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ルーヴル美術館展-地中海 四千年のものがたり- (感想後編)【東京都美術館】

今日は前回の記事に引き続き、東京都美術館の「ルーヴル美術館展-地中海 四千年のものがたり-」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


  前編はこちら


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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 【特別展】ルーヴル美術館展-地中海 四千年のものがたり-

【公式サイト】
 http://louvre2013.jp/
 http://www.tobikan.jp/museum/2013/2013_louvre.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)

【会期】2013年7月20日(土)~ 2013年9月23日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では古代の地中海についてご紹介しましたが、後半は近代までのコーナーです。

<第Ⅲ章 中世の地中海 ──十字軍からレコンキスタへ(1090-1492年)──>
10世紀まで地中海には3つの大文明が徐々に構築されていったそうで、地中海の北側は西方のキリスト教に支配され、東地中海はビザンティン帝国(東ローマ帝国)がローマ帝国を継承し、南地中海はイスラームが制圧してスペインに王朝を建国していました。11世紀になりキリストが生涯を過ごした聖地奪還を目的とした十字軍が結成されると、その均衡が崩され結果的にラテン国家建設へと至るそうで、カトリックはスペインのイスラーム王朝に対するレコンキスタ(再征服運動)を開始したそうです。その後、12世紀以降は地中海はイタリア商人たちに支配され商業と文化の交流が行われました。
13世紀末になるとサラディン(サラーフッディーン)率いるイスラームの軍がラテン国家を再び征服し、1453年にはコンスタンティノープル(イスタンブール)はオスマン帝国のトルコ人に攻略されたようです。しかし1492年にスペインのグラナダはキリスト教徒の手に落ちたそうで、東方と西方を代表する都市の陥落は新たな時代の到来を告げたようです。ここにはその1492年頃までの作品が並んでいました。

139 「杯:鎖帷子を着た十字軍兵士」 キプロス 1200年頃
盾と剣を持った鎖帷子の姿の十字軍の兵士が描かれた杯です。茶色と緑色の釉薬で描かれ、漫画のような緩い画風です。絵自体は十字軍ですが、その製法はイスラームで見られるもので、これは十字軍の遠征の中で生まれたキプロス王国の品とのことでした。ちなみに十字軍は200年で8年の攻防があったそうです。長い長い戦いですね…。

近くにはエルサレムにまつわる品々が並んでいました。

162 「キリストのモノグラムIHS が記された大皿」 マニセス、スペイン 1450年頃
キリストを表す「IHS」の文字が金字で書かれ、周りに青の花文様が描かれた大皿です。キリスト教を表す柄ですが、ファイアンス焼きのラスター彩で、これもイスラームの製法です。アラブ人から製法が伝えられたようで模様などもイスラム風かな。キリスト教社会とイスラーム社会が敵対しながらも交流していたことが伺えました。

155 「聖ジョスの骸布:2頭の向かい合う象で装飾され、中央アジアのトルコ人地方総督の名前がアラビア語で記された布(1134年以降、フランスのサン=ジョス=シュル=メール修道院に保管されていた)」 メルヴ(?)、トルクメニスタンあるいはニーシャープール(?)、イラン 950年頃 ★こちらで観られます
向かい合う象やラクダなどが表された装飾的な布で、これはフランスの修道院で聖人の遺骸を包む骸布として使われていたようです。元はイランで作られ、これを寄進した英国王の父が十字軍に参加して、彼の地から持ち帰ったのではないかと推測されるようです。イスラームの品がキリスト教社会で珍重していたのがよく分かると思います。品物自体も緻密で見事な布でした。


<第Ⅳ章 地中海の近代 ──ルネサンスから啓蒙主義の時代へ(1490-1750年)──>
1453年にビザンティン帝国(東ローマ帝国)がオスマン帝国(オスマントルコ)に滅ぼされたことによって、地中海の均衡が大きく崩れたそうで、オスマン帝国が東ヨーロッパからマグレブ地方に至る地中海沿岸のほぼすべての国々を支配下として、その歴史上ただ1度だけ地中海がイスラーム勢力の手に渡りました。オスマン帝国の領土拡大は中央ヨーロッパのウィーンで、そして1571年に起きたギリシア沖のレパントの海戦で食い止められ、スペイン・オーストリアのハプスブルク家はオスマンに対抗する唯一の巨大勢力で在り続けたようです。しかし、コロンブスの探検以降ハプスブルク家の経済的な関心はアメリカ大陸に向けられたそうで、他方ではイタリアのヴェネツィア、ジェノヴァだけが各地に置かれた商館を頼りに東地中海を探索したようです。また、トルコと西洋諸国の対立がきっかけとなり、敵対する両陣営は互いの文化を知ってそれに魅了されていったらしく、この章ではそうした作品も展示されていました。ここから先は絵画作品が多めになっています。

