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興福寺創建1300年記念 国宝 興福寺仏頭展 【東京藝術大学大学美術館】

前回ご紹介した東博の常設を観る前に、同じく上野にある東京藝術大学大学美術館で「興福寺創建1300年記念 国宝 興福寺仏頭展」を観てきました。この展示は前期・後期で展示替えがあるようで、私が観たのは前期の内容でした。

P1130060.jpg

【展覧名】
 興福寺創建1300年記念 国宝 興福寺仏頭展

【公式サイト】
 http://butto.exhn.jp/
 http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/current_exhibitions_ja.htm

【会場】東京藝術大学大学美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)・鶯谷駅・根津駅など


【会期】
 2013年09月03日(火)~10月14日(月・祝)
 2013年10月16日(火)~11月24日(日)
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
入口は空いているように見えましたが中に入ると混雑していて、場所によっては人だかりができるくらいでした。特に地下の展示は混んでいます。しかし、一番肝心な3階の作品は大きめでスペースにも余裕があったので、じっくり自分のペースで観ることができました。

さて、今回は奈良の興福寺が持つ仏像や仏画が並ぶ展覧会となっています。奈良の興福寺の起源は7世紀後半に中臣鎌足の病気平癒のために京都山科に建立された山階寺に遡るそうで、その後 飛鳥に移って厩坂寺となり、710年の平城京遷都を契機に現在の地に移りました。2010年に建立1300年を迎えた興福寺は、その間に幾多の戦乱や災害に遭ったらしく、昔は中金堂、西金堂、東金堂と3つあったのですが焼失と再建を繰り返し、江戸時代の1717年に中金堂や西金堂など多くを焼失して以降、主に東金堂と南円堂が教えや伝統を伝えてきたそうです。東金堂は本尊の薬師如来が完成させた東方の浄土「浄瑠璃光世界」を現世に表現しようとしたものらしく、旧本尊の銅像仏頭(今回の目玉作品)は7世紀後半に作られ15世紀に火災で行方不明になったものの、500年経た昭和時代に発見されたそうです。今回はその仏頭を中心にそれを守護する十二神将像などと共に、貴重な品々が一挙公開されていました。展覧会は4つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  国宝 阿修羅展 (東京国立博物館)
  国宝 阿修羅展 2回目(東京国立博物館)


<第1章 法相宗の教えと興福寺の絵画・書跡>
まず1章は興福寺そのものと、その教えである法相宗についてのコーナーです。法相宗は「あらゆる事象は人の心が認識したものである」とする唯識の立場から、一切の事物のあり方(法相)を追求する学問的な宗派らしく、インドの高僧 無著(むじゃく)と世観によって大成されました。唯識はその後、玄奘三蔵(西遊記のお坊さん)によって中国にもたらされ、その弟子の慈恩大師が体系化し、奈良時代に入唐した玄昉によって興福寺に伝わったそうです。その後 興福寺は法相宗の中心となり発展していったようで、ここにはそうしたルーツにまつわる品が並んでいました。

1-1 「木造弥勒菩薩半跏像」 鎌倉時代・13世紀 ★こちらで観られます
これは鎌倉時代に作られた弥勒像で、台座に座って片足を垂らし 頭には冠を被った姿をしています。後光は5つの方向に伸びる珍しい形で、表情は厳しめに見えましたが優美さがあり、全体的には非常に緻密で装飾的な雰囲気に思えます。この弥勒像の後ろにはそれを収めていた厨子もあり、その内側には菩薩や四天王と共に世観などの姿もありました。 格式高さとルーツを感じさせる作品です。

この少し先は資料的な作品が並ぶコーナーで、歴代の興福寺別当(最高責任者)を記録した巻物や、法相宗の始祖とされる玄奘三蔵の一代記、最も重要な教えをかいた成唯識論、鎌倉時代の法相宗の中興の祖師と呼ばれる解脱上人貞慶が書いた晩年の解釈「明本鈔」、経典の版木などが続きます。 この辺の品は貴重だとは思っても門外漢にはあまりピンと来なかったですw

