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クリムト 黄金の騎士をめぐる物語 (感想後編)【宇都宮美術館】

今日は前回の記事に引き続き、宇都宮美術館の「生誕150年記念 クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら


P1110147.jpg


まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 生誕150年記念 クリムト 黄金の騎士をめぐる物語

【公式サイト】
 http://event.chunichi.co.jp/klimt/index.html
 http://u-moa.jp/exhibition/exhibition.html

【会場】宇都宮美術館
【最寄】宇都宮駅

【会期】2013年4月21日(日)-2013年6月2日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前編では物議を醸したウィーン大学講堂の天井装飾画についてまでをご紹介しましたが、後半はその後の作品が並んでいました。

<第2章 黄金の騎士をめぐる物語-ウィーン大学大講堂の天井画にまつわるスキャンダルから「黄金の騎士」誕生へ>
前編でご紹介した「法学」を制作する前年の1902年に、クリムトはマックス・クリンガーによるベートーヴェン像を称賛する為の展覧会を企画し、第14回分離派展として開催されました。そして3面を取り囲む壁画「ベートーヴェン・フリーズ」を出品し、ここで初めて黄金の騎士が描かれました。幸福を求めて武装した騎士が、不幸の蔓延した世界と対面する黄金の騎士像は、大学大講堂の天井画によって非難されたクリムト自身の状況を重ねあわせたイメージとして作られたようです。そして、ベートーヴェン・フリーズの1年後に「人生は戦いなり(黄金の騎士)」が完成すると、第18回分離派展(クリムトの個展)で発表され、自らの意志を託したそうです。この個展では特に平面性を強調し、金を多用した独自の装飾的な様式を打ち出したようで、こうした装飾性は美術と工芸の融合を目指したウィーン工房の方針とも結びつくものだったそうです。
 参考記事:マックス・クリンガーの連作版画―尖筆による夢のシークエンス (国立西洋美術館)

66 グスタフ・クリムト 「人生は戦いなり(黄金の騎士)」 ★こちらで観られます
これは今回の主題にもなっている愛知県美術館所蔵の作品で、黒い馬に乗り槍を持つ金色の鎧の騎士が描かれています。真っすぐの姿勢なので馬の上で硬直して立っているように見えるかな。平坦な描写という特徴も確認できます。頭には赤・銀。黒の模様の兜を被り、背景は緑を基調に金や白などが交じる やや抽象的な画面となっています。馬具や槍にも装飾的な文様があり、全体的にも煌めくような色使いですが、どこかぼんやりと幻想的な雰囲気がありました。解説によると、これはデューラーの銅版画「騎士と死と悪魔」(★こちらで観られます)を下敷きにしているそうで、この作品の近くに展示されていました。…うーん、題材と構図はそのままだけどだいぶ印象は違って見えるかな。
今回はこの「人生は戦いなり(黄金の騎士)」を目当てに宇都宮まで遠征したのですが、都内の展示と違ってじっくりと堪能することができて、これが見られただけでも満足です。

この辺には騎士がかぶっているのとそっくりな兜や、銀色のゴシック式の甲冑、第14回分離派展に出品された椅子などが展示されていました。

59 グスタフ・クリムト 「ベートーヴェン・フリーズ 部分 [完全に武装した強者]」(原寸大写真パネル) ★こちらで観られます
これは写真パネルで、ウィーン分離派会館にある原作と同じ大きさで壁画のように展示されていました。大きな剣を持つ等身大の金色の甲冑の騎士が描かれ、背後には裸の男女3人が騎士に向かって手を伸ばしています。また、奥には女神のような2人の女性が描かれていて、ストーリー性を感じます。平面的で金色が眩く、文様のようなものが多い装飾的な雰囲気です。解説によると、この騎士は背後のか弱い人々の求めに応じて幸福を求めて敵に向かい、楽園に辿り着くという話のようで、これはベートーヴェンの第9から着想を得ているそうです。そのモデルは友人で音楽家のマーラーと考えられているようで、音楽の革新のために宮廷歌劇場の監督から外されたマーラーは、クリムトと同様に社会に受け入れられなかった芸術家とのことでした。また、人物の輪郭や装飾的な曲線で平面性を強調する表現はマッキントッシュ夫妻や彫刻家ジョルジュ・ミンヌからの影響のようです。これはコピーでしたが、もし観られるものなら実物を観てみたいものです。

