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アメリカン・ポップ・アート展 (感想後編)【国立新美術館】

今日は前回の記事に引き続き、国立新美術館の「アメリカン・ポップ・アート展」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

  前編はこちら


P1130265.jpg P1130268.jpg

【展覧名】
 アメリカン・ポップ・アート展

【公式サイト】
 http://www.tbs.co.jp/american-pop-art2013/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2013/american_pop_art/index.html

【会場】国立新美術館 企画展示室2E
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅

【会期】2013年8月7日(水)~10月21日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前半では3章までご紹介しましたが、今日は残りの4~8章についてです。

<4 クレス・オルデンバーグ>
続いては日用品などを作品に取り入れたクレス・オルデンバーグのコーナーです。クレス・オルデンバーグは1956年にニューヨークに移り住みダウンタウンを拠点とし、後に「ハプニング」と呼ばれる演劇的イベントを始めたそうで、それは当時主流の抽象表現主義から脱し新しい表現を模索する過程だったようです、1960年からは厚紙や新聞・広告を使ったオブジェで空間を埋め尽くし、その中でハプニングを行いました。その後、大量生産される日用品や食品を石膏で形作ったオブジェからなる「ザ・ストア」というシリーズを手がけ、同名のスペースを開いて販売したそうです。これは芸術と商業活動の垣根をなくすことで芸術を日常と結びつけようとしたものらしく、ここにはそうした作品も並んでいました。

087 クレス・オルデンバーグ 「女性用ブラウス」
これは石膏や針金の骨組みで作られた大きなオブジェで、タイトルから察するに女性のブラウスなのかな?? 緑色に彩色されゴツゴツした印象を受け、前半分しかないので実際に着ることはできなそうに見えます。解説によると、これはザ・ストアで売られていたようで、日用品と芸術の中間といった感じの作品でした。

108 クレス・オルデンバーグ 「幾何学的なネズミ、スケールB」
これは赤いアルミの板でできた円や四角、チェーンで出来たオブジェで、某ネズミのキャラクターの顔を思わせる形をしています。解説によると、クレス・オルデンバーグはネズミを複製やコピーの象徴としてよく作品にしていたそうで、これもいくつものバージョンが作られたそうです。この近くにはティーバッグを巨大化させたものや、ティーバッグとミッキーマウスを合わせたような作品もあり、確かに似たモチーフを使っているようでした。

90 クレス・オルデンバーグ 「ジャイアント・ソフト・ドラム・セット」 ★こちらで観られます
これはビニール製のドラムセットがグニャグニャになって置かれている作品で、「ソフト・スカルプチャー」と呼ばれるシリーズの1つのようです。解説によると、クレス・オルデンバーグはジョン・パワーズ氏に招かれたアスペンで目にした山々や入道雲の形、雷鳴の音などから着想を得たらしく、そこで出会った人物にも影響を受けているようです。これは意図は分かりませんが、硬いイメージのドラムセットが柔らかくなったようで、ダリの記憶の固執を彷彿とさせました。
この近くにはこの作品の為の習作素描などもありました。

この辺の休憩室では7分程度の映像が流れ、キミコ・パワーズ夫人によるコレクションの説明がありました。本当に家の中に飾ってあって驚きなのですが、それ以上にこの夫人は一体何歳なのだろうか??と見た目の若さに驚きましたw


<5 友人としてのアーティストたち>
続いてはパワーズ夫妻と作家たちの交流のコーナーです。ここには様々なアーティストの作品があり、誕生日祝いなど親しい関係が垣間見える品々が並んでいました。

113 ジャスパー・ジョーンズ 「無題(6つのクロスハッチ)」
これは前編で紹介したジャスパー・ジョーンズのハッチングの作品を小さくしたようなものです。色合いがまた違っていて綺麗で、下の方にはサインがありました。個人的な関係が伺えます。

127 アンディ・ウォーホル 「キミコ・パワーズ」
これは入り口にもあったキミコ・パワーズ夫人の肖像で、やや上向きでこちらをチラッと観る夫人が描かれています。直筆のサインも入っていて夫妻に宛てたものというのが分かります。この作品のヴァリエーションは次のアンディ・ウォーホルのコーナーでも出てくるのですが、作者自身も傑作と思っていたようで、魅力的な女性像です。色合いが非常に鮮烈な作品でした。

