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安藤忠雄展―挑戦― 【国立新美術館】

前回ご紹介した展示を観る前に、乃木坂にある国立新美術館で「国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展―挑戦―」を観てきました。

DSC00882.jpg DSC00843.jpg

【展覧名】
 国立新美術館開館10周年
 安藤忠雄展―挑戦―

【公式サイト】
 http://www.tadao-ando.com/exhibition2017/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2017/ANDO_Tadao/

【会場】国立新美術館
【最寄】乃木坂駅/六本木駅

【会期】2017年9月27日(水)~12月18日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
日曜日のお昼過ぎに行ったら非常に混んでいて中はどこも人でぎっしりでした。実はその前の土曜日にも行ったのですが、その時はチケットに行列が出来ていたので諦めました。日曜日は乃木坂駅(直結している方)で臨時のチケット売り場が出ていたので並ばずに入れて助かりました…。。とは言え、展示ケースなどは人だかりが出来ていて中々観ることができず、鑑賞時間が2時間を超えてしまいました。これからこの展示に行こうとしている方は、混雑を想定してなるべく余裕を持ったスケジュールにすることをお勧めします。

さて、今回の展示は日本を代表する建築家 安藤忠雄 氏の大規模な個展となっています。私は安藤忠雄 氏についてはそれほど知識がなかった(それほど好みの建築家ではなかったw)のですが、この展示で一通りの作品の写真や模型を観られて、その魅力がよく分かりました。展覧会は7つのセクションに分かれていましたので、それに沿って各セクションの様子を簡単にご紹介していこうと思います。


<プロローグ:建築家 安藤忠雄>
まず最初は安藤忠雄 氏が著名な建築家となる前の時期のコーナーです。驚くことに安藤忠雄 氏は正式な建築の教育を受けたことが無いそうで、独学で建築を学んだそうです。それまではボクサーをやっていたこともあるらしく異色の経歴です。 その独学方法は本を読んだり実際に名建築を観てスケッチしたり体験することだったようで、日本全国(特に奈良・京都)を始め世界各国の建築を見て回ったようです。特に丹下健三の香川県庁舎を観て、建物はパブリックなものであるという考えを持ちました。また、世界放浪はインドやイスタンブール、欧州各国など様々な地を巡り、マルセイユではル・コルビュジエのユニテなども見て回ったそうです。その後、1969年に28歳で大阪に事務所を構えたものの、最初はあまり仕事が来なかったそうで、ようやく来た仕事も予算が無く場所も狭い…という状況だったようです。
 参考記事:ル・コルビュジエ 「ラ・シテ・ラディユーズ(ユニテ・ダビタシオン)」 (南仏編 マルセイユ)

ここには現在の安藤忠雄 氏のアトリエの原寸大の再現がありました。独学の際には本もかなり読んだそうで、この再現でも様々な本が並んでいます。また、アトリエの変遷についての模型などもありました。このアトリエは元々、他の人の住宅として依頼を受けて設計したものだったようですが、要望に沿って増築していくうちに買い取って欲しいと打診され、今ではアトリエとなったようですw そのエピソードも面白いですが、最初は小さかったのが段々と敷地も広げて立派になっていくのも興味深かったです。