169 ヤコポ・ネグレッティ、通称パルマ・イル・ジョーヴァネ 「ヴェネツィア艦隊提督ヴィンチェンツォ・カペッロ(1467-1541年)の肖像」 イタリア 1610年頃
黒い鎧と赤いマントを身につけた白いヒゲの老人が描かれた肖像画です。これはヴェネツィア艦隊の提督だった人物で、東西の交易をしていたそうです。絵自体はちょっとくすんでいますが、堂々とした感じで威厳がありました。

この近くには海上での戦いを書いた作品などもありました。また、イギリス、ギリシア、フランスなどの人物を描いた素描のような作品もあり当時の人々の文化が伝わってきました。

177 ジャン=エティエンヌ・リオタール 「トルコ風衣装のイギリス商人レヴェット氏と、クリミアの元フランス領事の娘グラヴァーニ嬢」 スイス 1740年頃 ★こちらで観られます
これはトルコの男女が描かれた作品です。…と思ったら、これはイギリスの商人とフランス領事の娘がトルコ風の格好をしているようです。ソファ?の上で女性は琵琶のような楽器を弾き、男性はターバンを巻いています。これを見れば当時のヨーロッパのトルコ趣味への傾倒がつぶさに分かるかなw 写実的に描かれていて、陰影表現なども真に迫るものがありました。
なお、オスマンでは逆にロココ風の工芸品やイギリス製の時計がもてはやされたそうです。

196 「煙草入れ」 ヨーロッパ 1800年頃
これはオリエント市場向けの工芸品で、楕円形の赤い地の小箱にダイヤや金で花のようなものが表されています。これは一目で高そうな感じがする豪華さで、可憐さもあります。ヨーロッパ風のものがオリエントで求められていたことが伺えました。

続いてはギリシア神話に関するコーナーです。ギリシア神話は当時のヨーロッパのエリート層の文化に深く根付いていたようです。

205 グイード・ドゥランティーノ工房 「ラファエロに基づくエウロペの掠奪を描いた、ウルビーノ司教ジャコモ・ノルディの紋章入りの皿」 イタリア 1535-40年頃
これは丸い皿に鮮やかな色で「エウロペの掠奪」が描かれた品です。(ストーリーについては前編を参照) 元はラファエロの作品を元に絵付けされているのですが、ラファエロとはだいぶ違った若干野暮な色使いかな。やりすぎなくらい色が鮮やかな感じを受けましたが、この主題が人気だったことを伺わせました。
 参考記事:
  ラファエロ 感想前編(国立西洋美術館)
  ラファエロ 感想後編(国立西洋美術館)

この辺にはエウロペをモチーフにした作品が並んでいました。そしてその後にはクレオパトラの自殺をモチーフにした作品が並びます。

213 ジョヴァンニ・ピエトロ・リッツォーリ、通称ジャンピエトリーノ「エジプト最後の女王、クレオパトラの自殺」 イタリア 1500-50年頃
これはローマ軍に敗れ自らに毒蛇を噛ませて自殺するクレオパトラの肖像で、裸婦の姿で描かれています。横を向いて体は豊満な肉体表現で描かれ、ややエロティックな雰囲気がありつつ人体をよく観察しているように思いました。

この近くにはこれと同じ主題の彫刻作品のクロード・ベルタン「エジプト最後の女王、クレオパトラの自殺」(★こちらで観られます)などもありました。

この辺で中階は終わりで、エスカレーター付近では中世からビザンティン帝国までの遺跡を撮った映像が流れていました。


<第Ⅴ章 地中海紀行 (1750-1850年)>
18世紀から19世紀にかけて、オスマントルコは深刻な危機(軍事費増による財政難・インフレなど経済の混乱、それによる反乱の頻発、後継者争い等)に直面し、衰退していきました。 それによってヨーロッパ人たちが地中海世界を再び探索できるようになり、18世紀のエリートたちはグランドツアーという旅に出かけるようになったそうです。これは芸術家や教養人がイタリア、シチリア、ギリシアなどを見て回るもので、そこでのスケッチなども多く残されました。また、1738年からナポリ近郊のポンペイとヘルクラネウムの遺跡の発掘が始まったことで古代に関する知見が一新されたそうで、1788年にはナポレオンのエジプト遠征によって東方趣味が流行しました。
この時代の西洋列強の武力征服とナショナリズムによって地中海世界は均衡が乱され、ギリシアは1821年から30年の独立戦争を経て独立し、イギリスはエジプトやオマーンを、フランスはアルジェリアやチュニジアを手に入れていったそうです。ここにはそうした時代の品々が並んでいました。
 参考記事:
  巨匠たちの英国水彩画展 感想前編(Bunkamuraザ・ミュージアム)
  ポンペイ展 世界遺産古代ローマ文明の奇跡 感想前編(横浜美術館)
  ポンペイ展 世界遺産古代ローマ文明の奇跡 感想後編(横浜美術館)  