この近くにはリキテンスタインの作品などもありました、


<6 アンディ・ウォーホル>
続いては最も楽しめたアンディ・ウォーホルのコーナーです。アンディ・ウォーホルは1950年代にイラストディスプレイを手がける商業デザイナーとして成功を収め、60年代に入ると画家として活動するようになりました。新聞・雑誌に掲載された広告、キャンベル・スープやコカ・コーラといった量産される商品、マリリン・モンローやエリザベス・テイラーといった映画スターを主題として次々に発表し、ポップアートの寵児として注目を集めました。大量生産・大量消費される時代で記号化された情報は大量に配信され、ウォーホルはこうした社会の劇的な変化で生まれた記号社会のシステムをいち早く作品にしたと言えるようです。ここにはそうした大量生産・大量消費を思わせる作品が並んでいました。

129 アンディ・ウォーホル 「200個のキャンベル・スープ缶」 ★こちらで観られます
これはスープの缶詰が横20個×縦10個(合計200個)並んでいる様子が描かれた作品です。いずれも赤と白の缶で同じように見えますが、味が何種類かありますw 同じ商品を連続して規則的に並べ、1枚の画面を埋め尽くすという技法を初めて使ったこの作品は、最も重要な作品の1つとして挙げられるようで、実際これはかなり有名だと思います。よくよく観ると微妙に色なども違って見えるのですが、これは1つ1つ実際に描いていたためのようで、これ以降の作品では容易に複製できるシルクスクリーンを使うようになったようです。ぎっしり並べられると結構なボリューム感というか圧迫感があるかなw 規則正しく整然とした感じもあり、ただの缶なのに非常にインパクトがありました。

近くにはこれと同じ缶が大きく描かれている作品などもありました。

136 アンディ・ウォーホル 「マリリン」
これはアメリカの超有名人マリリン・モンローを描いた作品で、縦5×横2で10枚の色違いの同じ絵が並んでいます。これは映画「ナイアガラ」のスチール写真を元にシルクスクリーンで複製し、顔の色をそれぞれピンクや緑など明るい色合いにしたもので、こちらもアンディ・ウォーホルの中でも特に有名な作品です。同じ絵柄でも色が違うと印象もだいぶ違って見えて面白く、連続することで広告のような感じにも見えます。マリリン・モンローはメディアで大量消費される存在であったので、それを意図しているのかな。これぞアメリカン・ポップアートといった感じの作品です。

この近くには同様に毛沢東の顔を連続して描いた作品もありました。続いての部屋は部屋一面にキミコ・パワーズの肖像が並んでいました。

140 アンディ・ウォーホル 「キミコ・パワーズ」 ★こちらで観られます
顔を上げてこちらに目を向けるキミコ・パワーズ夫人の肖像で、この展覧会でも目にするのは3回目ですが、ここでは緑、赤、青、ピンクといった色違いで3×3枚(合計9枚)展示されていました。アンディ・ウォーホルは1970年代後半に有名人ではない一般人の肖像も描くようになり、これは個人を描いた作品の中で最も早い時期の作品のようです。元は25点あったのを9点で再構成したようですが、色の並び順も含めて華やかな雰囲気がありました。
この近くにはショートヘアで正面向きのキミコ・パワーズ夫人の肖像もありました。

その先は花や影などをモチーフにした作品が並んでいました。


<7 ロイ・リキテンスタイン>
続いては漫画を引用した絵画で有名なロイ・リキテンスタインのコーナーです。ロイ・リキテンスタインは漫画など大衆文化を取り入れたクールでドライな作風で、ポップアートを代表する作家としてたちまち高い評価を得たそうです。その多くは白と黒の無彩色と、赤、青、黄の三原色だけで描かれていて(時折 茶と緑も使われる)、太い輪郭や印刷の網点など新聞に掲載された漫画の様式を用いています。ここにはそうした漫画風の作品が並んでいました。

166 ロイ・リキテンスタイン 「ブルーン!」 ★こちらで観られます
これはVAROOM!という文字と、星形に破裂している爆風が漫画風に描かれた作品です。背景には小さな点が並び、文字は黄色字に赤で強烈なインパクトがあります。これは漫画で用いられたものをそのまま取り入れた作品らしく、これだけ観ると文脈などがないので抽象的にすら見えました。とは言え、分かりやすくてポップな雰囲気もあり、その簡潔さも魅力に感じられました。

168 ロイ・リキテンスタイン 「鏡の中少女」 ★こちらで観られます
これは金髪の少女が手鏡を持ってのぞき込んでいる様子が描かれた作品で、鏡には笑っている少女の顔が映し出されています。これも漫画そのものといった感じで、網点が使われているのもそう感じさせます。解説によると、こうした手鏡を観る構図は西洋絵画の「ヴァニタス(虚栄)」の寓意の伝統に連なっているようで、その表情は自分に酔っているような感じにも見えました。何かか皮肉があるのかも…

