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Drinking Glass-酒器のある情景 (感想後編)【サントリー美術館】

今日は前回の記事に引き続き、サントリー美術館の「Drinking Glass-酒器のある情景」の後編をご紹介いたします。前編にはガラス酒器の成り立ちなどについても記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

  前編はこちら

2013-11-03 18.14.14

【展覧名】
 Drinking Glass-酒器のある情景

【公式サイト】
 http://www.suntory.co.jp/sma/exhibit/2013_4/index.html

【会場】サントリー美術館
【最寄】六本木駅/乃木坂駅


【会期】2013年9月11日(水)~11月10日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日16時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では「捧ぐ」「語らう」「誓う」といった用途についてご紹介しましたが、後編は残りの2つの章と現代の作家の章についてです。


<Ⅳ 促す>
ガラスの装飾技術そのものが発達するにつれ自由な造形が生み出されると、様々な暗示や政治的思想、国家の繁栄などを願うものが彫られた品や、メッセージ性の強い品が登場したようです。また、技巧を駆使した杯は客人を驚かせるステイタスシンボルにもなり、周囲へのアピールとなりました。ここにはそうした政治・教訓・自負心などを促す役割の酒器が並んでいました。

54 「レースガラス蓋付ゴブレット」 ヴェネチア 16世紀
これは白い模様がレース編みのように表された「レースガラス」の大きめのゴブレットで、編みこまれた模様が軽やかかつ可憐な印象を持たせています。これは白いガラスと透明のガラスを合わせて作られるのですが、実際に使うものというよりは飾るためのものだったようです。何度見ても技術の高さに驚かされる逸品でした。
 参考記事:あこがれのヴェネチアン・グラス ― 時を超え、海を越えて (サントリー美術館)

この近くには船の形の器もありました。

64 「神聖ローマ帝国双頭鷲文フンペン」 ボヘミア 1677年
これはフンペンというビールジョッキをさらに縦長にしたような器で、双頭の鷲が側面に描かれています。この紋章は神聖ローマ帝国のもので、羽にはその属国であった公国や城都などの紋章が連なり、迫力と威厳があります。解説によると、神聖ローマ帝国は当時 争いと分裂を繰り返していたようで、これによって帝国の存続を促す意図があったようです。また、この近くにはフンペンが4つ並んでいたのですが、16~18世紀にかけてビールやワインを飲み回すために使っていたようです。一気に飲み干したらしいけど、どれも数リットルは入りそうな大きさで、そちらも驚きでした。

この近くにはゴールドサンドイッチというガラスとガラスの間に金の装飾を挟み込んだ酒器などもありました。

95 「狩猟文リキュールグラスセット」 スペイン 19世紀
これは小さなグラスや2本の瓶が並ぶリキュール・グラスのセットで、薄い黄緑色で草が表され中央には白い鹿が描かれています。当時の狩猟はステイタスシンボルだったようで、これはそれを誇示する役目もあったようです。可憐で軽やかな模様が好みの作品でした。

上階の展示はこの辺りまでで、続いては下階です。


<酒器の今>
階段下は酒器の今ということで、現代の日本の6人の作家の作品が並んでいました。

179 松島巌 「虹彩水玉文有脚杯」
これは小さな脚付きの器で、金色、赤、紫、緑などに光る表面となっていて、絵なのか模様なのかは分かりませんが、色合いが雅な雰囲気です。解説によると、この方は古代エジプトのコアガラスに魅せられ古代の技法に独学で取り組んでいるそうで、古代オリエントの技法を使いながら蒔絵や料紙を思わせる日本的な美意識の作品を作っているようです。ここにはずらっとそうした作品が並び、レース文様など優美な器もありました。

177 小川郁子 「切子 酒器 一式」
緑や青、赤といった色を使った切子の器(カットグラス)が並ぶ一式です。この方は江戸切子の職人のもとで9年修行したそうで、現代的な感性と江戸の伝統の両面を感じさせる作風です。その色合いが美しく、輝いて見えるかな。女性らしい感性もあるようで華やかな雰囲気の作品でした。


