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昭和の洋画を切り拓いた若き情熱1930年協会から独立へ 【八王子市夢美術館】

2週間ほど前の日曜日に八王子の八王子市夢美術館で「八王子市市制100周年記念事業 昭和の洋画を切り拓いた若き情熱 1930年協会から独立へ」を観てきました。

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【展覧名】
 八王子市市制100周年記念事業
 昭和の洋画を切り拓いた若き情熱 1930年協会から独立へ

【公式サイト】
 http://www.yumebi.com/index.html 

【会場】八王子市夢美術館
【最寄】八王子駅

【会期】2017/09/15(金)~11/05(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は現在も「独立展」として公募展を開催し続けている独立美術協会の前身である「1930年協会」についての展示です。1930年協会は1920年代前半をパリで過ごした画家、木下孝則、小島善太郎、里見勝蔵、佐伯祐三、前田寛治の5人によって結成され、すぐに大きな団体となったものの弱体化や再生、分裂などを経て現在へと繋がっていきます。この展示ではその成り立ちから幾多の紆余曲折についても取り上げていましたので、展覧会の章立てに沿って簡単にご紹介していこうと思います。


<第1章 1930年協会の軌跡>
まず最初は「1930年協会」の成り立ちについてです。1930年協会は1926年に前述の5人によって結成されました。1930年結成ちゃうんか!?とツッコミを入れたくなりますが、これはバルビゾン派のコロー、Tルソー、ミレーらが結成した「1830年派」に由来し、1930年には立派な新運動を完成させようという意気込みが込められていた名前だそうです。最初の展覧会では5名の169点が展示され、留学の成果の発表というニュアンスが強めだったようですが評判となり、賛同した新たなメンバーも増えたそうです。そして2回目からは公募展へと転換を図り、約600点の応募で114人の入選者、208点という成功を収めます。この時に一般応募した画家の中には後に会員として活躍する人も多く含まれていました。 さらに協会は講習会を実施するなど普及に努めた結果、若手の登竜門的な公募展と認知され、1930年の第5回には応募が3000点という大盛況ぶりでした(まさに名前に期待した通りの大きな協会へと成長したようです。) その求心力の1つとして、帝展や二科展など他の団体に属しながらも参加できた点だったそうですが、急速に発展する1930年協会を警戒した二科会は掛け持ちを許さない規約変更を行いました。この結果 里見勝蔵が協会を脱退してしまいます。また、同じ時期に佐伯祐三はフランスで病死、木下孝則は渡欧、前田寛治は病に伏せるなど主要メンバーがいなくなってしまったことで協会は急速に弱体化し、最後は独立美術協会の誕生という形で自然消滅していきました。

ここには結成当初の5人に加え、後に参加した画家の作品が並びます。
特に多いのは前田寛治で、フォーヴィスム的な強い色彩とどっしりした描写の人物像が中心です。割と画風が変化していっているようにも思いますが、どれもやや素朴さもあって面白いです。中でも「メーデー」という作品はゴッホのような長い点描を使って描かれていて赤い旗が非常に目を引きました。

次に私が目当てとしていた佐伯祐三の作品が4点ありました。パリの街角を描く独特の画風で、今回のポスターにもなっている「リュクサンブール公園」も良いのですが、最も気に入ったのは「扉」という作品でした。以前観た覚えもありますが、重厚感があり冷たさや硬さも伝わってくるような堂々たる扉はこの展示の中でも白眉と言えると思います。余談ですが佐伯と画風が似ている荻須高徳は協会メンバーじゃないのがちょっと意外。

里見勝蔵も4点で、そのうち風景画は佐伯以上に師事したヴラマンクからの影響を感じさせます。人物像1点と静物の1点はやはりフォーヴィスムを感じますが、もう1点の静物はややキュビスム的な感じがしてちょっと意外でした。

小島善太郎は3点で、写実性の高い人物像と色彩豊かな人物像、沢山の果実が描かれて華やかな印象を受ける静物となっていました。ちょっと点数が少ないので作風が把握しづらいですが、いずれも見ごたえがありました。

木下孝則は1点しかなく特別出品という形でした。また、他にも林武や古賀春江、伊原宇三郎、川口軌外など名のしれた画家もありました。そして最初の5人以外で一番良かったのは児島善三郎です。裸婦2点と公園を描いた風景画1点で、3点とも画風が違って見えるのですがどれも素晴らしい! と言うか、私は児島善三郎の作品はどの時代でもどんな主題でも大好きなので児島善三郎が観られれば満足という感じですw 特に椅子に座った裸婦像は好みでした。


この辺には協会が展覧会を行った時の資料が並んでいて、絵葉書の売れ具合やお昼の出前表なんかもありました。この出前表が面白くて、最初は皆 そぼろ丼とか頼んでいたのに、絵葉書が売れると分かった3日目辺りから急に鰻を連打している画家が何人もいますw 合わせて絵葉書の売れ行きを見るとその強気ぶりも納得ですが、毎日鰻を食べてるのはやりすぎでは?w 鰻好きの私には羨ましい限りでした。


<第2章 独立美術協会誕生>
続いては独立美術協会として生まれ変わった時期のコーナーです。主要メンバーを失った1930年協会ですが、元会員を中心に1930年に「既存の団体からの絶縁」、「新時代の美術の確立」を宣言し「独立美術協会」を新たに立ち上げました。メンバーは14人で以下のようになります。
 二科会から里見勝蔵、児島善三郎、林重義、林武、川口軌外、小島善太郎、中山巍、鈴木亜夫、鈴木保徳
 春陽会から三岸好太郎
 国画会から高畠達四郎
 フランスから帰国した伊藤廉、清水登之、福沢一郎

1931年の第1回展から3500点を超える応募があり、1930年会の勢いをそのまま引き継いだそうです。また、第1回展では福沢一郎のシュルレアリスムの作風が37点ほど紹介されたのですが、これが後に分裂を招く種となります。協会はその後も順調に勢力を伸ばしていったのですが、次第にフォーヴィスムの里見勝蔵とシュルレアリスムの福沢一郎が入選作などを巡って対立するようになり、1937年には里見らが脱退する事態になります。一方の福沢も1939年に抜けてしまい、協会の当初の勢いは失われていったようですが、やがて日本的フォーヴィスムの協会として落ち着いたそうです。その後は戦争の時代に突入していきますが、展示は戦争前の時期までとなっていました。

ここには20点程度の作品が並んでいますが、大きく分けるとフォーヴィスム的なものとシュルレアリスム的なものがあり、いずれも個性的な作品です。特に好みなのはややアンリ・ルソーを思わせる清水登之の「セーヌ河畔」、独特の青と白が幻想的な海老原喜之助の「雪渓」などでした。
福沢一郎は「寡婦と誘惑」という奇妙な機械と女性を描いたシュルレアリスム的な作品がありましたが、あまり面白くはなかったかなw 他にも個性が強すぎて好きになれない画家もいましたが、概ねレベルの高さを感じさせました。


ということで、作品と共に独立展の成り立ちを楽しむことができました。佐伯と里見を目当てに行ったけど、児島善三郎の素晴らしい作品も観られて満足です。今回は図録も買ったのですが、巡回の他会場でしか観られなかった作品が結構あって(しかもそれが良い作品だったりで)そこはちょっと残念だったかなw やや都心からは遠いですが、気になる方はチェックしてみてください。

おまけ:
八王子に行くといつも村内美術館や東京富士美術館にも行くのですが、今回は八王子ではなく中央線で三鷹へと足を運びました。次回は三鷹の展示をご紹介する予定です。
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