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ラファエル前派展 (感想前編)【森アーツセンターギャラリー】

少し前のことですが、六本木ヒルズの中にある森アーツセンターギャラリーで「ラファエル前派展」を観てきました。充実の内容でメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1140976.jpg

【展覧名】
 ラファエル前派展

【公式サイト】
 http://prb2014.jp/
 http://www.roppongihills.com/events/2014/01/macg_raphael_exhibition/

【会場】森アーツセンターギャラリー
【最寄】六本木駅


【会期】2014年1月25日(土)~4月6日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
結構混んでいましたが思ったほどではなく、帰る頃には空いてきていました。ただし、同時に森美術館でアンディ・ウォーホル展をやっていることもあり、地上階のチケット売り場はかなりの混雑ぶりでしたので、中に入るまでは時間がかかるかもしれません。余裕を持ったスケジュールをお勧めします。

さて、今回の展示はイギリスが誇る近代絵画の一派「ラファエル前派」についての展示です。2008年のミレイ展、2013年~2014年のターナー展に続くテート・ギャラリーと朝日新聞の共催展らしく、ミレイ展でも出品されていた作品も結構含まれています。 ラファエル前派は1848年にロンドンのロイヤル・アカデミーで学ぶダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハント、ジョン・エヴァレット・ミレイの3人が中心となり、そのすぐ後にウィリアム・マイケル・ロセッティ、ジェームズ・コリンソン、フレデリック・ジョージ・スティーヴンス、トーマス・ウールナーの4人が加わって結成された集団で、「ラファエル前派兄弟団」というのが本来の名前です。その名の由来はルネサンス期の画家ラファエロ・サンティ以降、彼の理想化された作風を目指そうとしてきたアカデミックな画壇に対し、それ以前の純粋で素朴な初期ルネサンス絵画に立ち戻るという意味が込められています。彼らの急進性は批判されることもありメンバーもやがて個別の道を選ぶなど長続きはしません(5年程度)でしたが、批評家のジョン・ラスキンの支持と影響を受け、それまでにない革新を生み出していきました。今回はそうした彼らの作品や、第2世代とも言えるバーン=ジョーンズらの作品まで題材ごとに並んでいましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  ラファエロ 感想前編(国立西洋美術館)
  ラファエロ 感想後編(国立西洋美術館)
  ターナー展 感想前編(東京都美術館)
  ターナー展 感想後編(東京都美術館)


<1.歴史>
まずは歴史画のコーナーです。歴史画はヨーロッパのアカデミーで17世紀以来最も重要なジャンルとされてきました。それらは主に権力や宗教と結びついていたわけですが、ラファエル前派は従来の聖書などの物語(歴史)ではなく、シェイクスピアやアーサー王の伝説を題材にしていたそうです。アカデミーの理想化された古典的な裸婦や、規範的な美徳、軍功、王家の功績などの慣例からはかけ離れていて、写実性と個性豊かな人物像を特徴としていたようです。そして服装や背景は史実に即して本物らしさを追求し、仲間内を登場人物のモデルとして緻密に描き上げるなど、真実味ある作品に仕立てていきました。その為、批判を受けることもありましたが、ヴィクトリア朝時代の新興富裕層の心を掴み、彼らの名前は次第に広まっていきました

10 アーサー・ヒューズ 「聖アグネス祭前夜」
この画家はラファエル前派ではありませんが影響を受けたいたそうで、ここには窓状の枠に3つの場面が描かれています。左から右へと物語が進んでいるらしく、左は背を向けて建物の壁に向かっている男性、中央はベッドに横たわる女性とその脇で片膝を付いて起こす男性が描かれています。女性は驚きつつも真摯な眼差しで、左の場面ではその男女が手を取り合って部屋から抜け出す様子が描かれていました。解説によると、これはジョン・キーツの詩の物語を題材にしたもので、仇同士の家の男女が愛しあっていて、女性は儀式をして寝ると未来の夫の夢を見るというのを信じてやってみたら、その男性が迎えに来たというシーンのようです。暗く静かな月光が照らし、女性のドラマ性のある表情や寄り添う2人のロマンチックな雰囲気など、叙情的な作品でした。

