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トスカーナと近代絵画 もうひとつのルネサンス 【損保ジャパン東郷青児美術館】

最近忙しくて間があきました。もう20日くらい前のことですが、新宿の損保ジャパン東郷青児美術館で会期末となった「トスカーナと近代絵画 もうひとつのルネサンス」を観てきました。この展示は既に終了しましたが今後の参考として記事にしておこうと思います。

P1130307.jpg

【展覧名】
 フィレンツェ ピッティ宮近代美術館コレクション
 トスカーナと近代絵画 もうひとつのルネサンス

【公式サイト】
 http://www.sompo-japan.co.jp/museum/exevit/index_pitti.html

【会場】損保ジャパン東郷青児美術館
【最寄】新宿駅


【会期】2013年9月7日(土)~11月10日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
会期末でしたがそれほど混んでおらず、自分のペースで観ることができました。

さて、この展示はイタリアのフィレンツェにあるピッティ宮近代美術館のコレクション展で、ロマン主義から20世紀初頭までの2世紀渡るイタリアの絵画の歴史を回想するものとなっていました。イタリアは19世紀初頭に半島を征服していたナポレオンが失脚し、1815年にオーストリア帝国がイタリア半島の大部分を傘下に置く体制が復活しました。フランス統治は短命でしたが、長らく諸大国に分割統治されてきたイタリア半島の人々に文化を共有し、同一民族としての自覚を促したそうです。1820年代には文学や美術にイタリア中世やルネサンス時代の主題が表されるようになり、1840年代から幾多の戦争を経て1861年にトリノを首都とするイタリア王国が誕生しました。一連の統一運動は過去の栄光を摂り戻る願いを込めてリソルジメント(再起)と呼ばれたそうで、この間トスカーナ大公国の首都フィレンツェは進歩的な思想家や芸術家が集まる国際文化都市の華やぎを取り戻し、新王国政府は統一記念の博覧会をフィレンツェに選び、初めてイタリア各地の美術が一同に会したそうです。
展覧会はそうした時代に沿って章分けされていたので、詳しくは各章ごとにご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  イタリアの印象派 マッキアイオーリ展 (東京都庭園美術館)
  ウフィツィ美術館自画像コレクション (損保ジャパン東郷青児美術館)


<第1章 トスカーナのロマン主義絵画にみる歴史と同時代性>
フランスから伝わったロマン主義は19世紀前半にはイタリアの主要都市に浸透していたそうですが、アカデミーではギリシア・ローマの芸術を理知的に模倣する新古典主義が主流だったそうです。その反動であるロマン主義は個人の内発的な感情、自然への憧れ、民族意識などを特徴としていたようで、イタリアのロマン主義の画家は自然から得た素材を、祖国の文化である16世紀ルネサンス絵画に倣った理知的な人物表現と融合させていたそうです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

3 ガエターノ・サパテッリ「チマブーエとジェット」
道端で石版に羊の絵を描いている少年と、その後ろで馬にもたれかかってそれを観て立つ白い服の男性が描かれた作品です。これは13世紀にルネサンスの先駆けとなったジョットの少年時代を描いたもので、高名な画家チマブーエが通りがかりジョットの才能を見出したという逸話を題材にしているようです。鮮やかで柔らかい色合いでいかにも歴史画といった感じの画風かな。大型で見応えがあり、物語性を感じさせました。

4 エンリコ・ポッラストリーニ 「ピーア・デ・トロメイの墓にきたネッロ」
これは墓穴に横たわる白い服の若い女性と、その傍らにいる夫が目を見開いて抱きつこうとしている様子が描かれた作品です。夫の後ろには2人の人物が制止していて、横にはそれを見ている男性、その側には抱き合って悲しむ女性などの姿もあります。解説によると、これはイタリアの小説のクライマックスを描いたものらしく、ロミオとジュリエットの話に似ているそうです。非常に心情表現が劇的で、ロマン主義的な作風でした。

