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北斎とジャポニスム―HOKUSAIが西洋に与えた衝撃 【国立西洋美術館】

3週間ほど前となりますが、上野の国立西洋美術館で「北斎とジャポニスム―HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」を観てきました。

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【展覧名】
 北斎とジャポニスム―HOKUSAIが西洋に与えた衝撃 

【公式サイト】
 http://hokusai-japonisme.jp/
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2017hokusai.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2017年10月21日(土)~2018年1月28日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構混んでいて、あちこちで列を組んでいるような感じでした。私は2列目以降で鑑賞していたので、人によってはもっと鑑賞時間がかかるかもしれません。

さて、今回の展示は葛飾北斎が西洋美術に与えた影響についての展示です。北斎は有名な「富嶽三十六景」を始め多くの浮世絵を残していますが、それだけではなく「北斎漫画」という一種の絵手本となる冊子も出版していました。そうした作品はやがて「ジャポニスム」と呼ばれる西洋世界での日本美術の発見の際に非常に高い評価を受け、様々な影響を広範囲に渡って与え続けました。 この展示ではその様子を網羅的に6章に渡って紹介していましたので、各章ごとに簡単に振り返ってみようと思います。(今回は特にメモしていませんのでちょっとうろ覚えの所もあります)
 参考記事:ホノルル美術館所蔵「北斎展」 (三井記念美術館)


<1章 北斎の浸透>
まずは北斎の西洋での認知についてのコーナーです。ここには北斎漫画などからの模写などが並んでいました。西洋において絵画といえば宗教画・歴史画・人物画が中心で、北斎漫画に描かれた市井の人々や動植物といったものはあまり注目されていなかった為、その視点自体が西洋には驚きがあったのだと思います。特に北斎漫画はあらゆる題材を鋭い観察眼によって表していて、動植物の生態や人々の動きを生き生きと捉えています。一部は滑稽とも思えるものもあり、テーマも実に様々です。
西洋ではこうした北斎の作品を模写するだけでなく、やがてその本質である自然への観察や同時代の描写、同じものを何枚も描くといったアイディアについても取り入れて行くことになります。それについては2章以降の内容となります。


<2章 北斎と人物>
続いては人物画についてのコーナーです。ここには今回のポスターになっているドガの「踊り子たち、ピンクと緑」と北斎漫画十一編に描かれた相撲取りの後ろ姿を対比するように展示されていました。腰の後ろに手を当てるポーズが同じなのでオマージュ的な感じも受けますが、単にポーズが似ているだけなのでは?という気がしなくもないw とは言え、こうした何気ない日常を鋭く捉えるというのは北斎を始めとする日本美術の影響があったのは確かではないかと思います。
また、同様にメアリー・カサットの「青い肘掛け椅子に座る少女」が北斎漫画の布袋と共に展示されています。ソファにぐでーっと行儀悪く座っている子供と、自分の袋に横たわっている布袋が比較されていて、これも確かにポーズは似ていますが、単に似ているだけのような気はしますw まあそれを置いといてもカサットのこの絵自体が良い絵なのは確かなので、久々に観られて良かったです。
 参考記事:ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション 感想後編(国立新美術館)

この章には仕切られた小部屋みたいなのがあり、北斎の春画が展示されていました。クリムトやロダンの裸体作品と比較されていましたが、裸体については西洋画の方が以前から描かれているような気はします。

少し先には北斎の妖怪画のコーナーがあり、それとルドンの「ゴヤ讃」の「沼の花」が比較されていました。ルドンこの絵はタイトル通りゴヤや植物学者からの影響があるように思えますが、妖怪というモチーフがルドンにも刺さったのかもしれません。
 参考記事:ルドンとその周辺-夢見る世紀末展 感想前編(三菱一号館美術館)


<3章 北斎と動物>
続いては動物を描いた作品のコーナーです。ここにはボナールが描いた「兎のいる屏風」がありました。ボナールは仲間から「日本かぶれのナビ」と呼ばれるほどの日本美術好きなので、これは間違いなく日本美術から影響を受けているのが分かります。
また、ここにはゴーギャンによる「三匹の子犬のいる静物」という作品があり、ミルクを飲んでいる3匹の子犬が描かれていました。近くにあった葛飾北斎の「三体画譜」にも犬が描かれているのですが、両者の犬の姿はあまり似ていません。こちらはモチーフとして犬を描くという点において共通しているだけかもしれませんが、その視点にはそれまでの西洋画とは異なるものがあると思います。

