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アンディ・ウォーホル展:永遠の15分 (感想後編)【森美術館】

今日は前回に続き、森美術館の「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」についてです。前編では混み具合や初期の作品などもご紹介していますので、前編を読んでいない方はそちらからお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら


P1140971.jpg

【展覧名】
 アンディ・ウォーホル展:永遠の15分

【公式サイト】
 http://www.mori.art.museum/contents/andy_warhol/

【会場】森美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2014年02月01日~05月06日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編は主に絵画作品をご紹介しましたが、後半はさらに様々な作品が並んでいました。

<第4章 シルバー・ファクトリー>
アンディ・ウォーホルのニューヨークのスタジオは「ファクトリー」と呼ばれ、複数のアシスタントによって工場のように絵画や彫刻の制作が行われていたそうです。同時にここは美術関係者、ミュージシャン、詩人、俳優、ダンサー等が集まる交流の場であり、彼らを被写体にした実験的映画が多数制作・上映されていたそうです。中でも1963年から68年にかけてのスタジオは内部が銀色で装飾されたため「シルバー・ファクトリー」と呼ばれ、1963年に出会ったビリー・ネームによって発案され、彼自身もここに住んでウォーホルの制作風景や訪問者を写真に収めていったそうです。ここにはそのシルバー・ファクトリーを実寸大に再現した部屋がありました。

まずファクトリーの内部が撮られた白黒の写真があり、工場のように整然とものが並べられアルミの壁紙で装飾されている様子が写っています。そしてその先にある実寸大の部屋に入ると、ちょっとしたホールくらいある広い部屋で、あちこちにダンボールが整然と並んでいます。 …と思ったら、これらは実は彫刻作品らしいのですが、どう見てもダンボールですw 解説によるとここは設計した本人が今回の展示に協力したそうで、内部も写真を貼って再現しているようでした。

この近くにはウォーホルがプロデュースを手がけたバンド「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」の「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ」の映像がありました。この頃のサイケな時代の流れとは違ったサウンドがちょっと意外なアルバムです。


<第5章 1970s&1980s 1 1970-80年代Ⅰ:ビジネスアートとセレブリティ>
アンディ・ウォーホルは1968年に彼の映画にも出演したことがあるフェミニズムの活動家ヴァレリー・ソラナスに銃撃され、瀕死の重傷を負いました(理由はよく分からないのですが、ちょっとぶっ飛んだ思想の人のようです。この人を題材にした映画もあるので、それを見たら分かるのかな??)
 参考リンク:I SHOT ANDY WARHOLのwikipedia

この事件でウォーホルは心身ともに大きな衝撃を受け、制作から遠のくのではないかと噂されましたが、そうはならず活動の方向転換にとどまったようです。 そして今度は監督ではなくプロデューサーとして映画製作を続け、1969年に雑誌「インタビュー」を創刊しました。「インタビュー」の初期はアンダーグラウンド映画を取り扱っていたようですが、後に有名人へのインタビューを中心にポップカルチャーを題材にしていくこととなりました。
アンディ・ウォーホルは1972年のニクソン大統領による中国訪問の頃までには本格的に美術制作を再開していたようで、シルクスクリーンによる毛沢東の肖像シリーズを制作していた様子はビデオ作品の「ファクトリー日記」にも写されているようです。その後、ウォーホルはスタジオを移転しましたが、そこはファクトリーではなくオフィスと呼んだそうで、ウォーホルはビジネスアートの時代が来ると言っていたらしく、実際に70年代はビジネスアートの幕開けとなっていったようです。
また、「インタビュー」誌やナイトクラブ「スタジオ54」での社交を通じて人脈を広げたウォーホルはセレブリティの肖像画を数多く制作し、特に注文肖像画は各界の有名人やスター、個人コレクターからの注文を得ていたようです。ここにはそうしたセレブリティの肖像画がまず並んでいました。

