関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

再興院展100年記念 速水御舟-日本美術院の精鋭たち- 【山種美術館】

最近仕事が忙しくてちょっとご紹介が遅くなりましたが、2週間ほど前に恵比寿の山種美術館で「再興院展100年記念 速水御舟-日本美術院の精鋭たち-」を観てきました。

P1120782.jpg

【展覧名】
 再興院展100年記念 速水御舟-日本美術院の精鋭たち-

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.jp/exh/current.html

【会場】山種美術館
【最寄】JR・東京メトロ 恵比寿駅


【会期】2013年8月10日(土)~10月14日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
台風が迫っている日に行ったためか、意外と空いていて快適に鑑賞することが出来ました。

さて、今回の展示は近代日本画家の速水御舟を中心に、その世代に先立ち院展の基盤を作り上げてきた横山大観、下村観山、菱田春草といった先人たちや、速水御舟と同世代で密接に関わった今村紫紅、小茂田青樹ら仲間の作品が並ぶ内容となっています。院展は岡倉天心の理想のもとに1898年に結成され、その後一時期経営難で低迷に陥ったものの天心の没後にその精神を引き継いだ横山大観らを中心に1914年に再興日本美術院(再興院展)として新たにスタートしました。政府主催の官展(文展)に対抗して当時の画壇における先鋭的な役割を担ったそうで、速水御舟はこの再興院展に第1回から出品し、常に新たな日本画の創造に挑み続けていたようです。わずか40年という短い生涯の中で、古典学習、新南画への傾倒、写実に基づく細密描写、幻想的な装飾様式 などの変遷をとげたようで、この展覧会でもそうした画風の変化を観ることができます。
展覧会は3章に分かれる構成となっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品をご紹介しようと思います。なお、以前にご紹介した作品も多く展示されていましたので、それについては省略しております。

 参考記事:
  速水御舟展 -日本画への挑戦- (山種美術館)
  五浦六角堂再建記念 五浦と岡倉天心の遺産展 (日本橋タカシマヤ)


<第1章 再興日本美術院の誕生>
まずは再興日本美術院についてのコーナーです。明治維新以降、押し寄せる西洋画に対しそれに並ぶ新たな日本画を作るという機運に包まれていたそうで、岡倉天心はその中心的な存在でした。しかし1898年に校長として勤めていた東京美術学校(今の東京藝術大学)で、人事絡みに端を発した騒動が起きて校長を辞任すると、それに横山大観らも教授職を辞職し後に続きました。そして岡倉天心は退官した横山大観、下村観山、菱田春草らと共に日本美術院を東京の谷中に立ち上げ、展覧会を開催するなどの活動を始めます。しかし1905年には資金難で茨城県五浦(いづら)へと移転し、さらに岡倉天心がボストン美術館に赴任したことによってメンバーの士気が低下し、日本美術院は低迷状態となりました。 その後、岡倉天心の一周忌にあたる1914年になると、その意志を継いだ横山大観・下村観山らにより日本美術院は再興され、これが再興日本美術院と呼ばれる団体となります。その理念は三則を掲げ、中でも「芸術の自由研究を主となす。故に教師なし先輩あり。教習なし研究あり」とあるように、画家の個性が現れる作品の制作を表明したそうです。ここにはそうした新たな時代の日本画が並んでいました。

9 菱田春草 「釣帰」
手前の川で櫂を持って船を漕ぐ人と、その舟に乗って笠を被った3人の人が描かれた作品です。川は奥へと消えていくようで、背景には木々が霧にかすむように描かれています。このぼんやりした輪郭線を用いない背景は当時「朦朧体」と揶揄された技法で、空気感が出ていて西洋絵画のコローなどを思い起こさせます。一方、手前の人たちなどには輪郭線が使われ、存在感を出しているように感じられました。新しい日本画への取り組みが感じられます。

この辺は菱田春草の作品が並んでいました。下村観山も1点あったかな。

1 横山大観 「燕山の巻」
これは横山大観が水墨に初めて挑んだ巻物で、中国を訪問した際に観た光景を描いたものです。山を背景に城壁や楼閣、岩山などが濃淡だけで豊かに表現されています。木々などは輪郭がないのですが、人々や楼閣には輪郭を用いるなど、その表現の違いなども面白いです。これが初の水墨… すでに自由自在に見えました。

