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プーシキン美術館展 フランス絵画300年 (感想前編)【横浜美術館】

つい昨日の土曜日に、横浜美術館で「プーシキン美術館展 フランス絵画300年」を観てきました。充実の内容でメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1110577.jpg

【展覧名】
 プーシキン美術館展 フランス絵画300年

【公式サイト】
 http://pushkin2013.com/

【会場】横浜美術館
【最寄】JR桜木町駅/みなとみらい線みなとみらい駅


【会期】2013年7月6日(土)~9月16日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時半頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
始まって2週目の土曜日に行ったのですが、入場制限などはなくチケットもすんなり買えたものの、中は大混雑でどこも人が溢れている感じでした。特に3章の印象派のコーナーは映像を観た人が一気に流入するので、混雑感があったかな。会期末はもっと混むと予想されますので、これから行く予定の方は早めに行くことをお勧めします。

さて、今回はロシアの首都モスクワにあるプーシキン美術館の名品が並ぶ展覧会で、元々は2011年の春に予定されていたものが東日本大震災によって延期となり、2年の時を経てようやく実現されました。プーシキン美術館は2012年に創立100年を迎えたそうで、その成り立ちはモスクワ大学教授のイワン・ウラジミロヴィチ・ツヴェターエフによって、美術を学ぶ学生の教育助成の美術館として設立されたようです。ロシア革命の後には美術品の再分配によってサンクトペテルブルグ(ソ連時代はレニングラード)のエルミタージュ美術館から数百点の作品が移管されたそうで、1948年には国立西洋近代美術館の廃館によって、モスクワの最も優れた個人コレクションを持つセルゲイ・シチューキンとイワン・モロゾフの所蔵品の大半もプーシキン美術館に収められるようになったそうです。今回はそうした中から66点の作品が選ばれ時代順に展示されていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 17~18世紀-古典主義・ロココ>
まずは17世紀の頃からのコーナーです。17世紀の西洋美術はイタリアのルネサンスの伝統からドラマティックなバロック様式へと移行していたようで、各国の画家たちは当時 芸術の中心であったローマに競うように留学し、絵画技法の習得に力を入れたようです。その中でフランスの画家たちはバロックを乗り越え、より明晰で秩序のある古典主義様式を確立したようで、プッサンやロランなどはその代表的な画家と言えます。また、芸術家を育成する王立絵画・彫刻アカデミーが誕生し、アカデミー主催のサロン(官展)に入選し、会員に選出されることが画家の目標となりました。サロンは上流市民が美術を享受する場でもあり、肖像画の受容も高まっていったそうです。
その後、18世紀には優美な装飾性のロココ様式が流行したのですが、この古典主義からロココの時代のフランス絵画を愛好してロシアにもたらしたのはエカテリーナ2世やニコライ・ユスーポフ公という人物(外交官でもある)だったようです。ここにはそうした17世紀~18世紀の作品が並んでいました。

2 ニコラ・プッサン 「アモリびとを打ち破るヨシュア」 ★こちらで観られます
大画面の作品で、多くの人が剣や盾を持って戦う様子が描かれています。人々はぎっしり密集していて、剣を突き刺そうとしたり恐ろしげな表情をしたりと、ドラマチックな場面となっています。解説によると、これは旧約聖書のヨシュア記を元にしているそうで、画面左の方に剣を持って指示をするヨシュアの姿があります。また、画面の左上に太陽、右上に月が昇っていて、これは神の力を借りたヨシュアが戦いに勝つ為に太陽と月の動きを止めているそうです。そうした神話的な要素を持ちつつ、リアルな肉体表現など躍動的な雰囲気となっていました。

7 ジャン=バティスト・サンテール 「蝋燭の前の少女」
これは蝋燭の火で手紙を読む少女を描いた作品です。周りは暗く、火に照らされた少女が暗闇から浮かびあがり、少女は静かに微笑むような表情しています。その火の表現が柔らかく、安らぎを感じる温かみがありました。

3 クロード・ロラン 「アポロとマルシュアスのいる風景」
森と遠くの水辺に浮かぶ城?を背景に、人々が森の近くに集まっている様子を描いた作品です。これはギリシア神話の神々のようで、アポロとマルシュアスが竪琴の競争をして、負けたマルシュアスが木にくくりつけられ生きたまま皮を剥がされようとしています。アポロは近くの岩に座り、勝利の月桂樹の冠を後ろから被されようとしているようです。全体的に神話的な風景で、理想的風景画家と言わたロランらしい作風となっていました。なお、後にこの作品はエカテリーナ2世が購入したそうで、ロシアの力を示すためにヨーロッパ屈指のコレクションを築いたようです。

15 マルグリット・ジェラール 「猫の勝利」
赤い衣と白いサテンのスカートの女性が、白い猫を抱きかかえている様子が描かれ、その足元には白い犬が吠えています。これは犬が猫を妬んで吠えているように見えるので、このタイトルになっているようです。解説によると、この画家は17世紀オランダ画に学んだそうで、サテンの質感や調度品などにその成果が見られるようです。オランダの細密表現に比べるとぼんやりした感じもしましたが、面白い主題で気に入りました。

