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ジョセフ・クーデルカ展 (感想後編)【東京国立近代美術館】

今日は前回に引き続き東京国立近代美術館の「ジョセフ・クーデルカ展」についてです。(この展示は既に終了しています) 前編は初期からご紹介しておりますので、前編をお読み頂いていない方は前編から読んで頂けると嬉しいです。


  前編はこちら


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【展覧名】
 ジョセフ・クーデルカ展

【公式サイト】
 http://www.momat.go.jp/Honkan/koudelka2013/

【会場】東京国立近代美術館
【最寄】竹橋駅

【会期】2013年11月6日(水)~2014年1月13日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では亡命前の初期の作品をご紹介しましたが、後編はワルシャワ条約機構軍の侵攻の前後から現在に至るまでの時代についてです。


<4 ジプシーズ Gypsies 1962-1970>
「ジプシーズ」はジョセフ・クーデルカの最初の大きなテーマを持った連作で、ほとんどは1960年代に主としてスロバキアとルーマニアにあるロマ(ジプシー)の居留地で撮影されました。これには膨大な写真が含まれ、その中にはドキュメンタリーもあれば個々の独立した作品、複数の写真で構成されるフォトストーリーなど様々なものがあるようです。 そしてこのシリーズでは同時期の演劇写真と同様に現実を生き生きとした可塑的で可変的な素材として扱い、彼自身の作品として明確な形を与えていたようです。シリーズの初期に撮影された写真は1967年に「門のむこう」劇場のロビーで展示されたそうで、現在ではこの作品は写真史における古典の1つと位置づけられているようです。なお、この作品はジプシーについて正確かつ客観的に記録したものではないそうですが、写真家の個人的なヴィジョンとして提示されたものが並んでいました。

タイトル通りいずれもロマの人々を撮った作品で、家族と一緒にいたり楽器を演奏している姿が撮られ、意外と家の中を撮った写真が多く放浪している感じはしません(居留地だからかな) 特に子供の写真が多くて、生き生きとした感じが伝わってくるのですが、一方ではどこか寂しげで儚い印象も受けました。結構写真に向かってポーズをとっていたり、抱き合ったりしているので生活をそのまま撮ったというよりはカメラを向けて若干演出している感じもするかな。 また、このシリーズは実験的なものや劇場を撮ったものなどの抽象的な作風とは違い、くっきりと写実的な作風となっていました。


<5 侵攻 Invasion 1968>
続いてはジョセフ・クーデルカの運命を大きく変えたワルシャワ条約機構軍のプラハ侵攻を撮った作品のコーナーです。(ここは点数少なめ) 「侵攻」はジョセフ・クーデルカの中でも最も写実性の高い作品で、プラハの春と呼ばれるチェコスロバキアにおける政治改革(自由改革)を抑えこむために1968年8月にソ連を主とするワルシャワ条約機構軍が軍事介入した様子を捉えています。このシリーズの目的はその軍事介入を可能な限り正確に伝えるためにあり、プラハ侵攻1周年に際して初めて各国の雑誌に匿名で掲載されました。ジョセフ・クーデルカはジャーナリストではありませんが、このシリーズは第二次大戦以降のフォトジャーナリズムにおいて最高傑作の1つと評されるほどらしく、彼の写真はチェコスロバキアの悲劇に留まらずあらゆる地域の軍事介入のシンボルとなっていきました。 しかし一連の作品は本国チェコスロバキアでは1990年まで発表されることは無かったそうで、彼自身もこの作品を発表後に亡命するなど、当時は非常に苦しい立場だったことが伺えます。
 参考記事:ジョセフ・クーデルカ 「プラハ1968」 (東京都写真美術館)

街中の戦車をじっとみているアパートの人たち、兵士に抗議をする人、旗を持って歩く英雄的な人、市民に銃を構える兵士など、劇的で憤りや不安が見事に表われた写真が並んでいました。とは言え、この章だけ点数が少なめだったのはちょっと残念。


<6 エグザイルズ Exiles 1970-1994>
続いては漂流者を意味する「エグザイル」のシリーズです。流浪という支店はクーデルカの作品世界を新たな段階へと導いたそうで、プラハ侵攻をきっかけに1970年にイギリスに亡命した亡命者の視点から捉えられた写真は、ノスタルジーや内省、疎外感に満ちていて、切り離され追放された立場の自らの感情を吐露しているようです。

このシリーズは写実性が高いものの たまに影絵のような作品もあり、かつての初期の作風を彷彿とさせるものもありました。 打ち捨てられた材木、ベンチで死んだように寝る人、暗闇に舞い散る雪、切り刻まれた人物のポスター、長い影の人々、誰もいない町の中のヤギ、片足がなく杖をつく人の後ろ姿、うらぶれた路地、逆さ吊りになった鳥、何もない草原 などとにかく寂しげなものが多く、漠然とした不安を覚えるモチーフが主となっています。構図の面白さはあるものの、内面的な部分が強調されているように思いました。


<7 カオス Chaos 1986-2012>
最後は現在に至るまでのコーナーです。ジョセフ・クーデルカは1986年からパノラマカメラを使い始めたそうで、それによって彼のスタイルは根本的な変化がもたらされました。 その成果の1つが破局にある自然の風景を捉えた黙示録的な写真シリーズで、それは永劫に消滅しつつある世界についての暗い前兆・警告というべきものを提示したようです。このシリーズはカオスという表題の元にゆるやかにまとめられ、人間と環境の間の関係のもろさを示すと同時に、破壊を恐れつつ魅了されもする人間の性向を表しているようです。

ここには大型の作品が多く、自然の雄大さを感じるものもあれば、廃墟や古代文明の遺跡などもあり、確かにテーマは多様に感じられました。ギリシアの倒れて分解した石柱や、イスラエルの靄に包まれた戦車、フランスの激しい波の海と堤防、イスラエルの壁の壊れた家と荒野、ドイツの尾根と谷が幾重にも並んだ山、イギリスの長い↑矢印(ポスターにもなった作品)、ごみだらけの川、レバノンの破壊されたマンションのような建物とその前の道を歩く人など その大半は荒涼として寒々しい感じを受けました。カオスというよりはまさに黙示録と言えるのではないかな。エグザイルと根底は同じようにも思えました。


ということで、以前観たプラハ侵攻関連の写真展以降 気になっていた写真家だっただけに今回はそれ以外の作品も多数観られて貴重な機会でした。てっきり報道写真がメインなのかと思っていましたが、ジプシーやエグザイルを観るとそれだけではないことがよく分かりました。もうこの展示は終わってしまいましたが、今後も注目したい写真家です。


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