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ターナー展 (感想前編)【東京都美術館】

最近忙しくてご紹介が遅くなりましたが、2週間ほど前に上野の東京都美術館で「東京都美術館」を観てきました。充実の内容でメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1130295.jpg

【展覧名】
 ターナー展 Turner from the Tate: the Making of a Master

【公式サイト】
 http://www.turner2013-14.jp/
 http://www.tobikan.jp/museum/2013/2013_tuner.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年10月8日(火)~ 12月18日(水) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(祝日15時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
祝日に行ったらだいぶ混雑していて、入場制限は無かったもののどこでも列ができている感じでした。

さて、今回の展示は英国絵画の巨匠、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの個展となります。ターナーは1775年に理髪店の息子として生まれ、10代で英国各地の風景や旧跡を描く地誌的水彩画家として出発しました。24歳でロイヤル・アカデミーの準会員、26歳で正会員になるなど異例の出世を遂げ、風景表現の可能性を探求し幻想的で詩情に満ちた作風からロマン主義を代表する画家の1人と称されるそうです。その後1851年に76歳でなくなり、遺言により2万点以上を国家に寄贈したそうで、現在でもロンドンのテート美術館のターナー専用展示棟のクロアギャラリーに収蔵されているようです。今回はそうしたコレクションから30点の油彩と、水彩やスケッチなど合わせて110点もの作品が展示されていました。構成は10章から成り、時系列的かつジャンル分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 初期>
まずは初期のコーナーです。ターナーは14歳でロイヤル・アカデミーの美術学校に入学を許されて正統派の美術教育を受けました。当時は歴史画が絵画の分野の中で最も位が高いとされていた時代でしたが、ターナーは風景画をより高尚なものに高めるべく「ピクチャレスク」(絵になる風景)を求め、各地を旅して制作していたようです。また、伝統的に英国で好まれてきた水彩画の革新に取り組んでいたそうで、油彩はそれより後の1790年代半ば以降から手がけるようになったそうです。ここにはそうした若かりし頃の作品が並んでいました。

1 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(W.ホウル(子)による版画) 「ターナーの自画像」
これは小さめの版画で、24歳頃のターナーの油彩の自画像が版画化されたものです。こちらをまっすぐ見る若く精悍な男性で、自信がありそうな凛々しい雰囲気で描かれています。結構なイケメンなのですが、解説によると実際はこんなに格好良かったわけではないようで、赤ら顔のかぎ鼻だったとされているようです。…うーん、ちょっと理想化されてるのかな?w 野心家だったみたいだし、何となく人柄も伝わってきます。

4 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「パンテオン座、オックスフォード・ストリート、火事の翌朝」
これは17歳の頃の作品で、立派な劇場の前で大勢の野次馬が集まっていたり、建物に水をかけている人達が描かれています。タイトル通りこれは火事の翌朝の光景らしく、廃墟のように壊れた建物がリアルな感じを出しています。解説によると、ターナーは崩れていく建物にピクチャレスクの性質を観たようで、こうした変わった主題を選んだようです。全体的に騒然とした雰囲気があり、これを17歳で描いたというのはただ驚くばかりでした。
この近くには若い頃の水彩作品が並んでいました。風景や男性裸体像など、いずれも精緻な筆で写実的に描かれ、非凡な才能が感じられました。

10 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「月光、ミルバンクより眺めた習作」
これは油彩で、川とそこに浮かぶ船が描かれ、地平線の近くには明るく輝く月ともう1つの明るい星が描かれています。画面全体が薄暗いので満月が一層に輝いて見え、幻想的なほどに美しい光景です。解説によると、この絵は油彩を初めて手がけた年の翌年の作品で、今のテート美術館がある場所辺りで描かれたものだそうです。静かで詩情ある風景となっていました。


<第2章 「崇高」の追求>
ターナーの風景に対する取り組みに重要な影響を与えたのは「崇高」の概念だそうで、これは思想家のエドマン・ハーグの「崇高と美の観念の起源」(1756年)という著書によって広まった考えのようです。これは見る者に畏怖を抱かせるような途方も無いものに美を見出す考えのようで、美術では雷雨や時化など自然の驚異を描くことによって表されました。そして崇高な風景を目指したターナーは1797年に英国の湖水地方を訪れ、巨大なスケール感と独特の気象を伝えるために新たな表現を生み出したようです。また、1802年には英仏戦争の休戦によって初めて訪れたアルプスの荘厳な風景を目にし、それはターナーの円熟の大きなきっかけになったようです。ここにはそうした崇高な自然を描いた作品が並んでいました。

