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カイユボット展ー都市の印象派 (感想前編)【ブリヂストン美術館】

前回ご紹介したお店で休憩する前に、京橋のブリヂストン美術館で、「カイユボット展ー都市の印象派」を観てきました。充実の内容でメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

P1130278.jpg

【展覧名】
 カイユボット展ー都市の印象派

【公式サイト】
 http://www.bridgestone-museum.gr.jp/exhibitions/

【会場】ブリヂストン美術館
【最寄】JR東京駅・銀座線京橋駅・日本橋駅・都営浅草線宝町駅


【会期】2013年10月10日(木)~12月29日(日) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
結構お客さんが多く入っていましたが、自分のペースで観るのに支障がない程度でした。
さて、今回の展示はモネ、ルノワール、ピサロ、シスレーら印象派の仲間の作品を購入することで彼らを経済的に支えたばかりでなく、自ら印象派展にも参加した画家でもあるギュスターヴ・カイユボットのアジア初の個展です。カイユボットは1848年に繊維業を営む裕福な事業家の息子としてパリに生まれ、パリ8区の邸宅で青春時代を送りました。法律学校で学んだ後、1872年頃に19世紀後半を代表する肖像画家レオン・ボナのアトリエに出入りするようになり、1873年にはパリの官立美術学校エコール・デ・ボザールに入学したそうです。そして間もなく(恐らくはボナの友人だったドガを通じ)絵画の改革を志す若い画家たちと知り合います。1874年に最初の印象派展が開かれると、カイユボットはモネやルノワールをはじめとした印象派の画家と交友を持ち、第2回以降(6回と8回以外)の印象派展に参加し、彼らを支援しながら自らも制作を行いました。晩年(40代)は印象派展から離れて制作していたようですが、1894年の没後に遺言書により印象派の画家たちの作品の一部はフランスの国家に寄贈され、今ではオルセー美術館のコレクションとなっているようです。近年ではカイユボットが見直され注目が集まっているそうで、印象派でありながら古典的な表現手法を重視した当時のアカデミズムの自然主義的表現に通じる作風となっているようです。展覧会は題材ごとに章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品を通じてご紹介しようと思います。


<第1章 自画像>
まずは自画像のコーナーです。カイユボットは都市風景と室内画を得意とし、パリ近郊の自然も描いていましたが、自画像はわずか5点しか確認されていないそうです。ここにはそのうち3点が並び、それぞれ違った時代の姿となっていました。

1 ギュスターヴ・カイユボット 「夏帽子の自画像」
これは青い帯のある麦わら帽子をかぶって口ひげをたくわえた自画像で、まだ若々しい姿となっています。優しい目でこちらを見ていて微笑んでいるように見えます。背景は緑で白い服を着ているせいか、明るく爽やかな印象を受け、写実的な感じの画風でした。

2 ギュスターヴ・カイユボット 「自画像」
これは1880年代(40代はじめ)の頃の自画像で、この頃はすでに印象派の活動に一区切りつけていたようです。横向きでこちらを振り返り、短めの髪の赤っぽい顔で鋭い目をしているように見えます。そのタッチは印象派風かな。表情のせいかやや硬い感じがあるように思えました。
この隣にも40代の自画像がありました。カイユボットは45歳という若さで亡くなったのですが、かなり老けて見えました。ちなみにカイユボットは父の遺産で印象派の作品を購入していたのだとか。こんなに良い絵が描けるパトロンって凄いw


<第2章 室内、肖像画>
続いては室内画と肖像画のコーナーです。カイユボットは1860年に父マルシャルがパリの8区のミロメニル通りの高級住宅地に新築した邸宅に住み、この邸宅を舞台にした多くの室内画と肖像画を描いています。この時代、「家族」の形態が次第に小さくなっていったらしく、プライベートな空間に重きをおく考えが生まれたそうです。これは18世紀の思想家に端を発したそうで、カイユボットの絵画はこれを具現化したものと言えるらしく、新しい時代を生きる家族の様子を彷彿とさせるそうです。カイユボットはお金持ちのためか注文で肖像などを描くことはなかったようですが、やがて近しい友人の肖像も描かれるようになったらしく、ここにはそうした作品が並んでいました。