1m四方の人物の肖像画が並んでいて、こうした作品は1000点ほど作られたそうです。シルクスクリーンで転写した人物像に色を塗ったもので、明るい色合いで何パターンかずつ作られていたようです。ここには2パターンずつ並んでいて、ヴァレンティノや坂本龍一、キミコ・パワーズ、モナコのカロリーヌ王女、ミック・ジャガー、マイケル・ジャクソンなど知っている顔もありました。また、アレキサンダー大王なんてのもあってちょっと意外ですw これらはウォーホルのスタジオでポロライド撮影されるか、希望の写真を送って貰うかしてシルクスクリーンに転写したようで、例えば坂本龍一は協和発酵の販促用に用いたものだったようです。 いずれも色合いがポップで輪郭を原色でなぞっているような独特の表現で面白さがありました。
 参考記事:アメリカン・ポップ・アート展 感想後編(国立新美術館)

その後は有名人のポラロイド写真が並ぶコーナーもありました。オジー・オズボーンやキース・ヘリング、ヨハネ・パウロ二世などジャンルも多様な有名人が並んでいて、その人脈の広さに驚かされました。


<第6章 1970s&1980s 2 1970-80年代Ⅱ:多様化と反復>
1970~71年にかけて大回顧展が欧米の権威ある美術館を巡回するなど、ウォーホルは世界的な名声を得ていき、より広範囲な活動を行うようになっていきました。「アンディ・ウォーホル 僕の哲学」の出版や、80年代に放送されたTVCMの出演、政治的/絶滅動物/社会問題をテーマに描いた作品など様々です。また、抽象的なイメージに興味を持って作られた「カモフラージュ」では抽象的でありつつもすぐそれと分かり多様なものを連想させるそうで、他にもロールシャッハと呼んでいた抽象的な絵画シリーズも手がけたようです。

ここにはまず白黒の写真があり、ウォーホル自身が写ったものや中国で撮った写真、ミッキーマウスやドナルドダック、ボッティチェッリのビーナスの誕生、ソ連を連想させるハンマーと鎌、自由の女神、レーガン大統領など様々なものがあります。また、その先には絶滅危惧種の動物を描いたシルクスクリーンがあり、カラフルに象やパンダ、虎、シマウマ、サイなどが描かれていました。 この辺りは作風もモチーフも多様で1人の作品とは思えないほどですw (ちょっと方向性が分からない位ですw)

その先には時代の寵児ジャン=ミシェル・バスキアとのコラボ作品もありました。$マークを描いた作品では$マークをウォーホルが印刷し、その上に蛇と「私を踏みつけるな」とバスキアが書いたそうで。これはアメリカ海軍旗からの引用らしく、踏みつければ(自由を侵せば)報復することを示しているようでした。これは2人の作風を混ぜたような感じで興味深い作品かな。解説がないとちょっと意味はわからないかもw

その後は銅の顔料を塗ったキャンバスの上に放尿して制作した作品もありました。飛び散っている痕跡が残っているのが何だかリアルw まさか尿までアートにするとは恐れ入りましたw まさに錬金術士を彷彿とするとのことですが、言われなければ抽象絵画の類かと思う人も多いと思います(私も尿だとは全く気づきませんでした)

その先の部屋では映像が流れ、日本のTDKのビデオテープのCMで目をつぶりながらTVを持ち、「赤、緑、青、群青色…」と日本語で話す姿が映されていました。これは懐かしのCMとかでもよく観るので、覚えていましたw ちょっと発音は怪しいけど、日本人の中のアンディ・ウォーホルのイメージはこれによる所も大きいのでは??


他にも著書「アンディ・ウォーホル 僕の哲学」やヤマモトカンサイのニューヨークのファッションショーの映像、日本での展示のために作られた菊をモチーフにした作品、葛飾北斎の神奈川沖浪裏をモチーフにした作品、ジェームズ・ディーンの「理由なき反抗」の日本語版のポスターを絵で描いたものなどもあり、日本との交流や活動を示す品々となっていました。

この後は再び広告を絵画にした作品や人体図を描いた大型作品、子供向けの展覧会のための作品などより一層幅広い内容となっています。 子供向けの絵は子供の目線で飾られているので結構下の方にあり、おもちゃなどが描かれていました。また、その近くにはロールシャッハ・テストの絵のようなシリーズもあり、その名の通りとなっていました。これはアンディ・ウォーホルによる抽象画とも言えそうです。


