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植田正治とジャック・アンリ・ラルティーグ -写真であそぶ- 【東京都写真美術館】

多忙でだいぶ間が空きました。前回ご紹介したカフェに行く前に恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館で「植田正治とジャック・アンリ・ラルティーグ -写真であそぶ-」を観てきました。

P1130596.jpg

【展覧名】
 植田正治とジャック・アンリ・ラルティーグ -写真であそぶ-

【公式サイト】
 http://syabi.com/contents/exhibition/index-2015.html

【会場】東京都写真美術館
【最寄】恵比寿駅


【会期】2013年11月23日 (土) ~ 2014年1月26日 (日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんは入っていましたが、特に混んでいるわけではなく自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展示は生誕100年で展覧会が相次いでいる植田正治と、植田が最も敬愛する写真家ジャック・アンリ・ラルティーグについての展示です。2人は生涯アマチュア精神を貫き、撮ることを純粋に楽しんでいたそうで、展示ではそうした2人の作品がコーナーごとに交互に並んでいました。テーマごとに章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  生誕100年!植田正治のつくりかた 感想前編(東京ステーションギャラリー)
  生誕100年!植田正治のつくりかた 感想後編(東京ステーションギャラリー)
  植田正治写真展 写真とボク (埼玉県立近代美術館)


<1 実験精神>
ジャック・アンリ・ラルティーグはフランスの銀行家の裕福な家庭に生まれ、わずか7歳(1901年)の時に父からカメラを買い与えられたそうです。一方、鳥取の境港の商家に生まれた植田正治が実際にカメラを持ったのは1928年の15歳の頃だったそうで、2人とも少年時代にカメラを手に入れて写真にとりつかれたそうです。2人はその可能性を生涯に渡って追求したが、それは何かのためではなく純粋な遊びの精神だったようです。ここには様々な実験的な作品が並んでいました。

L-02 ジャック・アンリ・ラルティーグ 「いとこのビショナード、コルタンベール通り40番地、パリ」
家の前の10段くらいの階段と、その上で跳ぶように降りていく女性が写った作品です。長いスカートで足は見えず、ほんとに宙を舞っているような感じです。そのポーズでなければここまで跳んでるようには見えないのかも?? 面白い発想の作品でした。

U1-11 植田正治 「砂丘人物」
これは四角い枠を持った男性と、その枠の中に入るように女性が写っている作品です。背景は真っ白で、女性の一部は枠からはみ出ています。それが非常に奇妙でシュールな感じで、現実というよりはトリックアート的な雰囲気でした。

この近くには東京ステーションギャラリーの展示でもご紹介した船や停留所を取った写真などもありました。

U1-10 植田正治 「砂丘ヌード」
これは砂丘を背景に左に人のお尻だけが取られているヌード写真です。遠近感もよく分からず巨大なモニュメントのようにもめるかな。柔らかい形で、これもシュルレアリスムのイヴ・タンギーの作品に通じる感じを受けました。

この辺には「童暦」のシリーズも並んでいました。

L1-10 ジャック・アンリ・ラルティーグ 「レーシングカー[ドラージュ]、フランス自動車クラブのグランプリレース」
これはクラシックなレーシングカーを並走しながら撮った写真です。レーシングカーは運転席より後ろの部分だけが写っていて、背景には立ち止まって見ている人々の姿があります。車輪が円ではなく前の方に向かって歪んでいるため非常にスピード感があり、背景の人も横に引き伸ばされているような感じでそれを強めているように思いました。

この隣には布で幽霊を作ったような写真(★こちらで観られます)もありました。

L1-5 ジャック・アンリ・ラルティーグ 「フォルテット氏(プリット)とチュピー、パリ」
これはシルクハットの男性が前のめりになって左手に犬を持っている姿が撮られた写真です。その男性の前には小さな川があり、犬を紙飛行機のように持って投げ込もうとしているようにも見えますw よく分からない状況ですが、一瞬の動きを撮った面白さがあり、ややシュールな雰囲気でした。

この少し先には車やレースを撮った写真が並んでいました。ラルティーグは車好きだったのかも。


<2 インティメント:親しい人たち>
続いては親しい人を撮った写真が並ぶコーナーです。ラルティーグは死ぬまで家族や友人を撮り続けていたそうで、一方の植田も妻や子供を盛んに撮っていました。しかし2人の手法には違いがあり、植田は自分を含め親しい人をあたかもオブジェのように現実から切り離して写真というもう1つの現実の中で、新たな生命の吹き込みました。一方、ラルティーグは親しい人々と共にする喜びの時間を写したようです。ここにはそうした人々の写真が並んでいました。

U2-2 植田正治 「風船を持った自画像(II)」 ★こちらで観られます
これはスーツに帽子姿で小さな風船を持って立つセルフポートレートです。これも砂丘らしく、背景は空しか写っていません。暗めで何とも寂しい雰囲気で、風船が奇妙さを増しているようでした。

U2-18 植田正治 「妻のいる砂丘風景(IV)」
これは砂丘で横向きに正座して座っている着物のの女性を撮った写真です。背景は雲が浮かび奥の方には上半身だけ写っている黒衣の女性の姿もあります。雲の雄大さとぽつんとした人物がミスマッチで、不思議な光景です。何故正座しているのかも不明ですが、これも奇妙さを出していました。

