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ターナー展 (感想後編)【東京都美術館】

今日は前回の記事に引き続き、東京都美術館の「ターナー展」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


  前編はこちら


P1130297.jpg

まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 ターナー展 Turner from the Tate: the Making of a Master

【公式サイト】
 http://www.turner2013-14.jp/
 http://www.tobikan.jp/museum/2013/2013_tuner.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)

【会期】2013年10月8日(火)~ 12月18日(水) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(祝日15時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では初期からの作品をご紹介してきましたが、後編は主に1820年代以降の作品が並ぶコーナーです。


<第5章 英国における新たな平和>
1815年にナポレオン戦争が終わると、戦争の勝利や英雄を記念する計画が相次いだそうで、ターナーも国王キング・ジョージ4世からトラファルガーの海戦を主題とする大作を依頼されたそうです。また、1820年代はそれまでのターナーの業績が集大成された時期でもあるようで、水彩画を原画とする版画集を次々と世に送り出し、その質の高さから同時代の文人から書籍の特装版の挿絵制作を求められることもあったようです。さらに、ターナーは有力なパトロンを何人か得て、その1人のエグリモント伯爵に招かれて滞在したペットワースハウスでグワッシュによる見事な水彩の連作を描いたそうです。ここにはそうしたナポレオン戦争後の時代の作品が並んでいました。

52 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「[トルファルガーの海戦]のための第2スケッチ」
これは国王キング・ジョージ4世の依頼で描かれた作品のための下絵で、完成作とほぼ同じ大きさとなっているようです。海戦と銘打っている割に闘っているシーンではなく、海で漂流している兵士たちが描かれていて、悲壮な感じがします。解説によると、戦勝を謳歌するのではなく、危機や混乱、犠牲を印象づけているようで、完成作の評価は芳しくなかったようです。さらに軍艦の形が不正確であるという指摘などもあり、後に宮殿から取り外されるという憂き目にあったようです。…確かにこれは勝利を祝っているというよりは戦争の悲惨さを描いているように見えるかな。期待されていたものと方向が違ったのではw 何故こうした絵を描いたのかは分かりませんが、これ以降 王室からの依頼は無かったようです。

60 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「ペットワース・ハウス:[オールド・ライブラリー]でテーブルに向かう男」
これは52歳頃にペットワース・ハウスで描いた作品で、この作品の他にも屋敷のあちこちで描いた小さめのスケッチが並んでいます。客間や寝室など、自由気ままに出入りしていたようで、簡素ながらも当時の生活がよく伝わる描写となっていました。

この先には詩集の挿絵などもありました。


<第6章 色彩と雰囲気をめぐる実験>
続いてはターナーの製作過程を考察するコーナーです。ターナーは現在では「カラー・ビギニング」と呼ばれる色彩の面や帯を配置して描いた一連の習作を残しているそうで、これらは1810年以降にアトリエで実験的に制作されたようです。こうした作品からはターナーの製作過程の秘密が垣間見られるそうで、ここにはそうした「カラー・ビギニング」が並んでいました。

70 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「にわか雨」
青い空に白い雲、茶~黄色の地面がぼんやりと色の交わりだけで描かれた作品です。にわか雨の大気の感じは出ていますが、抽象画のようにも見えます。解説によると、これは本作の前に色の効果などを実験しているのではないかとのことで、この辺にはこうした下塗りのようにも見える作品が並んでいました。確かにこれらは制作のための実験そのものと言った感じで、ターナーが作品を描く前にあれこれと検討していたのが伺えるようでした。

このコーナーには3つの海を1枚の絵で表現した作品もありました。これも抽象画のようです。(ロスコみたいなw)


<第7章 ヨーロッパ大陸への旅行>
続いてはフランスやドイツの風景を描いた作品のコーナーです。英国とフランスの戦争が終わりヨーロッパに平和が訪れると、英仏海峡の航路や主要河川に蒸気船が導入され、都市間には鉄道が発達するなど、交通の便が良くなり海外旅行がブームとなったようです。そして画家たちは旅先の名勝の風景を描くようになり、ターナーもイタリア、フランスのノルマンディーやブルターニュ、スイスのアルプス地方やルツェルン湖、ドイツのライン地方などに繰り返し訪れ風景を描いたようです。ここにはそうしたイギリス以外の国を描いた作品が並んでいました。

78 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「ルーアンの帆船」
川辺を描いた作品で、中央に小型の帆船、手前に小さなボート?が描かれています。背景はぼんやりしていて、霧がかかったようにかなり薄めに見える建物はルーアン大聖堂のようです。解説によると、これは以前はイタリアの風景かと思われていたようですが、ターナーは実際にはフランスの方が頻繁に行っていたようです。大気の表現などは後の時代のフランスの画家たちに共通するものが感じられました。

この近くにはアルプスを描いた作品などもありました。

91 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「ハイデルベルク」
これは42歳頃に描いた大型の作品で、ドイツのライン地方谷間にある城郭と宴の様子が描かれています。抽象画のように見えるほど光りに包まれ、筆致もかなり大胆です。解説によると、これは歴史画のようで、英国王の長女にまつわる悲劇があり実際に訪れた時はにはすでに廃墟となっていたそうです。その為かどこか幻想的な雰囲気もありました。

この先にはスイスの湖を描いた作品などもありました。ターナーはクローム・イエローを好んで使っていたため「カレー・マニア」とも揶揄されていたのだとかw 確かにターナーは黄色のイメージですがカレーとは…w


<第8章 ヴェネツィア>
8章からは上階の展示となります。ターナーはヴェネツィアに3度訪れているそうですが、最初に訪れてから実際に絵に描くまで14年もかかって、1833年にようやく初めての作品を描いたようです。最も多くの作品を描いたのは最後に訪れた1840年らしく、その際には17点の油彩を残したようです。ここにはそうしたヴェネツィアの街を描いた作品が並んでいました。