この近くにはダンテの神曲を題材にした作品もありました。

10 アントニオ・フォンタネージ 「サンタ・トリニタ橋付近のアルノ川」
これはフィレンツェ近くの川とその背景の町が描かれた作品で、空は赤く染まり川には船が浮かんでいます。その色合いが何とも神々しく、美しい光景です。 作者のフォンタネージはフランスのバルビゾン派やイギリスのターナー、フィレンツェのマッキアイオーリなどを研究した画家で、1876~78年には明治政府の招きによって東京で西洋画を教えていたそうです。 浅井忠などはその系譜などで作風も似ているように思いました。


<第2章 新たなる絵画 マッキアオーリ>
続いてはイタリアの印象派とも言えるマッキアイオーリについてのコーナーです。イタリアのリソルジメントが高揚した1850年代に、急進的な思想家のたまり場だったカフェ・ミケランジェロ(フィレンツェ大聖堂の近く)には絵画にも革新を求める若い画家も集まったそうです。フィレンツェ滞在中のドガも常連だったそうですが、ここに集まった画家たちはバルビゾン派の影響を受けていたようで、現実の実観を描こうとして現場での写生を重視したそうです。そして彼らは次第に現実らしさをその場限りの色彩と明暗の調和に見出していったようで、移ろう光景の全容を素早く描くために形態を大まかな色斑(マッキア)で捉える方法を生み出したそうです。ここではそうした運動の革新を象徴する実験的な作品なども並んでしました。

11 ジョヴァンニ・ファットーリ 「従姉妹アルジアの肖像」
これは今回のポスターの作品で、手を組んで座る女性がこちらを見ている姿が描かれています。少し離れて観ると写実的に描かれているように見えますが、近寄って観ると服などは粗いタッチで描かれているのが分かり面白いです。確かに印象派に通じるタッチかな。知的な雰囲気の女性像で、色合いのせいか静かな画面となっていました。 なお、「マッキアイオーリ」も印象派と同じく最初は侮辱的な意味で使用されていた言葉とのことでした。その辺も含めて印象派と比較されるのもうなずけます。

36 テレマコ・シニョリーニ 「フィレンツェの旧市街の通り」
これは縦長の画面にフィレンツェの裏通りが描かれた作品で、手前は暗く上の方の建物に光が当たっているようです。タッチは粗く印象派風で、明暗の強さのせいか一層に光が明るく感じられました。

40 セラフィーノ・デ・ティボリ 「立木のある土地」
これは縦長の作品で林の間から家が見える光景が描かれています。かなりぼんやりとしていて、バルビゾン派のコローから影響を受けているようです。しかしコローよりもタッチは大胆に見えるかな。解説によると、この画家はパリ万博でバルビゾン派の作品を実際に見たそうで、印象派も学んだそうです。その研究の成果が伺える作品でした。

31 クリスティアーノ・バンティ 「夕焼け」
これは木の側に立つ2人の女性と木にもたれる少女が描かれた作品で、2人の女性は話し合っているのかな。背景は赤く染まる空で郷愁を誘われる風景です。解説によると、この画家はカフェ・ミケランジェロでパトロン的な立場だった人物で、コローから影響を受けているようです。その影響はこの作品でも顕著に見られ、空気感はコローの表現の特徴に似ているように思いました。

17 ジョヴァンニ・ファットーリ 「止まれ」
こちらは道端で沢山の兵士や馬が立ち止まっている様子を描いた作品で、これは統一戦争を題材にしているようです。解説によると、この画家は統一戦争の絵で評価を受けた画家のようですが、実際に戦闘には参加しておらず、こうした野営地などをよく描いていたようです。背景の人々や馬は簡素に描かれていますが、離れて観ると躍動感があるように思えるのが面白いです。明るく軽やかな色合いで、これも印象派に近いものを感じました。


<第3章 トスカーナにおける19世紀と20世紀絵画の諸相>
続いてはトスカーナの19世紀~20世紀の画家のコーナーです。王宮のあるフィレンツェは20世紀にもアカデミックな絵画に需要があったそうで、上流階級や公的機関の注文に応じる画家がいたようです。また、革新的な美術運動の舞台はローマやミラノ、トリノへ移り、トスカーナでは穏健な描写で田園生活を讃えた作品が描かれたようです。1880年代の若手はフランスのポスト印象主義やナビ派、さらにミラノ発の分割主義に触発され色彩やタッチの造形に関心を移し、スタイルを発展させた画家たちはポストマッキアイオーリと呼ばれるそうです。
19世紀末には美と内面の神秘を探求する耽美主義者や象徴主義者が各国から集まったそうで、20世紀になると伝統の打破を唱える未来派の抽象絵画が伝播したそうです。しかし第一次世界大戦後には秩序と安定を求める世相を反映し、端正な具象絵画が息を吹き返しました。 ここにはそうした時代の様々な作品が並んでいました。