そして1973年に「都市ゲリラ住居」という論文を書いてから注目を集めるようになり、次の章の時代に繋がっていきます。

<セクション1:原点/住まい>
続いては安藤忠雄 氏の原点とも言える住宅建築についてのコーナーです。ここは図面や写真、模型などを使って手がけた住宅を紹介しています。ここはめちゃくちゃ混んでいて、細い通路に人だかりができていました。ちょっと後ろから観るというのが難しいので仕方なく並んでみましたが1時間はかかったかもw
ここにはつい先日に東近美の日本の家展で観た「住吉の長屋」も展示されていました。
 参考記事:日本の家 1945年以降の建築と暮らし 感想後編(東京国立近代美術館)
「住吉の長屋」は家の真ん中に中庭と屋根のない通路があるので、私はてっきり集合住宅かと思っていたのですが、実はこれは一軒の家で部屋と部屋の間を行き来するには一旦屋根のない通路に出る必要があるそうです。 設計時のエピソードも面白くて、冬寒かったらどうするの?と施主に聞かれた際に「寒かったらシャツをもう1枚着てください」と答え(確か2回くらい同じ質問をされたようです)、さらにそれでも寒かったら??と訊かれると「諦めてください」と答えたそうですw この回答に安藤忠雄の哲学があるように思います。 なお、安藤忠雄 氏はこの斬新な建物で賞を貰い世界的に有名になったのですが、ある人から この賞は施主さんにあげるべきなんてことも言われたそうですw 全くもってその通りだと思いますが、それでも40年くらい住んでいるのだから、施主さんも凄い!

他にも個性的な家が紹介されていました。住吉の長屋もそうですが、割と早いうちに打ちっぱなしのコンクリートを使い、開口部を大きくして自然光を取り入れるスタイルを確立しているように思います。スリランカの豪邸や六甲の集合住宅などはかなり大きい建物ですが、一目で安藤忠雄の設計だと分かる特徴がありました。変わった所だとマンハッタンのペントハウスで、既存のビルを貫くように新しい建物を埋め込むような設計になっています。これは現在進行中のプロジェクトらしいので、完成したら写真を観てみたいです。また、普通の家でも、冬はスキーウェアで過ごすと言う話や、家の裏の公園に木が欲しいと言って勝手に木を植え替えて怒られたという話など、驚きのエピソードに事欠きませんでした。


<セクション2:光>
続いては教会建築のコーナーで、6軒ほどの教会が紹介されています。いずれも光の取り込み方が独特な設計となっているのですが、何とそのうちの1つ「光の教会」は原寸大で美術館の裏手に再現されています。ここは撮影可能となっていましたので写真を使ってご紹介。

こちらが光の教会。十字架の形に光を取り込むようになっています。
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入口も独特で、側面の狭い通路から入っていくようになっていました。

中はこんな感じ。十字の形の光が何とも神秘的。
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ちなみに、この十字の部分は実物ではガラスがはめ込まれているのですが、当初の設計では何も無く外に直結していたようで、この再現でも十字型に穴が開いてます。信者さんたちがガラスを入れてくれと頼んだので入れたそうですが、その気持ちは痛いほど分かりますw 安藤氏の哲学は快適さを求めるものではないのがよく分かるエピソードです。

他の教会も神秘的な光の演出があり、打ちっぱなしのコンクリートなのに神聖な感じがありました。


<セクション3:余白の空間>
続いては明確な機能を持たない「余白」のスペースを持った建築のコーナーです。この余白は安藤氏が一貫して試みてきたそうで、様々なプロジェクト(実現していないものを含む)でそれを表している様子が伺えます。ここは公共施設の設計図や模型が中心で、大阪の中之島のプロジェクト計画案では、地下に大きな立方体や球体状の空間などを設ける構想も模型で示されています。また、ここで私が実現して欲しい計画は宇都宮の大谷石の石切場のプロジェクトで、これは地下の石切場を計画的に切り出すことで、結果として建築化するというものです。その引き算の発想が他には無い独自性があるので、非常に興味がわきました。
他には表参道ヒルズや東急東横線の渋谷駅の模型もありました。割と生活の身近な所にも安藤氏の設計があるようです。


<セクション4:場所を読む>
続いては建物とその場所の関係性についてのコーナーです。安藤氏は設計をする際に徹底的にその場所を研究するそうで、周辺環境と一体化するような個性的な建築を旨としているようです。
ここではまず真駒内滝野霊園の「頭大仏」という大仏の周りの建物に驚きました。これは元々あった大仏があまり周囲に評判が良くなかったので建てられたものですが、大仏の頭だけ外から観られるようにして、あとはドーム状の覆いで隠してしまうという設計ですw 雪が降るとすっぽり埋まってしまうようにも見えます。しかし、このドーム内に入って大仏を観ると、背景の空がまるで光背のように写っていました。雪道を踏みしめてこの場所に行かないと観られない風景を作り出したと言って良いと思いますが、大仏を埋めるという発想の凄さに驚嘆しました。