220 「トロイアの王子パリス」 ティヴォリ、イタリア 130年頃 ★こちらで観られます
「パリスの審判」の話で有名なトロイアの王子パリスの彫像で、元々はハドリアヌス帝の庭から出てきたものだそうです。腰に左手を当てて右手で木に持たれ、足を組んで立っている姿で表されていて、均整の取れた理想的な肉体表現に見えます。滑らかで艶かしい雰囲気にも思えるかな。解説によると、これはギリシアの彫刻をローマ時代にコピーしたものと考えられるそうで、これを発掘したのは画家でもあったギャヴィン・ハミルトンだったそうです。この作品の隣にはギャヴィン・ハミルトンの絵もありました。

219 「アルテミス:信奉者たちから贈られたマントを留める狩りの女神、通称[ギャビーのディアナ]」 ギャビー(現オステリア・デル・オーザ)イタリア 100年頃
これは今回のポスターにもなっている目玉作品で、肩に右手を当てて左手で服の裾を持って立つ女神像です。小顔でやや首を傾げるようなポーズが非常に優美で、大理石なのに布が柔らかそうに見えます。解説によると、これはギリシアのプラクシテレスが作ったものをローマ時代にコピーしたものではないかとのことで、これもギャヴィン・ハミルトンが発掘したそうです。その衣装から女神アルテミス(ディアナ)と考えられるそうで、気品ある佇まいとなっていました。コピーなのにこの見事さには驚きです。

続いては水彩のスケッチのコーナーです。ローマ、ポンペイ、シチリアなどの神殿や風景などグランドツアーで描かれた作品が並んでいました。

240 ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 「ハイディ:ギリシアの若い娘、イギリスの詩人バイロン卿(1788-1824 年)による『ドン・ジュアン』の登場人物」 フランス 1870-72年頃 ★こちらで観られます
こちらは3度もイタリアを訪れたフランスの画家コローの作品で、楽器を持って岩場にもたれ掛かるギリシアの女性が描かれています。背景は海で、娘の身なりは庶民的な感じです。解説によると、これは詩人バイロンの「ドン・ジュアン」という物語に出てくるハイディという名前の海賊の娘らしく、主人公が難破したした際に介抱してくれた人物だそうです。全体的にぼんやりした表現はコローらしい感じで、留学の際に見てきた地中海が背景に描かれているようでした。

続いてはナポレオンの遠征関連の作品が並ぶコーナーです。この遠征は軍事的には失敗したものの、フランスをエジプト趣味の虜にしたそうで、それを伺わせる作品が並びます。

249 「『エジプト誌』:口絵(古代、第1巻、第2葉)」 パリ、「ナポレオン1世の命により出版」 1809年
これはナポレオンがエジプト遠征の際に連れて行った画家たちが描いたエジプトの風景が口絵になった本です。オベリスクやスフィンクスなどエジプトらしいものが描かれていて、これによってヨーロッパは空前のエジプトブームとなったそうです。

この近くにはエジプト風の人物が描かれたカップとソーサーや、風景素描、トルコ人を描いたパステル画などもありました。

その後はオリエント・イスラーム風景を描いた作品が並ぶコーナーです。当時まだヨーロッパ人にはその地域への旅行は危険で、実際に訪れた人は稀だったそうです。

250 テオドール・シャセリオー 「モロッコの踊り子たち:薄布の踊り」 フランス 1849年
建物の中で薄い布を持って踊る2人の女性を描いた作品で、イスラム風の衣装が異国情緒豊かに表現されています。周りにはターバンを巻いた人々の姿があり、作者は実際に2週間くらいモロッコに行ってこうした人々をスケッチしてきたそうです。華やかで異国への憧れのようなものが感じられる作品でした。
この近くにはレバノンの風景を描いた作品などもありました。

続いてはオスマントルコの衰えに乗じて地中海を植民地化していったイギリスとフランスについてのコーナーです。チュニジアやシリアの服や、建築装飾などが展示されていました。また、その逆にトルコに伝わったロカイユ様式の鏡や、アルジェリア太守からフランス王に贈られた豪華な時計なども展示されています。

最後は地中海への観光に関するコーナーです。交通環境が整備され1883年にはオリエント急行がイスタンブールへと伸びたとのことで、イスタンブールに関する品が展示されていました。

273 ピエール・プレヴォ 「コンスタンティノープル(現イスタンブール)のパノラマ」 フランス 1818年
これはイスタンブール(コンスタンティノープル)の眺めをパノラマにして見せるための絵で、見た感じ180度くらいに見えるかな。写実的に見渡すように描かれていて、当時の様子を伝えています。交通環境が整備されてもまだ旅行は困難な時代なのでこれを見て彼の地に思いを馳せたのかな。


ということで、一気に地中海の歴史をたどるような展示でした。私としてはキリスト教とイスラームが対立しながらもお互いの文化に惹かれ合っていたのが特に面白く感じました。これだけ様々な品を所蔵しているルーヴルはやはり凄いですね。今後もますます人気が出そうな展覧会ですので、気になる方はお早めにどうぞ。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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