18 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「バターミア湖、クロマックウォーターの一部、カンバーランド、にわか雨」 ★こちらで観られます
手前に湖、奥に山があり、そこから虹が掛かっている様子が描かれた作品です。手前は暗く、虹が輝いて見える神秘的な光景で、ジェイムズ・トムソンの詩「春」の数行を添えられ「堂々たる儚い弓が/壮大にそびえ立ち ありとあらゆる色彩が姿をあらわす」と締めくくられているそうです。解説によると、これは23歳頃にロイヤル・アカデミー展に出品したもので、まるで詩を視覚化したようですが詩を元にしたのではなく、実際に見て描いているようです。詩は風景画が思考や感情に訴えることを示すために添えたようで、まさに「崇高」という言葉が相応しい画面とマッチしていました。

26 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「グリゾン州の雪崩」 ★こちらで観られます
これは鉛色の空の下、雪崩が家や木をなぎ倒して行く様子を描いた作品です。厚塗りされた雪は迫り来る感じで、擦ってぼかすことで雪煙を表現しています。家はバキバキに潰されていて緊張感があり、まさに自然の驚異を目の当たりにした感じです。解説によると、当時はこうした主題の際には通常は画面に人を描いていた(小さく描かれた人が驚いていることで自然の大きさを強調するため)ようですが、あえてここでは描かずにより恐ろしく危険に見せているようです。また、この作品を描く少し前にスイスで雪崩の事故があったそうで、それがこの作品の構想にも繋がっているのではないかと推測されるようでした。美しいというよりは畏怖の方が強く感じられる作品でした。

この近くには大型の歴史画も2点ありました。歴史画に風景を入れることで、歴史画よりも劣る分野とされていた風景画の地位向上に努めていたようです。


<第3章 戦時下の牧歌的風景>
続いては牧歌的な風景を描いた作品のコーナーです。ターナーは自らの地位を向上させ過去の巨匠に並ぶために努力していたようで、その為に描いたのが牧歌的な風景だったようです。1803年にはフランスとの戦争が再開されていたようですが、絵の中では穏やかな光景が広がり世相とは対照的だったようです。また、1805年にはロンドン西部の小村アイズルワースに家を借りて田園風景の絵に専念したそうですが、それは当時のアカデミーの範疇ではなかったらしく、画壇で議論になったようです。さらにこの頃、自身の版画集「研鑽の書」の刊行に着手し、風景を6種に分類して紹介するなど風景画が独立した一分野であり知的で多様な感情を表現できるものだと示したそうです。

37 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「スピットヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク船」 ★こちらで観られます
これは荒れた海の上に帆船の軍艦が並んでいる様子が描かれたかなり大きな絵で、手前には小舟に乗った人たちの姿もあります。解説によると、これはデンマーク海軍(ナポレオンの支配下に入るだろうと英国に恐れられていた)を下し、その軍艦をポーツマスに持ち帰ってきたところらしく、英国の国旗の下にはデンマークの国旗も掲げられ、デンマークが降伏したことを伝えているようです。ターナーは実際にこの場面を見ていたらしく、当事者ならではの臨場感をもって描かれています。荒波の力強い雰囲気や、堂々たる軍艦など全体的に劇的な雰囲気があり、ターナーはこうした英国海軍の戦力を誇示した作品を描いていたようでした。

この章の最初の方には「研鑽の書」のための原画やスケッチブックなどもありました。こうした牧歌的風景を描くことによってクロード・ロランと並ぶ風景画家となるという目標があったようです。

43 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「イングランド:リッチモンド・ヒル、プリンス・リージェント(摂政王太子)の誕生日に」
これは王太子(後の国王キング・ジョージ4世)の庇護を受けようと、王太子の誕生日にちなんで野外祝賀会の様子を描いた作品です。背景に広々とした野や森があり、その間にテムズ川が流れています。そして丘の上では貴族たちが大勢集まって宴に興じているようで、全体的に黄色~赤っぽく染まっていることもあって優美で神話の中のような雰囲気がありました。

