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シャヴァンヌ展 (感想前編)【Bunkamuraザ・ミュージアム】

もう3週間ほど前になりましたが、渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで「シャヴァンヌ展 水辺のアルカディア ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの神話世界」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1140516.jpg

【展覧名】
 シャヴァンヌ展 水辺のアルカディア ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの神話世界

【公式サイト】
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/14_chavannes/index.html
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/14_chavannes.html

【会場】Bunkamuraザ・ミュージアム
【最寄】渋谷駅/京王井の頭線神泉駅


【会期】2014/1/2(木)~3/9(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
それほど混むこともなく自分のペースでゆっくり観ることができました。

さて、今回の展示は19世紀フランスを代表する壁画家で日本近代洋画の確立に多大な影響を与えた画家シャヴァンヌの全体像を示す日本で初めての機会となっています。シャヴァンヌは私邸の食堂に描いた壁画を皮切りに、アミアン・ピカルディ美術館の壁画装飾、クロード・ヴィニョン邸、パンテリオン、リヨン美術館、パリ市庁舎などフランスの主要建造物の記念碑的な壁画装飾を手がけ、19世紀後半に壁画家として活躍しました。そうした壁画の中ではウェルギリウスの「牧歌」や「農耕詩」を反芻し、自然と人間の調和するアルカディア(理想郷)を描き続けたそうです。そしてギリシア・ローマの古代神話を範としながら独自の解釈をし、自らのアルカディアを創出したシャヴァンヌの独創的な世界は、1880年代以降の象徴主義の流れで高い評価を得るようになり、シャヴァンヌはフランス象徴主義の先駆者として位置づけられているそうです。
展覧会は時代順に章が分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品をご紹介していこうと思います。


<第1章 最初の壁画装飾と初期作品 1850年代>
まずは初期のコーナーです。ピュヴィス・ド・シャヴァンヌは1824年にリヨンで生まれ、22歳の時にイタリアを旅して画家になる決意をしました。そして2年後にこの地を再訪すると、ジョットやピエロ・デラ・フランチェスカなど初期ルネサンス期の壁画に感銘を受けたようです。一方、パリでアリ・シェフェールやドラクロワ、トマ・クチュールなどに(短期間ですが)師事し、1848年に会計検査院の壁画装飾を完成させました。テオドール・シャセリオーに心酔していく1854~55年には私邸の食堂の為に初めての壁画装飾を制作し、その1つを再制作した「狩りからの帰還」で1859年のサロン入選(9年ぶり)すると、美術批評家のテオフィル・ゴーティエから注文を受けました。そして続く1860年代は壁画装飾を手がけていくようになるのですが、この章では1850年代の作品が並んでいました。

8 ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ 「自画像」
これは33歳頃の自画像で、横向きで右半分は背景の闇に溶けこむような感じで描かれています。全体的に暗い色合いのせいか、顔も神経質そうに見えるかなw 解説によると、彼の家族が言うには1850年代にアトリエを共有したギュスターヴ・リカールという画家の様式に倣って描かれているとのことでした。

1 ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ 「アレゴリー」 ★こちらで観られます
これは最初期の作品で、三人の人物が寄り集まって立っている様子が描かれています。この3人は、左は豪華なネックレスを触って建築素描を持っているブルネレスキ、中央はフードを被った質素な聖フランチェスコ、右は神曲を書いたダンテと言われているようです。写実的なようでもありながら理想化されている感じもあり、画力の高さが伺えます。確かにルネサンスから影響を受けているのも分かるかな。解説によると、この時代は文化的な英雄をこうして一堂に会して描くことがしばしば行われたそうです。ちょっとバラバラで不思議な感じがするけど、そういうのが流行ったのですね。

