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ミケランジェロ展―天才の軌跡 (感想前編)【国立西洋美術館】

この前の土曜日に国立西洋美術館で「システィーナ礼拝堂500年祭記念 ミケランジェロ展―天才の軌跡」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1120646.jpg

【展覧名】
 システィーナ礼拝堂500年祭記念 ミケランジェロ展―天才の軌跡

【公式サイト】
 http://www.tbs.co.jp/michelangelo2013/
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2013michelangelo.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年9月6日(金)~11月17日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日11時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
始まって2週目に行ったのですが、意外と混雑もなく自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展示はルネサンス期の巨匠ミケランジェロに関する内容で、カーサ・ブオナローティが所蔵する素描や資料などが中心となっています。カーサ・ブオナローティはミケランジェロが1508年に購入して9年間住んだ後に甥のレオナルドに譲った家で、19世紀まではブオナローティ家が住んでいたようですが、現在ではフィレンツェ市に譲られ美術館になっていて、ミケランジェロの素描と書簡のコレクションは世界一だそうです。
今回の展示品には門外不出とされていた初期の傑作「階段の聖母」(彫刻作品)なども含まれていましたので、詳しくは各章ごとにご紹介していこうと思います。


<第1章─伝説と真実:ミケランジェロとカーサ・ブオナローティ>
まずはミケランジェロの偉業に関する資料や素描についてのコーナーです。建築家・彫刻家・画家、そして詩人だったミケランジェロ・ブオナローティはトスカーナの小さな村に生まれました。ブオナローティ家は13世紀からフィレンツェの行政官を勤めた家柄で、ミケランジェロもそれに誇りを持っていたらしく、メディチ家のロレンツォ・イル・マニフィコが統治していたフィレンツェで育ちました。
13歳でドメニコ・ギルランダイオに弟子入りした後、ロレンツォ・イル・マニフィコの庇護を受けて彼を取り巻く芸術家・哲学者・文学者等と親交を結んでいったようです。その後のミケランジェロは波乱に満ちた長い芸術的生涯において、ボローニャやヴェネツィアを経てローマに住んで活動を続けましたが、最後はフィレンツェのサンタ・クローチ聖堂でガリレオ・ガリレイの向かいに埋葬されたようです。
ミケランジェロの神格化については存命中から親交していた画家で伝記作家でもあるヴァザーリの「美術家列伝」で既に行われていたようで、チマブーエ以来のイタリア美術の「発展」の頂点としてミケランジェロを位置づけ、「我々芸術に携わる者たちへ神が使わされた模範」とまで宣言されていたようです。一方でこの伝記では、自信家で傲慢でもあるが孤独を好み質素な生活を送ったともあるようで、ミケランジェロを描いた肖像などにもその性格が現れているようです。ここにはそうしたミケランジェロの人物像に迫るような品々が並んでいました。

1 マルチェッロ・ヴェヌスティに帰属 「ミケランジェロの肖像」
これは親しい弟子が描いたミケランジェロの肖像の模写で、ミケランジェロが60歳くらいの頃の姿で描かれています。おでこと眉間にかなりの皺を寄せてこちらをじっと見ています。やや白髪交じりで、イメージ通りの厳しそうな雰囲気かな。解説によると、修行時代に仲間の素描にケチをつけて殴られたことがあるそうで、一生鼻が曲がったままだったそうです。しかしこの肖像ではそれはあまり強調されていないようで、見ていてもそれは分かりませんでした。ちなみにミケランジェロは肖像を描かれるのは好きではなかったのだとか。やはり頑固なイメージが…w

この辺にはミケランジェロ宛の手紙や、ブオナローティ家の紋章入の皿、ミケランジェロを象ったメダルなどがありました。この辺は貴重だとは思いますが観てもピンとこないかなw
その少し先にはミケランジェロが食べ物をごく簡素にスケッチしたメモ帳のようなものもあり、そこにはパン・ワイン・魚くらいしか描かれていませんでした。ミケランジェロは必要以上の楽しみのための食事は摂らなかったらしく、確かに質素な感じです。肉が無いのは復活祭前だからではないかとも考えられるようでした。