ここには絵画以外にもガレのガラス器などもありました。ガレは特に北斎から影響を受け、初期は北斎漫画をそのままガラスに転写した作品なども残しているので、まさに北斎礼賛と言えそうです。しかしガレは単なる写しではなく、北斎の本質である観察眼を身に着けていった作家でもあり、今回の展示でもそれを観ることができると思います。
 参考記事:エミール・ガレの生きた時代 (目黒区美術館)


<4章 北斎と植物>
続いては植物を描いた作品のコーナーです。ここにはまずジャポニスムの立役者ともいえるフェリックス・ブラックモンのエッチングや皿などがありました。ブラックモンは日本から運ばれた陶器の緩衝材だった浮世絵や北斎漫画に最初に目をつけた人物で、やがてそれを自身の作品にも投影しています。このブラックモンのおかげで北斎が西洋で有名になったとも言えそうです。

また、ここには国立西洋美術館所蔵のゴッホの「バラ」やモネの「黄色いアイリス」なども展示されています。この辺は見慣れた感じがしますが、北斎と比較しながら観るというのは初めてなのでちょっと違った視点で観られました。
 参考記事:ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 (東京都美術館)

他にもガレやドームによるアール・ヌーヴォーの作品が並び、花鳥風月という題材そのものが西洋美術に取り込まれていったことが分かる内容となっていました。


<5章 北斎と風景>
続いては風景画のコーナーです。ここではモネの「陽を浴びるポプラ並木」と「冨嶽三十六景 東海道程ヶ谷」が比較されていました。両者ともにリズミカルな並木が描かれているので、これは影響が分かりやすいかな。モネは「連作」という同じものを時間を変えて何度も描く手法を生みましたが、これも同じものを何度も描いた北斎に通じるものがあるのかもしれません。

ここでは画面の真ん中に木を描くという構図について他にも紹介しています。この構図は印象派の画家たちの作品にもよく出てきますが、これを取り入れたピサロの「モンフーコーの冬の池、雪の効果」なども展示されていて、モチーフだけでなく構図についても西洋画に影響を与えているのが分かります。

他にもギュスターヴ・モローのような北斎とは無縁そうな画家の作品などもあり、興味深かったです。


<6章 波と富士>
最後は富嶽三十六景の「神奈川沖浪裏」などに観られる波と富士に関するコーナーです。ここにはデフォルメされた波をモチーフにした作品や富士と似た山を描いた作品などが並びます。

セザンヌはサント・ヴィクトワール山を何枚も描いた画家として知られますが、そのうちの1枚は「冨嶽三十六景 駿州片倉茶園ノ不二」と似た構図となっていて、両者を比較して観ることができました。実際にセザンヌが絵を描いた場所に行くと絵のまんまの風景なのでこれも偶然かもしれませんが、水平線を高めに取って俯瞰するような構図はそれまでの西洋画とは異なるものなので、北斎からの影響があったと思われます。
 参考記事:セザンヌゆかりの地めぐり (南仏編 エクス)

また、ここにはドビュッシーの「海」の楽譜の表紙が展示されていて、これは葛飾北斎の神奈川沖浪裏そのものからの引用となっています。音楽の印象派と呼ばれるドビュッシーも北斎から何らかの形で影響を受けているのかもしれません。
 参考記事:ドビュッシー 、音楽と美術ー印象派と象徴派のあいだで 感想前編(ブリヂストン美術館)

他にもこの章には私の好きなアンリ・リヴィエールエッフェル塔三十六景もありました。この作品はタイトルからして富嶽三十六景に影響を受けているのは明らかで、北斎の洒落の効いた構図なども上手く取り入れてリヴィエール自身の構図として昇華されています。これは数点しか無かったのが残念。どうせなら全部展示してくれたら良いのに!
 参考記事:北斎とリヴィエール 三十六景の競演 (ニューオータニ美術館)


ということで、葛飾北斎が如何に西洋美術に影響を与えたかがよく分かる展示でした。国立西洋美術館を始め日本のコレクションが多かったので割と観たことがある作品が大半でしたが、素晴らしい作品も多々あり北斎を軸にした視点というのが面白かったです。

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