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魔性の女 挿絵(イラストレーション)展 【弥生美術館】

この前の日曜日に、東大の近くにある弥生美術館で、「魔性の女 挿絵(イラストレーション)展 -大正~昭和初期の文学に登場した妖艶な悪女たち-」を観てきました。

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【展覧名】
 魔性の女 挿絵(イラストレーション)展 -大正~昭和初期の文学に登場した妖艶な悪女たち-

【公式サイト】
 http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/exhibition/yayoi/now.html
 http://yayoi-yumeji-museum.blogzine.jp/blog/

【会場】弥生美術館
【最寄】東大前駅、根津駅など


【会期】2013年4月4日(木)~6月30日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
意外とお客さんが多くて、狭くなっているところでは若干の混雑感がありました。

さて、この展覧会は「魔性の女」をテーマに大正~昭和初期の文学と共にその挿絵などを紹介する内容となっています。大体は文学者ごとに小コーナーに分かれている感じでしたので、気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


まずは橘小夢という挿絵画家(黒田清輝/川端玉章の教え子)のコーナーです。

橘小夢 「玉藻の前」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、御簾から顔を覗かせている十二単の女性が描かれています。等身がかなり長く、御簾の向こう側に女性の影が映っているのですが、その形は狐(九尾の狐)の姿となっています。顔も狐っぽく、これは九尾の狐の化身の玉藻の前のようです。周りは花が舞い散り ますます妖しい雰囲気で、まさに魔性といった雰囲気でした。線が細く影の付け方が独特で、幻想的な作風です。

この近くには佐賀の化け猫騒動の話を題材にした作品もありました。

橘小夢 「刺青」 ★こちらで観られます
黒を背景に、背中全体に大きな女郎蜘蛛の刺青をした女性が、もたれ掛かるようにうつ伏している様子が描かれた作品です。背景の暗闇には蜘蛛の巣があり、女性は肌が白く色気があり、不気味でリアルな蜘蛛の刺青と共に妖しい雰囲気です。解説によると、これは谷崎潤一郎の同名の小説を題材にしているそうで、若い彫師が芸姑の使いとしてやってきた女性を、自分の魂を彫り込むために長く探し求めてきた女と考えて眠らせ、寝ている間にその宿願を果たすそうです。そして、眠りから醒めた女性は女郎蜘蛛のような魔性を自覚する女と成り代わる… というストーリーのようです。こちらの作品もかなりインパクトがあり印象的でした。

橘小夢 「地獄太夫」
火の車や鬼、針の山、血の池など地獄の様子が模様となっている着物を着た遊女を描いた作品です。この地獄太夫という女性は室町時代の遊女のようですが、ここに描かれている女性は明治頃の姿で、この頃に同じく地獄絵をまとっていた幻太夫をモデルにしていると考えられるそうです。幻太夫は上客の気を引くために小指を切って送りつけたこともあるそうで、ちょっとエキセントリックな人物なのかも?? 振り返るようなポーズで微笑んでいて、狂気と魅力が同居する感じでした。

この近くには鏑木清方がミレイのオフィーリアを元に描いた「お宮の死」の口絵などもありました。続いては作家 泉鏡花の挿絵のコーナーです。

鰭崎英朋 「続風流線」
こちらは泉鏡花の本の挿絵で、水の中で着物の女性を持ち上げて泳ぐ男性が描かれています。女性の体は大きく反り返り、目をつぶってグッタリした感じです。どのような話か分かりませんでしたが、儚げな印象を受ける女性でした。

この辺は泉鏡花の小説の挿絵が並び、鏑木清方や小村雪岱などが中心でした。
 参考記事;
  小村雪岱とその時代 (埼玉県立近代美術館)
  清方/Kiyokata ノスタルジア (サントリー美術館)

続いては谷崎潤一郎の小説のコーナーです。

岩田孝太郎 「三代女性鑑 ナオミ」
こちらは谷崎潤一郎の「痴人の愛」を題材にした作品で、四つん這いになった男と、その上で手ぬぐいを手綱にして馬乗りになっている女性が描かれています。この女性がナオミで、主人公が女給から見出して人形のように可愛がっていたものの、やがて増長して主人公は言いなりになってしまうという内容です。主人公もそれに喜びを感じているという倒錯した話なのですが、この絵からは2人の関係と変性がよく伝わってくるかもw やや洋風な画風となっていました。