5 ジョン・エヴァレット・ミレイ 「マリアナ」
これはシェイクスピアの「尺には尺を」の悲劇の女性マリアナを描いた作品で、深い青の服を着て腰に手を当てて立っている姿で描かれています。その顔は悲しげで、それまでテーブルで刺繍をしていたようです。窓の聖人のステンドグラスや腰のベルトなど、非常に緻密に描き込まれていて色合いも鮮やかです。優美で気品がある一方で哀愁が漂い、萎れた葉など彼女の気持ちを表すモチーフなども印象的でした。

6 ジョン・エヴァレット・ミレイ 「オフィーリア」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターにもなっていて、世界的にも有名な作品です。これもシェイクスピアの「ハムレット」を題材としていて、あまりの悲劇に錯乱して川に溺れ、沈んでいくオフィーリアの姿が描かれています。目と口を開けて手を水面に出す様子が真に迫る感じで、周りの植物は緻密で1つ1つが何の植物かが分かるほどに正確に描かれているようです。また、その植物にもそれぞれ寓意が込められているなど、細部にまで考え抜かれた構成となっています。モデルについても後にロセッティの妻となるシダルをバスタブに入れて写生するなどの徹底ぶりで、まさに写実的で真実味がありながらもどこか幻想的な雰囲気の作風となっていました。

7 ジョン・エヴァレット・ミレイ 「釈放令、1746年」
これはイングランドに敗れて牢獄に入れられていたスコットランド兵が、牢獄から釈放されて妻と抱擁を交わしているシーンを描いた作品です。男に寄りかかる犬もいて感動の再開シーンとなっています。しかしこれはただ喜んでいるという単純なものではなく、妻は子供を抱えて無表情で、その右手は男性の後ろを通って看守に釈放令を手渡しているのが分かります。その為、家族の絆というテーマと共に、夫のために釈放令を持ってきた女性の強さが引き立っているように感じられ、無表情なのが凛々しく英雄的ですらあるように思いました。こちらも写真のように緻密でリアルでありながらドラマ性のある作品でした。

ちなみに上記3点は以前の文化村のミレイ展にも来たものと同じものです。いずれも再び観ることができて大満足です。


<2.宗教>
続いては宗教画のコーナーです。19世紀前半の英国ではプロテスタント系の英国国教会の中から教会の権威や儀式を重んじるオックスフォード運動が起こるなど、キリスト教信仰のあり方に対する関心が高まっていたそうです。そのような背景のもと、ラファエル前派はあまり省みられなくなっていた中世キリスト教絵画の図像や形式を復活させ、人物や場面を写実的に描くことにより近代的かつ独創的な宗教絵画を生み出していきました。聖書を人間ドラマの宝庫とみなし、神の教えというより文学的・詩的な意味を求めたようで、ここにはそうした作品が並んでいました。

18 ジョン・エヴァレット・ミレイ 「両親の家のキリスト(「大工の仕事場」)」
これは大工の作業台の前で小さな男の子が掌に釘を刺してしまい血を流している様子と、それを見て跪いて寄り添い心配する母親や周りの老父や子供などが描かれた作品です。一見すると人間的かつ写実的な感じに描かれていますが、これは聖家族を描いたものらしく母親はマリア、老父は養父ヨゼフ、水を運ぶ子供は洗礼者ヨハネのようです。聖家族は理想化して描かれるべきものであった時代に、リアルな大工一家として描いているため、当時は酷評されたそうです。ラファエロ以降の美術界に真っ向から挑戦するような革新的な題材の作品と言えそうでした。

