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アンリ・ルソーから始まる 素朴派とアウトサイダーズの世界 (感想前編)【世田谷美術館】

ついこの間の土曜日に用賀の世田谷美術館で「アンリ・ルソーから始まる 素朴派とアウトサイダーズの世界」を観てきました。思った以上に見どころがありましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

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【展覧名】
 アンリ・ルソーから始まる 素朴派とアウトサイダーズの世界

【公式サイト】
 http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/exhibition.html

【会場】世田谷美術館
【最寄】東急田園都市線 用賀駅


【会期】2013年9月14日(土)~11月10日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構多くのお客さんで賑わっていましたが、自分のペースで鑑賞することができました。

さて、今回の展示は素朴派とアウトサイダーと呼ばれる正規の美術教育を受けていないアーティストに関する内容となっています。独学の画家は昔からいたと思われますが、この展示では美術界でも評価されるようになったフランスのアンリ・ルソーを始めとして、ルソー以降の世界中の素朴派・アウトサイダーについて取り上げていました。展覧会は分類ごとに10の章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。


<1. 画家宣言―アンリ・ルソー>
まずは素朴派と呼ばれる中で最も有名なアンリ・ルソーのコーナーです。アンリ・ルソーはパリ市の税関で、絵を描き始めたのは1884年の40歳の頃でした。料金を払えば誰でも出品できるアンデパンダン展に出品すると、その技術の稚拙さからあらゆる中傷を受けましたが、1890年のアンデパンダン展では「私自身、肖像=風景」を出品し、それは彼の画家宣言と捉えることができるようです。ルソーを最初に注目したのは劇作家のアルフレッド・ジャリで、文芸誌「リマジエ」の為にルソーに版画を依頼したようです。そしてジャリからアポリネール、ピカソ、ドローニーなどに評価が広がり、1910年にルソーが亡くなった後もカンディンスキーらドイツの表現主義の画家たちに広がっていったようです。ここには主にルソーの作品が並んでいました。
 参考記事:アンリ・ルソー パリの空の下で ルソーとその仲間たち (ポーラ美術館)

3 アンリ・ルソー 「戦争 [リマジエ第2号]」
これは雑誌「リマジエ」の挿絵で、馬に乗った女神がたいまつと剣を持っている姿が描かれています。馬に乗っているといっても両足が手前側に描かれているなど子供の絵のようなチグハグさがあり、お世辞にも上手いとは言えませんw しかし、馬が飛んでいるような躍動感や、周りで倒れている人など独特の異様さやシュールさがありました。解説によると、これはオルセー美術館の「戦争」をもとにペンで原画を描いた唯一の版画作品のようでした。
 参考記事:オルセー美術館展2010 ポスト印象派 感想後編(国立新美術館)

4 アンリ・ルソー 「散歩(ビュット=ショーモン)」
背の高い3本の針葉樹(杉?)を中心に広葉樹の林が並ぶ光景で、左下あたりには人形のようにちょこんとした3人の母子らしき姿もあります。解説によると、これはパリ19区にある公園らしく忠実な描写となっているようで、左下の母子が向かっている黒い入口のようなものは人工滝の入口だそうです。落ち着いた色合いで、点描のような表現の葉っぱの表現が独特かな。のんびりしていて、まさしく素朴な雰囲気がありました。

この近くには世田谷美術館の宝とも言える「サン=ニコラ河岸から見たサン=ルイ島」と「フリュマンス・ビッシュの肖像」もありました。また、その先にはドローネー、ピカソ、アポリネール、ジャリといったルソーを見出した画家の写真もありました。
 参考記事:世田谷美術館の常設 (2010年08月)


<2.余暇に描く>
続いては他に本業を持っていた画家たちのコーナーです。画商で美術評論家のヴィルヘルム・ウーデはルソーの魅力に取りつかれ、パリでルソーを含む5人の画家を集め「聖なる心の画家たち」展を開きました。これは素朴派が世界中で見出される発端となったようで、この展覧会の画家たちに共通するのは専門の美術教育を受けることなく生活のために他の職業についていることでした。ここにはそうした「聖なる心の画家たち」展の画家の作品なども並んでいました。

6 アンドレ・ボーシャン 「地上の楽園」
アンドレ・ボーシャンは庭師もしていた画家で、この絵は恐らく聖書の楽園を描いたものかな。中央に裸の男性が描かれ、その周りにが草木が生い茂り、虎や象、ラクダ、鳥、蛇などの動物がのんびりしています。中には何だかよく分からない動物がいたり、遠近感が妙な感じなのは素朴派ならではだと思います。葉の緑や赤い花など庭師らしい側面もあるように思えました。

8 アンドレ・ボーシャン 「花」
ボーシャンといえばやはり花を描いた作品を思い浮かべます。これは戸外の台の上に置かれた花瓶の花束で、背景には街も描かれています。均等な間隔でズラッと並んだ花は現実には無さそうな配置で、ボリューム感があります。また、背景との遠近感が微妙なためか、一層に花が大きく見えました。この効果は面白いです。

11 カミーユ・ボンボワ 「三人の盗人たち」
この画家は「聖なる心の画家」の1人で、レスラーや肉体労働をしていたようです。この絵は塀の前で3人の女性が描かれ、1人は木の枝を持って尻もちして驚いた顔をしていて、もう1人は地面に座ってそれを見ていて、もう1人はスカートの裾を持つように立ってこちらを向いています。転んだ女性の周りにはオレンジの果実が転がっていて、背景にも実のなったオレンジの木々があるので、タイトルから察するにこれを盗んできたのではないかと思われます。女性たちはかなり太っていて顔が大きく、ちょっと異様な感じもしますが表情豊かに描かれていました。