7 ミケランジェロ・ブオナローティ 「甥レオナルド宛ての手紙[1554年4月21日]」
こちらはミケランジェロから甥のレオナルドに当てた手紙です。ミケランジェロは甥を自分の子供のように可愛がっていたそうで、この手紙は甥の子供が生まれたという報告への返答らしく、一族の繁栄を願っているようです。きっちりした文字で書かれて読みやすそうかな。甥と一族を思いやるという一面が伺える品でした。

この辺はミケランジェロの手紙が中心でした。貴重なものですが研究家でもなければこの辺を観て感激する人はあまりいないかも…。

11 ミケランジェロ・ブオナローティ 「詩 [もし不滅への願望が…]」
これは詩の草稿で、カヴァリエーリという上流階級の青年との出会いとその想いを詩にしたものです。 …って、相手は男です。ミケランジェロは同性愛者だったとする説は有名ですが、当時は同性愛は今以上にスキャンダルだったらしく、低俗な肉欲と批判されたことへの反論として書かれ、魂に対する憧れであることを詠っているようです。裏面が透けていて読みづらいですが、A4くらいの紙に細かい字で書かれ、右側の方は横書きになっていました。 …これもある意味イメージ通りの一面かな。ダ・ヴィンチも同性愛(もしくは両性愛)の疑いがあったみたいだし、芸術家には多いのかも。

この近くにはカーサ・ブオナローティの外観を描いた後世の画家の作品もありました。ブオナローティ家を立派にするのがミケランジェロの望みでもあったようです。

15 ミケランジェロ・ブオナローティ 「レダの頭部習作」 ★こちらで観られます
これはミケランジェロの素描の中でももっとも美しく重要な作品の1つと言われているそうで、「レダと白鳥」という作品の為の習作となります。レダと白鳥は、白鳥に化けた全能神ゼウスが美しいレダ(スパルタ王の妻)を誘惑するという話で、数多くの画家が挑んだ題材です。ミケランジェロもこの主題に取り組んだのですが、本作は既に失われているらしく、模写やこうした素描で当時の様子を伺うことになります。この素描にはレダの頭部のみが描かれているのですが、当時の慣習に従ってモデルは男性の弟子のアントニオ・ミーニが務めたと考えられるようです。陰影の表現が絶妙で、目の上や頬の辺り、唇など褐色の濃淡で表現していました。解説によると、これらは指でぼかしたとも、水で濡らしたチョークを使ったとも言われているそうです。 また、この素描の左下には目と鼻だけを描いたものもあり、そちらはまつ毛が長く女性っぽく描かれていました。

16 フランチェスコ・ブリーナに帰属 「レダと白鳥」
これは失われたミケランジェロの作品を模写したもので、裸婦(レダ)が大きな白鳥(ゼウス)を抱いて俯いている様子が描かれています。非常に優美で官能的な雰囲気があり、元々の作品の美しさを伺わせます。解説によると、ミケランジェロの「レダと白鳥」は行き違いが重なり注文主に渡ることはなく、弟子によってフランスに運ばれたものの、17世紀に猥褻であるとされて焼却されてしまったそうです。…何とも勿体無い話です。