21 フォード・マドックス・ブラウン 「ペテロの足を洗うキリスト」 ★こちらで観られます
これは跪いて弟子のペテロの足を洗うキリストが描かれた作品です。その後ろには白いテーブルがあり、他の弟子たちがその様子を伺っていて最後の晩餐の少し前のシーンのようです。ペテロは手を組んでじっとキリストをみつめて緊張した面持ちとなっていて、背後のヨハネは静かにそれを見守っています。他にも頭を抱えるような弟子や、寄り添い合っている弟子などがいるのですが、一番左にいるユダは身をかがめて怪訝そうな表情をしているようでした。それぞれの心理描写が巧みなのが面白く、人間ドラマ的な側面があるように思えました。解説によると、元々キリストは半裸で描かれていたそうですがそれが非難されてアラブ風の衣をまとうよう修正したそうです。昔の宗教画はルールばかりですからね…。

20 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「見よ、我は主のはしためなり(受胎告知)」 ★こちらで観られます
これは白いベッドに座る白い衣の女性と、その脇に立って白百合を渡す白い衣の人物が描かれた作品です。これは天使ガブリエルから聖母マリアへの受胎告知の場面らしいのですが、ガブリエルには翼がなく、マリアは恐れ慄いているように見えるなどどちらも普通の人間のように描かれています。背景には青い布、手前には赤い布が描かれ、青は天、赤はキリストの受難、白はマリアの純血を表しているそうです。その色使いやテーマなどが実に大胆で、これも革新的な作品に思えました。なお、この作品は不自然な奥行きの表現や色使いについて批判されたそうです。頭上の金の輪も元々は無かったそうで、以前はより人間的だったのかも??


<3.風景>
続いては風景画のコーナーです。ラファエル前派は自然を描く時、著しい独創性を発揮したそうで、美術批評家のジョン・ラスキンの「自然に忠実たれ」という言葉に基いて自然界を精緻に写しとる斬新な手法を編み出したそうです。ラファエル前派の自然の見方は概ねパノラマ的な景観を避け、近くと遠くを1つのまとまりとして捉えて全ての要素を均等かつ正確に描いたそうです。1839年に写真技法が完成した後も風景を精緻に描こうとする意欲は失われず、却って細やかな描写が試みられたそうです。ここにはそうした作品が並んでいました。

30 トマス・セドン 「謀略の丘から望むエルサレムとヨシャファトの谷」
この画家はラファエル前派兄弟団より年上のハントの友人の画家で、ハントと共に聖地エルサレムを訪れたことがあるそうです。この絵では谷を見下ろすような構図で、山の斜面に家々や城壁があり手前には木陰で眠るアラブ風の人と羊達の姿も描かれています。遠くにはモスクやオリーブ山(ゲッセマネ)も見えているようで、細やかな筆致で赤茶けて乾燥した空気まで感じられるようでした。

36 ウィリアム・ダイス 「ペグウェル・ベイ、ケント州-1858年10月5日の思い出」 ★こちらで観られます
これはラファエル前派より年上で彼らに影響を与えた画家によるもので、海岸と海辺の崖の辺りが描かれた作品です。手前には貝殻を拾っている女性たちが描かれていて、これは画家の家族らしく、奥の方には後ろ姿の男性の姿がありこれは画家自身のようです。画家の目線の先には当時 地球に最接近していたドナーティ彗星が描かれていて、うっすらと箒星のような感じとなっていました。これもラファエル前派のような精緻で写真のように細かい作風で岩肌の質感などが見事ですが、やや抑えた落ち着いた色合いとなっていて、のんびりした雰囲気がありました。


ということで、今日はこの辺までにしようと思います。初っ端からオフィーリアが展示されているなど美術ファン必見と言える内容で、私自身もラファエル前派が好きなのでかなりの満足感がありました。後半にも面白い作品が多々ありましたので、次回はそれについてご紹介しようと思います。


  → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事

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