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ラファエル前派展 (感想後編)【森アーツセンターギャラリー】

忙しくて少し間が空きました。今日は前回に続いて森アーツセンターギャラリーの「ラファエル前派展」についてです。前編ではその活動の成り立ちなどにも触れていますので、前編を読んでいない方は先に読んで頂けると嬉しいです。


  → 前編はこちら


P1140974.jpg

【展覧名】
 ラファエル前派展

【公式サイト】
 http://prb2014.jp/
 http://www.roppongihills.com/events/2014/01/macg_raphael_exhibition/

【会場】森アーツセンターギャラリー
【最寄】六本木駅

【会期】2014年1月25日(土)~4月6日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時範頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
後編も引き続き


<4.近代生活>
ラファエル前派が結成された1848年は社会改革を求める労働者階級によるチャーティスト運動が最後の盛り上がりを見せていたそうで、ラファエル前派初期の作品にもこうした反抗的・反体制的なエネルギーが見られるようです。当時、産業革命によって経済が発達するとともに貧富の差が拡大し社会の亀裂や矛盾が明らかになったそうで、ラファエル前派は風俗画に倫理性を持ち込み、売春や貧困といった挑発的な主題を通して批評性を与えようと試みていたようです。彼らの作品は堕落した人間の生き方と救済の必要性を説くと共に、義務と自助努力の重要性を訴え、しばしば近代の寓話の形態をとったようです。ここにはそうした作品が並んでいました。

45 ロバート・ブレイスウェイト・マーティノウ 「我が家で過ごす最後の日」
これは貴族の屋敷の中を描いた作品で、グラスを片手に乾杯するようなポーズの陽気な父親と、肩を抱かれた息子、その脇には心配そうな顔の母親と女の子、窓際には老夫婦が真剣そうに話をしている様子が描かれています。調度品などは重厚かつ緻密に質感豊かに表現されていて、題材と共にフランドル絵画を彷彿としました。窓の外の紅葉した木々まで鮮やかに表現されています。 解説によると、これは一見楽しげに見えるものの、左下にある馬の絵や家具に貼られた競売用の札、テーブルにはアパートの広告があり、博打で破産して追い出されることを示しているようです。よく観ると右奥では何かを取り外している人の姿などもあるので、まさに全て失ったのかもしれません。消えそうな暖炉の火は財産の喪失を表しているとのことでした。寓意的で享楽への戒めのようですが、1枚に様々な意味が込められていて面白かったです。

41 ウィリアム・ホルマン・ハント 「良心の目覚め」 ★こちらで観られます
これはピアノに向かって座る男性が女性の腰を掴んでいる所が描かれた作品です。女性は立ち上がって外を見ていて、背景の鏡にはその外の光景が映っています。女性の指には3つ指輪があるのですが薬指だけはなく、これは男性の愛人であることを示しているようです。また、周りは派手な色の絨毯や調度品などに囲まれていてケバケバしい男の皮相的な愛を表しているそうで、机の下では小鳥を弄ぶ猫もいて鋭く見上げているのも暗喩的です。一方、女性はそんな状況から目を覚ましたらしく、明るい表情には希望が感じられます。ピアノの楽譜には過去の純真を歌う曲が書かれているそうで、男の歌声で目を覚ましたようです。解説によると、当時は愛人や娼婦に身を落とす女性が社会問題になっていたそうで、これはかなりストレートにそれ表現して批判しているそうです。一見して享楽的な感じはしますが、意味深で要素が多いのが面白いです。これもまた様々な意味が込められた作品でした。


<5.詩的の絵画>
続いては詩を題材にした絵画のコーナーです。ロセッティは1850年代半ばには油彩作品を展覧会に出品するのをやめて、初期ラファエル前派の自然主義からも離れダンテの詩やアーサー王の伝説を題材に濃厚な彩色で中世風の水彩を制作するようになったようです。そのモデルとなったのはエリザベス・シダルで、彼女はロセッティの恋人にしてミューズであり、後に妻となりました。彼女自身も絵を描いていたそうで、ロセッティの影響を受けつつも画家としての個性を発揮しました。 また、同じ頃バーン=ジョーンズとウィリアム・モリスはロセッティの元に集まり、やはり中世趣味の濃い絵画を試みていたそうで、後に家具やステンドグラス、壁紙などの装飾芸術に活動を広げていきました。ここにはそうした作品が並んでいました。

52 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「アーサー王の墓」
これはアーサー王の物語を題材にした作品で、アーサー王の墓の横で膝をついている妻ヴィネヴィアと、墓に手をついて前のめりになってヴィネヴィアに口づけを迫る騎士ランスロットが描かれています。周りには失楽園の物語にも出てくる林檎の木があり、王がいなくなって早速迫っている様子を人間の堕落と絡めているようです。水彩とは思えないほどの濃い色彩で描かれ、物語というよりは生々しい人間ドラマといった感じに見えました。

この近くにはシダルの作品もありました。確かにロセッティに似ていて思った以上に画家としての腕も良かったようです。

54,55 エドワード・バーン=ジョーンズ 「クララ・フォン・ボルク1560年」「シドニア・フォン・ボルク1560年」
これは魔女裁判を題材にしたゴシック小説が出典で、2枚対になるように並んでいました。クララ・フォン・ボルクは策略の餌食になった女性で、白い小鳩を手の中に入れて足元の黒猫から守る様子が描かれています。可憐で気高い印象を受け、清純そうな雰囲気です。一方、シドニアは黒い蛇が絡まるような柄のドレスを着た魔女で、頭は蜘蛛の巣のような装飾を施し、横向きでちらっと流し目しているような姿で描かれています。妖艶さと不気味さがあり、クララとは対照的な印象を受けました。解説によると、クララはバーン=ジョーンズの妻がモデルで、シドニアはロセッティの元愛人がモデルなのだとか。


