絵と伊勢絵の関係などは特に参考になる内容でした。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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Comment
No title
こんばんは。
土佐派と狩野派の見比べなんて、なんて贅沢。
とても興味ある内容です。
こっちだったらぜったい行ってましたね。^^
Re: No title
>いろもりカラスさん
コメント頂きましてありがとうございます。
こちらの展示は、土佐派だけでなく各派の源氏絵・伊勢絵を一気に見ることができました。
これだけのイマジネーションを生み出す両物語はよほど愛されてきたのだなと改めて思いました。
またこういう機会があると良いですね^^
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