この辺で下階は終わりで、続いて中階です。


<第4章 イタリア>
4章はイタリアを描いた作品が並ぶコーナーです。イタリアは当時のグランド・ツアー(上流貴族の子弟たちの留学)の最終目的地だったそうで、芸術文化の試金石とされていたようです。ターナーは1819年に初めてイタリアに訪れ、ヴェネツィア、フィレンツェ、ローマ、ナポリと半島を南下し、7ヶ月で23冊ものスケッチブックを用いて描きとめました。そして、この旅の前年に出版された詩人バイロンの叙事詩「チャイルド・ハロルドの巡礼」に大きな影響を受けていたらしく、そこには崩れ行く古代の遺跡と自然の魅惑的な美しさが理想化されて表現されていたようです。 その後、1828年の2度めのイタリア旅行の際にはローマにアトリエを構えて油彩画に取り組んだようです。ここにはそうしたイタリアを描いた作品が並んでいました。
 参考記事:巨匠たちの英国水彩画展 感想前編(Bunkamuraザ・ミュージアム)

49 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「ヴァティカンから望むローマ、ラ・フォルナリーナを伴って回廊装飾のための絵を準備するラファエロ」 ★こちらで観られます
これは回廊からローマを見下ろす風景を描いた作品で、サン・ピエトロ広場の光景のようです。手前には首を傾げている男性が描かれていて、これはルネサンス期の巨匠ラファエロらしく、ラファエロの聖母子なども画中画として描かれています。解説によると、この作品を描いた年はラファエロの没後300年だったそうで、ターナーは自分はそれを継ぐものだと考えていたのではないかとのことです。広々とした光景と回廊の近景の取り合わせが面白く、全体的に明るい雰囲気の作品でした。ターナーにとってライバルはクロード・ロランやラファエロといった過去の巨匠だったのですね。
 参考記事:
  ラファエロ 感想前編(国立西洋美術館)
  ラファエロ 感想後編(国立西洋美術館)
  
50 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「レグルス」 ★こちらで観られます
これは古代ローマの将軍レグルスの物語を題材にした作品です(リスト上は4章だけど5章の作品かも?) レグルスは捕虜になって まぶたを切り落とされ、陽光によって失明したという人物で、ここにはまばゆい光に包まれた港の船や街が描かれています。奥から非常に強い光が感じられ、これによって失明してしまったようです。解説によると、劇的な光の表現は強烈すぎて当時は賛否両論となったようです。光を描くといえば後の印象派が思い浮かびますが、こちらも光そのものが主題となっているような感じを受けました。

この近くにはヴェネツィアの嘆きの橋や、ローマのコロッセオ、ナポリなどを描いた作品もありました。また、先日ご紹介した漱石展で観た「金枝」に似た作品(「チャイルド・ハロルドの巡礼」★こちらで観られます)もありました。
 参考記事:夏目漱石の美術世界展 感想前編(東京藝術大学大学美術館)


ということで、今日はこの辺までにしておきます。ターナーの作品は何度も目にしたことがありますが、ここまで充実した内容だとは予想できず驚きでした。初期から順を追って構成されているのでターナーをよく知る機会でもあると思います。後半にも驚きの作品が多々ありましたので、次回は最後までご紹介する予定です。


  → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事


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Comment
No title
やっとターナー見てきました。
いつも2~3枚出されているターナーの作品は、ちょっとがっかり。。。と言う事が多かったのですが、今回のは流石に素晴らしいと思いました。
最近見た企画展の中では、水彩画がいっぱいあるし、私は一番気に入りました。
熱心にメモを取ってらっしゃる方がいらっしゃって、21世紀のxxx者さんも、こんな感じでメモされてるのかな~と思いました。
Re: No title
>nobukotsさん
コメント頂きましてありがとうございます。お返事遅くなりすみません^^;

ターナー展はかつてない規模でいい作品が多かったですね
製作過程なども伺えるし、充実していました。

メモを取ってる人は最近増えてきたかも。
みんな熱心に勉強してらっしゃるのかな。
仰るとおり私もその中に紛れて書いてますw 
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