7 下村観山 「不動明王」
これは雲に乗って左手を前にかざす姿の不動明王が描かれた作品です。右手は腰の後ろに当てていてちょっと変わったポーズじゃないかな? 筋肉隆々の体は人体に基いているように感じられ、陰影がつけられているため西洋風に見えました。また、不動明王の背後には雲や炎のようなものが直線的にたなびいていて、凄い勢いで移動している感じがします。解説によると、この直線的な軌跡は信貴山縁起絵巻からヒントを得ていたと考えられるそうです。迫力ある作品でした。


<第2章 速水御舟と再興院展の精鋭たち>
続いては今回の主役の速水御舟とその仲間たちの作品のコーナーです(そう言えば速水御舟の展示を観にきたのだった…と忘れるくらい再興院展の作品が続きますw)
速水御舟は1914年に第1回再興院展が開催されると、そこに弱冠二十歳で出品したそうで、第4回展では早くも院友に推挙されるなど若くして才能を認められました。速水御舟はその40年の短い生涯を通じて1つの様式に囚われず、常に新たな画風を突き詰めては壊すということを繰り返していたようです。「梯子の頂きに上る勇気は尊い。さらにそこから降りてきて再び上り返す勇気を持つものはさらに尊い」という言葉も残しているそうで、その姿勢が伺えます。 また、今村紫紅や小茂田青樹といった再興院展の仲間を通じて芸術の理念についても刺激を受けていたそうで、ここにはそうした速水御舟の様々な作品や再興院展を代表する画家の作品が並んでいました。

12 今村紫紅 「早春」 ★こちらで観られます
これは速水御舟の兄貴分と言える画家の掛け軸で、手前に棚田が並び その周りに梅が咲いている様子が描かれています。奥にはひょろ長い松と農家も描かれ、春ののどかな光景となっています。パッと観た感じで南画風に見えるのですが、岡倉天心は南画をあまり評価していなかったそうです。それでもあえて今村紫紅は南画風に描いているわけで、これはあらゆる画風を学習の素材とすべきと考えて取り組んだそうです。また、点々と点描が使われ、松には西洋画からの影響も見て取れるなど進取の精神が伺えます。今村紫紅は「一度つきつめたら壊さないと駄目。壊せば誰かが作ってくれる。自分は壊すから君たちは作ってくれ」と速水御舟ら(御舟は1回り以上年下)に話していたらしく、その考えが御舟の画業に深い影響を与えていったようです。

この隣には速水御舟の南画風の「錦木」や小茂田青樹の「丘に沿える道」もありました。 この2人は速水御舟が14歳の時に同じ日に松本楓湖の画塾に入ったそうです。

21 速水御舟 「桃花」
これは色紙サイズの作品で、桃の木の枝の先のほうが大きく描かれています。ピンクの蕾は今にも花開きそうな感じで、咲いた花は花びらの1枚1枚まで描かれ可憐な印象を受けます。解説によると、これは娘に初節句の祝いのために描いたそうで、この頃は洋画家の岸田劉生と中国の院体画(写実・精密な特徴を持つ)についてよく話していたらしく、こうした細密画を描いていたようです。この近くにも写実的な柿の木の絵もあり、写実への傾倒が伺えました。

17 小茂田青樹 「梅鳩」
これは梅にとまった鳩を描いた作品で、写実的に描かれています。落ち着いた色合いで樹皮などはリアルな質感です。解説によると、小茂田青樹は友人の速水御舟と同様に院体画に関心を寄せていたらしく、その影響が伺えます。また。小茂田青樹は速水御舟に対して君の絵は理想化しすぎると批判し、「桜の爛漫とした趣のみを描くが、実際はもっと汚くて垢がある」と言って真を見つめる姿勢を問いただしたそうです。速水御舟はその言葉を後々まで大切に受け止めていたらしく、小茂田青樹も御舟にとって重要な存在だったことが伺えるエピソードでした。

26 速水御舟 「昆虫二題 葉陰魔手・粧蛾舞戯」
これは2枚セットの作品で、「葉陰魔手」は大きなヤツデの葉っぱの間で蜘蛛が巣を張っている様子が描かれ、「粧蛾舞戯」は上空に向かって渦巻く赤い炎?とそこに吸い込まれていくような蛾たちが描かれています。こちらは速水御舟の代表作「炎舞」を彷彿とさせるかな。解説によると、この二枚は陰と陽となっていて、蜘蛛の巣の広がりに対して光に集まる蛾の動きというように対比的な組み合わせとなっているようです。特に粧蛾舞戯は幻想的で妖しい雰囲気があり好みでした。