<第7章 Film&Video 実験映画とヴィデオ>
アンディ・ウォーホルは1963年に16mmフィルムのカメラを入手し、60年代後半までに無数の実験的な映画を作りました。最初の作品はジョン・ジョルノという人物が眠る姿を撮影した「スリープ」だったそうで、初期の映画ではカメラを固定し無音で1秒24コマで撮影したものを1秒16コマでゆっくり上映していたそうです。その代表である「エンパイア」では夕暮れから深夜までのエンパイアステートビルを定点観測し、8時間の長さで上映するなど時間の概念を弄んだようです。 また。1963~66年にはファクトリーに訪れた人を撮影した作品を数百本も作っていたようで、他にも1960年代中盤はストーリーの無いセミドキュメンタリーなどを撮っていました。 1965年からはしばらく映画に集中していたそうで「画家は廃業」とまで言って打ち込んでいたようです。そして1965年にはヴィデオも入手し、実験的なビデオ作品にも着手してきました。

ここには壁面に映像が映されていて、ず~~~っとエンパイアステートビルを写したもの(しかもリアルタイムより遅いので全然変化ていないように見えるw)や、女性の日常を垣間見たようなドラマなのかドキュメントなのか分からない作品(ルペ)、抽象的なくらい接写して男性の眠る姿を撮った「スリープ」、正面から人物の顔だけ撮った「スクリーンテスト」などがあります。スクリーンテストはスタジオを訪れた人々を2分45秒間撮ったものを4分で上映しているようで、今回は一気に複数の人物の作品を並べて展示しています。岸田今日子、サルバドール・ダリ、マルセル・デュシャン、ボブ・ディランなどの顔もあるのが面白く、それぞれはじっとしていたり動いたりと一様ではありませんでした。 これらは映画というのか分かりませんが、確かに実験的かつ先進的なチャレンジが伺えました。


<第8章 Time Capcells タイムカプセル>
最後はウォーホルの私物のコーナーです。ウォーホルは1974年頃からタイムカプセルと称してあらゆる所有品をダンボールに入れて保管していたそうで、書類や手紙、雑誌、新聞、プレゼントなど本当に何でも身の回りのものが入っているようです。アンディ・ウォーホル美術館には何と600箱もそうしたものがあるそうで、ここでは約300点が展示されていました。美術雑誌やファッション誌、灰皿、新聞、タオルなど日用品のほかに、浮世絵の図録、複製の浮世絵、光琳や北斎の図録、仏像の図録などもあります。解説によると、1972年の個展で日本との交流が生まれたようで、「旅」(日本の雑誌)や日本人からのプレゼント、スポーツ誌など日本の品々も数多く並んでいました。 アンディ・ウォーホルは「ポップアートは物を好きになること」と語っていたそうですが、単に収集癖がある人だったのではないかというくらい何でも取っておいているようでしたw

最後に出口付近には十字架を描いた作品があり、これは前編でもご紹介したカトリックの信仰と関係がありそうです。晩年は宗教を主体にしたシリーズに取り組んでいたようですが、長期に渡って体調を崩し、1987年に手術を受け成功したものの、回復後に心臓発作で他界したそうです。(58歳)

この近くにはやはり亡くなる1年ほど前に描いた迷彩色のような「カムフラージュ」シリーズもあり、晩年まで様々な挑戦をしていたようでした。


ということで非常にボリューム感がある内容で、アンディ・ウォーホルの作風の流れを俯瞰することができる内容となっていました。私は現代アートが苦手なほうですが、これは楽しめたので好きな方には特にお勧めできそうです。期間は長めですが既に人気の展示となっていますので、早めに観に行っておいたほうが良さそうです。会期末は大混雑じゃないかな…。


おまけ:
森美術館の入口のエスカレーターの前にあったレーシングカー。(BMWアートカー 1979年)
P1140968.jpg
本当に色々なことをしていた人物ですね…。


 参照記事:★この記事を参照している記事


 
 
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