12 フランソワ・ブーシェ 「ユピテルとカリスト」 ★こちらで観られます
森の中で美しい2人の女性が寄り添っている様子が描かれた作品で、右の女性は頭に三日月の装飾をつけていて、この女性は女神ディアナのようです。ディアナは左の女性の顎に触れていて、こちらは従者のカリストです。しかし実はこのディアナは全能の神ユピテルが変身したもので、カリストを我が物にしようとしている場面らしく、背後に翼を広げた鷲がいるのがユピテルを暗に示しているようです。また、2人の脇には童子(プットー、キューピッドみたいな子供)が描かれ、3人で三角形の構図を描いていて、その頭上には流れるようなS字に連なる童子たちもいました。その構図の妙と、ロココ風の優美で色っぽい作風が面白く感じられました。

この近くにはつい先日に漱石展で観たグルーズの作品によく似た作品もありました。
 参考記事:夏目漱石の美術世界展 感想前編(東京藝術大学大学美術館)

11 カルル・ヴァン・ロー 「ユノ」
これは薄布をまとって横たわるユピテルの妻ユノと、その脇で孔雀の首を引っ張るクピド(キューピッド)が描かれています。この3者で三角形の構図を形作っていて、安定した画面構成となっているようですが、クピドは反り返るような姿勢が躍動的で、ユノはそれを見下ろし堂々とした美しさとなっているようでした。こちらも明るく軽やかな作風で華やかな雰囲気がありました。

19 ユベール・ロベール 「ピラミッドと神殿」
手前にローマの神殿のような遺跡があり、背景にはピラミッドがそびえ立つ空想の風景を描いた作品です。ローマ風の服の人々もいて何かを話し合っているのかな。ピラミッドはやけに縦長で、人々との縮尺の比較から大きさも半端じゃなさそうですw ユベール・ロベールは廃墟の画家の異名を持っていて、この作品でも奇想の風景となっていました。
 参考記事:
  ユベール・ロベール-時間の庭 感想前編(国立西洋美術館)
  ユベール・ロベール-時間の庭 感想後編(国立西洋美術館)


<第2章 19世紀前半-新古典主義、ロマン主義、自然主義>
18世紀末のフランス革命や1830年から始まる産業革命は市民階級の成長を促し、それは美術においても影響を与えたようで、依然として宗教画・歴史画が尊ばれる一方で、親しみやすい小ぶりな絵画が人気を集めるようになったようです。 この時代の大きな潮流としては新古典主義とロマン主義があり、そうした主義によらず人気を博したのは東方の主題だったようです。多くの画家達はエジプトやトルコを訪れて、異国趣味の絵画を描いてパリの画壇でもてはやされたそうです。ここにはそうした19世紀頃の作品が並んでいました。

31 ウジェーヌ・ドラクロワ 「難破して」 ★こちらで観られます
暗い海の中、小舟に6人の人々が描かれ、そのうち3人は倒れ、2人は1人を持ち上げている様子が描かれています。これは漂流しているらしく、死んだ人を海に投げ捨てようとしている場面だそうです。壮絶な難破の物語を思わせ、暗い海が不吉な雰囲気を出しています。解説によると、これはロマン派の詩人パイロンの長編詩を題材にしたドラクロワの「ドン・ジュリアンの難破」(ルーヴル美術館所蔵)の続編だそうで、やや粗めのタッチで嵐の様子がよく表されていました。

25 ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「聖杯の前の聖母」 ★こちらで観られます
これは新古典主義のアングルの作品で、後の皇帝アレクサンドル2世から注文を受けて描かれたそうです。中央に胸の前で手をあわせている聖母マリアが描かれ、その右に聖アレクサンドル・ネフスキー、左に聖ニコライが描かれ、脇の2人の聖人は注文主の守護聖人のようです。手前には中央にキリストの肉を表す丸い聖餐のパン?があり、マリアはそれを見つめていて、脇には燭台も並んでいます。くっきりとした輪郭で明暗が強く、ドラマチックな雰囲気がありました。特にマリアは一際明るく見えるかな。アングルの作品は何を観ても最高ですが、これも素晴らしい作品でした。

この近くにはアングルから影響を受けたロシアの画家の作品もありました。

27 ジャン=レオン・ジェローム 「カンダウレス王」
これはベッドで横たわる王と、その前で布を持って手を挙げる裸婦の後ろ姿が描かれています。右の方の部屋の出入り口には、それを覗き見る男の姿があり、これは古代リュディアの王、カンダウレスが王妃ルドの裸体の美しさを臣下のギュゲスに自慢したくて覗かせている場面のようです。この画家は中東の雰囲気を出した作品で人気を博したそうで、この作品でも異国情緒が漂っています。また、王妃の姿は均整が取れ、くねった体が優美で色気がありました。

近くにはドラローシュのロンドン塔に幽閉された2人の王子を描いた作品もありました。

35 ジャン=バティスト=カミーユ・コロー 「突風」
コローはバルビゾン派ですが、次の時代との橋渡し的な感じでこのコーナーに展示されていました。暗い空の下、風に揺れる大木とその脇の道で家路を急ぐ農夫が描かれた作品です。夕暮れ時らしく、嵐が迫る不安な雰囲気の空模様です。ややぼんやりとした画風ですが、一種の緊張感が感じられました。

この近くには映像でプーシキン美術館について解説していました。また、美術の歴史の年表などもあり、あまり美術史に詳しくない人にもわかりやすく説明していました。


ということで、前半から中々に見どころのある展示でした。しかしやはり人気なのはこの後の時代の作品のようでしたので、次回はそれについてご紹介しようと思います。


  → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事

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