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竹内栖鳳展 近代日本画の巨人 (感想後編)【東京国立近代美術館】

今日は前回の記事に引き続き、東京国立近代美術館の「竹内栖鳳展 近代日本画の巨人」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

  前編はこちら

P1120803.jpg

まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 竹内栖鳳展 近代日本画の巨人

【公式サイト】
 http://seiho2013.jp/
 http://www.momat.go.jp/Honkan/takeuchi_seiho/index.html

【会場】東京国立近代美術館
【最寄】東京メトロ東西線 竹橋駅

【会期】
 前期:2013年09月03日(火)~09月23日(月)
 後期:2013年09月25日(水)~10月14日(月)
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日11時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前編では2章の1908年までご紹介しましたが、今日はそれ以降の晩年までのコーナーについてです。

 参考記事:
  没後70年 竹内栖鳳 前期 (山種美術館)
  没後70年 竹内栖鳳 後期 (山種美術館)


<第3章 新たなる試みの時代 1909-1926>
3章は新たな表現や取り組みについてのコーナーです。竹内栖鳳は美術学校の教諭として、多数の弟子を抱える画塾「竹杖会」の主として、また1907年から始まった文部省美術展覧会(文展)の審査員として、画壇での地位を確立していきました。土田麦僊を始めとする弟子たちが頭角を現すようになると、1918年には彼らによって作られた国画創作協会の顧問にもなったようです。 栖鳳はそうした後進の活躍を見守る立場になっても新たな表現を意欲的に研究し続けたそうで、動物画では個々の性質を捉え一瞬の動きを表そうとし、風景画では伝統的な山水でも西洋的な遠近の表現でもない作品を生み出したそうです。また、1920年からは2度に渡って中国に滞在していて、この旅行は主題・色彩感覚ともに風景画の深化をもたらす結果になったようです。さらに、この時期に短期間ながらも人物画を研究し、一瞬の仕草の中に心情を描き出したそうで、ここにはそうした40歳代以降の作品が並んでいました。

55 竹内栖鳳 「蹴合」
これは実物くらいの2羽の軍鶏が描かれた作品で、向き合って闘っている様子が表されています。足を前に出し爪で攻撃しようとしていて、羽をばたつかせるなど躍動的に表現されています。一瞬の動きをよく捉えていて、「動物を描かせてはその匂いまで描く」と言われた栖鳳のこだわりが感じられました。また、この作品の隣には下絵もあり、入念な準備の様子も伺えたのも面白かったです。
 参考記事:画の東西~近世近代絵画による美の競演・西から東から~ (大倉集古館)

続いては旅に関する小コーナーです。主に4つの旅について取り上げていて、幸野楳嶺の弟子時代に師について東海・北越を旅していたのをはじめ、パリ万国博覧会視察でのヨーロッパ各国への旅、狩野派や模写作品といったルーツにまつわる中国への旅、そして昭和期に4度訪れた潮来 について紹介されていました。

69 竹内栖鳳 「城外風薫」 ★こちらで観られます
これは中国の運河の街である蘇州を描いた作品です。街に川が流れ2つの橋が架かり、その周りには民家が軒を連ねています。遠くには高い塔も見えていて、橋には行き交う人々の姿もあります。全体的に明るい色合いで人々の営みも感じられるせいか、どこか懐かしい雰囲気があるかな。解説によると、栖鳳が修行時代によく模写した狩野派の絵には塔が描かれていることが多かったようで、栖鳳はそうした塔が好きだったそうです。その為、狩野派の根源である中国で塔を観るのが念願だったらしく、この絵でも塔が描かれているのはそうした背景があるようでした。

64 竹内栖鳳 「羅馬之図」 ★こちらで観られます
これは6曲1双の屏風で、全体的に黄土色に染まり手前には木が数本並び、奥にはアーチが連なる古代ローマの遺跡が立ち並んでいます。手前の木はハッキリ描かれていますが、遺跡はややぼんやりしているので、遠近感よりも夢想的な雰囲気に感じられます。また、遺跡の上では鳥が休んでいて、遠くからも鳥が飛んでくる様子がしみじみとしていて悠久の時の流れを感じさせました。解説によると、竹内栖鳳は渡欧の際にコローの作品を観て感銘を受けたらしく、この絵にもコロー的な湿潤な空気感が感じられました。

この隣には打って変わって漢画風の岩山を描いた作品もありました。また、潮来を描いた写生帖などもあり、栖鳳はいたこは蘇州に似ていると言っていたそうです。(潮来も水郷の街なので似ていたのかも) 他にも北越や富士を描いた写生帖、ヨーロッパの絵葉書などもならんでいました。