93 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「ヴェネツィア、嘆きの橋」 ★こちらで観られます
これはドゥカーレ宮殿と囚人が収監される牢獄の間にかかる橋が描かれた作品で、手前には水路をゆくゴンドラの人々の姿が描かれています。空は青くて全体的に明るく、爽やかな雰囲気にすら見えますが、右手の牢獄の辺りは若干暗めに描かれて対照的な効果を出しているようです。とは言え、ヴェネツィアの街の美しさがよく伝わり、平和な日常を思わせる作品でした。

この先にはヴェネツィアの街を描いたスケッチなどもありました。


<第9章 後期の海景画>
続いては海を描いた作品のコーナーです。ターナーは初めて油彩を発表して以来 海の風景を描き続けていたそうで、1830年代・1840年代には南イングランドのサネット島を定期的に訪れて大波や変化する光を観察し、この主題への関心を深めていったそうです。しかし当時の評論家は、ターナーの大胆で表現力豊かな絵の具の扱いと曖昧な描写を「石鹸の泡と水漆喰のようだ」と批判したそうです。中にはまるでターナーがラッパ状に顔料を込めてキャンバスに発射して描いているかのように読者に思わせる批評家まで現れたようで、決して当時から評価されていたわけではなさそうです。ここにはそう批判されるのも分かるような気がする後期の海景画が並んでいました。

このコーナーの最初には先ほどの「カラー・ビギニング」のような作品もあり、若干当時の人の気持も分かるような…w

101 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「海の惨事(別名「難破した女囚船アンピトリテ号、強風の中で見捨てられた女性と子どもたち」)」
これは大画面の作品で、囚人を乗せた船が難破している様子が描かれています。荒れ狂う海と空はその間が曖昧で、船は三角形の構図で描かれています。人々は苦しんでいるようで、緊迫した場面となっています。飛び散る絵の具も力強く感じさせる1つの要素で、劇的な印象を受けました。解説によると、この作品は未完成で終わっているようで、イギリス人船長の無能を描いていると受け取ることもできるので、体制への批判に繋がりかねないと危惧して避けたのではないかとのことでした。また、ロンドンでも展示されたフランスの画家テオドール・ジェリコーの作品にヒントを得ていた可能性もあるようでした。

108 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「荒れた海とイルカ」
こちらも未完の作品で、海とも空とも分からない うねりのようなものが描かれています。近現代の抽象画にしか見えず、具象的なものは見当たりません。 恐らくこの後に様々な物が描かれるはずだったようですが、飛沫のように絵の具が塗り重ねられていて、重苦しく力強い印象を受けました。なお、60歳を過ぎたターナーは荒れ狂う海を描くために船のマストに自身を括りつけて、嵐を何時間も観察していたというエピソードがあるそうです。…画家の鑑ですね。


<第10章 晩年の作品>
最後は晩年の作品のコーナーです。晩年は曖昧さが増していき、冷やかしや嘲笑にさらされることもあったようですが、批評家のラスキンはターナーを擁護し、「近代画家録」でターナー後期の作品を取り上げ、西洋風景画の伝統の頂点としてターナーを位置づけたそうです。また、ターナーは晩年に以前の作品の見直しも試みていたそうで、「研鑽の書」の為に考案した構図を再び取り上げ理想化した牧歌的な光景を描いたそうです。ここにはそうした作品が並んでいました。

113,114 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「戦争、流刑者とカサ貝」「平和-水葬」 ★こちらで観られます
これは対になるように並んだ2枚の作品で、「戦争、流刑者とカサ貝」のほうは赤みがかった水辺と夕陽が描かれ、水辺には腕を組む流刑の身となったナポレオンの姿があります。ナポレオンは水辺でカサ貝を見ているようですが、何とも寂しげで流刑の悲哀を感じます。 一方の「平和-水葬」は海の上で煙を吐く黒い船が描かれていて、全体的にはぼんやりとした感じです。解説によると、これは洋上でコレラに倒れた友人の画家デイヴィット・ウィルキーの水葬の場面を描いているようで、こちらも寂しげで哀しみに包まれているような雰囲気がありました。また、手前にマガモが小さく描かれているのですが、これはマガモ(マラード)とターナーのミドルネーム(マロード)をかけているのではないかとのことでした。

この近くには研鑽の書に基づく作品もありました。

112 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「湖に沈む夕陽」 ★こちらで観られます
これは空と湖が一体化しているような風景を描いた作品で、左上の辺りに夕日らしきものが見えます。その色合いから郷愁を誘われるのですが、これもモネの晩年か抽象画を思わせるほどに曖昧な描写となっていて、未完成なのかもしれません。これは発表されることはなかったようですが、ターナーはこれで完成と考えていたという説もあるそうです。その真相は私には分かりませんが、色の持つ効果と空気感はよく表れているように思いました。


ということで、ターナーの世界を堪能することができました。これだけの作品を日本で観られる機会は滅多にないと思いますので、ターナー好きな人は必見です。製作過程を知ることができたのも収穫でした。



 参照記事:★この記事を参照している記事

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Comment
No title
こんにちは!
情報ありがとうございます。ターナー行ってきました。
久しぶりにターナーの世界に浸ることができてとても幸せな
気分です。会期中にもう二、三回行ってみようと思って
いますw
Re: No title
>ウォーリックさん
コメント頂きましてありがとうございます。
こちらの展示は盛りだくさんで、これほど充実しているとは驚きでした。
ターナーの変遷も見られるし、良い展覧会ですよね。

しばらく経ってからもう一度観るとまた違った発見もあるかと思いますので、
是非改めて楽しんできてください^^
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