<第2章─ミケランジェロとシスティーナ礼拝堂>
続いての2章はミケランジェロが手がけたシスティーナ礼拝堂の天井画と祭壇画についてのコーナーです。ミケランジェロは、1483年に献堂されたシスティーナ礼拝堂に教皇ユリウス2世の委託で1508年(ミケランジェロ30代)から12年間に「創世記」の天井画を手がけ、さらに1536年から41年(ミケランジェロ60代)の間に「最後の審判」の祭壇正面壁画を描きました。
天井画は40m×13mにも及ぶ超大作で、4年の月日を費やして完成したそうで、天井中央には旧約聖書の天地創造の3場面、アダムとエバの創造と堕天の3場面、ノアの物語から3場面の合計9場面から成っているそうです。さらにその周囲には救済者の到来を予告した旧約聖書の預言者と異教の巫女、その下にキリストの祖先、四隅にはユダヤの民の物語なども描かれているらしく、こうした各場面は神学者の選定に基いているようですが、具体的な説得力を持って描いたのはミケランジェロの教養と手腕あってのもののようです。そしてそれ以外にも一見した限り物語の伝達において副次的な役割しか持たない人物像も沢山描かれていますが、同時代や後世の芸術家の想像力を刺激したのはこうした人物像の卓抜さや短縮法の完璧さ、輪郭線の驚くべき柔和さなどだったそうです。
一方、最後の審判はこの世の終わりにキリストが再臨し、生前の行いと信仰に応じて天国と地獄に振り分けられるという題材で、教皇パウルス3世によってこの主題が選ばれたそうです。当時はルターの宗教改革が吹き荒れ、イギリスでは国教会が設立され、ローマにおいても「ローマ却掠」(神聖ローマ皇帝の軍がローマで殺戮や略奪などを行った事件)が起こるなど、教皇の権威が失墜していたそうです。その為、対抗宗教改革を行うこととなり、キリスト者の正しい救済のありかたを示し、カトリック以外に救済を求めるものへの警告として「最後の審判」が相応しいと考えられたようです。
ここにはその素描などが並び、素描を通じて構想過程を観るという内容となっています。しかし、ミケランジェロは数度に渡って部分的に素描を処分していたそうで、天井画の場面構想を示す素描は一切ないそうです。(1518年に自ら燃やしたと考えられる) その為、ここでは残された人物習作などが中心となっていました。

18 19 ミケランジェロ・ブオナローティ 「システィーナ礼拝堂天井画《楽園追放》のアダムのための習作」
これは天使に剣で突かれそうになりながら楽園から追放されるアダムとエバを描いた部分の素描で、No.18の作品では首から下が簡素に描かれています。一方No.18の作品では特に左腕と左手、右手の掌などが描かれ、完成作で嫌がって手を出して身を守っているアダムの様子とそっくりに描かれています。腕と手がリアルに描かれていて、これを何度も構想している様子が伺えました。

この辺は人物素描が中心で、結構簡潔なものもありますが、こんなところまで?!と驚くような素描もありました。ミケランジェロは天井画を経験がないと断ろうとしていたようですが、やるとなったらとことんやる人だったのかも。

この近くには天井画を模したテーブルなどもありました。

28 ミケランジェロ・ブオナローティ 「《最後の審判》のための習作」 ★こちらで観られます
これは最後の審判の壁画全体の構想の習作で、先述の通り構図の習作はほとんど燃やされてしまったのでこうして残っているんは貴重なようです。上の方にいるキリストを中心に、上は天国 下は地獄となっていて、人物はかなり薄っすらと簡素に描かれています。とは言え、その構成は非常に複雑で、入念な構想を練っていたことが伺えました。
なお、最後の審判は公開されると大きな評判になったそうで、肌を顕にした裸体が物議を醸し、「神聖なる礼拝堂より風呂屋か宿屋に相応しい」とまで辛辣に批判されたそうです。そして1564年にはトリエント公会議の決定に従い、別の画家によって腰布が加筆されいくつかの人物像には手直しが加えられたそうです。…レダと白鳥の話もそうですが、今では考えられないくらいに保守的な世界だった為、ミケランジェロはだいぶ憂き目をみてますね…。

この後には最後の審判のコピー(かなり大きい)もありました。また、ジョルジョ・ギージによる31-40「《最後の審判》ミケランジェロに基づく)」という後世に銅版画にされた作品も並んでいて、人物に腰布が付いているのが確認できました。


ということで、今日はここまでにしておこうと思います。前半は素描と資料が中心といった感じかな。ルネサンス期の展示はこういう内容になりがちだし貴重なのは分かっても、若干物足りないと感じる人も多いと思います。しかし、後半には見どころとなる品もありましたので、次回はそれについてご紹介しようと思います。


   →  後編はこちら


おまけ:
今年はルネサンス期の巨匠の展示が揃い踏みだと話題になっていました。これだけのものが日本で観られるのは幸せなことですね。

 参考記事:
  レオナルド・ダ・ヴィンチ展-天才の肖像 感想前編(東京都美術館)
  レオナルド・ダ・ヴィンチ展-天才の肖像 感想後編(東京都美術館)
  ラファエロ 感想前編(国立西洋美術館)
  ラファエロ 感想後編(国立西洋美術館)



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