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日本の「妖怪」を追え! 北斎、国芳、芋銭、水木しげるから現代アートまで 【横須賀美術館】

前回ご紹介した横須賀美術館の常設とレストランに行った後、今回の特別展「日本の[妖怪]を追え! 北斎、国芳、芋銭、水木しげるから現代アートまで」を観てきました。この展示は前期・後期に分かれているようで、私が観たのは後期の内容でした。

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【展覧名】
 日本の「妖怪」を追え! 北斎、国芳、芋銭、水木しげるから現代アートまで

【公式サイト】
 http://www.yokosuka-moa.jp/exhibit/kikaku/1302.html

【会場】横須賀美術館
【最寄】馬堀海岸駅、浦賀駅、JR横須賀駅など


【会期】
 前期:2013年07月13日(土)~08月04日(日)
 後期:2013年08月06日(火)~09月01日(日)
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④
_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、今回の展示は日本の「妖怪」をテーマにした展示で、江戸時代から現代まで様々な妖怪画が並んでいます。お互いの作品は特に繋がりはないのですが、時代ごとに3つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品ともにご紹介していこうと思います。


<1章 妖怪登場―大都市・江戸に生まれた物語>
まずは江戸時代の浮世絵などが並ぶコーナーです。

1 鳥山石燕 「画図百鬼夜行」
狩野派の絵師による妖怪図鑑で、1ページに1体ずつ描かれています。うぶめ(産女)という子供を抱っこしている妊婦の亡霊や、家鳴りという縁側や戸板を揺らす小さな鬼のような妖怪のページが展示されていました。全部で52の妖怪が描かれているそうで、怖くは無いものの妖しい気配が漂っていました。
近くにも同じよな冊子があり、雪女やぬらりひょん、枕返し等の挿絵がありました。「今昔画図続百鬼」という冊子には解説もついているようでした。

13 秀斎 「後鳥羽法皇の夢中にあわられる妖怪の図」
これは6枚続きの錦絵で、白い象を中心に鬼や付喪神のような異形の者達が集まっています。左上には雲間から仏が太陽のように光を放っていました。これも怖いというよりは卑近な感じを受けるかな。

23 歌川国芳 「相馬の古内裏」
これは今回のポスターにもなっている有名な作品で、山東京伝の「善知安方忠義伝」に取材していて、巨大な骸骨が現れた様子が描かれています。解説によると、これは滝夜叉姫の幻術の骸骨らしく、山東京伝の本では沢山の普通の大きさの骸骨が現れるようですが国芳は1つの巨大な骸骨としています。骸骨の前には大宅太郎光国が滝夜叉姫の部下の荒井丸を押さえつけていて、その背後には滝夜叉姫が巻物を読んでいる姿がありました。骸骨は人体に基いているようで、おどろおどろしい雰囲気の作品です。
この隣には歌川国芳の「源頼光公館土蜘作妖怪図」もありました。
 参考記事:
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 前期:豪傑なる武者と妖怪 (太田記念美術館)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 前期 感想前編(森アーツセンターギャラリー)

15 月岡芳年 「百器夜行」
提灯に顔がついていて、口をあけている様子が描かれた作品です。この妖怪は「東海道四谷怪談」のお岩さんの亡霊で、提灯には「南無阿みた仏 俗名いわ女」と描かれています。提灯に亡霊が乗り移ったところらしく、これは歌舞伎の「提灯抜け」という舞台演出から着想を得ているとのことです。大きく口を開けて上を見るような目が何とも恨めしげでした。
この近くには皿屋敷を題材にした作品もありました。

19 葛飾北斎 「百物語 笑ひはんにや」 ★こちらで観られます
牙を生やした老婆のような般若がニヤニヤ笑っていて、その手には青白い顔の赤子の首が握られています。赤子の首は血を流していて、般若の口には血がついているので今食べたような感じです。表情からも狂気が感じられ、この日一番怖かった絵はこれじゃないかな。

33 歌川芳藤 「五拾三次之内猫之怪」
これは9匹の三毛猫が集まって化け猫を形作っているという作品で、目の辺りは酒瓶みたいなもので表されています。こうした技法は寄せ絵といい、師匠の歌川国芳もよく寄せ絵作品を残しています。化け猫は可愛いような怖いような可笑しいような…w 独特の妖怪画でした。