<6.美>
続いては「美」そのものについての題材です。1860年代に入る頃からラファエル前派は表現形式を模索し始めたそうで、それまでの文学的な主題や自然、社会、宗教などから離れ、絵画制作の純粋に美的な可能性を探ろうとしたそうです。まずミレイが1850年代頃から明確な主題を持たない作品を試み、ロセッティも1859年から油彩に復帰し装飾性豊かな女性の胸像を濃厚な色彩で描いたようです。そこでは16世紀ヴェネツィア派の絵画が意識されるものの、物語性を廃し色彩や形式の美を追求する「芸術のための芸術」を目指す唯美主義の潮流に接近していったようです。ここにはそうした作品が並んでいました。


60 ジョン・エヴァレット・ミレイ 「安息の谷間[疲れた者の安らぎの場]」
これは夕暮れの中で墓掘りしているシスターが描かれた作品です。その脇にもシスターが休んでいてドクロのついた十字架を持っています。意味ありげなモチーフですがストーリーは無いようで、唯美主義的な作品のようです。夕暮れが美しく、墓掘りの音だけが聞こえてきそうな静かな雰囲気でした。自然の情景も美しいです。

62 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「アウレリア(ファツィオの恋人)」
これは髪を編む若い女性を描いた作品で、モデルは当時の恋人ファニー(先ほどの魔女のモデル)だそうです。ブラシや香水瓶があり、鏡に向かっているようで、これはルーヴルでティツィアーノらヴェネツィア派の画家の鏡に映る自分に見とれる肉感的な女性像を見て感銘を受けて描かれたものだそうです。他に物語もなく正に唯美的な作品で、女性の目線が鏡を見ている時の感じがよく出ているのが印象的でした。

64 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「ベアタ・ベアトリクス」 ★こちらで観られます
目をつぶり恍惚の表情を浮かべる女性を描いたもので、これはダンテ(神曲で有名なダンテ。ロセッティは名前が同じこともあって敬愛していた)の恋人ベアトリーチェのようです。背景にはフィレンツェの橋とダンテ、その目線の先には愛の化身が描かれ、日時計が3時の方向を指している様子も描かれています。また、ベアトリーチェの手元にはケシの花をくわえ頭に光輪がある赤い鳥も描かれていて、ケシから連想されるようにこれはベアトリーチェの死を描いたもののようです。解説によると、このケシはロセッティの妻シダルがアヘンの過剰摂取で亡くなったことも表しているようです。つまり妻の死をベアトリーチェに重ねて描いたと言えるのかもしれません。 全体的に柔らかい光が彼女を包み、神秘的な感じがあるものの、儚い美しさでどこか悲しげな作品でした。

68 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「プロセルピナ」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターにもなっている作品で、ザクロ(あの世の果実)を持つローマ神話の女神プロセルピナが描かれていて、プロセルピナはザクロを食べてしまったため、冥界と地上を交互に生きることになった女神です。この絵のモデルはウィリアム・モリスの妻のジェインで、ロセッティはシダルの死後に彼女と親密になったようです。囚われの女神と彼女の境遇を重ねたとのことで、ちょっとロセッティには女性問題の香りが…w 緑の衣を着てこちらをチラリと見ている顔は何となく哀しげで、色鮮やかで美しく気品ある姿となっていました。


<7.象徴主義>
最後は象徴主義の先駆けとなったことを示すコーナーです。ロセッティに深く傾倒していたバーン=ジョーンズは1870年代頃から円熟期を迎え、ヨーロッパ大陸に起こった象徴主義に大きな影響を与えたようです。絵の登場人物は感情を表すこと無く幾重にも塗り重ねられた不透明な絵の具の層の中で謎めいて描かれました。近代社会に背を向けてひたすら理想化された過去のヴィジョンを描き続けたバーン=ジョーンズはヴィクトリア朝時代の物質至上主義に対向する別の世界観を示していたとも言えるようで、ここにはそうした象徴主義的な作品が並んでいました。

72 エドワード・バーン=ジョーンズ 「[愛]に導かれる巡礼」 ★こちらで観られます
チョーサーが中世の詩を翻案した薔薇物語の1場面が描かれた作品で、愛の神に矢を射られた詩人がある特定の薔薇と恋するという話のようです。薔薇を求めて愛の女神に導かれる黒いフード姿の詩人が描かれ、詩人の周りには薔薇の刺があり女神には羽がはえています。写実的で色はやや暗めですが、落ち着いた気品がありました。大画面の作品なので見栄えがします。

71 エドワード・バーン=ジョーンズ 「夕暮れの静けさ」
館を背景に赤い手すりに手を置く女性が描かれた作品で、やや斜めを向いていてどことなくモナ・リザを彷彿とします。無表情で神秘的な女性像かな。確かに象徴主義的な作品に思えました。


ということで非常に満足度の高い展示でした。ラファエル前派は元々好みということもありますが、これだけ素晴らしい作品を日本で見られる機会は中々ないと思います。今季お勧めの展示です。


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