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怖い絵展 【上野の森美術館】

今日、上野の森美術館で「怖い絵展」を観てきました。非常に沢山の人で賑わっていましたので、気になる混み具合を含めて早速ご紹介しておこうと思います。

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【展覧名】
 怖い絵展 

【公式サイト】
 http://www.kowaie.com/sakuhin.html
 http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=226

【会場】上野の森美術館
【最寄】上野駅

【会期】2017年10月7日 (土) ~ 12月17日 (日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
非常に混んでいて、入場待ちの列が出来ていました。雨の日の日曜日12時過ぎで50分待ちの表示となっていましたが実際は30分もかからなかったかな。実は先週も足を運んだのですがその時も50分待ちだったので、土日の午後はこれくらいが標準的なのかも。14時半に観終わった頃には100分待ちになっていました。
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久々に3桁の数字を見ましたw

この辺りで30~40分待ちくらいかな。
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これが帰り際に見た100分待ちの光景。
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えらいとこまで列が伸びてました…。

勿論、中も大混雑で一番前で観ようと思ったらだいぶ列に並ぶと思いますが、私は後ろの方から観ていました。また、今回は各作品に解説があって、絵だけでなくそれを読むのに大勢集まってる感じかな。私はタイトルで分かるものが多かったので大半は読まないでサクサク進んできました。なので、じっくり観たい人は私以上に時間がかかって鑑賞時間も2時間くらいになるかもしれません。


さて、肝心の内容についてですが、この展示は2007年に刊行された中野京子 氏による『怖い絵』の10周年を記念するもので、本の中で紹介されている絵の一部が出品されています。私は未読でしたが楽しめましたので、特に読まなくても展覧会でだいたい分かると思いますが深く知りたいかたは本を読んだほうが良いかもしれません。

参考リンク:「怖い絵」
   

中は6章に分かれて展示されていましたので、各章ごとに簡単にご紹介しておこうと思います。なお、この展示は写真を撮ることはできませんが、会場の外にプリントされたものを撮ったので、それを使って一部をご紹介しようと思います。


<第1章 神話と聖書>
まずは神話と聖書を主題とした作品のコーナーです。神話も聖書も残虐なシーンが結構あるのでそれを描くと当然怖いのですが、そこに画家の想像力が働くと一層怖くなるのがよく分かります。一方、一見すると大して怖くなくてもストーリーを知ると怖いという作品もありました。中野京子 氏は絵には感覚で観るだけでは分からないことが込められているので、背景を知ることが絵に対するリスペクトだという考えを持っているようです。私もこの意見に大いに賛成で、特にこの章はそれが顕著だと思います。

こちらはジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの「オデュッセウスに杯を差し出すキルケー」 
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この女性は魔女で、ギリシア神話の英雄オデュッセウスに対して飲むと豚になる酒を勧めています。足元にいるのは既に豚になったオデュッセウスの部下。ストーリーを知らないと分からない怖さの典型かな。背景の鏡オデュッセウスが写っているという構図も面白い作品でした。解説はこのシーンについてのみを説明しているので、話全体を詳しく知りたい方はホメロスの「オデュッセイア」を読んでみると良いかも。
ちなみにウォーターハウスはラファエル前派に属する画家で、ラファエル前派はこうした神話や文学作品を主題にした作品をよく描いています。こうした各画家の指向性などについても知識があると一層楽しめるのではないかと思います。

こちらもオデュッセイアの話の続きで、ハーバート・ジェイムズ・ドレイパーの「オデュッセウスとセイレーン」
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歌を聞くと錯乱して海に飛び込むと先程のキルケーから教えて貰ったので、水夫たちは蜜蝋で耳栓をしていますが、オデュッセウスは歌を聞きたいので自ら柱に括り付けられていますw ここではセイレーンは人魚で表されていて官能的な雰囲気でした。

こちらはギュスターヴ=アドルフ・モッサによる「セイレーン」
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こっちのセイレーンは鳥みたいで見た目からして怖いw モッサの絵の女性はみんなこの狂気をはらんだ目をしてますw 背景が水没した都市みたいな感じなのもシュールな怖さを出していました。モッサは他の章にも1点あったかな。
 参考記事:ニース美術館 (南仏編 ニース)

こちらは旧約聖書の話から引用したフランソワ=グザヴィエ・ファーブル「スザンナと長老たち」
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好色な長老たちが美しい人妻スザンナの水浴を覗き見した上、セクハラ&パワハラで無理やり関係を迫り、断られたら逆ギレして姦通罪をでっち上げて裁判するというド畜生な話。聡明なダニエルによって2人別々に取り調べを受けることになり、見事な逆転裁判ぶりで長老たちは死刑になりましたw これもよく西洋絵画で主題になります。

ここには他にもオイディプスを主題にした作品、ヨハネの黙示録を主題にした作品、ルドンによるオルフェウスの死を描いた作品 などがありました。この辺はストーリー自体も面白いので、一度関連書籍を読んでみると良いかも。


<第2章 怪物・悪魔・地獄>
こちらはその名の通り悪魔や地獄を描いた作品のコーナー。特に夢魔を描いた作品が多かったかな。ここは比較的見た目で分かりやすい怖さの作品が多いと思いますが、聖アントニウスの誘惑 や ダンテの「神曲」を主題にしたものはストーリーを知っていないと理解は難しいと思います。この辺もよく観る主題(特に聖アントニウスの誘惑)なので、この機に調べてみると今後の絵画鑑賞に役立つと思います。