39 歌川国芳 「道外とうもろこし 石橋の所作事」
髪の長いトウモロコシが擬人化された作品で、その後ろにはカボチャとさつまいも?の擬人化で笛を吹いたりして舞台演奏しているような感じです。タイトルから察するに能の石橋(しゃっきょう)を演じているのかな? 結構緩い単純化で可笑しみが感じられました。
 参考リンク:石橋 (能)のwikipedia

45 歌川芳虎 「百物語戯双六」
これは妖怪の双六で、タイトルは百物語となっていますがマス目は20もないかな。踊る化け猫(猫又)や提灯のお岩さん、火車、ろくろ首などお馴染みの妖怪たちが描かれ、あがりは十二単姿の九尾の狐となっていました。これは100マスで作ったら面白そうw 妖怪たちは江戸の頃から親しまれていたようです。


<2章 妖怪変化―近代にあらわれたさまざまな妖怪像>
続いては明治以降の近代の錦絵などが並ぶコーナーです。ここでは幽霊や妖怪は前時代的なものとして取り扱っている作品もありました。

57 月岡芳年 「新形三十六怪撰 源頼光土蜘蛛ヲ切ル図」
これは病気で臥せっていた源頼光と僧侶の格好をした土蜘蛛を描いた作品で、布団の上で刀を抜こうとしている源頼光と薄布のような巣網をかけようとしている土蜘蛛がこれから戦うような感じです。土蜘蛛の目は黄色くランランとしているのが非常に不気味…。解説によると、このぎょろっとした目の土蜘蛛は師匠の歌川国芳が描いた「源頼光公館土蜘作妖怪図」と類似しているとのことでした。
 参考記事:没後120年記念 月岡芳年 感想後編(太田記念美術館)

72 岸勝 「幽霊図」
これは白装束の女性の幽霊を描いた掛け軸で、髪は風で流され顔は青白く、歯をむき出しにしてニヤッと笑っています。また、掛け軸の下の方は掛け軸の表装の部分とその間が曖昧になっていて、「描き表装」の技法も使われています。その為、幽霊が絵から抜けだしてくるかのように感じられ、ちょっと恐ろしい絵でした。

この近くには河鍋暁斎の幽霊がも展示されていました。

117 松井冬子 「夜盲症」
これは現代の画家 松井冬子 氏の作品で、内容的には3章ですが、2章の辺りに展示されていました。白黒の掛け軸で、縦に引き伸ばしたように女性の幽霊が描かれ、手には羽をむしりとられた鳥?を逆さまにもっています。髪が異常に長く、足あたりまで(肩より下の部分はうっすらしているので推定)伸びているのもも不気味でした。表情も虚ろなのが怖い…。
この隣にも松井冬子の作品があり、下絵なども展示されていました。

68 落合芳幾 「東京日々新聞 九百十一号」
これは明治時代の新聞で、男性が跪いている女性の胸ぐらを掴んで問いただしているような光景が描かれています。解説によると、この女性(隣に住む女房)が男性の亡くなった奥さんの幽霊のふりをして、小袖や首飾り 金品などを巻き上げていたらしく、その正体を見破って締めあげているところのようです。男性は散切り頭をしていて、幽霊は迷信であるという文明開化の風潮を象徴的に描いているようでした。

この辺には同じように落合芳幾による東京日々新聞の挿絵が並んでいました。そして続いては水木しげるの妖怪のコーナーです。水木しげるの妖怪画は墨で描いたモノクロと、それをコピーして水彩絵の具で彩色したカラー作品の2種類があるそうです。

80 水木しげる 「朧車」
草むらの上にいる牛車に顔がついたような妖怪です。しずく型の黄色い目をしていて妖怪らしいおどろおどろしい雰囲気となっていました。水木しげるらしい作風です。

83 水木しげる 「飴屋の幽霊」
屋根の上で三日月を眺めているような髪の長い白装束の女の幽霊が描かれ、その背後にはハイハイする子供が描かれています。タイトルから察するにこれは幽霊となって飴屋に通って子供を育てた「飴屋の幽霊」の話かな。ざらついた雲の表現が水木しげる独特の画風のように思えました。やや物悲しい雰囲気の作品です。
 参考記事:番外編 京都旅行 祇園~清水寺エリアその2

87 水木しげる 「雪女」
両手を前にして何かを捕まえようとしているような雪女が描かれた作品です。髪は吹雪で乱れ、黄色い目が猫のようにランランとしています。そのポーズと髪をくわえるような表情が恐ろしく、やや狂気を含んでいるようでした。
この近くにあったツララ女も恐ろしい姿をしていました。


