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ル・コルビュジエと20世紀美術 (感想前編)【国立西洋美術館】

前回ご紹介した国立西洋美術館の版画を観た後、本館の常設スペースに戻って「ル・コルビュジエと20世紀美術」を観てきました。こちらの展示もメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1120642.jpg

【展覧名】
 ル・コルビュジエと20世紀美術

【公式サイト】
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2013lecorbusier.html

【会場】国立西洋美術館 本館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年8月6日(火)~11月4日(月・休)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
こちらは空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、今回の展示は国立西洋美術館を設計した建築家ル・コルビュジエについての内容となっています。ル・コルビュジエは20世紀を代表する建築家であると同時に、絵画・彫刻・版画・タピスリー・映像など幅広い分野に渡って活動した多才な芸術家で、毎日の朝をアトリエでの絵画制作にあて、午後は設計事務所で建築の仕事をするなど、デッサンと絵画制作を建築の仕事と同様に重要なものとみなしていたようです。「自分の建築を本当に理解するための鍵は美術作品の中にある」とさえも言っていたらしく、この展覧会では時系列的にル・コルビュジエの絵画を中心とした様々な品が展示されていました。いくつかの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品をご紹介していこうと思います。
なお、この展示は珍しく常設のスペースで開催されていますが、撮影禁止となっていました。


<冒頭>
常設の部屋に入ってすぐは立体作品が並ぶコーナーでした。ル・コルビュジエとは誰かという説明もないうちに並んでいるので、知らない方には初っ端にこれはハードルが高いかも…。

91 ル・コルビュジエ 「無題」
これは木でできた立体的な彫刻で、着色されて鳥のような形をしています。組木細工のようにいくつかの平面的な木を組んで作った簡潔なもので、キュビスムからの影響を彷彿とさせる(ピュリスム?)形状をしていました。(ピュリスムについてはこの後のコーナーで説明します)

96 ル・コルビュジエ 「イコン」
こちらも立体的作品で、女性の顔と胸、手か内臓を思わせる赤い部分から成っています。これもキュビスム的な多面的性・単純化が観られるかな。ル・コルビュジエの芸術的な志向が一目で分かる作品でした。

スロープの辺りに「電子の詩」という映像が流れていました。これは1958年のブリュッセル万国博覧会においてフィリップス・パヴィリオンでル・コルビュジエが実現したプロジェクトで、電子的な音楽などと共に表現されています。起源、精神と物質、黎明、人間による神々の像、時はいかに文明を築いたか、調和、全人類へ、 といった7つのパートから成るそうで、白黒で様々なものが映しだされました。一見すると脈絡のないものがどんどん映され、その意味を理解するのは難解でした。金属音と相まってむしろ不気味な雰囲気w


<国立西洋美術館>
常設に入ってすぐの奥まった所には国立西洋美術館とル・コルビュジエとの関わりについてのコーナーがありました。構想のスケッチや俯瞰図、創建当初の写真などがありました。この辺の話は以前観た展示に比べるとかなりコンパクトになってたかな。
 参考記事:ル・コルビュジエと国立西洋美術館 (国立西洋美術館)