3-6 ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ 「奇跡の漁り(習作)」「ルツとボアズ(習作)」「葡萄酒造り(習作)」「放蕩息子の帰還(習作)」
これは私邸の食堂の壁画のための油彩習作で、4点並んでいてそれぞれが四季に対応しているようです。(ここには冬が無く、代わりに放蕩息子の帰還が入っているようでした) 特に気に入ったのは春の「奇跡の漁り」で、これはキリストの指示に従ってペトロが網を下ろすと大量の魚が掛かったという奇跡の話を題材にしたもので、輪郭が太くまだ下絵っぽい感じの粗い仕上がりとなっています。しかし人々が三角形の構図で配置されているなど、絵としての作りに面白みがありました。


<第2章 公共建築への壁画装飾へ アミアン・ピカルディ美術館 1860年代>
続いては1860年代の壁画を手がけ始めた頃のコーナーです。シャヴァンヌは1861年のサロンに「平和(コンコルディア)」と「戦争(ベルム)」を出品すると、歴史画部門で第2席を獲得し、「平和」は国家買い上げの栄誉となりました。また、対となる「労働」と「休息」が共にピカルディ美術館に設置され、これが初の公的な仕事となり、その後20年以上続くアミアン・ピカルディ美術館の壁画装飾は壮大なシャヴァンヌ・ギャラリーを形成していくこととなります。
シャヴァンヌは古代ローマの詩人ウェルギリウスの「牧歌」「農耕詩」に歌われていたアルカディア(理想郷)を描き、古典主義の作風を成熟させて極端な遠近法を避け、建築と調和するフレスコのようなつや消しの色調で 壁画装飾の美学を貫いているそうです。また、1860年代末からは後の印象派の画家たちとも親交し次第に明るい色彩も放つようになっていきました。この章にはそうした名が売れるきっかけとなった作品などが並んでいました。

D3 ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ 「平和」
これは先述の「平和」の下絵素描で、木の周りで裸の男女がのんびりしている様子が描かれています。酒をついだり果物を持っていたり、連続するように人物が配置されているのが面白いです。それぞれのポーズは動的で、体は肉感的に表現されているのは確かに古典を彷彿としました。

12 ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ 「労働」
これは壁画の習作作品で、川辺の木の脇に座って語る老人(ホメロス)とそれを聴く若い人々、老人の背後には鎌を持った女性、手前には手作業をしている男性の姿もあります。皆 半裸で神話のような感じで、木には楽器がかかっていて平和な雰囲気です。隣に並んだ別の習作と比べると変更されているようで、持っているものやポーズが変わっていた他、柔らかい感じになっていました。また、作品の周りは装飾的な枠があり、これは建築と絵の橋渡しとも言えるそうです。そうした表現のせいか、これまで観たものよりも理想的な雰囲気が強まっているように見えるかな。解説によると、シャヴァンヌはより多くの人が見られるように壁画の縮小版を作っていたそうで、この展示でも何点かそういうものがありました。

続いてはクロード・ヴィニョン邸の壁画装飾などで、クロード・ヴィニョンは小説家・批評家・彫刻家として同時代に活躍していた女性で、1866年に建築された邸宅に、幻想、警戒、瞑想、歴史の4点の壁画が設置されたそうです。

18 ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ 「瞑想」
これは壁画の1年後に描かれた再作成バージョンで、森のなかで白い衣の女性が右手を額に当てて悩んでいるようなメランコリックなポーズをしています。解説によると、ヴィニョン邸の壁画に比べると背景の深い森の装飾性が押さえられ、自然主義的となっているそうです。また、人物も古典性が弱められ同時代的な姿となっているとのことで、擬人像に見えないようにしているそうです。とは言え、私にには神秘的かつ象徴的な雰囲気に見えました。

この辺には他にも巨大な「幻想」別バージョンの「警戒」などもありました。


ということで、今日はこの辺までにしておこうと思います。私の中ではシャヴァンヌというと「貧しき漁夫」のイメージだったので、これほどまでに壁画の作品が中心だったのかというのが意外でした。 この後も参考になる内容となっていましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。

  → 後編はこちら


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