また、かつての日本建築の研究の成果とも言えそうなアメリカのフォートワース現代美術館も面白い建物でした。これは平等院鳳凰堂のように水面に建物や鑑賞者が映るようになっていて、現地でも好評だそうです。

そして、ここには現代アートの島として有名になった直島の再現模型があります。ここも撮影可能です。
DSC00872.jpg
直島は元々は鉱山の島で環境破壊などで荒れ果ててしまったのですが、現在のベネッセの会長の福武總一郎 氏が現代アートの島とすべく尽力し、各建築の設計を安藤氏に依頼して、現在のような美術館が点在する島となりました。

私はまだ直島を訪れたことがないので、この模型を観ても実感が沸かないのですがいずれ訪れる時の楽しみが増えました。
DSC00861.jpg
各施設の説明や外観写真なども展示されていました。


<セクション5:あるものを生かしてないものをつくる>
ここは現在進行中の案件も含む、国内外の大規模な公共施設のコーナーです。この章は他の章と異なり、新旧の共存がテーマになった作品が集まっていて、ポンピドー・センターの隣に作っている「ブルス・ドゥ・コメルス」では古い円形の建物の中にコンクリート製の新しい建物を入れ子のように建てる設計となっています。また、身近な所では上野にある国立国会図書館国際子ども図書館で、古い外壁の周りにガラスボックスを設けて増築するなど古い建物を活かしつつ、新しい建物を融合させています。この辺はまっさらな所に作るよりも難易度が高そうなので、安藤氏が単に型破りなだけでなく建物そのものへの深い理解があることがよく分かりました。

セクション5と6の間には手がけた建物の年表と共に写真が並んでいました。年に10軒以上の年もあってこれだけの大プロジェクトを並行でいくつも手がけているのに驚きます。本当に凄い方です。

<セクション6:育てる>
最後は建築を「育てる」という取り組みについてです。安藤氏は建物を作って終わりというのではなく、緑化や植樹など旺盛な社会活動も行っているようです。大阪では桜の会という桜3000本を植樹するプロジェクトを立ち上げたそうで、これには約5億円の資金が必要だったそうです。そこで行ったのが1人1万円の市民の寄付を募ることだったのですが、これはかつて東大寺が作られた際、国民の力で作られたというのが参考になったそうです。単に寄付してくれといっても中々集まるものではないので、桜に名前を入れられるようにしたところ、瞬く間に寄付金が集まったようで、そうしたアイディアも流石です。(さらに小泉政権自体に小泉氏に直接交渉するなどの行動力も半端では無いエピソードもありました)
 産駒記事:東大寺の写真 (奈良編)

ということで、非常に濃密な内容となっていました。安藤忠雄 氏の仕事ぶりと型破りな発想力に度肝の抜かれっぱなしで面白かったです、よく出来た展示だったので図録も購入しました。ボリュームたっぷりなのにサイン付きで2000円というお買い得な図録ですw 安藤忠雄 氏は進行中の計画も壮大なものがあるみたいなので、これからもますます活躍が楽しみです。建築好きの方は是非どうぞ。

おまけ:
国立新美術館の近くに安藤忠雄の作品の1つである21_21 designsightがあります。
DSC00883.jpg
打ちっぱなしのコンクリートで自然光を取り込む点などは特徴が出ているように思います。三宅一生 氏の「一枚の布」のコンセプトに倣い、一枚の鉄板というコンセプトで作られているのだとか。

最近私が訪れた清春芸術村の光の美術館は紹介されていなかったなあ。
 参考記事:清春芸術村の写真 後編 (山梨 北杜編)

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