L2-4 ジャック・アンリ・ラルティーグ 「ぼくと愛猫ジジ、コルタンベール通り40番地、パリ」
これはベッドで安らかに寝ている男性と、その脇で一緒に仰向けで寝ている猫が写った写真です。目を閉じてとろっとした表情が何とも可愛く、幸福そうな雰囲気がありました。

L2-10 ジャック・アンリ・ラルティーグ 「ビビとロロといっしょに体操、パリ」
床のマットの上でうつ伏せて体をそらし両手を広げている女性と、その後ろで足を押さえている男性、隣でも同様の男女が写っている作品です。恐らく体操しているのだと思いますが、全員楽しそうな顔で歯を見せて笑っています。生活の中の喜びを感じさせました。

L2-22 ジャック・アンリ・ラルティーグ 「パパとママン、結婚60年目の[ダイヤモンド婚式]」
腕を組んで街角で並んでいる老夫婦を撮った写真で、作者の父母のパリの街での姿のようです。こちらを見ていて、裕福そうな格好で顔は穏やかながらも威厳を感じました。2人の仲の良さがにじみ出ているようでした。


<3 インスタント:瞬間>
ラルティーグは毎日の幸せな一瞬が消え去って行くことに耐えられずカメラを持ち始めたそうで、一瞬を切り取るカメラの機能に日々の楽しみだけでなく、その可能性を追求しているように思われるようです。一方、植田正治はカメラが捉えた瞬間は現実でありながら現実を越えたものであったのではないかと考えられるようです。ここには一瞬を捉えた作品が並んでいました。

U3-2 植田正治 「小狐登場」
砂丘の上でジャンプしている子供が撮られた写真で、顔には白い狐の面をつけています。背景は暗く、白いお面が非常に目を引き、ジャンプして浮いているのでぴょこっと急に現れたような感じです。可愛いような怖いような神秘的な作品でした。

U3-17 植田正治 「シリーズ『音のない記憶』より」
これはヨーロッパへの旅行の際に撮った写真で、大きな建物の前で路面電車が走っている様子が写っています。建物や広場には人の姿がなく、ガランとした感じです。路面電車はややぼやけていて動き去っていくのが感じられました。

L3-14 ジャック・アンリ・ラルティーグ 「スザンヌ・ランランのトレーニング、ニース」
これはラケットを持ってコートの上でボールを追いかけている女性が撮られた写真です。足を前後に大きく開き、空中で止まっているような感じに撮られていて、まさに一瞬を切り取ったように見えます。昔の技術でここまで一瞬を綺麗に撮れることにも驚きました。
この近くには車付きボブスレーの写真もありました。ボブスレーの写真は結構あったので、ボブスレー好きだったのかも。

L3-16 ジャック・アンリ・ラルティーグ 「シャルル・サブレといとこのシモーヌ、サンモリッツ」
これは表情でスケート靴を履いた男性が飛んでいる女性を抱きとめている様子を撮った写真です。女性は足を伸ばして跳んでいて、これも一瞬の動作を捉えています。躍動感があり2人の関係性も伺えるようでした。


<4 自然と空間>
最後は自然を撮った作品のコーナーです。季節を感じさせる写真が多く並んでいました。

U4-16 植田正治 「シリーズ『音のない記憶』より」
一面雪景色のなかでフードを被っている女性と2人の子どもたちが写り、背景には屋根に雪が積もった家々が写っています。画面には雪が舞い、非常に寒そうに見えるかな。山陰の厳しい冬を感じさせました。

U4-13 植田正治 「シリーズ『童暦』より」
山々を背景に4人と犬が歩いている様子を横からとった写真です。縦長の画面の半分以上は暗く思い色合いの雲で、これから夕立が来ることを予感させます。雲と人の大きさの対比から自然の雄大さが感じられました。

L4-3 ジャック・アンリ・ラルティーグ 「ダニ、スコア防波堤に打ち付ける荒波、アンダイエ」
防波堤の上に立つ2人の子と女性の姿があり、画面の大半は打ち寄せる荒波となっています。子供は身をかがめ、荒波を浴びていて非常にダイナミックで勢いを感じさせました。ラルティーグは自然を撮っても一瞬を撮っているように思います。

L4-15 ジャック・アンリ・ラルティーグ 「雪をかぶったイスとテーブル、ピスコップ」
これは野外のテーブルと椅子に雪が30cmくらい積もっている様子が撮られた作品で、元々の椅子とテーブルは細い針金のような華奢なものです。しかしその上に乗った雪がソファのように見えるのが面白く、柔らかい印象を受けました。

L4-7 ジャック・アンリ・ラルティーグ 「ニース」
これは細く黒い鉄の柵と門が撮られ、その前には3~4人の人影が写っています。みんな逃げるようなポーズをしていて、背景には5mくらいありそうな波飛沫が襲いかかってきています。これは自然の猛威が目の当たりにできて、写真どころじゃないから早く逃げろ!wとツッコミを入れながら見ていました。

この辺には嵐を撮った写真が何点かありました。

L4-18 ジャック・アンリ・ラルティーグ 「オレロン島」
遠浅の広い海岸と、その上で飛び跳ねている人が撮られた作品です。バレエのようなポーズで跳ねていて、他に誰もいないのでちょっとシュールな感じがしました。これも瞬間を上手く表現しています。


ということで、2人の作風を比べながら見られる面白い展示となっていました。それぞれについて詳しく掘り下げているわけではないですが、感性の違いなどがよく分かるよ思います。写真好きの方におすすめの展示です。


 参照記事:★この記事を参照している記事
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