ここには今回の趣旨を抜きにしても素晴らしいアンリ・ファンタン=ラトゥールの作品が2点あったのが嬉しい。 他にもボス風の奇怪な地獄絵なんかも面白かったです。
 参考記事:ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで (Bunkamura ザ・ミュージアム)


<第3章 異界と幻視>
ここは版画が多めのコーナーで、異界や幻視、妄想などを絵画化した創造性溢れる作品が並んでいます。ここも特に予備知識無しでも分かるかな。 ルドンやムンク、ゴヤ、ブレスダン、クリンガーなどこの手の画題を得意とした様々な時代の画家が名を連ねています。特に好きなのはクリンガーの手袋の話で、一部しか展示されていませんでしたが一連のストーリーが紹介されていました。ゴヤはもっと怖い作品が沢山あるのでこの趣旨ならエース級だと思うんだけどなあw
 参考記事:
  エドヴァルド・ムンク版画展 (国立西洋美術館)
  プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想前編(国立西洋美術館) 
  プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想後編(国立西洋美術館) 
  マックス・クリンガーの連作版画―尖筆による夢のシークエンス (国立西洋美術館)
  ルドンとその周辺-夢見る世紀末展 感想前編(三菱一号館美術館)
  ルドンとその周辺-夢見る世紀末展 感想後編(三菱一号館美術館)

ここで2階の展示は終わりで、1階に続きます。


<第4章 現実>
ここまではよく観る主題やよく観る作品が多かったので、並んだ割に普通だなという感じだったのですが、この章と最後の章は興味深い作品が多かったように思います。ここには非常に厳しい当時の現実がそのまま描かれた作品が並んでいて、ウィリアム・ホガースの「娼婦一代記」や「ビール街とジン横丁」は18世紀ロンドンの悲惨な事件や世相を凝縮したような絵でした。他にも切り裂きジャックに異常な関心を示して容疑者と考えられていたウォルター・リチャード・シッカートなども興味深い話です(肝心の絵はつまらないけどw) また、19世紀のイギリスは植民地への男性の出稼ぎが増えたこともあり、女性は結婚することもままならず、娼婦になって妊娠してしまい生活ができなくなって自殺というケースも多かったらしく、それを伝える絵などもありました。現実が一番怖い…。

こちらはポール・セザンヌの「殺人」
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タイトルそのものの絵ですが、静物や風景、人物などをよく描いて理論家だったセザンヌらしからぬ主題となっています。若い頃の試行錯誤の頃の作品だそうで、これは中々お目にかかれない作風で興味を引きました。


<第5章 崇高の風景>
こちらは風景と共に歴史や物語が描き込まれている作品のコーナー。聖書にあるソドムとゴモラの話のソドムを描いた作品や、ポンペイが火山で埋もれる時を想像で描いた作品、バビロンでの怪異を描いた作品など、やはりそれぞれのエピソードを知っていたほうが楽しめるものが多いです。
 参考記事:ポンペイ展 世界遺産古代ローマ文明の奇跡 感想前編(横浜美術館)

ここで面白かったのはジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの「ドルバダーン城」で、弟が兄を城に幽閉する話を下敷きに、幻想的なウェールズの光景を描いていました。一見すると神話的な美しさなのに、英国ならではのドロドロした権力争いが描かれているというのが怖いです。
ここにはギュスターヴ・モローが2点あったのも嬉しい。モローは怖さがあっても優美です。


<第6章 歴史>
最後は歴史に関するコーナーで、ここが一番の見どころと言えます。クレオパトラやマリー・アントワネットといった非業の死を遂げた人物を描いた作品や、海難事故のような悲劇を描いた作品もあります。そして、今回の目玉となるポール・ドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」は必見で、これを観ただけでも今回の展示を観て良かったと思えました。

こちらがポール・ドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」 実物は予想以上に大きくて迫力があります。
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純白のドレスの光沢など細部まで緻密な描写も見事ですが、やはりこのドラマティックな場面自体に興味を引かれます。ジェーン・グレイは16歳でイングランド女王になりましたが、僅か9日でメアリー1世(通称:ブラッディメアリー)によって反逆罪で処刑された人物です。絶望している侍女や斧と短剣を携えた処刑人など緊張感溢れる中、目隠しをされたこの場にそぐわない若々しい女性が悲劇を際立たせます。実際にはロンドン塔の外で黒い服を着て処刑されたらしいので創作が混じっていますが、生々しさと同情を禁じ得ない美しさが同居していました。

こちらはフレデリック・グッドールの「チャールズ1世の幸福だった日々」
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観た感じ幸せそのものですが、過去形のタイトルで察してしまかな。この絵は後世に想像で描かれたもので、チャールズ1世は清教徒革命に翻弄され斬首となった人物です。子供の成長具合から、それはこの絵の直後にやってくる出来事なのだとか…。


ということで、思ったよりも定番の主題とよく観る作品が大半だったように思いますが、現実と歴史のコーナーは中々に陰惨と狂気がありました。やはり想像の怪物や悪魔などより一番怖いのは人間の業といった所でしょうか。 中野京子 氏が言うように絵画は感性で分かるのはごく一部であり、歴史や文化が凝縮されたものなので、それを知ると一層楽しめると思います。 これだけ盛り上がっている展示なのでここから美術や歴史に興味を持つ人が増えることを期待したいところです。 既に混雑していますが、会期末は混雑が予想されますので、気になる方はお早めにどうぞ。
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