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天下を治めた絵師 狩野元信 【サントリー美術館】

先週の金曜日の夜、会社帰りに六本木のサントリー美術館で「天下を治めた絵師 狩野元信」を観てきました。

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【展覧名】
 六本木開館10周年記念展
 天下を治めた絵師 狩野元信

【公式サイト】
 http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2017_5/index.html

【会場】サントリー美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2017年9月16日(土)~11月5日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
金曜日の夜でしたが結構お客さんがいて、やや混んでいる感じを受けました。とは言え気にするほどのものでもなく自分のペースで観られる程度でした。

さて、今回の展示は戦国時代から江戸時代にかけて日本の画壇を牽引してきた絵師集団「狩野派」の礎となった狩野元信についての展示です。狩野派は元々は中国風の漢画を得意としていましたが、やがて土佐派が得意とした大和絵も習得し、多くの大名や寺社仏閣で公共事業を行うなどまさに天下の絵師集団へと発展していきました。狩野元信はそんな狩野派の2代目ですが、元信によって大きく飛躍するきっかけが作られたことがよく分かる展示となっています。展覧会は6つの章で構成されていましたので、それぞれの章ごとに簡単にご紹介していこうと思います。なお、この展示は全6期あり、私が観たのは4期の内容でした。

<第1章 天下画工の長となる ― 障壁画の世界>
まずは障壁画が並ぶコーナーです。狩野派は元信の父である正信の頃は傍流に過ぎませんでしたが、元禄の頃(1691年)に刊行された狩野永納による「本朝画伝」には狩野元信の代で「天下画工の長」となったと記されているようです。ここには現存で最も古い30代の頃の「禅宗祖師図」という6幅セットの作品がありました。これは1幅ごとに1~2つの禅話を描いているもので、深い教養と構成力が伺えます。また、既に筆致も見事な漢画ぶりとなっていました。

他にもいくつか障壁画があり、繊細かつ写実的に描かれた「枇杷蓮根柘榴柿(旧大仙院方丈障壁画)」などもありました。これは狩野元信の作ではないかもしれませんが、工房のレベルの高さが伺えます。


<第2章 名家に倣う ― 人々が憧れた巨匠たち>
続いては狩野元信が漢画(特に南宋時代)に学んだことがよく分かるコーナーです。狩野元信が活躍した室町時代の頃、日本では南宋の真似が求められたそうで、ここには手本となったと思われる南宋の絵が並びます。特に夏珪などを手本にしたようで、モチーフが画面の片方に寄っている構図などは元信にも引き継がれているようです。また、呂健の「崑崙松鶴図」などを観ると狩野派そのものという感じで、狩野派がいかに漢画を再現するような画風であるかが分かります。
ここには先程ご紹介した狩野永納の「本朝画伝」も展示されていました。


<第3章 画体の確立 ― 真・行・草>
続いては狩野派の3つの「画体」についてのコーナーです。狩野元信は多くの注文を受ける工房を持っていたのですが、それまでの「筆様」という誰々風といった感じのスタイルではなく、書道の楷書・行書・草書に倣って真体・行体・草体という「画体」のスタイルを確立し、これが狩野派の地位を大きく向上させたと思われます。まず真体は緻密な構図と描線が特徴で、最も格式があります。一方で草体は崩した感じで割と手早い印象を受ける画体です。行体はその中間といった感じで、注文に応じてそれぞれの画体を用いて応えていたようです。画体の導入にはいくつかメリットがあり、まず門弟の育成において、画体を学ぶことで元信のスタイルを描くことができる絵師が複数生まれたようで、これが工房として代々続く原動力と言えそうです。また、絵を飾る部屋の格式と画体を呼応させることができるので、マーケティング的な面でも時代に即したものと言えそうです。

ここには勿論3つの画体の作品があるのですが、大半は最も格式の高い真体でした。「冷香斎図」という緻密で濃淡が柔らかに表現された作品や、六曲一双の画面の細部まで描き込まれた「山水図屏風」(元々はそれぞれ別の作品だったものを組み合わせたもの)などの真体があります。特に気に入ったのは六曲一双の「春夏耕作・秋冬山水図屏風」で、生き生きとした耕作の様子と侘しい雰囲気の山水の対比が面白かったです。
一方、行体は「瀟湘八景図」の1点だったかな。しかしこれも非常に素晴らしく、線描自体はやや少なめですが濃淡による遠近感や霧が立ち込めるような情感が溢れ、真体とは異なる魅力がありました。線が多く描き込まれている真体よりも情感の面では上かも。
草体も「草山水図襖 」の1点だったように思いますが、これはささっと描いた感じの簡素な表現です。人などもシンプルに描かれています。しかしこれも近代絵画で言えばポスト印象派以降の表現に通じるものがあり、格式が下がるほどモダンな印象を受けるのが面白かったですw

この辺で下の階に移動にしますが、下の階にも真体の作品がいくつかありました。お気に入りはジャコウネコを描いた「樹下麝香猫図屏風」です。ちょっと妙な感じの猫が可愛いw


<第4章 和漢を兼ねる>
続いては狩野派の大和絵についてです。狩野派は漢画をよく描きましたが、元信の代から土佐派が得意とした大和絵も手がけるようになり、本朝画伝にも「狩野家は是れ漢にして倭を兼る者なり」と書かれているようです。(展覧会では言及がありませんでしたが、これには狩野派による土佐派との政略結婚などもあったと言われています。土佐派の絵手本欲しさに結婚をしたとも…。)

ここにはまず扇絵などが並びます。大和絵らしい濃密な色合いで描かれていますが、描写は漢画っぽさもあってまさに和漢を兼ねている様子がよく分かります。 ちなみに扇はオーダーメイドの屏風などと違い贈答などで不特定多数の購入者を見込めるので、工房の大きな収入源ともなります。元信が単に絵師として優秀なだけでなく、戦略家であり企業家であるように思えました。
また、扇以外にも絵巻などもあり、「酒伝童子絵巻」がありました。私が観た時は坂田公時(金太郎)が舞いを踊って鬼たちに毒酒を飲ますシーンでしたが、会期によっては首を切り落とすスプラッターシーンも観られるようですw


<第5章 信仰を描く>
こちらは狩野派が手がけた仏画のコーナーです。従来の仏画と一線を画する表現となっていて、世俗的な顔をしているのが特徴さそうです。展示されていたのは4章の部屋あたりでしたが、ボストン美術館所蔵の「白衣観音像」は特に見事で、今回の見どころと言えそうです。他にも「文殊・普賢菩薩像」などもありましたが、ここは点数はやや少なめ。

4~5章あたりには他にもボストン美術館のコーナーがあり、所蔵の作品がいくつかありました。


<第6章 パトロンの拡大>
最後は顧客についてのコーナーです。元信の代になると、父の頃からの顧客だった室町幕府や五山禅宗寺院だけではなく、禁裏や公家衆、上層町衆といった幅広い顧客を獲得するようになったようです。ここには兵庫の神社の絵馬(白い馬が描かれた立派なもの)などもあり、地方にまでその名が広まっていたことも分かります。仕事や顧客が増えれば優秀な弟子も増えるという好循環があるのは現代の企業経営に通じるものを感じました。


ということで、狩野元信と狩野派について深く知ることができました。絵の巧さもあることながら経営手腕やブランディング/マーケティングに長けた人物だったというのがよく分かり、この辺が長く残った秘訣かもしれません。 日本画の歴史を知る上では欠かせない流派となりますので、日本画好きの方は是非抑えておきたい展示だと思います。

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