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生誕100年!植田正治のつくりかた (感想後編)【東京ステーションギャラリー】

今日は前回の記事に引き続き、東京ステーションギャラリーの「生誕100年!植田正治のつくりかた」の後編をご紹介いたします。前編には評価され始めた時期のコーナーについても記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

  前編はこちら

P1130374.jpg


【展覧名】
 生誕100年!植田正治のつくりかた

【公式サイト】
 http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/now.html

【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅、大手町駅など

【会期】2013年10月12日(土)~2014年1月5日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前半は有名な作品などが中心でしたが、後半はあまり知られていない晩年の作品などもありました。
 参考記事:植田正治写真展 写真とボク (埼玉県立近代美術館)


<小さい伝記 回顧と反復1970年代~80年代>
「童歴」が再評価を受けた後、植田正治は1974年から「小さい伝記」と題した雑誌連載を始め、それは12年間に渡って続きました。その長期連載はまるで自分自身の半生を編集するように新作と旧作、日記と昔語りが入り交じる複雑な構成だったようです。また、70年代には植田正治の活躍と注目度は一気に高まった時期でもあるようで、この頃は回帰と反復が特徴のようです。風土に根付いた写真と共に中断していた演出写真も再開して、自分のスタイルを組み合わせながら新作を発表し、時には先輩たちがかつて試みた芸術写真の技法も取り込んだようです。さらに80年代からはファッション写真を開始し、植田正治の演出スタイルは世間にも広く受け入れられたようです。ここにはそうした70~80年代の人気が決定づけられた時期の作品が並んでいました。

3-21 植田正治 「[小さい伝記]より」
これは下を向いている子供?の後ろ姿を撮ったもので、壁に影が2重になって写っています。透けているので両方影だと思うのですが、ぼんやりしていて上階で観た演出の写真とは違った作風に思えました。それでも何処か植田正治風に見えるのが不思議。

3-01 植田正治 「[音のない記憶]より」
これは1972年(59歳)で初めての海外旅行で行ったヨーロッパで撮った写真で、1974年刊行の2冊めの本格的な写真集「植田正治 小旅行写真集 音のない記憶」に収録されたものです。背の高い木々と空に浮かぶ三日月が撮られていて、縦長で木と月の間が広いので天高い感じを受けます。木々はシルエットのように並んでいて神秘的な雰囲気もありました。解説によると、この写真集は日本で撮影したものよりクラシカルな重厚感があるそうで、この辺には確かにクラシカルな雰囲気の作品が何点か並んでいました。

ちなみに植田正治は旅嫌いで山陰から出ることもあまりなかったそうです。

3-24 植田正治 「[白い風]より」
こちらはカラーの作品で、横一直線に走る一本道と、その両脇の茶色い畑?(砂漠?)が撮られていて、中央にはトランクを持った人が歩いています。こちらは3冊目の写真集「白い風」の1枚で、ソフトフォーカスによるカラー写真が収められ、特殊なレンズを用いて「ベス単フードはずし」と呼ばれる かつての芸術写真でよく使われた手法で撮影しているようです。その為か全体的にぼんやりしていて、現実の風景のような夢のなかのような曖昧な感じがして面白かったです。

この辺には「白い風」の作品シリーズが並んでいましたカラーでぼんやりした感じなのは共通しているかな。子供を撮った写真などもありました。

3-27 植田正治 「[砂丘モード]より」 ★こちらで観られます
これは再び白黒の作品で、砂漠の中でやや斜めに立つタキシード姿の男性が撮られています。顔には黒いお面のようなものをつけ、頭の上には黒い帽子が浮かんでいます。これは上階で観た演出写真と似ていて、背景も砂漠なのでシュールな感じがよく出ています。ちょっと寂しいような怖いような興味をそそる作品かな。
この辺には同じく「砂丘モード」のシリーズが並んでいて、解説によると1983年に妻が他界して失意の中にいた植田正治は、広告ディレクターとなっていた次男の充から励ましを込めてファッション写真の撮影の提案を受けたそうで、そうして制作されたキクチタケオのコレクションカタログは大きな反響を呼んだそうです。砂丘という舞台はファッション写真との相性が抜群だったようで、それ以降 植田正治はブランドやファッション誌のグラビア撮影に精力的に取り組み、一般への知名度も大幅に向上したそうです。

この近くには合成写真の資料などもありました。また、その先には映像があり、1985年の「ARB」というロックバンドの「after'45」という曲のプロモーションビデオが流れていました。これは植田正治が撮ったプロモで、砂丘にメンバーが立っていたり旗を振ったりといった感じの内容でした。私は植田正治に動画作品があるというのを初めて知りましたが、植田正治風の作品であるものの、写真に比べてシュールさは薄らいでいる感じがしました(髪が風になびいたりすると急に現実っぽく見えるせいかも)


<植田正治劇場 ボクのスタジオ 1990年代~2000年>
最後は晩年のコーナーです。90年代にはすでに国内外で高い評価を受けていた植田正治ですが、その頃には鮮やかなカラー写真や多重露光による合成写真などそれまでの作品の枠に留まらない手法に旺盛に取り組んでいたようです。自宅のテーブルに作った極小の空間でオブジェを組み合わせた写真や、花の接写など、この時期は至近距離の作品も際立っているようで、それまでの対象から距離をとってたっぷり間を取る特徴から大きく変化したそうです。また、この時期はカラー写真が多い反面で、黒々とした画面も表れ、ごく私的な印象も強まったそうです。ここにはそうした今までとは違った作風の作品が並んでいました。

4-02 植田正治 「GITANES/シリーズ[幻視遊間]より」
これは砂漠のような所に黒いシルエットの人形?が無数に置かれ、その後ろには惑星のようなものが浮かんでいる作品です。合成かセットを使ったものかは分かりませんが、月面の光景のような感じで、今までの作風を踏襲しつつ新しい試みに挑戦しているのが伺えました。

4-05 植田正治 「[幻視遊間]より」
これは真っ黒を背景にカラーで筍を撮った写真です。筍は皮と共に転がっていて、影が無いので浮かんでいるような感じにも見えます。筍は鮮やかな色合いのため、自然ではない陰影がシュールに思えました。

4-09 植田正治 「[日本びいき]より」
これは東京タワーを見上げる写真で、空にはうろこ雲が浮かんでいます。東京タワーはそびえるような感じですが全体的に茶色っぽいせいか、どこか寂しげに見えるかな。東京に旅行に来た時に撮ったのかな?? この辺には国会議事堂やスクランブル交差点を撮った写真などもあり、これまでの作風とはまた違った感じがしました。

4-21 植田正治 「[花視る]より」
これはピンクのチューリップ?を接写した作品で、かなり大きく部分的に撮っているので何の花かは私にはわかりません。その構図の為か、どことなくオキーフの絵画を彷彿するかな。植物の持つなめらかな線や色合いが美しく写っていました。

最後には2000年7月に他界する直前に撮られた境港の空港付近を撮った写真もありました。野原の草花を撮った写真で、日常の光景といった感じでした。



ということで、後半はまだまだ知らなかった植田正治について詳しく知る機会となっていました。私自身 写真についてはほとんど知りませんが、植田正治は写真自体が面白いので多くの人が楽しめる内容ではないかと思います。ここは非常に交通の便も良いのでお勧めの展示です。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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