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サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで (感想後編)【国立新美術館】

前回に引き続き国立新美術館の「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」についてです。今回は後半部分についてご紹介します。まずは概要のおさらいです。

 参考記事:
  サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで 感想前編(国立新美術館)
  サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで 感想後編(国立新美術館)
  サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで 感想前編(森美術館)
  サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで 感想後編(森美術館)

DSC08249.jpg

【展覧名】
 サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで

【公式サイト】
 http://sunshower2017.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2017/sunshower/

【会場】国立新美術館
【最寄】乃木坂駅・六本木駅

【会期】2017年7月5日(水)~10月23日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前半は歴史や弾圧についての作品が多かったですが、後半は現在の日常を捉えたような作品が中心だったように思います。詳しくは今回も写真を使ってご紹介していこうと思います。

<さまざまなアイデンティティー>
WW2の後、東南アジア各国は独立を果たし、新しい国家ではアイデンティティの構築が重要な課題となったそうです。東南アジア各国は国と民族、言語、宗教が必ずしも重なっている訳ではないこともあって、ナショナルアイデンティティを探求するというのは各国のアーティストにとっても重要なことのようです。この章ではそうしたアイデンティティを模索する作品が並んでいました。

ブー・ジュンフェン「ハッピー&フリー」 シンガポール
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昔のカラオケルームみたいな所で、マレーシアの成立を祝う曲が流れている作品。もしシンガポールがマレーシアから分離独立をしなかったら…というのを仮定しているそうです。マレーシアについて歌ではハッピー&フリーを不自然なほど連呼していますが、作者は本当にそう思っているのかな??

この辺には今回の展示のポスターにもなっているシンガポールのリー・ウェン「奇妙な果実」も展示されていました。

ムラティ・スルヨダルモ「アムネシア」 インドネシア
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これは壁に何やらチョークで書かれている作品。手前にはミシンと黒い服のようなものがあります。

壁に書いてあるもののアップ。
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実はこれは黒い服を縫った枚数をカウントしているそうで、同じ動作を繰り返すのがこの作者が得意とする表現のようです。カウントしながらごめんなさいと言い続けるそうで、記憶と感情の欠如を集めるという意味があるそうです。ちょっとよく理解できませんが、これだけの枚数を縫うとか途方もないので驚きました。

メラ・ヤルスマ「ワニの穴」 インドネシア
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こちらは作品に触れることができて、ワニの口の中に頭を突っ込むことができますw これは1965年ワニの穴を意味する場所で起きた「9月30日事件」を表しているそうです。調べたところ9月30日事件は軍事クーデターで、現在でもこの事件を取り扱うのは現地ではタブーとなっているのだとか。鑑賞者はみんな面白がって頭を突っ込んでいましたが、そんな意味があったとは…。

イー・イラン(タム・ホン・ラム[パカード・フォト・スタジオ]との共同制作)「バラ色の眼鏡を通じて」 マレーシア
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こちらは写真スタジオで撮られた沢山の写真が並ぶ作品。結婚式や家族で写っているものが多くて幸せそうな感じのものが多いかな。こちらも意図は良く分かりませんでしたが、壁一面に写真が並ぶ様子は中々壮観でした。(かなり高いところまで並んでいます)

シャーマン・オン「ヌサンタラー海は歌い風は我々を運ぶだろう」 マレーシア
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こちらは映像作品で、中華系やマレー系などの移民の生活をドキュメント風にしたものです。2画面あるけど、基本的に内容は同じで、数秒程度の時差がある感じです。現実とフィクションが入り混じっているようですが、移民のリアルな生活ぶりが伺えるように思えました。


<日々の生活>
最後は日常にある現実を表現するというコーナーです。アートは美術館に陳列されているものという概念に挑戦する作品などが並んでいました。

スーザン・ビクター「ヴェール-異端者のように見る」 シンガポール
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レンズに囲まれた円筒形の作品。中に入ることもできます。綺麗なガラス工芸のようにも見えますが、この作品はレンズを通して歪んだり拡大したり、主観的とは何かを問いかけているそうです。 …と、解釈は難しいですが見るだけでも楽しい作品に思えました。

アイン・ルンジャーン「黄金の涙滴」 タイ
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水滴のような形の真鍮が無数にぶら下がっている作品。幾何学的な美しさがあります。 解説によると、これはタイの伝統的なお菓子であるトーン・ヨートの形を模しているとのことです。トーン・ヨートは日本の血を引くポルトガル人によってアユタヤ時代にもたらされたらしく、この作品にはその時代の木材が使われているようです。また、近くでは映像も流していて、広島出身の祖父母を持つ日本人女性がトーン・ヨートを作っている様子も映されていました。

ちょっと離れるとこんな感じ。
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綺麗な円形になっていました。

スヴァーイ・ケーン カンボジア
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これは時代によって移り変わる都市生活を描いた作品。この画家はカンボジア現代アートの祖父と呼ばれているそうで、仏教的教訓や次世代への知識の継承を反映しているのだとか。確かにお坊さんが子供に何かを教えているような絵もありました。

ナウィン・ラワンチャイクン「ふたつの家の物語」 タイ
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これは作者の父が営む「OKストア」というお店を再現した作品で、中に入って観ることができます。この作品では家族への愛情や時代の変化で失われて行くものへの憧憬が込められているそうで、タイのことを知らない私でもどこか懐かしいような感覚を覚えました。昭和の頃の個人商店に通じるような…w

シュシ・スライマン「スライマンは家を買った」 マレーシア
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もう1つ家がそのまま建ってる作品がありました。これは作者の父親がゴム産業で得たお金で建てた家のレプリカで、近くにはゴムシートも展示されています。ゴム産業はマレーシアの文化的発展に大きな役割を担っているそうで、マレーシアの歴史やアイデンティティといったものがこの作品に込められているように思えました。

アングン・プリアンボド「必需品の店」 インドネシア
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タイトルを観ると、どこが必需品やねん!とツッコミ待ちにしか思えませんw 明らかに要らなそうなものが沢山並んでいて、本当に必需品と言えそうなものってこの中にあるのか?と探してしまいましたw 解説によると今日のグローバル消費社会で本当に必要なものは何かを問いかけているということなので、私の反応は作者の意図通りだったのかもしれませんw

スラシー・クソンウォン「黄金の亡霊(どうして私はあなたがいるところにいないのか)」 タイ
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こちらは沢山の糸が敷き詰められた部屋に(靴を脱いで)入って体験する作品。割と寝っ転がってる人もいますw

実はこの中に9本のネックレスが隠されていて、宝探しのようになっています。見つけたら貰えるそうです。
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きっと金のネックレスがをこぞって探すのが浅ましいと揶揄される作品だろうな…と思ったらその通り、欲望を表現する意図がありそうでしたw とは言え、これだけ探すのが大変だと私のような面倒くさがりは最初からお手上げですw たまに黄色い糸が混じっているので難易度が高い。こんな状態で探し出した人がいたら凄いと思います。


ということで、難解な作品もありましたが、後半は触ったり体験できる作品もあって楽しめました。ついでに東南アジアの歴史や情勢もざっくり知ることができたのも良かったです。東南アジアが好きな方向けの展示と言えそうです。
なお。前編でも書きましたがこの展示は森美術館との共同開催で森美術館にも作品が多数あります。私は先に森美術館を観ていたので、後日それについてもご紹介しようと思います。

おまけ:
本日の夕方は六本木アートナイトです。この展示をやっている国立新美術館もアートナイトの開催地の1つになっています。
 参考記事:「六本木アートナイト2017」の予告
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