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クリムト 黄金の騎士をめぐる物語 (感想前編)【宇都宮美術館】

前回ご紹介したお店でお昼を済ませた後、宇都宮美術館で「生誕150年記念 クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。この展示は前期・後期の日程があり、私が観たのは後期の内容でした。

P1110146.jpg

【展覧名】
 生誕150年記念 クリムト 黄金の騎士をめぐる物語

【公式サイト】
 http://event.chunichi.co.jp/klimt/index.html
 http://u-moa.jp/exhibition/exhibition.html

【会場】宇都宮美術館
【最寄】宇都宮駅


【会期】2013年4月21日(日)-2013年6月2日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
会期も残り少なくなっていることもあり、結構混んでいました。バスは宇都宮駅からずっと満員だったかな。 しかし展覧会は自分のペースで見られたので、じっくりと時間をかけて鑑賞しました。(普通に見れば恐らく1時間半くらいだと思います)

さて、今回はウィーンで活躍したグスタフ・クリムトの展示となっています。日本でも大人気のクリムトですが、去年(2012年)は生誕150周年で、本国ウィーンではクリムト関連の展示が大いに盛り上がっていたようです。この展示は愛知県美術館が所蔵する(日本の公立美術館で初めて収蔵された)クリムトの絵画作品「人生は戦いなり(黄金の騎士)」を中心とした内容で、愛知・長崎を巡回しこの宇都宮で最後となります。展覧会は時代によって章分けされ、各章ごとにクリムトの変遷を取り上げていましたので、詳しくは気に入った作品を通してご紹介していこうと思います。


<第1章 闘いのプレリュード>
まずはクリムトの初期のウィーン工芸美術学校入学から分離派結成の頃までコーナーです。クリムトは1862年にウィーン郊外に生まれ、14歳の時にウィーン工芸美術学校に入学しました。そしてそこで古典の模写を重視し手工芸的な技術と知識を基礎とする教育を受けたそうで、初期の卓越したデッサンはこの教育方針を反映しているそうです。在学中の1879年には弟のエルンストと同級生のフランツ・マッチェと共に3人で共同制作のグループを結成し、さらに卒業の1883年には同じメンバーで「芸術家カンパニー」を立ち上げ、室内装飾の仕事を請け負うようになりました。彼らは当時人気を博していた画家ハンス・マカルトのバロック様式に倣ったスタイルだったそうで、高い評価を得ていたようです。 やがて1890年代に入ると、クリムトに転機が訪れます。ベルギーの象徴主義の画家フェルナン・クノップフの作品に出会うと、クリムトはアカデミックな写実性の強い描写から離れ、非現実的なものを描く象徴主義の傾向を強めていきました。そしてウィーン造形芸術家組合に所属していたクリムトをはじめとする若い芸術家たちは古い伝統的な組合を脱退し、1897年に新たにウィーン分離派を結成しました。クリムトはこの分離派の初代会長となり、翌年に開催された第1回分離派展のポスターをデザインしたそうで、そこには新しい芸術を生み出そうとする若い画家の想いが込められていたそうです。また、分離派は高いデザイン性を持つ機関誌「ヴェル・サクルム」を発行し、同組織の展覧会の様子や会員の作品を紹介していきました。 この章にはそうした時期の作品が並んでいました。
 参考記事:
  ウィーン・ミュージアム所蔵 クリムト、シーレ ウィーン世紀末展 (日本橋タカシマヤ)
  ベルギー幻想美術館 (Bunkamuraザ・ミュージアム)
  ベルギー王立美術館コレクション『ベルギー近代絵画のあゆみ』 (損保ジャパン東郷青児美術館)
  アントワープ王立美術館コレクション展 (東京オペラシティアートギャラリー)

1 グスタフ・クリムト 「頭部習作」
これは学生時代の素描で、髪を結った女性の石膏像が描かれています。写真かと見間違うほどに写実的で、陰影や質感をリアルに感じます。学生の頃から高いデッサン力を持ち、絵が上手かったのが伺えました。
この隣には裸婦の素描もありました。