179 ロイ・リキテンスタイン 「大聖堂シリーズ」
これは6枚連続の作品で、モネの「ルーアン大聖堂」を網点で描いたものが並びます。丸い点々を用いた表現は広告の拡大のようにも見えますが、輪郭を用いずモネの作品の雰囲気がよく出ています。(これは離れて観たほうがよくわかります) 解説によると、こうした巨匠の作品を引用した作品に度々挑んだようで、逆にこれによって網点での表現力に驚かされました。

この先は静物画で、直線と円を組み合わせたキュビスムを漫画にしたような作品も並んでいました。


<8 メル・ラモス/ジェイムズ・ローゼンクイスト/トム・ウェッセルマン>
最後は3人のアーティストのコーナーです。

192 トム・ウェッセルマン 「グレート・アメリカン・ヌード#50」 ★こちらで観られます
これはタバコを持った赤いドレスの金髪の女性が室内で横たわっている様子が描かれた作品です。背景にはルノワールの「劇場の桟敷席(音楽会にて)」やセザンヌの林檎とナプキンなどの名画の複製があり、右上には絵に取り付けられたコンセントと棚もあり、ラジオジンジャーエール、林檎などが置かれています。女性は享楽的な雰囲気があり、解説によると、これは大量生産されたものに囲まれる同時代の女性を描いたらしく、豊かなアメリカを表しているようです。私には一種の皮肉のようにも見えましたが、明るく派手な印象を受けました。
 参考記事:奇跡のクラーク・コレクション展-ルノワールとフランス絵画の傑作- 感想前編(三菱一号館美術館)

191 トム・ウェッセルマン 「ラナイ」 ★こちらで観られます
これは缶詰の桃や上下逆さの自動車、プールサイドの裸の女性、鉛筆などが描かれた作品で、タイトルの「ラナイ」とはハワイの島の名前で、居間として使われるベランダのことも指すそうです。モチーフは具象的ですが脈絡なく並んでいるので意図を探るのは難しいかな。しかし、色が明るくポップな雰囲気があるのが心地よく、どうやらこの作家は以前に看板描きをしていたようです。作品自体の大きさもかなりのもので、看板描きというルーツもうなずけました。

198 トム・ウェッセルマン 「横たわるエイミー」
これはスティールドローイングという金属板を切り出して作った作品で、腕と足を上げ横たわっている裸婦が表されています。その造形は官能的だけど顔はなく無機質な感じもしました。近くには同様に花を切り出した作品があったのですが、それも華やかなようで無機質さも感じられました。


ということで、前半は微妙でしたが後半はポップで楽しい作品が並んでいました。特にアンディ・ウォーホルの作品は必見だと思います。もうすぐ終わってしまいますが、アメリカン・ポップアートや現代アートが好きな方にお勧めの展示です。


おまけ:
展示室の最後にキャンベル・スープが並んでいました、
P1130271.jpg

アップにするとこんな感じ。ずらりと並んでいます。
P1130273.jpg
ミュージアムショップでも実際の缶詰が売っていたので買おうとしたら、ぎっしり並んだ行列を見て諦めましたw


 参照記事:★この記事を参照している記事

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Comment
No title
こんばんは。2週間歩前に行ってきました。
アメリカン・ポップアート展の記事がないな~と思ってたら、今だったんですね。
私が行ったときは、若い人がいっぱいで、みなさんじっと見ないでさっと流していってしまうのに、ちょっとびっくりでした。

最後のミュージアムショップには人がいっぱいで、何も買えませんでした。
このキャンベル缶も、写真撮るためにいっぱい並んでたんですよ~
Re: No title
>nobukoさん
コメント頂きましてありがとうございます。
最近忙しくて、結構ギリギリになってしまいました^^;

思った以上に若い人中心でしたね。混雑も凄くて缶詰は買えなかったのですが、
写真も撮れないくらい並ぶ時もあるんですね。
しかし「200個のキャンベル・スープ缶」を見られたのは非常に収穫でした。
せっかくなら記念写真の缶も作品と同じように味を揃えて欲しかったw
素晴らしい!
はじめまして。
赤ベコ日記を福島在住の和さんです。URLはメインブログ。
一年前まで、ヨルダンで美術の先生をやっていました。

福島県は大好きですが、美術館の量は東京ですよね。
いいなぁ~。
Re: 素晴らしい!
>和さん
先日もコメント頂いたようですが、改めまして。
東京は展示がかなり多く、観るのに事欠きません。
なるべく多く観て記事にしていきたいと思いますので、
興味がありそうなものがあったら参考にして頂けると嬉しいです。
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