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Drinking Glass-酒器のある情景 (感想前編)【サントリー美術館】

先週の日曜日に六本木のサントリー美術館で最終日となった「Drinking Glass-酒器のある情景」を観てきました。この展示は既に終了していますが、今後の参考としてご紹介しておこうと思います。メモも多めに取ってきましたので、前編・後編に分けて書いて参ります。

2013-11-03 16.01.25

【展覧名】
 Drinking Glass-酒器のある情景

【公式サイト】
 http://www.suntory.co.jp/sma/exhibit/2013_4/index.html

【会場】サントリー美術館
【最寄】六本木駅/乃木坂駅


【会期】2013年9月11日(水)~11月10日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日16時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
最終日だけあって結構お客さんは多めでしたが、自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展示はガラス製の酒器がテーマで様々な地域・時代の作品が並んでいました。ガラスの歴史は4000年前にさかのぼり、当初は不透明な素材だったようですが紀元前8世紀以降に透明へと移行し、中が透けて景色を楽しめるようになるとワインやビールなどの酒器として使われ発展したようです。展示ではその用途によって章分けされていましたので、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。


<Ⅰ 捧ぐ>
4000年以上前に始まったガラスは、西アジアやエジプト、エーゲ海のミケーネなどで作られるようになったようです。艷やかで熱で加工しやすいのでラピスラズリやトルコ石などの輝石を目指して作られ、ファラオの身を飾る装身具や葬送品に使われました。そしてガラス器は紀元前16世紀半ばにメソポタミアやエジプトで王族のもとに作られ、権力者への捧げ物となったようです。また、酒は人の穢れを払い神への畏敬を表す場面と共にあり高貴な方たちの儀礼などにも使われるようになりました。ここにはそうした捧げ物としての酒器が並んでいました。

02 「獅子頭形杯」 アケメネス朝ペルシャ 前5-4世紀
これはライオンの頭を持った角杯で、こうした杯は元々金属で作られていたようですがガラス器も作られるようになったようです。ほとんど透明感はなく顔のあたりは緑色に光っています。当時は動物の体の中に注がれた液体にはその動物の持つ特別な力が漲っていると考えられていたようで、それを得るために獅子の形になっているのかな。見事な造形で技術の高さが伺えました。

この隣には鹿の形の作品もありました。

17 「カットガラス碗」 ササン朝ペルシャ 3-7世紀
これはお椀のような形のガラス器で、3~7世紀のササン朝ペルシャで作られたようです。かなりボロボロで当時の様子は分かりませんが、側面には亀甲のような文様が入っていてこうした品は周辺諸国からの貢物へのお礼として作られたようです。日本の正倉院などにも似たものがあるようで、この近くには同様の器が数点並んでいました。ボロボロなのは土に埋まっていた間に銀化してしまったそうで、当時は透明感があったそうです。当時の文化の伝播も伺える品のようでした。


<Ⅱ 語らう>
紀元前13世紀頃になるとギリシアでは既にワイン文化が普及し、水で割って飲むのが一般的だったようです。その為、混酒器や注酒器、酒杯、貯蔵器、運搬器など主に陶器によって様々な種類の器が作られたそうで、古代ローマにも紀元前1世紀頃に急速にワイン文化が普及しました。また、紀元前50年頃には恐らくシリア・パレスチナ地方で吹きガラスが発明されるとガラス器がスピーディに作ることができるようになり、市民生活に身近なものとなったようです。陶器や金属器の酒器はガラス器にも影響を与えたようで、ここには酒宴など語らいの場で使われた器が並んでいました。

24 「脚付杯」 西アジア 前4世紀
これはエメラルドグリーンの大きめの杯で、脚がついているものの取っ手などはありません。(当時はまだ手をつけるのは難しかったそうです。) この頃ワインを水で割る為の器として「混ぜる」という意味の「クラテル」という器も生まれたようで、これは厳密にはクラテルではないものの、側面には計量に使ったような線もあり、その使い方を想像させました。中々綺麗な色合いの器です。

25 「カット装飾碗」 東地中海沿岸地域もしくは西アジア 前4世紀
これは無色透明のやや底の浅い杯で、「フィアラ」と呼ばれ寝っ転がって酒を飲むのに使われたそうです。底には16枚の花びらが2重に広がるようにカットが施されていて、かなり技術があったようです。なお、当時は寝っ転がってワインを飲みながら語り合う文化があったようで、それはそれで驚きでしたw


<Ⅲ 誓う>
今も昔も酒は誓いの場面に使われ、世界各国の婚礼の場では共に酒盃を交わし愛を誓います。また、仲間内でも友情を確かめ合うなど人間同士の誓いに使われてきました。一方、酒は神への信仰心や忠誠を誓うものとしても使われてきたようで、ここにはそうした誓いに使う酒器が並んでいました。

45 「スターラップ二重グラス」 ボヘミア 18世紀初頭
透明なガラス器の側面に紋章のようなものが描かれ、その下には逆さになっているもう1つの杯がくっついた変わった形の品です。これは旅や狩猟で出立する人の成功を祈って別れ際に酒を酌み交わすためのもので、一方で飲んでから相手に渡しもう一方の方で飲んでいたようです。まさに儀式的な品で、酒器が単なる器ではなかったことが伺えました。

この近くには女性像を型取り、持ち上げた杯とスカートが呑口になっている作品もありました。この辺りはサントリー美術館の所蔵品だけど久々に観た感じ。

46 「鳥動物文ティアードゴブレット」 ボヘミア 18世紀
これは大小の2つの杯が2段になっているゴブレットで、婚礼で使われた品のようです。大きな下段を新郎が飲み小さな上段は新婦が飲んでいたらしく、下段の側面には鹿、鳩、鶏に説教する狐が表されています。解説によると、これらはそれぞれ意味があるようで、闇を駆逐する光、平和、偽善(偽善に騙されるな)という教訓が込められているそうです。一方、新婦の方の上段はハートの上に向き合う2羽の鳩が表され、平和と愛を示しているようでした。2人の門出を祝いつつ教訓も与える可憐な品でした。

この近くには江戸時代の切子三ツ組盃・盃台などもありました。これも婚礼に使われた品で、三三九度の語源にもなっている品です。

50 「フリーメイソン文ゴブレット」 イギリス 1868年 ★こちらで観られます
こちら無色透明のゴブレットで、側面に定規とコンパスに囲まれた目の文様が刻まれています。この文様は秘密結社フリーメイソンのシンボルマークで、結社への忠誠を誓う言葉も書かれているそうです。ちょっと妖しげな感じですが、神秘的で儀式的な雰囲気がありました。


ということで、長くなってきたので今日はここまでにしようと思います。ガラスの酒器に絞っても様々な文化や時代の作品があるので情報量の多い展示だったと思います。この後にも近代の名品が並んでいましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。


  → 後編はこちら



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