近くには第14回分離派展関連の作品や、前半でもご紹介したヴェルサクレム(ウィーン分離派の機関誌)の表紙などが並んでいました。

82 グスタフ・クリムト 「アッター湖畔」 ★こちらで観られます
これは正方形の油彩で、湖面を描いた作品です。うっすらと対岸の岩?のようなものも見えますが、ぼんやりした感じです。水面はモザイクのようで、水平線が高い位置にあるためか湖が広く感じられました。解説によると、クリムトは1900年頃から正方形のキャンバスを好んで描いたようで、このアッター湖の周辺に滞在した際は、すべて正方形の作品となっているそうです。静かな風景ですが大胆で面白い構図と表現の作品でした。

87-89 ヨーゼフ・ホフマン/ウィーン工房/金細工オイゲンブラウマー 「ブローチ」
これらは正方形のブローチで、赤・黄色・白・緑など様々な色の宝石が幾何学的な金の板や植物文様と共に配置されています。先進的かつ優美な印象がして、クリムトの絵の中に出てきそうな感じw クリムトもウィーン工房のジュエリーを購入していたことがあったのだとか。…それにしてもこの展示では正方形をよく見ましたw


<第3章 勝利のノクターン - クンストシャウ開催から新たなる様式の確立へ>
ウィーン分離派ではメンバー間の対立が次第に表面化していったそうで、1905年にクリムトは仲間と共に脱退し、翌年にオーストリア芸術家同盟を結成したそうです。そして1908年には仮設展示場でウィーン総合芸術展(クンストシャウ・ウィーン)を開催しました。 ここで初めて出品されたのが かの有名な「接吻」で、この作品は後にオーストリア国家買い上げとなりました。(これは天井画の騒動以来の国家との和解を意味すると考えられるようです。) クンストシャウにはオスカー・ココシュカやエゴン・シーレといった若い芸術家も参加し、次世代の美術の方向性が示されたようです。クリムトも彼らとの接触が刺激的だったのか、クリムトの様式は再び転機を迎えたそうで、それまでの金や緻密な装飾・優雅な曲線に代わり、鮮やかな色彩と絵の具の素材や筆の動きを表した表現主義的なスタイルで、パッチワークのような模様と渾然一体となった人物を描いていったそうです。この変化には膨大な素描が関係しているそうで、その親密な素養は下絵としてではなく、クリムトの独立したジャンルとして評価されているようです。 そうして意欲的に作風を進化させていったクリムトですが、1918年に脳梗塞と肺炎?(スペイン風邪?)で亡くなったそうです。ここにはそうした晩年までの作品が並んでいました。
 参考記事:
  ウィーン・ミュージアム所蔵 クリムト、シーレ ウィーン世紀末展 (日本橋タカシマヤ)

オスカー・ココシュカ 「夢見る少年たち」
これはココシュカの初期作品4点のリトグラフです。平面的で色が強く、単純化されていてちょっとメルヘンチックな感じも受けるかな。これにはジョルジュ・ミンヌからの影響があるそうです。クリムトもこの作品を讃えていたようで、クリムトの賛辞も書き込まれていました。

近くにはヨーゼフ・ホフマンの椅子や分離派展のポスター、コロモン・モーザーの椅子なども並んでいました。

[ストックレー・フリーズ]
クリムトはウィーン工房との共同制作で、ストックレー邸の食堂の装飾の制作に携わりました。1905年に建設が開始されたものの1911年にようやく完成したそうで、壁画はクリムトの下絵を元に、ウィーン工房の職人たちによって ガラス・輝石・珊瑚・金など豪華な素材を用いたモザイク画として仕上げられたそうです。

このコーナーには実物大のコピーが壁三面に渡って貼られていて、枝葉が渦巻くよな木々が描かれ、黄色・金色を基調に所々に黒などのモザイク模様らしきものが描かれていました。また、一部では抱き合う男女の像があり、装飾かつ豪華な服が印象的でした。これぞクリムトという感じです。解説によると、クリムトはこの木を生命の木と呼んだとのことでした。ちょっと異様な迫力がありますが、これも実際に観てみたい…。

[ウィーン工房]
ウィーン工房は1903年にウィーン分離派のヨーゼフ・ホフマンとコロマン・モーザー、実業家のフリッツ・ヴェルンドルファーによって設立され、総合芸術を標榜しデザイナーと職人が共同作業を行う工房だったようです。イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動に影響を受け、妥協を許さない制作を続けたために経営難にもなったようですが、新しいスポンサーがついて1932年まで存続し、デザインの近代化に多大な貢献をしたようです。

