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ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡 (感想後編)【江戸東京博物館】

今日は前回の記事に引き続き、江戸東京博物館の「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」の後編をご紹介いたします。前編を読まれていない方はまずは前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


  前編はこちら

P1110585.jpg


まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡

【公式サイト】
 http://edo-kiseki.jp/
 http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/exhibition/special/2013/05/

【会場】江戸東京博物館
【最寄】JR両国駅/大江戸線両国駅

【会期】
 前期:2013年5月21日(火)~6月16日(日)
 後期:2013年6月18日(火)~7月15日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では琳派と文人画のコーナーをご紹介しましたが、後編は残り3つの章についてです。

<円山四条派 写生と装飾の融合>
江戸時代の御用絵師であった狩野派は、中国や日本の古典絵画に学ぶ一方で写生から遠ざかっていたそうで、その弊害に気づいた円山応挙は写生の重要性を自覚し、それを実践することで新鮮な作品を送り出したそうです。円山応挙は多くの門弟を育て、共鳴者である呉春と共に円山四条派は隆盛を極めたそうで、森狙仙の森派や岸駒の岸派といった派生も生んだようです。ただし、彼らの写生は外面的な形似に留まっているようで、物の本質に鋭く迫るものではなく、装飾的な効果を追い求めていたようです。ここにはそうした写生と装飾の両面性を持つ作品が並んでいました。

44 円山応挙 「孔雀牡丹図」 ★こちらで観られます
鮮やかな色合の孔雀が振り返っている様子が描かれた作品です。周りは岩のある渓流らしく、ピンクの牡丹の花も咲いています。緻密で陰影などもリアルに描かれ、写実的な印象を受けます。また、画面の側面を沿うように描かれた尾にボリューム感があるように思いました。題材が孔雀なだけに装飾的な雰囲気のある作品です。

50 森狙仙 「滝に松樹遊猿図」 ★こちらで観られます
2幅対の掛け軸で、左幅は松の樹にのぼっている猿たちが描かれています。一方、右幅は滝が落ちる様子が描かれ、奥行きを感じさせます。作者の森狙仙は猿を描くのを得意としていたようで、刷毛を用いて表現したフサフサした毛並みや、豊かな猿の表情が見事です。親猿にしがみつく小猿の姿もあり、写実的ながらもどこか愛らしい表現に思えました。
この近くには岸駒の子供の作品などもありました。南蘋派風の雰囲気かな。

52 森徹山 「春鶴秋鹿図屏風(もと襖) 秋鹿図」
これは4枚の襖絵で、金地を背景に真っ赤に染まるモミジの樹の下に何匹かの鹿が集まっている様子が描かれています。鹿の毛並みまで細かく表されているものの、装飾的な雰囲気があり、落ち着きと美しい色合いが特徴となっていました。解説によると、この作者は応挙に学び森狙仙の養子になった画家とのことでした

55 柴田是真 「二節句図」
2幅対の掛け軸で、右幅には立派な邸宅の中でこちらに背を向けて座る子供が描かれています。その庭先には吹流しがあり、これは端午の節句を描いているようです。一方、右は農家の中にひな壇らしきものが描かれ、ひな祭りを題材にしているのですが、周りは秋の風景となっています。解説によると、現代の我々にはひな祭りといえば春の節句ですが、昔は秋の重陽の節句の際に行われていたこともあったようです。この作品は漆絵でも有名な柴田是真の作品ですが、恐らくこれは普通の彩色じゃないかな。緻密で独特の重厚感は出ているように思いました。

この近くには円山四条派の後継者ということで近代の竹内栖鳳の作品なども展示されていました。


<奇想画 大胆な発想と型破りな造形>
江戸時代は封建社会であり革新を嫌う風潮のだったようですが、そうした時代にあって経済力を増した庶民たちは、自分たちの文化や美術を育てるようになったそうです。彼らは型破りな造形を歓迎したようで、江戸狩野派に反発した京狩野の狩野山雪をはじめ、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢芦雪など個性的な画家も生まれました。ここにはそうした奇想の作品が並んでいました。

58 狩野山雪 「訪戴安道・題李かん幽居図屏風」
6曲の屏風で、賈島(かとう)という人が「題李かん幽居」という詩を作るときに言葉の選択に悩んだという「推敲」の故事に基づく話が描かれています。広々とした湖の畔に立派な邸宅と、その周りの切り立った岩山が描かれ、屋敷はかなり精緻に描かれている一方で、岩山は太い輪郭が使われていて大胆な印象を受けます。その岩山がどことなく雪舟を思わせるかな。雄大で落ち着きがありました。

