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河鍋暁斎の能・狂言画 【三井記念美術館】

前回ご紹介した展示を観る前に、三井記念美術館で「河鍋暁斎の能・狂言画」を観てきました。この展示は前期・後期に分かれていて、私が観たのは後期の内容でした。

P1110177.jpg

【展覧名】
 河鍋暁斎の能・狂言画

【公式サイト】
 http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html

【会場】三井記念美術館
【最寄】銀座線三越前/新日本橋駅/東京駅/神田駅


【会期】
 前期:2013年4月20日(土)~5月19日(月)
 後期:2013年5月21日(水)~6月16日(日)
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
特に混雑もなく自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展示は幕末~明治にかけて活躍した鬼才絵師 河鍋暁斎と能・狂言との関わりについての展示です。 河鍋暁斎は狩野派で絵の修行中の幼少期から大蔵流の狂言を習い、免状をいただいて素人ながら実際の舞台にも上がったことがあるそうです。そんな河鍋暁斎の描いた能画の下絵には舞台裏を描いたものや、師弟の親しい間柄が垣間見える作品もあるらしく、能を学んだ者ならではの視点があるようです。また、娘の河鍋暁翠も父の薫陶を受けて能・狂言を研究して多くの作品を描いたそうです。
展示はテーマごとに章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。 なお、展覧会では特に解説されていませんでしたが、能は文語主体で歴史物などのシリアスな内容、狂言は口語主体で一般庶民の役柄などがある喜劇といった違いがあるようで、どちらも猿楽をルーツにしているようです。


<河鍋暁斎と能・狂言>
まずは河鍋暁斎 自身と能・狂言との関わりを示す作品が並ぶコーナーです。

84 梅亭金鵞(編) 河鍋暁斎(画) 『暁斎画談』外編 「貞光院墓前に三番叟を舞ふ図」
こちらは絵入りの暁斎自伝と言える本で、白黒で上半分には文字、下半分に暁斎自身の挿絵が描かれています。大きな墓の前で片足を上げて舞う暁斎と、その後ろで笛や鼓を演奏する人や僧侶たちが描かれ、見物人たちもきているようです。解説によるとこれは、狩野洞白陳信(暁斎の狩野派時代の師匠)の祖母 貞光院の3周忌の様子を描いたものらしく、貞光院は暁斎が能を習うのを賞し、費用を負担してくれた恩人だそうです。恩人への恩返しの舞かな。その舞からは軽妙な印象を受けました。

この近くには暁斎への免状なども展示されていました。

58 河鍋暁斎 「暁斎漫画 初編」
こちらは暁斎漫画の1冊で、仏、鬼、般若など能・狂言で使う面が描かれているページが展示されていました。見開きで18の面(15種類)が描かれ、いずれも表情豊かで怖かったりおかしみを感じたりします。1つだけ面の内側が描かれているものがあり、これは不動で運慶の作と紹介されているようですが、肉付き面の伝承があるためこのように描いているとのことでした。

この辺には小さな画帖などが並んでいました。

33 河鍋暁斎 「山姥と金太郎図」 ★こちらで観られます
横縞模様を背景に、真っ赤な体の金太郎が老婆に抱きついている(乳を貰っている?)様子が描かれた扇です。老婆の近くには籠が置いてあり作業の合間の休憩なのかもしれません。この老婆は山姥らしく、能では山姥は人を助ける山の女とされるようです。ちょっと迷惑そうな顔に見ましたが穏やかな感じで、鬼婆的な印象はありませんでした。


<舞台を描く>
続いては狂言などの舞台を描いた作品が並ぶコーナーです。

4 河鍋暁斎 「伯母が酒図屏風」
こちらは2曲1隻の屏風で、左上にうつ伏せになって怖がっている老婆、その視線の先の右下あたりには酒の杯を持って振り返る男の姿があります。この男は老婆の甥で、ケチな酒屋の老婆から酒を貰おうとして「この辺に鬼が出る」と言った後に家を一旦出て、鬼の面をつけて再び老婆を訪れたようです。老婆は鬼におののいているわけですが、甥は酒に夢中になって鬼の面の扱いが雑になっているようで、膝のあたりに面をつけて完全に顔を出していましたw この狂言のおかしみが伝わってくると共に、大胆な構図も面白い作品です。

11 河鍋暁斎 「雷図」
両手にバチのようなものを持って手を挙げる赤髪の雷神と、逃げ惑っている男が描かれた作品です。雷神は雷と共に落ちた際に腰を痛めてしまったそうで、この逃げている男(藪医者)に診てもらって鍼治療で治るという 狂言「雷」を題材にしているようです。雷神はあまり怖くはなく滑稽な感じを受けるかなw 藪医者は代金を要求するそうですが、持ち合わせの無い雷神は、恵みの雨を降らせると約束するというストーリーだそうです。描かれているものの割にのんびりした印象でした。