3 グスタフ・クリムト 「横顔をみせる少女」
暗く緑っぽい背景に横向きの髪の長い少女が描かれた肖像画です。胸元には真珠をつけていて、左から光が当たっているような陰影が付けられています。真珠と瞳には白で光が表されていて、解説ではフェルメールのようだとのことでしたが、確かにちょっと似た雰囲気がありました。静かで賢そうな印象を受ける女性像です。 この辺はまだ写実性が強いかな。

この近くには学生時代に鉛筆で描いたオウムの素描3点や花の素描3点もありました。この頃の素描は描写力の高さが伝わってきます。

7 グスタフ・クリムト 「森の奥」 ★こちらで観られます
中央に大きな樹の幹が画面を縦に分割するように描かれ、その周りには森の草木が描かれています。手前は暗く奥が明るくなっていて、明暗が強く感じられます。解説によると、大胆な構図は浮世絵から影響を受けた印象派やポスト印象派と共通するようです。また、クリムトは樹の幹のモティーフに関心が強かったそうで、特に1900年以降に頻繁に描かれるようになるそうです。これもアカデミックな印象を受ける作品でした。

14 グスタフ・クリムト 「詩人とミューズ」 ★こちらで観られます
仰向けで寝ている男性と、沢山の天使のような子供たちを連れて現れるミューズ(裸婦)が描かれた作品です。寝ている男は詩人らしく、これはミューズがインスピレーションを与えている場面のようです。やや淡い色彩で幻想的な印象を受け、よく知られるクリムトの作風とはまだ異なっているように思いました。解説によると、これは建築装飾(天井画?)のための作品と考えられているそうですが、実際に作られた建物はなく構想で終わったもののようです。また、当時人気の宮廷画家ハンス・マカルトのバロック様式を模範とした重厚な表現に影響を受けているのが伺えるようで、ドラマチックな構図や筆さばきに表れているとのことでした。確かにたなびく帯や連なる天使たちなど劇的な印象を受けました。

この両隣には建築装飾の下絵のエッチングなどもありました。

[ウィーン分離派]
19世紀末のウィーンはオーストリア=ハンガリー帝国の首都として栄華を極めていたようで、美術界で主要な位置を占めていたのは歴史主義的な伝統を重んじるウィーン造形芸術家組合でした。1897年にその組合内で革新派とされつつあったクリムトが中心となりそこから分離・独立する形で設立されたのがオーストリア造形芸術家協会(通称:ウィーン分離派)でした。ウィーン分離派は「時代にその芸術を、芸術にその自由を」と掲げ、現代に相応しい芸術の創出を理想としました。
ウィーン分離派の活動の旺盛さ・質の高さは傑出したものとなり、絵画・彫刻・建築・家具など幅広い分野に芸術感性を行き渡らせ、ユーゲントシュティール(青春様式)が豊かに開化したそうです。

16 グスタフ・クリムト 「第1回ウィーン分離派展ポスター」 ★こちらで観られます
これは分離派展のポスターで、検閲が入ってすぐに修正されたのですが、ここには検閲前の作品が展示されていました。上部にミノタウロスを仕留めようとする英雄テセウが描かれ、中央辺りは空白で、右の方には丸い盾と槍を持った女神アテナが描かれています。中央が大きく空いているのが大胆な構成ですが、これはジャポニズムの影響とのことです。また、テセウスには若い画家たちの意志が込められているそうで、最初は全裸で描かれていたものの、局部が描かれているのは好ましくないと検閲されて、その部分に修正が入りました。テセウスは非常に力強く勢いを感じさせる姿勢で、旧態然とした美術界に挑んでいるようでした。 なお、分離派の作品にはよくアテナが出てきますが、アテナは戦いと芸術の神で、彼らのシンボル的な存在と言えそうです。

この近くにはコロマン・モーザーなど分離派の仲間のポスターや、ウジェーヌ・グラッセのアールヌーヴォー的なポスターも並んでいました。

[ヴェル・サクレム]
ウィーン分離派は「聖なる春」という意味の機関誌「ヴェル・サクレム」を1898年~1903年に出版したそうです。この機関誌には様々な傾向の美術・工芸・デザイン・建築・舞台・音楽・文芸を紹介するとともに批評的に論じました。印刷物としてのデザインにも優れていたようで、正方形の版型を特徴とし、様々な表現をするのにうってつけだったそうです。ここにはその正方形のヴェル・サクレムの表紙が並んでいました。ほぼ単色の作品群で、それぞれ画風が異なりますが、先進的な印象を受けました。