この隣には速水御舟の琳派風の「翠苔緑芝」や、「紅梅・白梅」などもありました。どれも作風が違って見えます。

37 速水御舟 「椿ノ花」
これはピンクの花を咲かす椿の枝を描いた作品で、自宅に咲いたものを描いたようです。花には琳派がよく使う「たらしこみ(滲みを使った表現)」が見られ、葉っぱの表は緑が濃く裏は黄緑といった感じで色の対比も強く感じられます。また、明確な線が使われているために葉の硬さが表現されているとのことで、椿らしさを感じさせました。解説によると、この作品の少し前に御舟はイタリアで開催されたローマ展に出品しヨーロッパに8ヶ月ほど滞在したそうです。ヨーロッパの文化・芸術を受けて新たな創作意欲を沸かせたとのことでした。
 参考記事:大倉コレクションの精華II-近代日本画名品選- (大倉集古館)

この近くには同じく枝だけを描いた作品がありました。花枝をクローズアップし画面を横切るような構図はこの頃(39歳頃)の特徴とのことです。

40 速水御舟 「あけぼの・春の宵」
これは2枚セットの掛け軸で、右幅にはピンクやオレンジのグラデーションに染まる空をと朝日が描かれ、手前には黒いシルエットの柳も描かれています。その枝には黒いカラスが空を見上げてとまっていて、全体的に清々しい印象を受けます。一方、左幅には細い月が浮かぶ黒い夜空を背景に、花を散らす桜の木が描かれています。花は5枚ずつ描かれているので、写実的というよりは装飾的な雰囲気がするかな。ハラハラと舞い散る花びらは風を感じさせ、春の夜の幻想を感じさせました。解説によると、この作品には朝鮮紙が使われているそうで、晩年(40歳くらい)は紙と絵の具の性質に対する心構えの必要性を重視していたとのことでした。

この近くには速水御舟の写生帳もありました。芥子やスイートピーなどが写実的に描かれています。

39 速水御舟 「白芙蓉」 ★こちらで観られます
これは大きな白い花を咲かせる芙蓉を描いた作品です。花の中央は赤く、葉っぱと茎は水墨の濃淡で表され、葉っぱには滲みによる表現も使われています。解説によると、花と背景の境の描き分けは、まず花に胡粉を塗り、外から墨で滲ませて自然に止まらせたようで、柔らかい雰囲気を出しています。茎も優美な曲線を描いていて、安田靫彦は「この曲線はまたと引けない天来の線」とまで賞賛したそうです。写生を越えた新たな境地を示す作品でした。

続いては再び再興院展の画家のコーナーです。

51 前田青邨 「腑分」
横たわる女性の胸部と、その周りにいる沢山の医師(江戸時代の医師)が描かれた作品です。これは刑死した女性を解剖して医学的に研究する腑分け(ふわけ)をしている所で、本を開く者や手を合わせている者、メスを入れる者というように人それぞれの表情を見せていて、特に執刀者の顔からは強い意志と緊張感が伺えました。人々の着物には滲みを使った表現などが使われているのも面白かったです。

49 安田靭彦 「出陣の舞」
これは桶狭間の合戦の前に敦盛を舞う織田信長を描いた作品で、鎧兜を前に扇を持って待っています。太めの輪郭線で描かれ目は遠くを観るような感じに見えました。これも独特の緊張感があり、心情表現が面白かったです。

この近くには奥村土牛や小倉遊亀の芸者を描いた作品などもありました。


<第3章 山種美術館と院展の画家たち>
最後は院展と山種美術館との関わりについてのコーナーです。初代館長の山崎種二は院展の画家たちと直接交流しその活動を支えたそうで、その為 良質な作品を所蔵しているようです。ここにはゆかりの画家の作品が並んでいました。

62 吉田善彦 「五月の沼辺」
この画家は速水御舟の妻の従兄弟で弟子になった人です。この絵には手前に水辺、奥に森と大きくそびえる山が描かれ、水辺の上には2羽の蝶が舞っています。全体的に薄くぼんやりとしていて幻想的な光景で、速水御舟とはまた違った画風となっていました。

この近くには今回の見所の1つである速水御舟「炎舞」や横山大観が得意の富士を描いた「心神」などもありました。


ということで、速水御舟展というよりは再興院展の画家たち展といった感じでした。速水御舟を目当てにしていくと肩透かしかもしれませんが、作品自体は素晴らしいので楽しめる内容だと思います。近代の院展の流れを知っておくと今後の鑑賞もグッと楽しくなると思いますので、押さえておきたい展示です。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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