そしてその後は厨子の扉絵のコーナーです。

13 「帝釈天像(護法善神扉絵) 」 鎌倉時代・14世紀
手を胸の前に出し三鈷杵を持つ帝釈天が描かれた扉絵で、背景には火が浮かぶ光輪が描かれています。額には第三の目があり やや厳しい雰囲気の顔をしているかな。保存状態がよく色彩が鮮やかで細部まで分かるくらいくっきりとしていました。解説によると、この護法善神扉絵は元は6角形の厨子の両開きの扉絵だったと考えられるようで、12枚の扉絵があるようです。描かれているのは大般若経に所縁の深い諸像らしく、ここにはそのうちの6点が展示されていました。(会期によって展示替え)

10 「法相祖師像彩絵 厨子扉絵」 鎌倉時代・13世紀
こちらは3方向両開きの厨子の扉絵で、中には弥勒像が入っていたと考えられる品です。兜率天上の6大神像、インド・中国の法相始祖8人などが描かれていて、13世紀半ばの作と考えられるようです。1枚に2~3人くらいが描かれ、頭には名前が書いてあるので誰が誰か分かりやすいです。僧たちは穏やかそうな雰囲気でしたが、神々は堂々たる姿で描かれていて迫力がありました。

2 「慈恩大師像(大乗院伝来) 」 平安時代・12世紀
これは玄奘三蔵の弟子で唯識の教えを体系化した法相始祖の肖像画です。2m以上ありそうな大きな姿で描かれ、手を組んで立っています。言い伝えでは2mくらいの大男だったらしく、その迫力が再現されているように感じました。この慈恩大師は戒賢・玄奘に次ぐ宗祖として重要な人物らしく、手を組んで頭が大きい姿で描かれることが多いそうです。この作品にはその特徴がよく出ていました。

この先には平家の南都焼き討ちの後に興福寺の復興に努めた解脱上人貞慶と信円の像もありました。

11 「持国天像」 鎌倉時代・12-13世紀 ★こちらで観られます
これは剣を持ち炎の光背を背負った鎧姿の持国天?を描いた仏画です。その足元には矢を持って片目をつぶって狙いを定めるような青い邪鬼と、旗を持って立てる赤い邪鬼の姿があります。普通の四天王像は邪鬼を踏みつけているものですが、こうしてお供になっているのは珍しいようです。その邪鬼たちがいるためか、やや愛嬌があるように見えました。


<第2章 国宝 板彫十二神将像の魅力>
続いては今回の目玉の1つである国宝「板彫十二神将像」が一堂に会するコーナーです。興福寺東金堂は726年に建立されてから5回も焼失しているそうで、その都度再建されてきました。その本尊の東方瑠璃光世界教主 薬師如来を守るのが十二神将で、この作品は最初の焼失(1017年)の後に再建された際に作られたと推定されるそうです。板を浮き彫りに個性豊かな十二神将像が表されているのですが、平面なので普段は横一列に並んで展示されているようです。しかし正面向き1体、左向き6体、右向き5体といった感じで向きが違う姿で表されているので、当時は薬師如来の四方を荘厳していた可能性が考えられるらしく、ここではその仮説に則り四方を取り囲むような感じで展示されていました。

41 「真達羅大将像(板彫十二神将)」 平安時代・11世紀
これは正面向きの浮き彫り像で、両手を合わせて合掌している真達羅(寅神)が表されています。左肩には剣を携えていて髪は逆立っていますが、全体的には穏やかな雰囲気です。板はそんなに厚みはなく3cmくらいしかないのですが、実際よりも立体的な感じに見えました。これはかなり見事で、十二神将像をぐるぐると何度も見て回ってきましたw こうして揃って展示されるのは史上初なのだとか。

48 「迷企羅大将像(板彫十二神将)」 平安時代・11世紀 ★こちらで観られます
これは右手を振り上げ左足を上げている姿の迷企羅(酉神)が表された浮き彫りです。非常に動的なポーズで、筋肉の表現も躍動感があり筋に力がみなぎっている感じがあります。口を大きく開ける表情も迫力があり、十二神将像の中でも特に目を引きました。

この先は中金堂の再建についてのコーナーでした。現在、興福寺では中金堂の再建が行われていて、2018年に落慶を予定しているようです。大きな模型があり、その立派な外観をイメージすると共に横から中の様子を覗くこともできました。少し進むと中金堂の法相柱(祖師たちを描いた柱)の下絵などもあり、部屋の中央では、映像で興福寺について説明していました。