59 伊藤若冲 「菊図」
3幅対で、様々な菊が描かれた作品です。ほぼ単色でやや簡略化されていて、左右は向き合うような配置と成っています。若干地味にも思えますが、装飾性と写実が入り混じったような雰囲気がありました。

63 曾我蕭白 「宇治川合戦図屏風」 ★こちらで観られます
これは平家物語の宇治川の先陣争いの様子を描いた作品で、赤い鎧の梶原景季と緑の鎧の佐々木高綱が馬に乗っている様子が描かれています。馬は口を開けて振り返り、梶原景季は刀を振り上げて左から飛んでくる矢を防いでいるようです。単純化された川は渦巻き、全体的に迫力ある画面となっています。馬は若干妖怪のような顔をしているのが蕭白らしいかなw

近くには蕭白のお得意の鉄拐仙人を描いた作品などもありました。

65 曾我蕭白 「大黒天の餅つき図」
満面の笑みで片足を上げて杵を振り上げる大黒天を描いた作品です。これはお酒の席で即興で描いたものらしく、非常に簡素な感じを受けますが、動きと楽しさが伝わってきます。大黒様も可愛らしく、面白い作品でした。

66 長沢蘆雪 「拾得・一笑・布袋図」
これは3幅対の掛け軸で、左は箒を持って片足を上げる拾得、中央は竹の側でじゃれあう3匹の子犬、右は杖を持った布袋が描かれています。画題がバラバラなので元々は対ではなく別々の作品と思われるようです。特に気に入ったのは中央の犬の絵で、「竹」と「犬」の漢字を合わせると「笑」になるので一笑図と呼ばれるようです。コロコロした感じは芦雪の狗子図によく見られる得意のモチーフかな。いずれも伸びやかな雰囲気がありました。

<浮世絵 都市生活の美化、理想化>
最後は浮世絵のコーナーです。江戸時代始めに京都で流行した風俗画は江戸にその場を移し、浮世絵として受け継がれていきました。浮世絵には版画と肉筆画(浮世絵師が直接描いた作品)がありますが、ここには肉筆画が並んでいました。

71 菱川師宣 「吉原風俗図」
これは吉原の遊郭の中を描いた作品で、たくさんの人々が描かれ、食事の支度をしている部屋や、客が遊女を呼ぶ際に相手をさせた「揚屋」の様子が描かれています。揚屋の中では客と床入りしている遊女の姿もあり、当時の遊郭の雰囲気がそのまま描かれているような活気がありました。

79 勝川春章 「文を破る女図」
軒先で柱によりかかり引きちぎった手紙を噛んでいる紫の着物の女性を描いた作品です。この女性は眉を落としているので人妻らしく、夫に届いた恋文を読んで心を乱している様子のようです。そんなに怒っているような顔ではないのですが、若干ぼーっとした感じが逆に怖いかもw 今も昔も変わらぬ人間模様を描いた面白い風俗画でした。

近くには懐月堂の肉筆画などもありました。

83 酒井抱一 「遊女立姿図」
琳派の継承者として有名な酒井抱一ですが、この作品は琳派研究の前の20代の頃の作品で、歌川豊春の特色を受け継いでいます。青い桜模様の打掛を着た吉原の遊女が描かれ、緻密で優美な立ち姿となっています。20代で既に卓越したセンスを持っていたのが伺える作品でした。

89 葛飾北斎 「源頼政の鵺退治図」 ★こちらで観られます
これは北斎の最晩年の肉筆で、やや斜め上に向けて弓を構える烏帽子の武者が描かれています。これは鵺(ぬえ)退治をする源頼政の姿らしく、筋肉隆々で厳しい表情からは緊張感が伝わってきます。鵺の姿はありませんが、上方の黒雲から二条の光が落ちていて、これが鵺の存在を示しているようです。北斎の衰えを知らない意欲が伺える作品でした。


ということで、個人のコレクションとは思えないくらいの品々でした。浮世絵も肉筆画が多くて驚き…。もう終わってしまいましたが、江戸時代の絵画の多様性も俯瞰できる内容でした。


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