5 ギュスターヴ・カイユボット 「昼食」
これは様々なガラス器が置かれた円卓に向かって食事をする弟ルネと母が描かれた作品です。その隣には料理を出す執事の姿があり、窓からは明るい光が差し込んでいて3人とも逆光となっています。つるつるのテーブルにも光が反射するなど緻密でアカデミックな感じもするかな。弟と母は目を合わせずに食べていて、その関係性を思わせます。また、視点も面白く手前はカイユボットが自分の皿を上から観たような構図になっているのですが、奥は斜め上から観た感じがして見事です。印象派にしては結構シャープな雰囲気があり、それが1つの魅力となっているようでした。

7 ギュスターヴ・カイユボット 「マルシャル・カイユボット夫人の肖像」
これは椅子に座り縫い物をしている母を描いた肖像画です。何故か喪服を着て沈んだ表情を浮かべているのですが、これは先ほどの弟が26歳で急死した頃の姿だそうです。周りは赤いカーテンや豪華な装飾があり、右から光が差し込んでいる感じを受けました。心情や光の表現などがよく現れている作品です。

この隣には本を読む叔父を描いた作品もありました。また、カイユボットを撮った写真が並び、先ほどの若いころの自画像と同様に優しい目をしていました。これらの写真はもう1人の弟マルシャルが撮ったものらしく、この展覧会の至る所に展示されています。マルシャルは官立高等音楽院出身の音楽家で、フォーレ、ショーソン、ドビュッシーらとも交流があったそうです。写真は1891年から撮りはじめたようで、その腕前も見事で当時の様子がわかる写真も多々展示されています。 マルシャルは兄のギュスターヴと共に行動して芸術的慣性をお互い認め合っていたのだとか。ちなみにギュスターヴ・カイユボットには異母兄弟の兄(聖職者)もいたようです。

16 ギュスターヴ・カイユボット 「アンリ・コルディエ」
これはカイユボットの友人である東洋学者が書斎で執筆している様子を描いた作品で、机にもたれ掛かるような感じでやや横向きの姿で描かれています。やけに机が高く背景の本棚に対して斜めに机が置かれているなど、ちょっと不自然な感じがします。解説によると、これは面白さを出すために意図的にこうした構図にしているようで、確かにそれが記憶に残りました。画風は印象派らしい感じもしますが、どこかきっちりしたアカデミックな感じも受けました。

この近くには最近ブリヂストン美術館の収蔵品になった「ピアノを弾く若い男」もありました。これは第2回印象派展にも出品された作品で、弟のマルシャルがモデルとなっています。この部屋の中央にはそこに描かれたピアノと似たピアノが置かれていました。

14 ギュスターヴ・カイユボット 「室内-窓辺の女性」
窓辺に立ち外を眺める黒い服の女性と、その脇のソファに座って新聞を読む男性が描かれた作品です。窓は明るくレースのカーテンは装飾的な雰囲気を出していて、そこから見える向かいの建物にも人の姿があります。室内の2人はお互いにまったく関心がないようで、どことなく倦怠感があるかな。2人の関係性が何となく伝わってくるようでした。

13 ギュスターヴ・カイユボット 「室内-読む女性」
椅子に座って横向きで新聞を読む女性と奥のソファで横たわって本を読む男性が描かれた作品です。女性はちょっとつまらなそうな顔をしているかな。一方、男性の方は小人ではないかというくらい小さく描かれていて、遠近感と大小の感覚に違和感を感じます。解説によると、この人物は印象派の画家と親交があった編集者らしく、当時の都市の生活を垣間見た感じがしました。

この辺にはブリヂストン美術館のルノワールなどのコレクションもありました。また、弟のマルシャルが撮った室内の写真などもあります。そして部屋の最後に何故か静岡県立美術館のピサロの作品があったのですが、これはカイユボットがコレクションしていた作品の1つのようです。カイユボットが印象派から買った作品は70点ほどあったらしく、その中にはルノワールのムーラン・ド・ラ・ギャレットやドガのエトワールなどもあったのだとか。
 参考記事:
  ドガ展 (横浜美術館)
  番外編 フランス旅行 オルセー美術館とセーヌ川

ということで、心待ちにしていた展示だけに感激もひとしおといった感じでした。カイユボットは点数もあまり多くないだけに国内で見られるのは非常に貴重な機会(何しろ本格的な個展は初めて)なので、見逃せない展示だと思います。後半も素晴らしい作品が並んでいましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。


   → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事
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