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映画「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」(ネタバレあり)

前回ご紹介したbunkamuraザ・ミュージアムの展示を観に行った際、bunkamuraル・シネマで映画「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」も観てきました。この記事には割と多めにネタバレが含まれていますので、これから事前知識無しで観たいという方はご注意ください。

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【作品名】
 ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ

【公式サイト】
 http://www.transformer.co.jp/m/lecorbusier.eileen/
 http://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/17_corbusier.html

【時間】
 1時間40分程度

【ストーリー】
 退屈_1_2_3_④_5_面白

【映像・役者】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【総合満足度】
 駄作_1_2_3_④_5_名作

【感想】
結構混んでいて、チケットを取ったのがギリギリだったのでちょっと見づらい席での鑑賞となりました。

さて、この映画は日本でも国立西洋美術館の世界遺産入りで回顧が盛り上がっている建築家ル・コルビュジエと、女性家具デザイナーアイリーン・グレイの名前を冠したタイトルとなっています。早速ネタバレをしてしまいますが、このタイトルだけ観るとこの2人が主軸の映画のようですが、半分そうと言えますが半分は違っているように思います。というのも、主人公はアイリーン・グレイとその恋人で建築家・批評家の評論家ジャン・バドヴィッチ(ル・コルビュジエの仲間)で、ストーリーは2人の人間ドラマと、アイリーン・グレイの代表作である「E.1027」という家を如何に作り、その家がどうなって行ったかという話が主な筋書きです。勿論、その中でル・コルビュジエとアイリーン・グレイがお互いの建築論をぶつけ合う所なども非常に重要なポイントになってきますが、基本的にはアイリーン・グレイとジャン・バドヴィッチの視点で描かれ、ル・コルビュジエは狂言回しのような感じで出てきます。

ル・コルビュジエについては当ブログでも何度も取り上げているので下記の記事などを参考にして頂ければと思いますが、アイリーン・グレイについて簡単に説明すると、アイルランド出身の女性家具デザイナーで、主にフランスで活躍しました(劇中でも英語で話すことが多い) 最初はアール・デコ風の家具を作っていたようですが、1920年代頃からより先進的なデザインとなっていき、1925年にはスチールパイプを使った家具なども作り始めました。その才能はすぐに世間に評価され、自身のデザイン事務所を立ち上げるなどして成功を収め、当時から有名なデザイナーとなっていました。映画の冒頭にも出てきますが、2009年のクリスティーズのオークションでは「ドラゴンチェア」が約28億円で落札されるなど、今でも高い評価を受けるデザイナーです。
 参考記事:
  ル・コルビュジエと20世紀美術 感想前編(国立西洋美術館)
  ル・コルビュジエと20世紀美術 感想後編(国立西洋美術館)
  ル・コルビュジエと国立西洋美術館 (国立西洋美術館)
  ル・コルビュジエ 「ラ・シテ・ラディユーズ(ユニテ・ダビタシオン)」 【南仏編 マルセイユ】

そしてアイリーン・グレイは映画でも描かれているジャン・バドヴィッチとの出会いをきっかけに、2人で住む家を制作する為ジャン・バドヴィッチから建築について学び、南仏のカップ・マルタン(ニースの東、モナコのちょっと東あたり)に「E.1027」という2人の名前を込めた別荘を建てました。この「E.1027」は長年ル・コルビュジエの建物と勘違いしていた人も多かったのですが、それにはいくつか理由がありそれがアイリーン・グレイのル・コルビュジエへの愛憎両極端の理由とも言えます。
まず、この建物はル・コルビュジエが提唱した「近代建築の五原則」(ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面)を参考にし、その要素を含んでいます。一方で、自分たちの住みやすさを重視した設計や装飾を廃する内装などアイリーン・グレイの感性も取り入れていて、細かいところまで計算された傑作となっています。しかしそのオリジナルな部分にル・コルビュジエは一種の嫉妬を感じたらしくアイリーン・グレイを批判をしています。また、恋人のジャン・バドヴィッチも手柄を横取りするようなことをしてアイリーン・グレイの不興を買い、徐々にお互いの間に溝が出来てしまって、やがてアイリーン・グレイはこの家を出て行くことになります。 
そしてアイリーン・グレイは装飾の無い部分に美学があったようですが、彼女が去った後にル・コルビュジエは許可もなくそこに壁画を描いてしまいますw これがアイリーン・グレイを激怒させ、尊敬しているけれど許せない!というアンビバレントな感情へと繋がっていきます。ル・コルビュジエはこの家を批判したものの相当気に入っていたようで、後にすぐ裏に休暇小屋を建てるなどしているので、そうした彼の作品が周辺にあることもル・コルビュジエの設計と思われていた理由だと思われます(というかいつも勝手に家の中に上がり込んでるしw)
 参考記事:中村好文展 小屋においでよ!(TOTOギャラリー・間)

この映画はそうした2人の美学の違いと衝突も面白いのですが、出て来る家具や建物が非常に美しいのも見どころです。私は今年の6月にニースに行ったのですが、この「E.1027」は時間的に諦めてしまったのを今更後悔しながら観ていました。先に映画を観てたら絶対に実物を観たかった…。
そしてもう1つ面白いのがル・コルビュジエの描写です。まず、登場シーンの半分くらいは上半身裸!w 南仏は暑いので仕方ないですが、こんなに裸だったの?ってくらい裸でうろつきますw また、自信家で人の言うことなんかお構いなしという性格で、アイリーン・グレイの感情を逆撫でる畜生ぶりを見せてくれましたw 一方で、この家がどんだけ好きやねん!と突っ込みたくなるくらい入り浸ってるので、アイリーン・グレイのことを心底から評価していたのは分かるかな。最後までこの家に魅せられて近くで溺れ死んでしまったのだから本望なのかも。

と、ちょっと長くなってしまいましたが他にも様々な見どころがあり、ストーリー的にも面白いと思います。勿論、事前にこの2人について知っておいたほうが楽しめると思いますので、ご興味ある方は簡単にでも2人の作品や生涯について調べてから観ることをお勧めします。
なお、この映画は恐らくbunkamuraでしか上映していないようです。2017/11/24(金)までは上映予定となっておりますが、もう期間も短いので気になる方はお早めにどうぞ。

おまけ:
映画館の中には簡単に予習できるアイリーン・グレイとル・コルビュジエの年表などもありました。ちょっと早めに行って予習するのも良いかと。
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