<3章 妖怪はここにいる―現代アートにみる妖怪像>
最後は現代アーティストの作品が並ぶコーナーです。現代の作品には社会批判が含まれているようです。

93 池田龍雄 「化物の系譜 舞台」
体の長い動物のような人間のような妖怪が、逆立ちしている妖怪の足を食べている様子が描かれた作品です。周りには沢山の倒れた妖怪の姿もあり、全体的に茶色いモノトーンカラーとなっていて、静かで不気味な雰囲気です。解説によるとこの作者は米軍基地問題をテーマにした作品など日本社会の矛盾をえぐり出す風刺画を制作した人物だそうで、ここでは現代社会の不条理や人間世界を化物姿で寓意的に描いているとのことでした。

94 池田龍雄 「化物の系譜 ショーバイ」
口がチャックのようになっていて人の足を持つサメのような化物が、小さな手で書類を貪るように食べている様子が描かれた作品です。背景にはビルや工場が描かれ、化物の顔は無いのが一層不気味に感じられます。盲目的に仕事をしていることへの批判なのかな? これも風刺が込められていそうでした。 
この近くには昭和期の画家の油彩の作品もありましたが、抽象的でちょっと分かりづらいかも。

106 漆原英子 「The Sybarite―快楽を求める人―」
肉腫のような感じでぼこぼこした顔の人が白目をむいてニヤッと笑っている様子が描かれた作品です。タイトルのせいか強欲な印象を受けるかな。これも生理的に不気味に感じられる作品でした。

145 鎌田紀子 「ふすまのとって」
これは様々な形の襖の取っ手の部分がずらっと並んだ作品で、それぞれの取っ手の窪みには目の大きな妖怪の顔や全身像が描かれています。その為、取っ手がまるで窓のような感じで、中を覗きこんでいるような感じを受けるかな。これもちょっとキモいキャラクターでしたが、どこか愛嬌もあるように思えました。発想も面白い作品です。

109 今道子 「烏賊+ネギ+少女」
これはイカと花とネギ?などを組み合わせて少女の生首のようにしたものを撮った白黒写真です。真ん丸の目をしていて、異形の雰囲気が怖い…。この近くにはこの作家による同様の写真が並んでいたのですが、これはアルチンボルドや国芳の寄せ絵を妖怪写真にしたような面白さがありました。

127 フジイフランソワ 「ここに居ぬ」
これは3匹の子犬が集まっている様子が描かれた作品です。…と思ったら、犬の額や頭にも目があり、尻尾は唐獅子のような妖怪犬かな。ぱっと観た感じで長沢芦雪の狗子図を彷彿としますが、これは千葉市美術館所蔵の長沢芦雪「花鳥蟲獣図鑑」に由来しているそうで、目が沢山あるのは中国の霊獣 白澤(はくたく)に通じるそうです。また、この画家は伊藤若冲や長沢芦雪などをモチーフにしているらしく、特徴をよく押さえた画風となっていました。

最後は先ほどご紹介した鎌田紀子の作品が1部屋を埋め尽くすような感じになっていました。人間に近い容姿ですが大きな眼玉が飛び出すような妖怪で、フィギュアなどが並んでいました。


ということで、古今の妖怪を堪能することができました。特に江戸と近代の作品は奇想天外で面白い内容だと思います。この美術館は景色や食べ物も素晴らしいので、残り少ない夏休みに日帰りでどこか行こうと考えている方には特にお勧めです。

おまけ:

美術館からほど近いところに砂浜があり、海の家もありました。
P1120345.jpg

また、美術館のすぐ近くにはスパ施設があり、今回も寄ってきました。海水浴客も結構来ていました。
P1120352.jpg


 参照記事:★この記事を参照している記事
 
 
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Comment
No title
横須賀美術館は良い所にありました~。情報をありがとうございました。

横須賀中央は娘が去年から住んでします。
私も時々行くので今度機会が有れば寄りたいです。
但し、私はお化けが怖いので別の機会にします。(笑)
Re: No title
>イアンさん
コメント頂きましてありがとうございます。
こちらは風光明媚なところにあっていいところですよ。
横須賀自体おしゃれな街で住んでいる方が羨ましいです^^
ぜひ美術館にも足を運んでみてください
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