14 ルイ・ヴィヴァン 「凱旋門」
この画家も「聖なる心の画家」の1人で、郵便局の職員だったようです。これは凱旋門を正面から描いた作品で、奥にはシャンゼリゼ通りが見え、周りには人々や車の姿があります。ディテールは単純化されていて、人々はおもちゃの人形ようで凱旋門はやけに小さく見えるかな。この画家の作品は周りに4点ほどありましたが、いずれも黒い枠で石畳やブロックを表現していて、堅牢かつ平面的な雰囲気があるのが面白いです。幾何学的なリズムを感じさせる作風でした。

16 オルネオーレ・メテルリ 「楽師と猫」
これはイタリアの素朴派の画家の作品で、レンガ造りの高い建物に囲まれた路地裏で猫に向かってトロンボーンを吹く楽師が描かれています。建物は重厚な感じに描かれている一方で、人と猫は稚拙な感じに見え、そのミスマッチが面白く感じられました。寂しげな感じとユーモラスな感じが同居している不思議な作品です。

23 サー・ウィンストン・S・チャーチル 「ウーリカの谷」
これはかの有名な英首相チャーチルが描いた作品で、第一次世界大戦の作戦失敗の責任を取って田舎の自宅に引きこもっていたころに描いたものだそうです。山々や古城が描かれた風景画で、平坦かつ大胆な筆で描かれちょっと印象派風にも見えるかな。色も明るく爽やかで、本業の画家が描いたものに見えます。この隣には水辺を描いた作品も合ったのですが、そちらも見事な描写で絵の才能もあったことが伺えました。なお、チャーチルは文才もありノーベル文学賞も貰っているそうです。本当にすごい人ですね…。

この近くにはイタリアのピエトロ・ギッザルディという画家の作品もありました。


<3. 人生の夕映え>
続いては、長い人生の中で、病気や事故、愛する者の死など予期せぬ出来事がきっかけで晩年に絵を描き始めた画家たちのコーナーです。アメリカの国民的画家であるグランマ・モーゼスは、リュウマチで刺繍絵が難しくなったために油彩を始め、101歳までに1500点もの作品を残しました。また、実業家としての人生を失敗したトリルハーゼも60歳になってから失意の中で画家に励まされながら絵を描き、シュルレアリストのマックス・エルンストたちから「我らがルソー」と賞賛されるようになったようです。ここにはそうした思わぬきっかけで絵を始めた画家たちの作品が並んでいました。

24 アダルベルト・トリルハーゼ 「イサクの犠牲」
これは背中に羽の生えた裸婦(天使?)と、子供の顔を手で押さえて短剣をかざす老人(イサク?)が描かれた作品で、背後には2人の男と馬やヤギらしき姿もあります。イサクと天使は目線が合っていないなど、ちぐはぐな感じがするのですが妙に味があり、それがこの場面を一層恐ろしい感じにしていました。確かにルソーに通じるものがあります。

35 グランマ・モーゼス 「川を渡っておばあちゃんの家へ」 ★こちらで観られます
これは一面雪景色の農場を描いた作品で、中央に川が描かれそこを2頭の馬に引かれたソリが橋を抜けて右の方に向かっている様子が描かれています。遠くの山々が見える広々とした構図で、画面のあちこちの家では人々の営みが感じられます。のんびりとした一種の理想郷のような雰囲気で温かみがありました。

38 グランマ・フラン 「暑い夏の日」
この画家は孫娘に絵手紙を描くために絵を描き始めた人で、ここには黄緑色の地に沢山の家々やそこで暮らす人々の様子が描かれています。何となく雰囲気はグランマ・モーゼスに近いものを感じるのですが、白・青・赤・緑など原色に近い色が使われ、より平面的な画面となっています。子どもたちの野外教室や遊んでいる子供などの姿もあり、賑いのある楽しげな雰囲気がありました。


<4. On the Street, On the Road ―道端と放浪の画家>
続いては路上生活や放浪生活を送った画家のコーナーです。生活保護を受けていた老人のビル・トレイラーは道端で拾った鉛筆と紙で突然絵を描き始め、廃材とペンキを使ったアーティストのウィリアム・ホーキンズはスプレーで落書きすることから始まったそうです。また、貼り絵で有名な山下清は放浪の旅をしては施設で制作していたようで、ここにはそういった路上・放浪の画家の作品が並んでいました。

61 山下清 「晩秋」
これは木々に囲まれた藁葺の家が貼り絵で表された作品です。一見すると点描のような感じに見えますが、木々の枝は紙をこよりにして表すなど表現方法も様々です。秋の風情が漂い、郷愁を誘う光景でした。山下清は知能の発達に遅れがあったようですが、これだけ情感豊かな表現ができる感性は素晴らしいものがあったと思います。

52 ビル・トレイラー 「人と犬のいる家」 ★こちらで観られます
この画家は生活保護を受けて昼間は歩道や市場で座って過ごしていた老人で、突然 鉛筆と定規を使って影絵のような手法で絵を描き始め、道端に並べて売っていたそうです。この作品もボール紙に描かれていて右下は破れています。そこに大きく家が描かれ、その屋根にはシルクハットを被った影絵のような人物が仰け反るように描かれ、家の中には椅子に座った人物と、子供らしい姿があります。また、家の前には茶色い犬が描かれていて、お世辞にも上手いとは思えませんが、キャラクターのようなゆるさがあり愛嬌がありました。これは何かの思い出かストーリーでもあるのかな。もしかしたら見た目ほど可愛い場面じゃないのかも??

この近くにはウィリアム・ホーキンズの立体的な作品などもありました。


ということで、結構知らないアーティストも多く個性的な画風が多く楽しめました。後半には今回特に心に残った画家のコーナーもありましたので、次回はそれについてご紹介しようと思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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