<Ⅴ 祝い、集い、もてなし、愉しむ>
酒といえば宴がつきものですが、宴には多様な酒器が使われるようです。客人を招いた際に特別に使われるもてなしの酒器や、余興に使われる酒器、夏の宴席に使われる清涼感のある酒器など、ここには様々な宴の酒器が並んでいました。

116 「鹿形パズルゴブレット」 ドイツ 17世紀末 ―18世紀
杯の中に長い柱があり、その上に鹿が乗っかっている鹿型のゴブレットです。これは普通に飲もうとすると鹿の細工に鼻がぶつかって飲めないようで、台座の付け口の穴を塞いで鹿の口を吸うと、サイフォンの原理で飲めるようになるという仕組みのようです。余興に使われたそうで、特殊な作りが興味深い作品でした。

隣には乙女が杯を持ち上げてスカートが杯になっている品もありました。

126? 「水色徳利」 日本 18世紀後半 ―19世紀前半
これは水色というよりはやや緑っぽい色の徳利で、首が極細でしずくのような優美な曲線の胴をしています。色合いとともに涼しげで何とも言えない気品があります。江戸時代には美人を表すのに「びいどろの徳利を逆さにしたような」という例えがあったそうで、これはまさに江戸の美女のような美しさでした。

128? 「紫色急須・猪口」 日本 18世紀後半 ―19世紀前半
これは紫色のガラスの急須と、小さな六角形のおちょこのセットで、どちらも落ち着いた色合いで艶やかな雰囲気があります。その形も凛としていてかなり好みでした。江戸のガラス器は格調高く涼しげな印象を受けます。

この近くは江戸時代の作品が並び、サントリー美術館でも人気の122「藍色ちろり」123「藍色縁杯」や、薩摩切子の160「薩摩切子藍色被船形鉢」157「薩摩切子紅色被栓付瓶」 161「薩摩切子紫色被ちろり」といった作品なども並んでいました。

147 「練上手徳利・脚付杯」
これは「練上手」というマーブルガラスの一種の技術で作られた徳利で、黄色、赤、緑など様々な色が交じり合っています。その色合いの変化が面白く、1つとして同じにはならないようです。形もスラっとした徳利で、変わった色と共に楽しめました。

167 「金赤リキュールグラスセット」 バカラ社、フランス 20世紀初頭
これはガラスの箱に入った赤い地に金の装飾が施されたグラスセットです。バカラ社によって作られたらしく、薔薇のような色が高貴な印象です。これは食後に使われたもののようですが、見ているだけでも贅沢な気分になれる品でした。

170 エミール・ガレ 「葡萄文栓付瓶」 フランス 1900年
これは赤い地にビー玉みたいなものがいくつもハマったやや緑がかった透明の蓋が付いた瓶です。玉は葡萄の実を思わせ、葉やつたが胴を取り巻いているようにも見えるかな。解説によると、側面にボードレールの「毒」という詩の一部が書かれているようで、背面にそれっぽい文字が刻まれていました。

この近くにはアールデコ風の作品もありました。


ということで、見た目が綺麗なだけではなく造形や機能の美しさも備えた作品を観ることができました。一言にガラスの酒器といっても文化によって様々な形態を持っていることがよく分かり参考になりました。この美術館は年に1度くらいはこうしたガラス器のコレクションの展示を行うので、またしばらくしたら観る機会があると思います。その時を楽しみに待とうと思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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No title
東京に行く時は、よく参考にさせていただいて居ります。
これからも時々伺わせていただきます。
Re: No title
>ペチュニアさん
コメント頂きましてありがとうございます。
参考にして頂けると書いている甲斐があります^^
最近ちょっと忙しくてペースが落ちていますが、
観てきたものはなるべく書いていこうと思いますので、
今後とも宜しくお願い致します。
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