このコーナーの近くには分離派展のポスターやロダンの彫刻もありました。ウィーン分離派はロダンを会員に迎え、重要作家として紹介していたようです。クリムトの絵画においても人物画の様々なポーズや主題に影響を与えたとのことでした。

29 マクシミリアン・レンツ 「ひとつの世界(ひとつの人生)」 ★こちらで観られます
こちらはウィーン分離派の仲間の作品で、クリムトとは学生の頃からの付き合いのようです。横2m位ありそうな大型の作品で、薄く青い衣を着た4人の乙女が花畑の上に立ち、花の付いた枝を持っています。その手前には葉巻?を持った帽子にスーツ姿の俯く男性が描かれ、神話的な楽園に現代人が紛れこんだかのような感じです。背景にも楽しそうに踊る女性達が描かれているのですが、その対比の為かこの男性は悩んでいるような表情に見えました。 また、色は強めなのに全体的に少しぼんやりしていて幻想的な雰囲気を感じるのも面白かったです。これはこれで見どころでした。

近くにはジョルジュ・ミンウの彫刻などもありました。その後はまた機関誌のヴェル・サクレムの表紙や分離派展のポスターなどが並びます。

44 チャールズ・レニー・マッキントッシュ 「室内装飾の芸術家[芸術愛好者の家Ⅱ]」
これはチャールズ・レニー・マッキントッシュによる室内装飾を描いた透視図面で、何枚かセットで展示されていました。幾何学的でスッキリした印象を受け、マッキントッシュらしい感じを受けます。解説によると、チャールズ・レニー・マッキントッシュは妻のマーガレット・マクドナルド・マッキントッシュを含む「ザ・フォー」のメンバーと共に第8回分離派展で室内装飾を展示し、絶大な歓迎で受け入れられたそうです。
この近くにはマッキントッシュ夫妻の作品がいくつか並び、椅子や扉の刺繍パネルなどが展示されていました。

少し先には分離派会館の写真もありました。ヨゼフ・マリア・オルブリッヒによって設計された建物で、金の装飾の丸屋根があります。ちょっとモスクみたいな感じに見えるかな。

[ウィーン大学講堂の天井装飾画をめぐるスキャンダル]
クリムトは1894年にウィーン大学大講堂にそれぞれの学部を表す天井画を制作するよう依頼を受けます。大学側は文明や科学の合理性が社会的進歩に貢献するという学問観が示されるのを期待したようですが、描かれたのは合理的思考を超越する「哲学」という作品でした。これには大学から文部大臣に抗議されたそうですが、続いての「医学」では女性の裸体表現が問題視され、帝国議会でも論争に及んだそうです。さらに「法学」では批判にさらされた自らの状況を反映し、処罰と復讐の権力としての「法」を表しました。こうして、1905年には天井画の完成を断念したようで、その後コレクターなどを経てオーストリア美術館の所蔵となりました。しかし、戦時中に疎開先の城で城ごと焼失してしまったそうで、ここにはそのコピーが展示されていました。

52 グスタフ・クリムト 「哲学」 (原寸大白黒写真)
こちらは失われた「哲学」を原寸大(2m×4mくらい?)の大きさにコピーしたものです。まるで宇宙空間に人々が列をなしているかのように浮遊していて、人物は具象的ですが。象徴的な雰囲気です。右にはスフィンクスの顔があり、左には絶望しているようなポーズの人が描かれるなど、学問の勝利とはかけ離れて見えるのは仕方ないかもw 今はカラーが分からないのか、白黒でしたがクリムトらしい作風に思えました。

出入り口のある中央のホールには「医学」と「法学」もありました。医学は女性の裸体が描かれているくらいなので、当時の世相が今より敏感だったのかな?とも思いますが、「医学」は明らかに挑戦的に思えましたw タコのような怪物に食われる?人など、ちょっと過激かも。


ということで、この辺で半分程度なので今日はここまでにしておきます。油彩はそれほど多くありませんが、初期からクリムトの画業を観ていける構成は参考になりました。後半は今回の見所となる作品もありましたので、次回はそれについてご紹介しようと重ます。


  → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事


 
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