1 河鍋暁斎 「石橋・猩々図屏風」 ★こちらで観られます
これは2曲1双の屏風のうちの1隻で、赤い毛の生えた獅子の面をつけた人が舞い、その傍らでは頭巾を被った僧侶らしき人が座っています。獅子の目の前には牡丹の花があり、真っ赤な敷物が画面を横切っているため色鮮やかな印象を受けます。解説によるとこれは石橋(しゃっきょう)の1場面で、文殊菩薩の使いの獅子が世を祝福する舞を舞っている様子のようです。装飾的な服や足を上げるポーズなど、華やかで動きのある作品でした。
ちなみに獅子(ライオンではなく唐獅子みたいな)は文殊菩薩や牡丹と共に描かれることが多いです。日本画で獅子と言えば牡丹とセットと覚えておいて損はないかと。

この近くには娘の暁翠の作品も並んでいました。暁翠は暁斎に比べて優美でしっとりした画風だそうで、細やかで華やいだ雰囲気に思えました。


<能の物語>
続いても能・狂言の場面を描いた作品です。(実は章分けの意味はあまり無いような…w)

31 河鍋暁斎 「浦島太郎・鶴亀図」
こちらは3幅対の掛け軸で、一時途絶えていた「浦島」という狂言を題材にした作品です。(浦島太郎の話で、今は復活しているものの公演は稀だそうです。) 右幅に浦島、中央に旭日を背景にした鶴、左幅には月を背景に岩に登る尾の毛が長い亀が描かれていて、長寿を思わせるモチーフが多く縁起が良さそうな感じを受けるかな。解説によると、この作品は明治に日本に来た建築家ジョサイア・コンドルが所有していたものだそうで、ジョサイア・コンドルは河鍋暁斎に弟子入りして、「暁英」の画号も与えられています。博覧会で入選するほどの腕前だったそうで、ジョサイア・コンドルの多才ぶりも伺えるエピソードでした。


<迫真の下絵>
続いては素描作品が並ぶコーナーで、ここは思った以上に面白い作品が並んでいます。

36 河鍋暁斎 「能・狂言面之地取画巻」 ★こちらで観られます
これは能・狂言の面や舞う人々を描いた巻物で、よく観ると絵が貼付けられているところもあります。下絵といっても彩色されていて、高いデッサン力が伝わってきます。奇妙な面や軽快な舞の様子など、瞬間を捉えたような絵もあって観ていて楽しかったです。

42 河鍋暁斎 「道成寺図(鐘の中)」 ★こちらで観られます
これは有名な道成寺の演目を題材にした作品で、白拍子が釣鐘の中で蛇へと変身するシーンの舞台裏が描かれています。釣鐘の中で鏡を観て蝋燭の火をたよりに面をつけている様子はまさに舞台裏そのもので、これは舞台に立った暁斎ならではの説得力かな。非常に参考になる作品でした。

この近くには道成寺などの鬼女を描いた下絵や「末広がり」という詐欺師に騙される話の下絵などもありました。また、その先の小部屋には「狂言尽くし」という各狂言の場面を描いたハガキサイズのセットものの作品が並んでいました。


<版本・版画になった能・狂言>
最後は版本・版画になった作品が並ぶコーナーでした。

57 河鍋暁斎 「能画図式」
こちらは乾坤2冊の能・狂言画の絵本で、ずらっと各ページが展示されていました。セリフも描かれ、人々は動きや表情が豊かです。暁斎の狂言への理解の深さと、簡潔ながらも豊かな表現に驚きました。全体的に楽しげな雰囲気の作品です。

72 河鍋暁斎 「東海道名所之内 御能拝見昼番」
上下で場面の異なる作品で、歌川国芳の弟子時代の兄弟子にあたる歌川芳虎との合作です。上半分は江戸城の御能昼番という庶民も見られる能を観た人々が、竿につけた提灯や傘を持って練り歩く様子が描かれています。興奮冷めやらぬ感じが伝わり活気があります。 一方下半分は芳虎によるもので、「偐紫田舎源氏」を題材にしているようです。 解説によると、どちらも将軍の徳川家茂による上洛と関係しているようです。当時の人々の能・狂言への熱狂が伺える作品でした。


ということで、河鍋暁斎がいかに能・狂言に深い関わりを持っているか分かる展示でした。元々好きな絵師なので、これは非常に参考になりました。若干地味な印象のテーマですが、今後の鑑賞にも役立ちそうな展覧会です。


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