40 竹内栖鳳 「絵になる最初」 ★こちらで観られます
これは着物を脱いで裸婦のモデルになる直前の姿を描いた女性像です。手を口の前に当て、頬は赤らんでいて目は横に逸らしている様子が恥ずかしげに見えます。優美な線で描かれていて、若く瑞々しい雰囲気がありました。解説によると、栖鳳の人物画は数少ないようですが、これはかなりの傑作じゃないかな。

この隣には天女を描いた作品や裸婦のスケッチ、長い間行方不明となっていた41「日稼」などもありました。人物画は少ないのに見応えがあるので、寡作だったのは何とも勿体無いように思えます。

94 竹内栖鳳 「夏鹿」
これは6曲1双の屏風で、右隻は6~7頭の鹿たちが群れていて、顔を寄せたり、屈んだり、上の方を見ていたりと、のんびりした雰囲気となっています。一方、左隻ではジャンプをした鹿が1頭だけ描かれ、非常に躍動感がありました。これも左右で動と静の対比なのかな?
この隣には下絵もあり、足の曲がり具合や体の傾きなどに多数の修正跡が残っているのが面白いです。紙を上から貼り付けて修正していて、配置や細部まで計算していたようです。本画にはいない鳥の姿などもあって、栖鳳の制作過程や構図の取捨が伺えるようでした。


<第4章 新天地をもとめて 1927-1942>
最後は晩年のコーナーです。昭和期に入ると、栖鳳はしばしば体調を崩していたようで、1931年(昭和6年)に療養のために湯河原へと赴きました。やがて回復した後は東本願寺の障壁画に挑むなど以前にも増して精力的に活動したようですが、湯河原が気に入ったらしく、京都と湯河原を行き来しながら制作を続けたそうです。また、この頃の栖鳳は洗練を増した筆致で対象を素早く的確に表現するようになっていたそうで、昔のように細密に写生するよりは、対象の動きと量感をスピード感のある線で大掴みに捉えたものが多いそうです。 晩年も実験的な作品を生み出し続け、若いころと同じ主題に再度取り組むこともあったようですが、その表現は若いころとは違っていたようです。ここにはそうした晩年でも尽きることのなかった新天地に関する品が並んでいました。

88 竹内栖鳳 「水村」 ★こちらで観られます
これは水墨で描いた潮来の情景で、右のほうに小さな橋が架かり、そこを親子らしき2人が渡っている様子が描かれています。左には鬱蒼とした森があり、大胆かつ情感溢れる趣きとなっているように感じました。解説によると、栖鳳は潮来を中国の風景のようだと言って愛していたそうです。また、この頃 栖鳳は特注の和紙(滲みがでやすい栖鳳紙)を使うこともあったらしく、滲みと濃淡で湿気を感じさせるような表現になっていて、コローの空気感にも通じるものがあります。なお、晩年には詩情の表現とも言える作品が多数あるらしく、俳句が書き込まれたものや、季語になるモチーフを描いたものもあるのだとか。

72 竹内栖鳳 「酔興」
これは踊る猫を杯を持ったネズミが酒盛りをしている所を描いたもので、手前にはひょうたんが描かれています。いずれも戯画的な簡略表現で、大津絵みたいな感じかな。ユーモラスな作風がこれまで観てきたものとだいぶ違うので意外な感じを受けました。

この辺には他にも雲から落ちる雷様を描いた作品などもありました。

103 竹内栖鳳 「家兎」
これは3羽の兎を描いた作品で、1羽は木で出来た小さな小屋の中、小屋の入口にもう1羽、そして小屋の上から中を覗き込む1羽が描かれています。ふわふわした毛並みと柔らかそうな耳が可愛らしく、仕草も無邪気な印象を受けます。この近くにはこうした可愛らしい動物の作品が並び、動物たちへの愛情が感じられました。

106 竹内栖鳳 「雄風」
これは昭和天皇即位を記念して描いた2曲1双の屏風で、右隻はソテツの木の脇からこちらに向かって歩いてくる虎、左隻にはソテツの下で横たわる虎が描かれています。体は柔らかい輪郭線で表現されていて、写実的だった若いころの作品に比べるとだいぶ写意的な感じを受けます。解説によると、この虎は動物園で写生したそうで、ぼかしの表現やスピード感のあるソテツの表現には昔にはなかった特徴が観られるとのことでした。

最後は水の写生に関するコーナーです。日本画の線描の表現を採用しつつ、西洋に学んだ光や色の感覚的表現を取り入れたそうで、数点の作品が並んでいました。

116 竹内栖鳳 「渓流(未完)」
これは壁画のように大きな未完の作品で、晩年に療養した湯河原の渓流を描いたものです。線で流れが表され、淡い色合いで岩を描いているのですが、確かに描きかけといった感じかな。最後まで様々な表現を模索した栖鳳の気概が感じられました。


ということで、充実の内容でした。これだけの機会は滅多にないので図録も買ってきました。この記事を書いている時点で既に前期は終わってしまいましたが、後期には目玉作品の「班猫」も出品されますので、お勧めです。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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