122 コロマン・モーザー(プラーク・ルドニカー籐細工工房) 「肱掛椅子」 ★こちらで観られます
柵で囲ったような肘掛けに市松模様の腰掛けのある有名な椅子です。非常に洗練されたデザインで、現在の感覚でもモダンに感じられると思います。解説によると、この椅子はクリムトの個展でもあちこちに置かれていたのだとか。

この辺は部屋の一角になったような展示方法で家具が並んでいました。ランプやグラス、食器なども洒落ています。

[クリムトとジャポニスム]
第6回分離派展にはアドルフ・フィッシャーの日本美術コレクションが展示され、ヴェル・サクレムでは日本の木版画や型紙が紹介されるなど、クリムトをはじめとするウィーンの芸術家は日本美術を熱狂的に迎えたそうです。クリムトへの影響の1つとして代表的なのが金の使用で、「黄金時代」と呼ばれる装飾的なスタイルには屏風や蒔絵の砂子による技法が影響しているようです。また、日本の着物をコレクションし、日本の伝統的な文様から着想を得ていたと考えられるようです。ここにはそうした型紙(着物の染色につかう)や酒井抱一の屏風などが展示されていて、これはこれで見事です。日本らしい工芸・絵画とクリムトの共通点が垣間見れました。

[素描]
最後はクリムトの女性を描いた油彩2点と素描が10点程度並んでいました。

154 グスタフ・クリムト 「リア・ムンク1」
花に囲まれ寝ているような女性の顔を描いた作品です。これはパトロンの娘のようですが、自殺して死んでしまったようです。背景は青く沈んだ雰囲気で、顔は白っぽい色合いとなっていました。これまで観てきた画風とまた変わっていて、装飾的なのは花くらいで静かな作風となっていました。解説ではミレイのオフィーリアのようだとのことでしたが、確かに構図は似てるかも。

161 グスタフ・クリムト 「着物を着て立つ女」
こちらは着物を着て立っている女性の素描で、等身が長く頭の先と足の先は画面からはみ出しています。かなり素早く描かれている印象を受け、着物の模様などは線と円だけのようですが、離れてみると着物の柄であると分かるのがちょっと不思議。微笑んでいて可憐な雰囲気の女性でした。

156 グスタフ・クリムト 「赤子(揺りかご)」 ★こちらで観られます
これは三角形に積まれた服?の上に赤ん坊が顔を出している様子が描かれた作品です。様々な色と模様の衣服が連なっていて、装飾的かつパッチワークのような印象を受けますが、色合いは若干くすんだ感じで、シーレなどを彷彿とさせました。解説によると短期間で描かれたそうです。


ということで、クリムトの油彩は10点ほどでしたが、宇都宮まで遠征した甲斐がありました。「人生は戦いなり(黄金の騎士)」も良かったですが、クリムトと分離派について理解を深めることができたのも参考になりました。会期は残りわずかですが、お勧めの展示です。


おまけ:
今回はじっくり観ていたために、閉館が近づき常設は10分で周る羽目になりましたw 今回もルネ・マグリットの「大家族」や「夢」、デュフィの花の絵など良質なコレクションが展示されていました。
また、この美術館のカフェは非常に美味しいので楽しみにしていたのですが、閉館後すぐにバスの時間になってしまったので残念ながら今回は立ち寄りませんでした…。またの機会を樂しみにしようと思います。
 参考記事:
  joie de sens ジョワ・デ・サンス (宇都宮美術館のお店)
  宇都宮美術館の常設 (2010年03月)


 参照記事:★この記事を参照している記事


 
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Comment
No title
21世紀のxxx者様
こんばんは!
宇都宮行きたかったです!
「アッター湖」の水色が見たくて!
でも決めていた日がダメになり・・。
内容拝見してその気持ちが少し和らぎました。
どうもです!
Re: No title
>IMAさん
コメント頂きましてありがとうございます!
こちらの展示は東京から足を伸ばすにはちょっと遠かったですねw
もっと日本でもクリムトや分離派の展示をやってくれると嬉しいのですが…。

アッター湖の頃の作風は面白かったです。
彼の地で描いた作品は正方形ばかりというのも意外でした。

微力ながら参考にして頂けて嬉しいです^^
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