49 アントニオ・チゼーリ 「キリストの埋葬」
これは処刑されて ぐったりしたキリストを埋葬しようと運ぶ聖人や聖女・聖母を描いた作品です。3人の弟子がキリストを持ち、女性たちは悲しみに暮れていて、青白い顔のキリストは力ない感じがします。解説によると、この画家は実証主義の影響を受けて迫真描写で表現しているようです。また、カラヴァッジョからの影響も受けているようで、光の使い方などからそれが伺えるようでした。

56 ヴィットーリオ・マッテオ・コルコス 「フランカ・ヴィヴィアーニ・デッラ・ロッビアの肖像」
こちらを見つめるショートヘアの若い女性を描いた作品で、唇の赤が鮮やかに見えます。 全体的にも明るめに見えるかな。 背景には葉っぱのような紋章のようなものも描かれていて、このモデルは国王の血筋を引いているそうです。そのためか気品があるように思えました。解説によると、この作者は前章でご紹介したファットーリの弟子で、パリで学び帰郷後に上流層の肖像画家として成功した人物だそうです。古代彫刻の造形と近代的な容貌を結びつけているようで理想的な美しさに思えました。

61 オットーネ・ロザイ 「山と農家」 ★こちらで観られます
山を背景に水辺の農家が描かれた作品で、ぼんやりとして重厚な色合いで描かれています。1人も人物が描かれておらず、素朴な画風と相まって寂しいようなシュールなような不思議な感覚を覚えます。解説によると、この画家はセザンヌの影響を受けているそうで、家は簡潔な形をしているのでそれっぽいかな。また、未来派にも参加していたようですが、その要素は感じられませんでした。


<第4章 20世紀の画家たち:イタリア絵画の立役者たちとその傾向>
最後は20世紀についてのコーナーです。文化大国を目指したファシスト政権の政策はイタリアの芸術界に活気をもたらせたそうで、政府が展覧会や販売の制度を支援し、建築装飾事業を支援したため、美術品の流通は10年で10倍以上となったそうです。前衛芸術を退廃とみなしたナチスとは異なりファシスト党内の有識者は多様な表現に理解があったようですが、地方の国粋的な統治者は国際的なスタイルに批判的だったようです。ここにはそうした激動の20世紀の画家の作品が並んでいました。

68 ジョルジョ・デ・キリコ 「南イタリアの歌」
ギターを弾く人物とその後ろから頬を寄せる人物が描かれた作品です。しかし2人とも顔はなくマネキン人形のような感じで、シュールな雰囲気となっています。これは個性を奪われた近代人を表すとも解釈できるそうで、言い知れぬ不安を感じました。解説によると、デ・キリコは象徴主義に惹かれ目に見えない本質を「形而上」とし形而上派を作ったそうです。形而上派はイタリアの過去の絵画を再評価し、その彩色技術・遠近法・明暗法・主題や図像を現代的な感覚で再制作し、こうした作品を産んだようでした。

76 アルベルト・サヴィニオ 「オルフェウスとエウリュディケ」
これはデ・キリコの弟の作品で、サヴィニオはバレエ音楽の作曲家としてのペンネームで本名はアンドレア・デ・キリコという名前だそうです。この絵にはオルフェウスと妻のエウリュディケが描かれているのですが、見た目はセーターを着た現代人といった感じかな。独特のざらついたマチエールで大胆かつ内面的な雰囲気があります。解説によると、これは古代神話を自分自身と重ねて表す手法だったそうで、兄の作品とはまた違った面白さがありました。

この近くにはローマ派と呼ばれた一派の作品もありました。


ということで、参考になる展示でしたが「これ!」という作品は少なかったようにも思いました。とは言え、イタリアのルネサンス期以降の絵画の流れは興味深いので、こうした展覧会があったらまた行ってみたいと思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事
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