続いては水島爾保布(みずしまにおう)という画家・小説家のモノクロの挿絵のコーナーです。

水島爾保布 「人魚の嘆き」
これは谷崎潤一郎の小説の挿絵で、何枚かあるのですが私が気に入ったのは人魚が体をくねらせている挿絵です。髪の毛が広がり周りは水の流れのようになっていて、人魚は苦しんでいるようにも見えました。しかし一方では官能的な雰囲気があり、妖艶な印象を受けました。

この近くには河野通勢による聖女の挿絵などもありました。また、部屋の中央にもケースがあり、鰭崎英朋、月岡夕美、名越國三郎といった画家の小さめの挿絵もありました。

続いては2階の展示です。

小村雪岱 「お伝地獄」
これは実在の殺人犯の女性をモデルにした作品だそうで、挿絵が何枚か並んでいました。お伝は夫の病気を治そうと東京に出てくるものの、美しいが為に男たちが群がり、身を守っているうちに罪を重ねていき 最後はユスリや強盗を働くようになるというストーリーのようです。ちょっと気の毒なタイプの魔性の女かも…。これは以前観たことがあったのですが、ストーリーを知るとまた違って見えました。

この近くには江戸川乱歩のコーナーがありました。林唯一による当時の本の挿絵や、現在公開している美輪明宏主演の黒蜥蜴のポスターなども展示されていました。他にも森下雨村の「青斑猫」の挿絵(画 岩田専太郎)、横溝正史の「鬼火」の挿絵(画 竹中英太郎)、内藤良治のアールヌーヴォー的な創作カット画集などもあります。

続いては蕗谷虹児(ふきやこうじ)のコーナーで、彼が表紙を描いた少女雑誌や婦人雑誌などが並んでいました。

蕗谷虹児 「幸福の使者」
こちらは雑誌「令女界」の口絵で、猫を抱いた着物の女性が描かれています。ニンマリした表情で、耳元には白い大きな花を飾っています。背景は直線と円を組み合わせた感じがキュビスム的な雰囲気でした。妖しい感じよりも気品が感じられました。

続いては雑誌の表紙で絶大な人気を博した高畠華宵(たかはたかしょう)のコーナーで、少年誌、少女誌、婦人雑誌、新聞などで活躍していたそうです。

高畠華宵 「ラインの黄金」
こちらはドイツのローレライ(水の精が歌声で誘惑して船を沈めるという伝説)をテーマにして描いた作品で、岩に座った上半身裸の女性が長い髪をとかしているような仕草で描かれています。線が細く気品ある描写で、ファム・ファタール的な魔性の雰囲気がありました。これは中々魅力的です。

この先は高畠華宵が表紙を描いた雑誌が並んでいました。目を細めるような表情の美女が多いかな。 また、部屋の中央には伊藤彦造による写実的な絵や、山六郎による単純化された画風の作品なども展示されていて、最後には実在した魔性の女についても取り上げていました。松井須磨子、林きむ子、お葉(佐々木カ子ヨ)、平塚らいてう等が挙げられ、 平塚らいてうは夏目漱石の三四郎のヒロインのモデルにもなっているそうです。

この辺で魔性の女 展は終わりですが、3階には高畠華宵についてのコーナーがあります。弥生美術館の創設者である鹿野琢見は幼い頃に高畠華宵の表紙に衝撃を受けたそうで、その死後に著作権を譲り受けて美術館に保存しているそうです。

高畠華宵 「情炎」
これは日本画の掛け軸で、雪の降る中でハシゴに登る着物の女性が描かれています。解説はありませんでしたが、恐らくこれは 恋する男に会いたいが為に放火した八百屋お七をテーマにしていると思います。髪を噛んで必死に探しているような表情は狂気や執念と共に悲哀を感じさせました。どことなく儚げな印象です。

この階にはこの他にも高畠華宵による雑誌の表紙やすごろく、ポスターなどもありました。

ということで、挿絵が多いのでやや地味な内容でしたが様々なタイプの魔性の女を観ることができました。美しくも男を破滅に追いやる女は何故か今も昔も人気ですねw 妖しい魅力にあふれた展示でした。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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