<第3章 国宝 銅造仏頭と国宝 木造十二神将立像>
続いては3階の展示室でここは木造の十二神将像と銅造仏頭が一堂に会し、入った瞬間に驚かされました。下階の十二神将像も凄かったですが、ここはまさに国宝に相応しい作品が並びます。
1180年に南都(奈良)は平重衡(平清盛の五男)に率いられた大群に攻撃され、東大寺と興福寺は特に壊滅的な被害を受けました。しかしその衝撃はまもなく復興への決意へと変わったそうで、その機運の中から慶派と呼ばれる優れた仏師たちが登場してきました。 とは言え、急速な再建は容易ではなかったようで、1187年には山田寺の薬師三尊像が東金堂へと運ばれ(強奪みたいな…)、それを守る眷属として木造十二神将像が作られたらしく、その憤怒の表情からは兵火を二度と繰り返させないという悲壮な決意が表れているそうです。 その後、本尊の薬師如来は1411年の東金堂の火災によって失われてしまったのですが、昭和12年(1937年)に現在の東金堂の本尊台座の内部から頭部のみが見つかり、現在に至るようです。ここにはその仏頭と木造十二神将像が並んでいました。


56 「波夷羅大将立像(木造十二神将)」 鎌倉時代・13世紀
あたまに辰を乗せている波夷羅で、一歩踏み出し腰の刀に手をかけて 今にも斬りかかってきそうなポーズをしています。顔は大きく口を開け、目を見開く表情で非常に恐ろしい雰囲気です。憤怒と動きに満ち溢れた力強い表現で、確かに敵への威嚇が感じられました。

ずらりと十二神将像が並んでいるのを比べながら見ていると、表現に若干のバラつきがあることに気が付きます。これは複数の仏師たちが作ったためと考えられるようです。

62 「伐折羅大将立像(木造十二神将)」 鎌倉時代・13世紀 ★こちらで観られます
これは刀を下向きにして突き刺そうとしている伐折羅(戌神)で、頭には戌を載せています。やはり口をクワッと開けていて、右手は大きく手を開くなど動的なポーズです。目はこの頃に流行った水晶ではなく木の目となっていますが、怒りに満ちた感じがよく出ていました。これも緊張感がみなぎっている作品です。

51 「銅造仏頭(興福寺東金堂旧本尊)」 白鳳時代・天武天皇14年(685) ★こちらで観られます
これは落雷の火災で頭部のみを残して焼失した薬師如来像です。元々は山田寺(大化の改新で活躍した蘇我倉山田石川麻呂が発願した寺)にあったものを奪ってきたもので、685年に作られたことが記載されているようです。1mくらいありそうな大きな頭部で、右耳は破損しているものの耳が大きく、目は遠くを見渡すようで、ふっくらとした顔つきが穏やかで優美な印象です。今回は後ろに回って観ることもできるのですが、後頭部の辺りは欠けていて、中は空洞になっていることが分かります。また、後ろから観るとやや傾いて歪んでいるのが分かりやすく、火災による爪あとが今でもありありと残っているのが分かりました。 これだけ傷ついて頭だけになっても国宝になるほどなので、当時は相当見事な仏像だったのでしょうね…。


<第4章 特別陳列 深大寺釈迦如来倚像>
最後は特別展示で、銅造仏頭と同じ白鳳時代に作られた深大寺(東京)の釈迦像が展示されていました。深大寺は733年満功上人によって開山された寺で、当初は法相宗であったのですが平安時代に天台宗へと改宗したそうで、「銅造釈迦如来倚像」は関東における白鳳金銅仏の貴重な遺品のようです。興福寺の仏頭に通じるものがあるそうで、ここにはその1点だけが展示されていました。
 参考記事:深大寺の写真

64 「銅造釈迦如来倚像」 白鳳時代・7世紀 ★こちらで観られます
椅子に座って右手は施無畏印(手のひらを前に見せて少し指を折る感じ)、左手は膝の上に乗せた姿をした釈迦像です。非常に穏やかな微笑みを浮かべ、丸みを帯びた体つきに気品があります。解説によると、若々しい面相は興福寺仏頭に通じるとのことで、白鳳時代の特徴のようでした。

最後は映像で、仏頭をCGで破損前に復元するという内容となっていました。


ということで、予想以上に感動できる内容でした。何と言っても2セットの十二神将像が素晴らしい! 仏頭も貴重ですが私はそちらのほうに時間を割いてきましたw 今季お勧めの展示です。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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