<1章 ピュリスムとレスプリ・ヌーヴォー>
続いては2階の1章で、実質的にここから展覧会がスタートする感じです。1917年の春、29歳の建築家シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエの本名)は生国のスイスからパリへと写り、1歳年上の画家アメデ・オザンファンと出会いました。第一次世界大戦が終わった1918年から1925年まで二人は密接な協力関係となったらしく、絵画・建築・雑誌の発行など多方面に渡る活動を行い、この数年でシャルル=エドゥアール・ジャンヌレは国際的モダニズム運動の旗手ル・コルビュジエへと変貌していったようです。 
シャルル=エドゥアール・ジャンヌレはアメデ・オザンファンと新しい時代の芸術として「ピュリスム(純粋主義)」を唱え、キュビスム(ピカソが始めた、物事を多面的・幾何学的に捉えて再構成する手法)を出発点としながら、より明快で秩序ある構成を追求していったようです。ピュリスムの絵画の主題はもっぱら静物で、ワインボトル、グラス、水差し、ギターなどが幾何学的規則に従って組み合わせられ、静的でバランスの取れた画面を作り上げました。
また、1920年には2人が創刊した雑誌『レスプリ・ヌーヴォー(新精神)』において、工業化社会が生み出した「機械の美」に通じる合理性と秩序の美学を絵画や建築の領域で打ち立てることを主張したそうです。そしてこの『レスプリ・ヌーヴォー』においてシャルル=エドゥアール・ジャンヌレが建築を論じる際に使ったペンネームが「ル・コルビュジエ」で、創刊号で初めて使われました。
こうしてピュリスムは総合的な芸術運動として発展していったようですが、提唱者のオザンファンとル・コルビュジエの間で意見の対立が深まり、二人の協力関係は1925年で終わったようです。1923~24年頃のル・コルビュジエの絵画には秩序や厳密性というピュリスムの理念に反する作品も観られるとのことで、この章にはそうしたピュリスム時代から次の時代までの作品が並んでいました。

27 [雑誌『レスプリ・ヌーヴォー』]
これがジャンヌレからル・コルビュジエというペンネームに変えて活動した雑誌で、1~28号までが展示されていました。題字があり中央に数字が書かれている表紙で、数字と色以外はだいたい同じデザインかな。解説によると、この雑誌では絵画、彫刻、建築、文学、音楽といった伝統的な芸術分野と並んでエンジニアの美学が対象とされていたのが特徴的なようです。ピュリスムの精神が端的に表されているように思いました。

この近くには家の模型や写真があり、ル・コルビュジエ設計のオザンファンの家などもありました。直線や円を多用してすっきりとしたデザインで、家の中にはフェルナン・レジェの絵も飾られていました(レジェはル・コルビュジエの友人)

24 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ) 「サイフォンのある静物」
これはサイフォンらしきものが描かれた静物で、横から観た様子と上から観た様子が混じっているように見えるかな。直線と曲線を使って単純化し色面で表現する画風で、具象と抽象の中間のような感じを受けます。確かにキュビスムよりも簡素で、色使いも幾何学性を強めているように思えました。

この近くにはル・コルビュジエの同様の作品が並ぶ他、ブリヂストン美術館のフェルナン・レジェ作「抽象的コンポジション」や国立近代美術館のフェルナン・レジェ作「女と花」などもありました。

12 アメデ・オザンファン 「静物」
これは協力関係にあったオザンファンの作品で、ワイングラスや瓶、ギターらしきものが描かれた静物です。沈んだ色合いで幾何学的に単純化され平坦な感じで表現されているのですが、何故か奥行きが感じられるのが面白いです。作風はル・コルビュジエとよく似ていて、その違いはじっくり見ても中々分からないくらいでした。

この近くにはオザンファンの自画像やル・コルビュジエによるオザンファンの肖像(素描)などもありました。

1 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ) 「コーヒーポット、グラス、パイプ、本のある静物」
これはタイトルに挙がった品々が並んでいる静物画で、1918年頃の作品なのでこの展示では最初期かな。幾何学的なものが描かれ、陰影や質感が出ているものの若干平坦な印象を受けます。まだだいぶ具象的で、ここから発展していったのではないか?と思わせる作品でした。

この辺は素描が多めです。

42 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ) 「水差しとコップ―空間の新しい世界」
これは水差しとコップというタイトルですが、作品を見てもよく分からないくらい形が変わって見えますw 色が強く、平坦なパーツが組み合うように描かれていて、静物というよりは何かの装置のように見えました。これは1926年の作品なので、オザンファンとの協力関係も終わった時期のものだと思いますが、確かに更なる変化を感じさせました。


ということで、長くなってきたので今日はこの辺までにしておこうと思います。今回の展示ではル・コルビュジエのコレクションで有名なギャルリー・タイセイの作品やパリのル・コルビュジエ財団の作品なども数多く出品され、一気に詳しく機会となっています。後半にはさらなる展開が展示されていましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。


  → 後編はこちら



 参照記事:★この記事を参照している記事


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